家族の、自分の、知られざる一面
2021/07/10 00:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
デビュー以来、すべての作品がベストセラー入りしているモリアーテイ。
前作『ささやかで大きな嘘』は、幼稚園を舞台にしたママたちの、自我の覚醒と再生の物語だった。
今作は、やはり家族が大きなテーマで、配偶者の知られざる一面を垣間見たヒロインたちの心の動きが、ややオーバーながら、臨場感たっぷりに描かれていて、しっかり作者の王道路線だと納得する。
ただ今作では、物語の主軸をなすセシリア夫妻の秘密(最初は夫だけの、上巻最後からは妻も加わった)と、それに振り回されるセシリアの性格が、どうにも結びつきにくい感がある。このセシリア、自他ともに認める有能な主婦であり、ビジネスのセンスもあり、子供たちも大きな問題なく育てているようだが、とにかく口数が多いのだ。ビジネスというのが主婦仲間をターゲットにした販売代理店なのだが、その面では口数が多いのも結構なことだが、かなり取り留めのない芋づる式の雑談を垂れ流し続ける。
こういうタイプは失言が多く、自分の発言の何が相手を傷つけたかも覚えていないのが一般的で、さらにビジネス以外にも、子供の送り迎えやら、PTAのパーティーやらで年中忙しくしている。まるで、何かに追われるように、または何かから目を背けるために、意図して忙しくしているような印象を受ける。
主要人物3人の中で、一番興味を惹かれたのがセシリアなのも、その落ち着きのなさ、表面的な顔の裏側に隠されているにちがいない不安感といったもののためだ。
抱えきれない秘密を共有するはめに陥り、心のバランスを崩しはじめたセシリア。下巻の彼女の動向が大いに気になる。
投稿元:
レビューを見る
リアーン・モリアーティがうまいのは、日常の中に非日常を実にうまく盛り込むことだ。
まず描かれるのは、身近、あるいは自分かと思うような女性。
食事の用意をして、お茶をいれて、家族(こども)を急き立てつつ、メールをしたり、今後の予定(自分の予定、家族の予定)をめまぐるしく算段したりする。
主婦の日常だ。
「あるある」あるいは、「私はここまでうまくできないけど、○○さんならやりそう」と身近な人を思い出して親しみを覚える。そして、彼女の語る日常につり込まれる。
自分と彼女の脳内が「一致する」といっていい。
そこに、非日常が入り込む。
忙しくも当たり前な日常にやってきた、異物。
著者はこれを描くのがうまい。手練れだ。
手練れの作家なのだが、私は男性にはこの作者を薦めない。
「男性って」「女性って」と、ただ性別だけでひとくくりに語るのは浅薄なことだと思う。けれどもやはり多くの男性にこの著者の本は向かないだろう。
あなたの身近にいないだろうか?
「なにを話しているのかわからん!」と怒りたくなる女性が。
話の内容がわからない、なにについて話しているのか、誰についての話なのか、その話はどこにむかっているのか、そもそもさっきと同じ話なのか違うのか・・・・・・
モリアーティは、そういう女性の脳内をうまく描く。
もちろん、そんな女性たちのしゃべりとちがい、主語がある。
主語と述語は合致している。ちゃんと句読点はある。一文ごとに終わりがある。
だから、そんな女性たちのおしゃべりとはちがって、整っている。
整ってはいるが、めまぐるしい。
このめまぐるしさに、多くの男性はいらいらするだろう。
私がこの作者のどこに魅力を感じるかといえば、ユーモアだ。
厳粛であるべき時ところで、「不謹慎な」思いつきが頭にわき起こることがある。
それがとてもリアルに描かれている。
あまりに率直に描かれているので、「不謹慎な!」と怒る向きもあるかもしれないが、吹き出す人も多いだろう。私はこちらだ。
だから、電車内で読むことはおすすめしない。きっともれなく「変な人」になれる。
さらにうまいのは、あなたの目に見えているそれは、はたして真実の姿ですかという問い。
女性の中には、読み終えて、自身の夫が違う目で見てしまう人もいるかもしれない。
奥様、あなたは、どうだろう?
投稿元:
レビューを見る
3家族、3人の女性が主人公。それぞれの事情を抱えていて家族のこれから、自分のこれからを考えている。そこに過去の出来事が絡んできて色々とつながりが見えてくる。ミステリーではあると同時に家族小説でもある。著者の前作もそうだったけれど女性の人物造形、心理描写がすごくうまい。下巻も楽しみ。
投稿元:
レビューを見る
オーストラリアで作品すべてがベストセラーという作家、リアーン・モリアーティ。
読むのは「ささやかで大きな嘘」に続いて、2作目です。
シドニーに住むセシリアは、明るい性格。
3人の可愛い娘を育て、小学校のPTA会長もやっている。
販売のパートにも励み、かなりの売上を得ているやり手。
何も困ったことなどないように見えるセシリアだったが、実は夫との関係に悩んでいました。
夫は名家の出で優秀で仕事もできる上にハンサム、しかも穏やかな性格。
だが時折急に気分が変わって暗くなり、長年連れ添う妻にもよくわからない行動を取るのだ。
しかも、最近はセックスレス‥
気にしすぎないほうがいいかと思いつつ悩むセシリア。
そんな夫の留守中、屋根裏で「死後開封のこと」という封筒を見つける。
夫に電話して聞いてみると、冗談めかした返事があったが、出張先から即座に戻ってきた。
なにか重大な秘密があるのか‥?
一方、シドニーの実家に戻ってきたテスも、悩みを抱えている。
そして、小学校の秘書レイチェルは、亡くなった娘のことで今も関係者を疑っています。
そんな3人の女性の人生が交錯した時‥?!
どこにでもいそうな女性に降りかかった思いがけない出来事。これまで信じてきたことが壊れていきそうな…
そんな興味をひくテーマを、現実味たっぷりに描いていく筆さばきに感嘆します。
警察や探偵が出てくるようなミステリではありませんが、一体どういう事情だったのか、考えさせられます。
そして、どうなる?
とにかく面白い!
投稿元:
レビューを見る
表紙の絵のように、三人の女性が入れ替わり主軸となる。普通に過ごす普通の人生。基本的に子供がいて、わらわらばたばたしながらも女を満喫している。話が進むに連れ、この人達同士、じわじわと幅寄せしてきて、お互いの陣地に入り込んでくる。それが自然。最初は登場人物多すぎ!ヤメテ!と思ったが、意味なく増えない。ちゃんと物語の軸になる人しか出てこない。話の繋ぎ方がリレーバトンのように滑らかで、自分は非常に読みやすかった。専門知識だけひけらかして、だからなんなの?っていうミステリ多い中、この作品は好感持てるなあ。
投稿元:
レビューを見る
オーストラリアの作家「リアーン・モリアーティ」の長篇ミステリ作品『死後開封のこと(原題:The Husband's Secret)』を読みました。
『ささやかで大きな嘘』に続き、「リアーン・モリアーティ」作品です。
-----story-------------
〈上〉
すべてはあの手紙がきっかけだった。
夫の字で「死後開封のこと」と書かれた封筒。
その手紙を見つけたときから、「セシリア」の幸せな家庭に暗雲がたれこめ始める。
そのころ「テス」もまた、夫と従妹が愛し合っているとの告白に動顛していた。
「テス」は息子を連れ実家へ帰るが、そこで出会ったのは殺された娘をいまだ忘れられない老婦人「レイチェル」だった。
開けてはいけない〈パンドラの箱〉を開けてしまった女性たちを描くトリッキイなミステリ。
〈下〉
長年にわたって隠し続けてきた夫の秘密を知ってしまった「セシリア」は、普段どおりの生活を続けようと苦闘する。
逆に故郷へと帰ってきた「テス」は、そこで夫や子供には言えない秘密を持つことになってしまった。
そして老婦人「レイチェル」は、ついに最愛の娘の殺人犯と思われる男の証拠を手に入れるが……。
それぞれの秘密を胸に、それでも懸命に生きようとする三人の女をあざ笑うかのように、運命は衝撃の事件へと、彼女たちを導いていく!
-----------------------
2013年(平成25年)に発表された「リアーン・モリアーティ」の5作目の作品… 6作目の『ささやかで大きな嘘』の方が先に翻訳されていたこともあり、5作目を読むのが後になっちゃいました、、、
『ささやかで大きな嘘』と同じく、家族や友人の絆がテーマとなっている作品でした… どこにでもいるありふれた人々のありふれた日常を描きながら、そこに潜む痛み・苦しみを巧く描いた作品でしたね。
■月曜日
■火曜日
■水曜日
■木曜日
■聖金曜日
■イースターの土曜日
■イースターの日曜日
■エピローグ
■訳者あとがき 和爾桃子
「セシリア・フィッツパトリック」は、ハンサムな夫「ジョン・ポール」と、「イザベル」、「エスター」、「ポリー」の可愛い三人の娘と一緒にシドニーで暮らしていた… 有能な主婦であり、やり手のタッパーウェアのセールスマンでもあり、娘たちが通う聖アンジェラ小学校のPTA会長でもある彼女が、自宅の屋根裏を片付けていたときに、偶然見つけた一通の手紙には見慣れた夫の字で「妻へ わたしの死後に開封のこと」と書かれていた、、、
最初は開封するのを我慢していた「セシリア」だったが、手紙が見つかったことを知った「ジョン・ポール」の慌てぶりに、どうしても好奇心を抑えきれず手紙を読んでしまう…
そこに書かれていたのは驚愕の事実だった。
開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったその日から、「セシリア」の毎日はこれまでとは違うものになってしまう… 一方、夫「ウィル」と従妹「フェリシティ」の三人で小さな宣伝広告会社をたちあげ軌道に乗せた「テス・カーティス」も、予想外の事態に直面していた、、、
��んと「ウィル」と「フェリシティ」が愛し合っているというのだ… 「テス」はショックを受け、とにかく二人から離れようと、息子「リーアム」を連れて実家のあるシドニーに向かう。
シドニーで息子を自分の母校である聖アンジェラ小学校に転校させた「テス」は、そこで学校の事務員をしている老婦人「レイチェル・クロウリー」に出会う… 「レイチェル」はかつて高校生だった娘の「ジェイニー」を何者かに殺害されていた、、、
犯人は捕まらず、それ以来「レイチェル」は、自分が犯人だと目星をつけた男… 「テス」の元彼氏で、現在は聖アンジェラ小学校の体育教師をしている「コナー・ウィットビー」の尻尾をつかもうとしていた。
聖アンジェラ小学校で出会った「セシリア」、「テス」、「レイチェル」の三人の女性… それぞれの秘密を胸に生きる三人の女性たちの運命は、彼女たちを衝撃の事件へと導いていく、、、
「ジェイニー」を殺害した犯人は誰か!?というミステリ的な要素はあるものの、犯人捜しは、あくまでもサブテーマ… 家族(夫婦や親子)の在り方や絆、葛藤がメインテーマとなっており、ヒューマンドラマ要素が強い作品でしたね。
日本でドラマ化しても受けるんじゃないか… そんな印象でした、、、
殺人を犯した男性の子どもが、被害者の遺族から… という因果応報的なオチかと思えば、最後に衝撃の事実が隠されていたりして、一筋縄ではいかない面白さが隠されていましたね。
以下、主な登場人物です。
「セシリア・フィッツパトリック」
聖アンジェラ小学校のPTA会長
「ジョン・ポール」
セシリアの夫。
「イザベル」
セシリアとポールの長女
「エスター」
セシリアとポールの?次女
「ポリー」
セシリアとポールの三女
「ブリジット」
セシリアの妹
「ヴァージニア」
ジョン・ポールの母
「テス・カーティス(旧姓オリアリー)」
TWF宣伝広告社の営業部長
「ウィル」
テスの夫。TWF宣伝広告社の制作部長
「リーアム」
テスとウィルのひとり息子
「フェリシティ」
テスの従妹。TWF宣伝広告社の美術部門長
「ルーシー・オリアリー」
テスの母
「メアリ」
ルーシーの双子の妹。フェリシティの母
「フィル」
メアリの夫。フェリシティの父
「レイチェル・クロウリー」
聖アンジェラ小学校の学校秘書
「エド」
レイチェルの亡き夫
「ジェイニー」
レイチェルの亡き娘。長女
「ロブ」
ジェイニー弟。不動産仲介業者
「ローレン」
ロブの妻。オーストラリア・コモンウェルズ銀行勤務
「ジェイコブ」
ロブとローレンのひとり息子。レイチェルの孫
「マーラ・エヴァンス」
レイチェルの友人
「トゥルーディ・アップルビー」
聖アンジェラ小学校の校長
「コナー・ウィッ���ビー」
聖アンジェラ小学校の体育教師。テスの元彼
「ロドニー・ベラック」
元警部。ジェイニー殺害事件の担当刑事だった
投稿元:
レビューを見る
この作家の本、日本でもっと翻訳されてほしい..!!読みたい!!
Big Little Liesのドラマ版を見て、ここに辿り着きました。
あーあのドラマの雰囲気!この作家の確立されたスタイルを冒頭から感じた。
中年男女の群像劇(主に女性を主人公とする)がまー絶妙にうまい作家です。
過去にあった男の暴力が女たちを繋ぐというのも共通するかな。
Jackson BrodieシリーズのKate Atkinson が、あの作品で男の暴力の波紋を生きる女たちをすごく強調してアンソロジーとして描いていたことも思い出したんですが...
ザリガニの鳴く〜とかにしても、女性の作家さんはすごくそういう女性の社会的傷をしっかり描いてるなあといつも感心します。このモリアーティさんもそうですし。
ところでタイトルは絶対原題の方が良かったなあ。Big Little Liesとも系列が揃うし。
最初は原題がhusbandsでなくhusbandで、secretsでなくsecretであることを不思議に思ってたんですが、読み進めるとなるほど。
言うなれば、水面に投げ込まれた一つの小石が波紋を呼んでいくということなので単数形であってるんですね〜。