紙の本
紛争地の医療の現実を知ることの意味
2018/09/15 11:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
国境なき医師団の手術室看護師として、数々の紛争地を訪れた白川優子さんが紛争地の医療の現実を書き下ろしたもの。
2010年に国境なき医師団に参加登録し、8年間に活動した紛争地は9カ国、特に難民を大量に出しているシリア・イエメン・イラクなど中東への派遣回数が多い。運び込まれる患者達の被害状況がすさまじい、病院すら爆撃の危機に遭う。手術中にチームリーダーから「撤退」の命令があっても、次から次に手術をしなければならい患者を見捨てることが出来ずに手術は続行される。
イエメンの山岳地帯では空爆により診療所が崩壊し医療器具の使い回しさえ行われている。「どう改善したらよいのか」途方に暮れる中同僚から「だから私たちが来たんだよ」といわれる
パレスチナでは、パレスチナ民の封じ込め作戦の中行き場の亡くなった若者達が、自らイスラエル兵に打たれに行く現実を知る。
医療という人の命を助けなければならない、もっとも根源的な人道支援の現場から見えてくる紛争地の様は私たちに戦争の無益・無意味さを伝えてくる。
この現実を知らせたい思いで、白川さんにジャーナリストの道へ進むことも考えさせる。
その道は諦め、再び被災地・紛争地で看護師として活躍されている。
命がけの仕事を著わした白川さん。おそらく執筆という労力は、平時に行われ、本来であれば、激務を癒やさなければならない時期に執筆されたのだろう。帰国後の紛争地のフラッシュバック、PTSDに悩まされたことも告白している。しかし、あえて白川さんはつらい作業である本書を著わした。白川さんの問いかけを私たちは受け止める事が必要だ。
紛争はなぜ起こるのか、紛争や戦争をこの地球上からなくしていこう。無関心は加担だ。
紙の本
誰が読んでも必ず得るところのある1冊
2019/02/16 09:05
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あられ - この投稿者のレビュー一覧を見る
国際医療NGO「国境なき医師団(MSF)」で、手術室看護師として外傷を負った人々の医療に携わる著者、白川優子さんが、その体験を広くシェアするためにお書きになった1冊。心の揺れや迷いも率直に綴られていて、MSFの看護師さんはきっと人間として例外的と言えるほどタフで強い方なのだろうなという先入観が、よい意味で吹き飛ばされました。普通の人が努力し、「職人」と言える手術室看護師となり、そしてイエメンやシリアなどで紛争に巻き込まれた普通の人々の命を救う活動に従事し、そして接した人間の世界の現実を、私たち普通の日本人に伝えてくれる1冊です。
子どものころにMSFの活動を知り、憧れを抱いていたものの、憧れは憧れで終わっていて、高校までは将来の目標も特になく過ごしていた白川さんが、自分は看護師になりたいのだと気付いた、というところから書かれています。
看護師の資格をとるため努力を重ね、晴れて資格を手にして日本で仕事をしてきた白川さんは、MSFの説明会をきっかけに、30歳を目前にオーストラリアに留学し、MSFで必要とされる「英語で仕事をする能力」をつけるためのさらに努力を重ねます。オーストラリアで看護師として7年間働いたあと、30代後半でMSFに入り、内戦終結直後のスリランカが初派遣。
続いて、ウサマ・ビン・ラディン殺害(白川さんは「暗殺」と書いています)直後のパキスタン、内戦状態にあるイエメンへと派遣され、さらにシリア、南スーダン、パレスチナでも看護師として第一線で活動します。
国際メディアを見れば、シリアはかなりたくさん報道されていますし、イエメンも(あれでも)報道が多いほうで、自衛隊の派遣先でもあった南スーダンがこんなにもひどい状態とは、この本で初めて知りました(「自衛隊の日報」問題は日本でも大きなニュースになりましたが、現地で本当に何が起きていたかは、どれほど伝えられていたでしょうか)。
「体験記」の形式でまとめられ、文章はとても読みやすく、中学生以上ならほぼ問題なく読み進められると思います。これから将来の進路を考えていく世代だけでなく、大人でも、誰が読んでも必ず得るところのある1冊です。
電子書籍
戦争で苦しむ人々の現状
2020/05/10 22:55
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ももも - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み進めるほどに身体が震えるほど衝撃を受けた。
医療者に関わらず、あらゆる年代の方や職業の方にぜひ読んで欲しいと思う。
紙の本
人は何のために生きているのか
2018/10/15 13:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリア、スーダン、パレスチナ、イエメンなど名だたる紛争地での医療活動。携わられている人々への畏敬の念を禁じ得ない。
一般的に言えば、ノンフィクションにも嘘や推測が混在しているが、この本の内容は著者の目を通して派遣された地域の生情報が記されているほぼ事実であろうと思う。何とも言いようがないが、悲しいことだ。
著者の書きたい、伝えたいという気持ちが十分伝わる本だと思う。
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投稿者:ぽぽ - この投稿者のレビュー一覧を見る
紛争地で働く医療関係者は、強い精神力がないと務まらないんだなということを改めて感じました。素晴らしいです。
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メディアによる報道だけでは知り得ない情報を
会得できるのが本書の強みである。
紛争地で医療活動に従事する中で感じた
筆者の心に痛み、苦しみ、悲しみ、
そして患者さんや現地の方と接することで
感じる喜びなどを真っ直ぐに読み取ることができる。
読み終えてすぐに人道援助に携わることは厳しいが、
同じ地球上に明日の命の保証が無い地域があり、
迅速な治療が受けられないため失われる命があるという
重大な現実を知り得るきっかけになる一冊である。
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安直なコメントを書くのを躊躇わせる。
文体は軽くてわかりやすく、読みやすいが、内容は大変重い。
学生時代の初志を貫くために、日本で看護師を何年も経験した後、海外留学。卒業後、現地の病院で何年も勤務し、看護士長にまでなったのに「国境なき医師団」に応募する。
そこまで著者を突き動かすものは何なのか。
そういう人たちばかりが集まる「国境なき医師団」とは何なのか。
赴任先で体験する戦地の現実は、経験した者にしか実感できないだろう。
苛酷で、非現実的だが、否応のない現実だ。
赴任先から短期間帰国する著者が見る東京の姿が、仮想的で、非現実的なのはやむを得まい。
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涙を禁じ得なかった。
自分の心がこんな風に動揺することに、驚いた。
初めは好奇心だった。「国境なき医師団って一体どんな人が?そしてどんなことをするのか?」
自分でも驚いたけど、読み進めてすぐに、
「私も看護師になりたい!人命を救わなくては…!」
という思いに駆られ、その30分後ほどには、体験してもいないのに著者の経験を追体験した気になって、この世界に憤りを感じ、「やってらんねーよ」と思った。(誠に勝手である。)
戦況下で目の前に血を流している人がいるにも関わらず、自分たちと外との間に絶対的な境界線を敷くという国連の塩対応は想像通りではあるが、でもやっぱりいけ好かないエリート集団然としていて本当に憎らしいとさえ思ってしまった。と、思いつつも私は今スタバでティーを片手にのんびり本を読んでいるんだけども。
同じ女性ということもあり、著者の失恋には一緒に心を痛めた。ライフプランも考えなければならないが、遠いところで救える命があることにも胸が痛む…。そんな崇高なジレンマを抱くことなどわたしにはないかもしれないが、でも国際協力の現場を志した身として人ごとではおれなかった…。
もし仮に私は彼女の立場に立てたとして、幸せだろうか?たしかに人命救助の喜びはあろうが、戦地に慣れてしまってはこの世界に絶望してしまうのではないか?自分の生をも憎むのではないか?余暇を興じる自分を責めはしないだろうか?
本書の末文のいくつかの疑問文がその葛藤をよく表していると思う。
現場の生々しい声、そして彼女の人生をも赤裸々に語ってくれているからこそ、1人の女性のこれまでを追体験できるような良著でした。
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「シリアで内戦が始まったのは、早くから知っていた。以前のシリアは独裁政権・監視社会だったものの、人々は自由に街に出歩き、生活も教育水準も高い豊かな国だった。
まさかシリアで内戦が始まるとは、当の国民も、思っていなかっただろう。ところが2011年の民主化デモから始まった騒乱は全く間に内戦へと発展した。」 p.87
独裁政権・監視社会は内戦が起きるリスクが高くなる。
病院が攻撃されたというニュースは何度も見た。
実際に現場にいた人の証言を聞くと、また違う衝撃がある。
どんなに心を痛めていても、安全な部屋からでは、実際に何が起きているのかなんて、これっぽっちも理解できてないんだ。
「中東の混乱を収束させるには、パレスチナ問題を解決しないと始まらない。それだけ複雑に絡まり合う世界の対立の根深さが詰まっているんだよ」 p.216
「広河隆一 人間の戦場」観たい。
川崎市の平和館で12月1日に自主上映が行われるらしい。まだFBに情報は載ってないけど。
http://ningen-no-senjyo.com/jyouei/?p=1211
すごくいい施設だから、もう一度行きたいとは思ってたけど、微妙に遠いんだよね。どうしよう。
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国境なき医師団で活躍されている看護師さんの手記。
すごく分かりやすく素直な文面で、現地の状況がストレートに伝わってきます。
今も紛争が絶えない地域の、ニュースや歴史解説では分からない、現地の人たちの生活や感情が分かるのが貴重です。
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看護師研究をする中で本書を取った。心動かされる内容に動揺しながらも、大切なことを伝えてくれるジャーナリズム本であると感じた。エルサレムでのエピソードが非常に考えされられる。国際看護学を学ぶ上で参考になるのかもしれない。
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色々と考えさせられました。
争いはホモサピエンスの宿命なのかもしれません。
争いのある環境では子供たちの健全な成長も阻害され、負の連鎖が続きます。
いつか平和な世の中が来るのだろうか?
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国境なき医師団で働く看護師さんが世界各地の紛争地での体験を語っている。それと共に、子供の頃にみた国境なき医師団のテレビをみて憧れ、看護婦になり、オーストラリアに留学して英語を学び、今に至る著者の生い立ちも。ニュースではアメリカ軍のシリア撤退が報道されているが、その裏で、きっと、今も、こんな状況なのかと思うと胸が痛む。
赤十字の作ったムービーはまさに本物だと思った。
https://www.youtube.com/watch?v=0OsMTS1pn00
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2018年56冊目。
読みながら手が震える、そんな体験を久しぶりにした。読まなければこんなにつらい気持ちにはならなかっただろうと思いながらも、これほど読んで欲しいと思える本も少ない。
「紛争地」と一言でくくってはいけない。ニュースでありふれた言葉としてとらえて、そこで終わりにしてはいけない。現場で本当に何が起こっているのか、その詳細を知って、怒りと、やり切れなさと、著者への敬意と、いろいろな思いがごちゃ混ぜになって、まだ整理できない。
正直近年、有名で大きな組織よりも、小さくても画期的な取り組みをしているNPOへの関心の方が強くなっていた。そして、この本も「国境なき医師団か」と、大きな興味を持たずにスルーしかけていた。
実際にこの本を読んで、そのことを大いに恥じた。世間にもてはやされずとも、最前線で泥臭く、最も必要とされているのに最も見過ごされている人たちのために、誰に知られずとも頑張っている人たちに心からの敬意を抱いた。
「敵の味方は敵」の構造の中で、援助従事者たちは決して安全な立場ではない。病院は爆撃の対象になる。限られた設備の中で、ある患者を後回しにしなければならないこともある。生々しい絶望と隣り合わせにありながら、いつもいつも理想を追えるわけではない。それでも、その場における最善を常に探し続ける著者や国境なき医師団のスタッフのみなさんに、心からの敬意を。
敬意という言葉しか見当たらない。
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”国境なき医師団”
その活動内容ははじめて仔細に知った気になる。おそらく、これが全てではないと思いつつも。
現場の様子は、ある程度想像のつくものだったけど、それをなにも特別ではない普通の一般の医療従事者だった著者が体験していくことになることがリアリティある。
普通の、というのは、本書の中盤に語られる国境なき医師団(MSF)に加入するまでの経緯から。優秀とか、エリートとか、よくできた医学生とかではない著者の半生が記されている箇所から感じたものだ。
また、MSFが、立場は中立というのは分かってはいたが、医療活動のみならず、
「証言活動も重視すること」
を団体の方針に掲げているのは意外だった。
医師と医療ジャーナリストによっての設立という経緯から、その発信力も大切なことは分かるが、その証言の中立を保つのは難しいだろう。