紙の本
人口の八割を占める農民は必ずしも自分たちの想いを記録にしてはいませんでした。だから、文書記録を唯一の拠り所とする歴史は彼らの意見をないものとして、都市住民の言葉だけで日本文化を論じました。どう考えても不当ですよね・・・
2009/11/13 20:10
10人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私はあまりお百姓さんたちの生活に興味がないほうなのですが、「江戸時代」という言葉とカバー後の内容紹介
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江戸時代の人口の八割は百姓身分の人々だった。
私たちの先祖である彼らは、何を思い、どのように暮らしたのだろうか?
何を食べ、何を着て、どのように働き、どのように学び、遊んだのか?
無数の無名の人々の営みに光をあて、今を生きる私たちの生活を見つめなおす。
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に惹かれて手にしました。それにしても、この新書、装幀をクラフト・エヴィング商會が手がけているのですが、品があっていいです。まず、色合いの優しさが好きですし、小さな模様の統一感と、よく見れば微妙に異なる多彩さが、なにか、いかにも日本人だなあ、って思わせて、私がもっとも好きな新書デザインとなっています。
で、真っ先に目からウロコ、だったのが「江戸時代の人口の八割は百姓身分の人々だった。」という言葉です。同時期に『日本の歴史 別巻 近世庶民文化史 日本文化の原型』を読んでいたので、そちらの評にも書きましたが、これって重要なことだと思います。さらにいえば、古代から江戸に至るまでの都に暮らす人の数と、それ以外の地に暮らす人々の数についてはもっと論じられてもいいかな、って思います。
文字に残ったものが歴史、という考え方は分かるんですが、そうなれば文字をもたない、或いは記録をしない人間は、生きていたとしても人間として扱われないことになります。そういう意味で、慕われた云々といったところで、所詮、宮廷内の文章を残した人間、しかも読まれることを意識した文章だけによる、そういう視点を欠いた天皇制や文化論っていうのは、片手落ちではないかでしょうか。
で、この本を読んでいて、やはりね、と思ったのがまさに「源氏物語」の扱いでした。やっぱり、農家の人は読んでないじゃん。人口の八割はそんなどころじゃなかったじゃん、そう思うんです。彼らにとって、藩主は彼らの収穫物を有無をいわせず奪っていく人間ですから、常に意識され、嫌い、畏れ、或いはそれゆえに敬愛するかもしれません。でも、京都以外の地にいる人間にとって、天皇や源氏がなんだ?っていうのが正直なところでしょう。それが窺えるのが嬉しい。
それと、生活に終われはするし、苦しい時もあるけれど、何もないときのお百姓さんはそれなりにきちんと暮らしていた、当たり前なことかもしれませんが、ホッとしました。それと一揆です。確かに犠牲者は出るのですが、泣き寝入りに終っていない、そういうところは勧善懲悪大好き人間としては嬉しい限り。
都市住民がやけに遊んでいる印象ばかりの江戸時代ですが、農家の地道な暮しもある、単に抑圧されているだけではなく、人としてきちんと生きていた、私だって、100年遡らなくたって農民の先祖にぶつかる、彼らの江戸時代が決して苦しいだけじゃあなかった、遊びもし、子供に必要なだけの教育をしていた、そういうことを知るだけでも読む価値があったな、と思います。
文章もですが、取り上げられることも理解しやすく、いわゆる「歴史」という名の数字の羅列にはまったくなっていない読みやすいものです。江戸時代の八割の人間の暮らし、知って損のないものです。以下、参考までに目次を写しておきましょう。
第一章 江戸時代の家と村
第二章 百姓たちの暮らし
1 貨幣経済が暮らしに浸透する
2 百姓の生業
3 百姓の日々の暮らし
第三章 働く百姓たち
1 日々の労働と経営努力
2 家を支える村
第四章 百姓の育ち・学び・遊び
1 江戸時代の子どもたち
2 江戸時代の子どもはどんな勉強をしたか
3 文化を楽しむ百姓たち
第五章 たたかう百姓たち
1 百姓一揆をおこす
2 自然災害とたたかう
あとがき
電子書籍
江戸時代の百姓たちの生活
2020/07/06 13:52
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代の百姓がどんな生活をしてどんな行事を行いどんな教育を受けたかなど面白かった。百姓といっても自給するだけでなく生産物を販売したり購入したり商業もしていたのが興味深い
紙の本
上級農民の江戸時代
2021/05/06 19:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体的に平易で読みやすい。マルクス史観や白土三平に毒されているつもりはないのだがやはり上級農民の記録なのだろうな と感じる点が数多くある。下層民の生活はほとんど記録に残っていないから仕方ないのと思うが。農民というものは先祖代々の田畑を大事に守り子孫に伝えてゆくことを至上命題としていた と思い込んでいたが、替地の制度など「村全体での共有」という考えもあったことを知り感銘深かった。現代の空き家対策にも取り入れたい考えだと思う。
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対象年齢が低めのプリマー新書なので、読みやすくわかりやすい。
江戸時代の百姓についてのことが浅く広く書かれているけれど、これだけわかりやすく書かれていれば十分かも。
後ろに参考文献がしっかり載っているので、ここから知識を派生させることもできるだろうし、江戸の民衆についての入門書としても良書だと思う。
日本史を専門に学んだことがない&学び始めた、という方の1冊目の本としてとてもいいんじゃないだろうか。
時代小説を読むときの参考にもなりそう。
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請求記号:210ワ
資料番号:020202156
装丁:クラフト・エヴィング商會
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[ 内容 ]
江戸時代の人口の八割は百姓身分の人々だった。
私たちの先祖である彼らは、何を思い、どのように暮らしたのだろうか?何を食べ、何を着て、どのように働き、どのように学び、遊んだのか?
無数の無名の人々の営みに光をあて、今を生きる私たちの生活を見つめなおす。
[ 目次 ]
第1章 江戸時代の家と村
第2章 百姓たちの暮らし(貨幣経済が暮らしに浸透する;百姓の生業;百姓の日々の暮らし)
第3章 働く百姓たち(日々の労働と経営努力;家を支える村)
第4章 百姓の育ち・学び・遊び(江戸時代の子どもたち;江戸時代の子どもはどんな勉強をしたか;文化を楽しむ百姓たち)
第5章 たたかう百姓たち(百姓一揆をおこす;自然災害とたたかう)
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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本書は江戸時代の家と村、等身大の百姓たちの暮らしを具体的に記した本である。
百姓というと、虐げられていたイメージが強いが、安定的な経営を目指し農業だけでなく商業も含め多角経営を行っていた事がわかる。また結いなど当時の共助の仕組みは、現代においても参考となる事が多い。
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5分の1ほど読み進めて、もういいかな。と一度置いた本だったけど、「ひなちゃんの歳時記」を読んで、やっぱり昔の暮らしが知りたい!と再度手に取ってみた。
意外なことに、「基礎知識」がついたからかするすると読むことができ、「ひなちゃんの歳時記」で学んだことが出てきたりすると嬉しくなってより進む・・・という好循環に。
今先進的な取り組みとして注目を集めている仕組みの前身が書かれていたり、災害時や困難時に、個人ではなく集団でいかに取り組むか、また、その際生じる問題点は何か、どういった解決策があるか―。
「歴史家とは、逆の方向を向いた預言者である」という言葉があるけれど、まさにこれからの生き方、あり方を示してくれるヒント満載の一冊。
今の時代がどれだけ刹那的なものなのか、時代によって常識も規則もどれだけ変わるものなのか。そして何は変わらないのか。
日本人なら読んで損なし!
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2009年刊行。著者は一橋大学大学院社会学研究科教授。◆江戸時代におけるステレオタイプ的農民像に再考を迫る書。慶安のお触書のような触書が繰り返し出されてきたことは、そこに書かれている生活とは別儀の世界が江戸期農民の実態だった。こういうふうに捉える必要性を示してくれる書だ。特に、近畿圏など地域別、寛永・元禄・享保・天保期等時代の違いを踏まえ、貨幣経済の浸透で捉えると有効な視座が得られそう。◆ただ、斯くの如き見解を示すのは本書がその嚆矢というわけではない。簡明かつ学生向けという点に意義を持つのだろうか。
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江戸時代の百姓というと、米を作っても年貢に取られ、麦や雑穀を食べて、食い詰めれば娘を売って‥‥という悲惨なイメージがあるのは、子どもの頃に見た映画やテレビの時代劇の影響があるのかなと思う。今の若い人は時代劇を見ることはあまりないだろうし、学校で習うのは相変わらず武士が行った政治であり、町人文化であり、農機具の発達はちょっと習うとは思うが、具体的な百姓のイメージはないかもしれない。
若い頃はどうしても戦国武将とか勤皇の志士みたいなのをかっこいいと思う傾向があり、そんな人々より圧倒的に多く、いなければ政治が成り立たないどころの話ではない百姓については、あまり考えない。
しかし、この本を読んで見ると百姓の生活もいろいろで、豊かな百姓は、おしゃれもするし、旅行や観劇を楽しみ、子供の教育にも熱心で、(これも映像のイメージではあるのだが)貧乏浪人の生活なんかと比べれば、ものすごくリッチである。中には金貸しもして、江戸の町人の借り手が借金返済ができなかったため手に入れた江戸の土地にに賃貸住宅(長屋)を立てて不動産経営を行ったり、大名や侍にも貸したりして、(もちろん米や野菜も作り、機も織り、保存食や道具も作り、それを売ったりもしている)多角経営の企業みたいなものである。
小作人の世話をしたり、寺や神社に寄付したり、企業イメージアップのために頑張る会社と変わらない。目的はイメージアップではなく、村人が気持ちよく協力して作業を行うためではあるのだけど。
江戸時代は寺子屋が普及したため識字率が高く、それが明治以降の発展の礎となったという説はよく聞くが、識字をどうとるか(辛うじて自分の名前が書ける程度か、難しい文章も読み、書くことができるのか)は研究者によってまちまちだし、かなり地域や性別の差があった、ということなども、実際のデータを示して書いてある。
断片的なあやふやな知識で自分の推理を混ぜてまことしやかに書く一部の書き手(まあ、誰とは言いませんが)とは、全く違う。全てに根拠となる資料があり、それを読み込むことで推理していく。学者とは、ちゃんとした歴史の本とはこういうものだと思う。
大学の一年間の講義をぎゅっと濃縮してあるような本で、実際講義を受けてもっと余談なども聴けたら、本当に面白いだろうなと思われる。一橋大学の学生さん、幸せですね。受験勉強が報われるとは、こういう先生の講義を受けたときだと思う。
百姓一揆のイメージも大きく変わった。
歴史好きというと、大抵は侍が好きな人が多いが、百姓の中にも障害のある娘のために立ち上がった飴屋兵助のようなヒーローがいたのだと知ることができた。
高校生以上なら読んでおきたい本。
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江戸時代の百姓は自分が思っているよりも豊かな暮らしをしていたんだなという感想。
人と人の繋がりがあり、家を受け継いでいく使命を全うし時には学問、文化活動や遊びに興ずる。
現代人よりも高い幸福度で一生を終えた人もいるだろう。
子供の頃に読んだ歴史マンガは偉い人視点で描かれてて百姓はいわばモブ扱いだったから彼らの生活に着目することもなかったし、大抵貧しくて、領主や幕府に搾取され、武力に訴えた一揆を起こすというイメージしかなかった。