細菌戦研究という、当時の最先端軍事機密の争奪をめぐる、米ソ両大国も絡まった"知られざる激しい情報戦"の解読
2009/09/30 17:04
13人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
大日本帝国陸軍 ・関東軍防疫給水部本部、通称731部隊、いわゆる"石井部隊"を率いた石井四郎陸軍軍医中将による、植民地満洲における細菌戦研究という、その当時は最先端であった軍事機密をめぐる、米ソという超大国も絡まった激しい情報戦の記録を解読したノンフィクションである。
オリジナルの単行本にはなかった文庫版の副題が、「石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く」として追加されているが、この副題はあくまでもキャッチ目的であり、本書の主目的からは焦点が外れていることに注意しておきたい。本書を手に取った読者がガッカリしないように、あらかじめ記しておく。
石井四郎という人物の人間形成と細菌戦研究にいたる道筋、それに細菌兵器の量産が行われた満洲での実態、これが第一部の内容だが、貴重な証言者にめぐりあった著者の幸運についてはさておき、この面にかんする叙述にかんしては類書が多く出ているので、そちらをあたるべきだろう。とくに常石敬一教授の一連の著作、たとえば『七三一部隊-生物兵器犯罪の真実-』(講談社現代新書、1995)などを参照するのが、細菌戦研究の全容を知るためには近道である。
むしろ第二部、第三部で描かれる、日本占領の中核となった、マッカーサー元帥率いる米国陸軍の、軍隊組織としての本能から、最先端の細菌戦情報を独占し、隠匿しきったという、この事実を明るみに出したことこそが、本書の真骨頂であるというべきである。
本書によればマッカーサーは日本に到着するなり、「ジェネラル・イシイを探せ」という指令を出したという。そして、ウィロビー大佐率いる米国陸軍参謀第二部(G2)の働きによって、石井四郎は細菌戦情報と引き換えに「東京裁判」という占領軍による戦犯裁判からは免責となり、いわば司法取引の形で、戦後もしばらく生き延びることとなった。まさに驚くべき執念でもって、マッカーサーは細菌戦情報を独占することに成功したのである。
むきだしの国益を追求するためには、手段を選ばぬという米国という国家の本質がここにあらわになっている。そしてまた同時に、「東京裁判」がいかに恣意的なものであったかという事実を、裏面から垣間見ることにもなる。
米国の情報公開法によって、請求すれば日本占領当時のドキュメントを入手することができるのだが、真相は後世の人間が多数の証言やドキュメントを再構成しない限り明らかになることはない。
米国ニューヨーク在住の著者による、日米にわたる足で稼いだ情報収集と新発見の石井四郎が記したノートの解読の結果、当時の最先端の軍事機密であった細菌戦情報をめぐっての、米国陸軍とソ連陸軍とのあいだの激しい争奪戦、ワシントンの米国政府をあざむいてまでの米国陸軍の執念、国務省と陸軍のあいだに展開された激しい攻防、こういった情報戦(インテリジェンス・ウォー)の事実が明るみになってきた。
第二部、第三部と読んでいくと、第一部の内容が霞んで行ってしまうのは仕方あるまい。マッカーサーと同様に、現役時代は自己顕示欲のかたまりのようであった石井四郎の晩年が、戦犯裁判から免れて生きのびたとはいえ、しがない小市民として終わったこともその印象を強めているのかもしれない。あざとくも戦後日本を生き切った石井部隊関係者はほかに多数もいるが、これはまた別のテーマとなる。
1948年(昭和23年)東京生まれの著者の問題意識は、自分が生まれ育った占領時代の6年8ヶ月の間に、「・・・われわれ日本人の知らないところで、占領軍は何を計画し、どう活動して、何を成し遂げたのか、闇のように閉ざされたあの時代に起こった事実を知りたいと思ってきた・・・」(単行本あとがき)ことにある。そこで出会った格好のテーマこそが、石井四郎と米国陸軍との闇取引、いわゆる「9ヵ条の密約」だったのである。
「・・・細菌戦という「禁断の兵器」に取り憑かれた野心ばかり大きい軍医は、満洲に足がかりを掴んだ関東軍の破竹の勢いとともに時流に乗った。肥大化した野心、満洲という占領地、そして戦争へ突き進んでいく時代の異常さという要素がなかったなら、「禁断の兵器」がこれほど旧帝国陸軍を動かすこともなかった」(第11章より引用)という著者のコトバには十分に納得させられる。
そしてまた私が思うのは、細菌戦の最先端情報を入手した米国陸軍は、ドイツ占領後、ドイツの科学者たちを連れて行き原爆開発に当たらせたソ連と同様の存在であったといわねばなるまい、ということだ。これらは軍隊組織にビルトインされた行動原理といえるかもしれない。
しかし、関東軍参謀長も歴任した東條英機陸軍大将は細菌戦には反対だった、という事実は付記しておくべきだろう。けっして、当時の日本が国家ぐるみで倫理を逸脱し、細菌戦研究に邁進したわけでない。とはいえ、石井四郎のような「空気」を作り出す者によって、組織内にいったん流れができあがってしまうと、どこまでも暴走して流されてしまうという恐ろしい力学が、陸軍という組織においても働いていたことは否定できないのだ。
本書は、そういったいろんな観点から、事例研究として読むに値する本である。
じっくり読む作品
2015/11/17 02:36
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:テラちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
細菌兵器や人体実験など、旧満州で行われた日本軍の蛮行を詳細に伝えている。携わった人たちが世を去っている今、後世に伝えなえればならない内容ばかり。日本人として後悔の念を抱き、近隣諸国への謝罪を含めて考えなければならない一冊
かなり詳しく書いてあって
2021/10/30 19:07
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投稿者:ひでくん - この投稿者のレビュー一覧を見る
歴史好きなら必読やな。
兎に角日本軍いや日本人は記録をすぐに全部焼却処分する最低な奴らだというのはよくわかった。
これは現代にもそっくりそのまま消えない慣習として息づいている
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遠い昔、森村誠一の『悪魔の飽食』を読んだことがある。無知であったが故に、まさに震撼した。随分久しぶりに、その731部隊に関する著作を読んだ。不勉強な小生は青木冨貴子さんというフリーのジャーナリストを存じ上げなかった。この本も文庫になるまで知らなかった。本作で著者は、人体実験の話や満州でこの部隊が何を行ってきたかについては、ほとんど触れていない。むしろそれを周知の事実として(大前提として)、彼ら731部隊の医師達が戦後、戦犯容疑をいかに逃れることに成功したかをアメリカ公文書館の資料や石井四郎直筆のノートを駆使して読み解いていく。後に薬害エイズで批判を浴びたミドリ十字という製薬会社を創業した内藤良一に、自分を雇えと言いに行ったマッドサイエンティスト石井四郎。それを断る元部下の内藤。それぞれの戦後がある。生命科学の分野はひとたび間違えば、大量破壊兵器の生産工場と化す訳だ。決して歴史の彼方に追いやられた話ではなく現在もその危険性を孕んでいるのは言うまでもない。大作ではあるが、あっというまに読み終わるノンフィクション作品。
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731の存在を否定している人もいるけど、テレビで元731だった人たちの証言を聞いた。
人ってこんなに残酷なことができるのかって、背骨の芯までぞくっとした。
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日本陸軍細菌戦部隊長であった石井四郎を中心に、部隊の成り立ちと戦後の成り立ちに迫ったノンフィクション.特に、戦後、アメリカとの駆け引きにより戦犯に問われることなく生き延びていく様を見ていると、昔からアメリカというのはダブルスタンダードの国であったことが良く分かる.
ただ、全体を通して何を目的としたノンフィクションなのかが分かりにくい.事実をここまで掘り起こして時系列に整理した事のすごさは分かるが、そこで力尽きている.
巻末の解説で、佐藤優さんが「対象との距離感」という言葉で、これを表現しているが、私には、俯瞰し過ぎと感じられた.
だから、☆3つ(興味あるテーマなら読むべし).
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2005年の単行本も読みましたが、文庫本で出ていたのを昨年2月に購入→積読、今頃になっての再読です。
生半可な付け焼刃の研究でないことは読んですぐさま分かりますが、著者の執拗な追及はついに2冊の新資料の発見に至るまでとなり、いやが上にも読む者をして俄然ヒートアップさせます。
太平洋戦争中に中国で、生きたままの中国人を解剖したりして、細菌・化学兵器の開発のための実験をした731石井四郎細菌部隊については、私たちは、すでに平岡正明の『日本人は中国で何をしたか』(1972年)や森村誠一の『悪魔の飽食』(1981年)を先駆として、今では数十冊の関連文献を持っていますが、青木冨美子はそれにも飽き足らず長年にわたって追跡したといいます。
たとえ戦争だとしても、非人間的・非人道的な行為を遂行してきたことに対して、反省や批判にさらされることなく隠ぺいしてきたことの当然の結果ですが、戦後この731部隊で暗躍した内藤良一が中心となって設立した製薬会社㈱ミドリ十字は、後にあの例の悪辣・非道な薬害エイズ事件を起こすこととなります。このミドリ十字は幾度もの合併により、今は田辺三菱製薬と名前を変えています。
そして隠ぺいして来たのは何も日本だけでなく、この実験結果がほしくてたまらないアメリカもだったのであり、そのために明らかに戦犯で死刑は免れなかったはずの石井隊長を、どのように巧妙に助け生かしたか。
ヨーロッパ中を震え上がらせたV2 を作ったナチス・ドイツのフォン・ブラウンたちの研究の成果の上に、ジュピターやアポロなどの月ロケットが出来たのと同じように、この731の成果も、やがてベトナム戦争で枯葉剤などの細菌兵器へと受け継がれて行きます。
例によって、アメリカ側の新資料というのは、あの、どんな極秘機密文書でも50年経てば公開するという、輝かしい眩しいアメリカ民主主義のお約束に基づいたものだと思われます。本当に血に染まった腐ってどうしようもない国なのに、やる時にはやりますね。
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京極シリーズにでていたので前々から興味があった、もっと緻密で組織的だと思っていたが、読んでみると人一人の願望によって存在している部隊だとは思わなかった。闇ですね~
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[真暗の気脈]太平洋戦争中に生体解剖をはじめとする非人道的な行為を行いながらも、戦犯とならなかった石井四郎を筆頭とする731部隊。その裏を探った著者は、石井部隊とGHQの間に繰り広げられた、明るみにされていない裏取引にたどり着く......。戦時・戦後に股がる日本の暗い闇に迫った作品です。著者は、ニューズウィーク日本版のニューヨーク支局長を務められていた青木冨貴子。
石井直筆の2冊のノートを見つけ出す青木氏の取材力にまずは頭が下がります。既に敗戦から半世紀以上が経過し、その間に研究が進められていてもなお、ここまで新しい発見を目にすることができるとは。感嘆せざるを得ない情報量で副題のとおりに闇を暴いていきますので、戦後史に興味のある人にはぜひオススメしたい作品です。
731部隊に関わる人間とGHQの間のやり取りに関して言えば、いわゆる建て前(例えば国際正義や平和)と本音(例えば自国の安全保障)が切り結ぶ世界を、それを通してまざまざと見せつけられた思いがしました。また、石井自身の戦後の変貌ぶりも初めて知り、改めて占領期に起きた人心の転変という点に思いを致さずにはいられませんでした。
〜問題は、日本の敗戦後、「禁断の兵器」に取り憑かれた妖怪たちが退治されなく温存されたことである。細菌兵器のあらがいがたい誘惑が次には戦勝国の軍人たちに乗り移って行った。石井四郎は細菌戦に手を染めたからこそ、生き延びたことを知っていただろうか。〜
気持ちが明るくなる本ではないですが☆5つ
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主な特徴として「読み始めて6分で熟睡できる」
ということが挙げられる(- -;
いや、内容がつまらない訳ではなく、
いつも小説ばかり読んでいる我には
固くて重い内容が難しすぎて...(^ ^;
ただ、あまり読みやすい本ではない気がする。
そこここに「〜だったろう」「〜に違いない」みたいな
作者の主観が入り込んできて...
「ドキュメンタリー」として読むにはやや邪魔くさい(- -;
文体も「ルポ風味」になっているが、
テーマがテーマだし、事実だけを淡々と書いた方が
内用がスムーズに頭に入る気がする。
新しく「発見」された石井氏の残したノート二冊は、
確かに貴重な資料ではあろうし、晩年の石井氏の
「小市民っぷり」が意外で面白い(^ ^
が、タイトルの「731」にはそぐわない気も。
タイトルから「731部隊の悪行を詳らかにする」
ような内容を(勝手に)期待していたが...
この内容だと「石井 四郎 - その知られざる素顔 -」
みたいな方がしっくりくる感じだ(^ ^;
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731部隊。第二次大戦中に帝国陸軍が満州にて展開した細菌戦部隊であります。表向きは貿易給水を目的とした研究機関ですが、その内実は生物兵器を開発する組織だといふことです。
創設・指揮したのは陸軍の軍医であつた石井四郎。ノモンハン事件で功績を挙げ、部隊内での地位を向上させたとされる人物であります。
本書『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』は、タイトル通り731部隊と石井四郎の謎に迫つた、青木冨貴子氏によるノンフィクション。『ライカでグッドバイ』の人ですな。
読み始める前は、細菌戦部隊とか人体実験とか、或は人間モルモット(「マルタ」なる符牒で呼称してゐたさうです)だとか、おぞましい話が再現されるかと戦き構へてゐました。しかし著者の狙ひは、違ふところにあつたのです。
石井四郎直筆のノートが二冊見つかつたとの連絡が入り、著者は早速石井の郷里である千葉県芝山町へ向かひます。随分興奮気味であります。ノートを手に入れた時の著者の高揚ぶりが伝はつてくるのです。
何しろ今まで世に出なかつた石井直筆ノートですからねえ。新事実の発見や、これまでの定説を覆す記述とかがあるかも知れぬと思ふだけで、ジャーナリストとしては平静を保つのは難しいのでせう。
二冊のノートは、1945年と1946年のもので、いづれも終戦後のものでした。内容は部隊の後始末に関する件や、いかに証拠隠滅を図るかとか、実に細かい指示が出されてゐたことが分かります。
戦犯を逃れるための工作といふか、駆け引きの様子も窺ふことが出来ます。本来ならかかる非人道的な行為は、真先に罪に問はれるところでせう。
GHQは、石井本人や関係者に対する尋問を繰り返すのですが、捗捗しい結果は得られません。石井の指示による偽証や黙秘に翻弄されてゐました。証言を語る条件として、戦犯としての罪は問はないとの言質を得ます。マッカーサーも、さうまでして細菌兵器のデータが欲しかつたのでせう。
ノートの記述により、石井四郎が戦後如何なる活動をしてゐたかが判明します。経済的に困窮し、売れるものは売りつくして、親戚の生活の安定に心を砕く姿がありました。ここには、あの恐ろしい非人道的な人体実験を指揮した石井とは別の人格があります。
逆に言ふと、平凡な小市民の中にも、環境次第でマッドサイエンティストに変貌してしまふ要素があるといふ事でせうか。
著者の執念の取材が身を結んだ一冊と申せませう。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-699.html
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敵国人捕虜に生体解剖を行い、実験に供される人間を隠語で「丸太」と表現していた731部隊。人間を人間と思わず、言葉通り単なる実験材料として考えていたことを表すいい例だ。
その731部隊を指揮していたのが石井四郎。この本は戦後50年経ってから発見された石井直筆のノートを読み解き、彼の人間像に迫った本だ。
731部隊で行われていた実験がどうようなものなのか、という問題はそれほど書かれていない。それを期待して読み始めたので最初は拍子抜けしたが、読み進めるうちに戦中戦後の裏面史が浮かび上がって、目が離せなくなり、500ページを超える分厚い本なのに1日で読んでしまった。
主題は石井四郎がたどった人生だ。とくに終戦後、米国と交わされた密約によって、戦犯確実な石井がいかにそれを免れたのかが書かれている。
中国戦線において実戦で使用されたペスト菌については、とくに詳細なデータを持っていたようだ。培養などの実験は研究室でもできるが、実戦でしかわからないこと、例えば空中散布では効果がないことや、ネズミや蚤を用いた効率的な散布法、罹患してから死亡するまでの経過など、米国でも持っていないデータを石井は持っていた。
石井自身も裁判にかけられた場合、戦犯で死刑確実ということはわかっていた。だから部下にも「秘密は疑獄まで持って行け」と厳命していた。しかし戦後の冷戦下でソ連に731部隊のデータが渡ることを恐れたアメリカが、そのデータを寄こすことを条件に、部隊に属していた者たちを裁判にかけないことを約束した。
簡単にまとめてしまうとこんな感じだが、中身は濃い。石井に対する尋問はアメリカだけでなく同じ戦勝国のソ連も行ったが、アメリカの入れ知恵でソ連を欺き、結局アメリカ一国が一人占めした記述も興味深い。
石井は戦後GHQにより斡旋された売春宿の経営者となっていた。石井のデータは貴重だが、石井の人格に対して尊敬の念は全くないというアメリカの意思表れだ。
生き残った731部隊の医師たちは、罪を問われることなく戦後の医学界で出世していった。薬害エイズで有名になったミドリ十字も、石井の部下の一人が設立した会社だ。戦後しばらくして生活に窮するようになった石井が、ツテをたどって就職させてくれるように頼むが、無碍に断られている。元部下も石井のことが嫌いだったのだろう。
ただし、731部隊の非人道的な行動を石井個人の人格に帰してはいけない。731部隊には石井の郷里の人間が大勢配属されていた。それは前線への危険な任務へ郷里の人間を送りたくないという石井の配慮からだし、給料も良かったので、郷里の人間は石井のことを郷土の誇りと考えていた。非人道的な実験をしていなければ石井にも、面倒見のいいおじさん、という評判が待っていたかもしれない。
怖いの戦時下でもたらされる感情の麻痺だ。注射後に何時間で死ぬかとか、病変の変化を生体で観察するとか、倫理的に許されない行為も、それが常態化してしまえば感覚が麻痺してしまうはずだ。動物実験と同じように人体実験を考えていたのだろうし、そう思いこむうちに、脳が納得したのだと思う。
だから731部隊の狂気は石井個人の人格に帰するのではなく、集団ヒステリーとして考えることが大事だと思う。
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NHKスペシャル「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」を見て、そういえば731部隊については「悪魔の飽食」シリーズしか読んでないなと思いあたり、探して読んだ本。
731部隊の所業にはあまり触れず、司令官石井四郎の人となりや、特に戦後、731関係者が誰も戦犯指定されず、逃げ切ったあたりに焦点を当てている。これ一冊読んでもあまり意味はないし、無駄な寄り道や主観的な観測、物言いが多くてドキュメンタリーとしては一流とは言えないが、 NHKや森村誠一を見たり読んだりして、こいつら戦後どうなったんだろうと思った人にはそれなりの情報を提供してくれる。
あー胸糞悪い。
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"うだるような暑さの今年の夏、終戦の時期に読んでみたいと思って手にした本。小説のように読者をぐいぐいと引っ張る内容で、一気に読んだ。第二次世界大戦・太平洋戦争時に満州にあった731部隊の闇の歴史をひもとく。細菌戦部隊である731部隊の部隊長石井四郎氏は戦犯とはなっていない。GHQ、アメリカとの駆け引きがあったということを、丹念な取材を積み重ねてひもといていく。参考文献も読んでみたくなった。この部隊に関する書物で有名なのが「悪魔の飽食」。この本の登場人物も書籍を残している。その人たちの本も読みたくなる。
そして、一言だけ。戦争中には多くの人が亡くなった。戦争そのものがどういうものか、実際を知らない我々はこうした書物からその時代の空気を読み込むことしかできない。戦争という狂気が及ぼす影響の大きさを改めて感じることができた本だ。
歴史を感じつつ、私たちは未来を築いていく。それが、先人たちへの供養となると信じている。"
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731部隊を追いかけたルポルタージュ。
冒頭は、著者が千葉県の加茂へ取材へ向かったところから始まる。
著者は執筆までに相当に取材を重ねてきた様で、千葉県での取材のほか、膨大な文献や当時のメモの解読、関係者インタビューまであらゆる手を施して当時の様子を読み解こうとしている。
本書は、実際に足を運び、目で見て、読み解いた結果を、1つ1つパズルを埋めていく様に文章に書き起こしていく、その膨大な作業の末に出来上がったものだとよくわかる。
どちらかというと論文テイストな構成のためか、本書にはドラマチックに誇張した展開はなく、文献や検証に基づいた内容が淡々と記されていく。
脚色や演出が極力排除されることで、手に汗握る展開こそないが、狂気じみた感覚がじわじわと押し寄せてくる怖さがあった。
ナチスドイツの親衛隊将校、アイヒマンと一見似ている様にも見えるが、それとはまた違う非凡さ、凡庸さの二面性を石井四郎にみることができると思う。
正直、これまでは731部隊やGHQ占領下の日本についての知識はゼロに等しかったが、本書の内容は歴史認識を深める意味で大変な良書だったと思う。
ただ、本文がめちゃくちゃ長いので根気は必要。