紙の本
巧すぎるのも時には考えものだ
2017/10/31 15:46
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
巧い書き手というのは、ほとんど動かない物語であっても、短めの長編小説ぐらいには仕上げるものだ。
直木賞作家桜木紫乃の、デビュー以前の女性作家の作品執筆にかける思いを描いたこの作品がまさにそうだ。
主人公柊令央(ひいらぎれお)が雪の降り始めた北海道の町の喫茶店で東京の出版社の女性編集者と対面するところから物語は始まる。
令央は四十になる女性で、今は離婚した前夫から幾ばくかの慰謝料と幼馴染が経営する料理店の臨時雇いの給料で生活している。
彼女は以前から小説を書いては新人賞に応募をし続けていたが陽の目を見ることはなかったが、東京から訪ねてきた編集者小川乙三はその落選した作品ににわかに注目し、改稿することを求めてくる。
その物語が「砂上」というタイトルだ。
そこには令央自身の半生が投影されている。つまり、自身が身ごもり生んだ娘が妹として育てられた事実、令央の母がまだ十代だった令央の代わりに母となった事実、それらが虚実ないまぜになった物語。
おそらく、令央が書きつつある物語の方が動いていたはずだが、この作品はそれを描くのではなく、それを書きつつある令央の心情をくどくどを書きつらねていく。
令央の母の若かりし頃のことが描かれる場面が出てくるが、その時に俄然輝いているのは、おそらく物語が動いているからだろう。
桜木はあまりにも巧すぎて、動かない時間も言葉を重ねることができてしまう。
この作品ではそれが裏目になってしまったような気がする。
紙の本
物書きとは
2018/08/21 01:40
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投稿者:リンドウ - この投稿者のレビュー一覧を見る
全ての物書きに捧げる物語。
小説とは、時間、知力、体力、魂すの全てを削り、産みの苦しみを持って書かれたものであるということを考えさせられる作品でした。
桜木紫乃先生ならではの人間の心理描写が生々しく感じられました。
紙の本
成り上がり小説。熱い!
2017/10/19 00:25
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
あくまでも主人公は地味な女性作家なのだが、でも際立つのは主人公に小説を書かせていく女性編集者。文芸編集者ってそうとう切れないとできない職業なのだとつくづく実感。本書と文中の小説とどちらも舵を取っているのは、この編集者なんだ。すばらしい。主人公女性も徐々に自分を見出し強くなっていく。とても気持ちがよかった。私は強い女性の話がやっぱり好きなんだな。ひとつ、夫が不貞を犯して離婚に至ったのだから貰える物は貰って当然と思う。ここに負い目を感じていたがそうじゃない。成り上がって行く様がぞくぞくするほどかっこいい。
電子書籍
匠のワザ
2019/06/08 16:40
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投稿者:うみしま - この投稿者のレビュー一覧を見る
桜木さんの作品をこれまでかなり読んできましたが、本当に上手い書き手であることがよくわかります。この作品は、小説家志望の中年女性と編集者のやり取りが微細にわたりリアルであると感じさせますが、それこそが匠のワザたる所以ではないかと思います。そう思わせる筆致、長い物語を読ませる力がある文体が、すっかり本の世界に入り込ませるのだと思います。最初はどことなく頼りなく輪郭がハッキリしないような小説家志望の女性が、鋭い切り込みの編集者によって、どんどん強かに太い輪郭を持っていく過程が本当に上手い。ますます、今後の作品を読みたくなりました。
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20170808リクエスト
とても楽しみにしていた桜木紫乃作品。
いつものような、どよーんとした感じとは違う。救いどころのない設定や状況が多いけど、これは前を向いていけそうな、イメージ。
つまらない訳じゃないけど、期待していた感じとは違う。時間をおいてまた読み返したい。
2021/01/19再読
今回は、前回より刺さるものがあった。
P122
正直、柊さんは妻としても女としても人間としても、最低だった。料理も掃除も洗濯も全て手抜きだった。ぼくにも一人の人間としての価値があることを認めようとしなかった。
P123
こんなひどいことができる人に、毎日を大切に生きている人間の気持ちが分かるわけないと思います。柊さんは僕達夫婦にとって悪魔です。
不貞で離婚、慰謝料を値切り、挙句にこのセリフを言う男。元オット。
こんなことを言われたら、どうして私が、と思うが、ここでもっと言って、書くから、と思う作者魂がすごい。
最後に話していた、官能短編、女性編集者と男性の書き手の組み合わせ、を読んでみたい。
実現するといいのにな。
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柊令央は、ビストロ勤務で得る数万円の月収と、元夫から振り込まれる慰謝料で細々と暮らしていた。
いつか作家になりたい。そう思ってきたものの、夢に近づく日はこないまま、気づけば四十代に突入していた。
ある日、令央の前に一人の編集者が現れる。
「あなた今後、なにがしたいんですか」
責めるように問う小川乙三との出会いは、他人任せだった令央のこれまでを直視する日々の始まりとなる。
今は亡き母ミオ、戸籍上は妹だけど実は娘の実利、小説を書き始めたことで変わっていく人間関係の行方はー?
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虚構。主体性。厳しい編集者に応える作家志望の女性。書くことにとらわれる姿。一つの作品を作り出す苦悩、努力。淡々とした主人公だが、『砂上』を書き切ることで母を知り家族ともうまくいく感じに。編集者に繋がれたのはラッキーだったね。
これもまた、女の生き様を書いたものでした、良かった。よく味わいたく、時間をおいてまたゆっくり読んでみます。
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作家志望の中年女性のお話。優秀な女性編集者に出会い物語を創っていく過程がリアルに描かれて楽しめた。自分の過去に向き合いながら小説という虚構を創造する過酷さと醍醐味。主人公と母娘とのお話も良かった。
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江別駅の前の広場に雪が降り降りる光景から
どんどんと桜木紫乃さんの作り出す世界に浸っていく
まっすぐ目を向けたくない、できれば通り過ぎたい
関わりたくない、忘れたいようなことが
容赦無く襲ってくるが、いつの間にか強くなっていく
清々として、でもなんだか引っかかったまま読み終わった
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あくまでも主人公は地味な女性作家なのだが、でも際立つのは主人公に小説を書かせていく女性編集者。文芸編集者ってそうとう切れないとできない職業なのだとつくづく実感。本書と文中の小説とどちらも舵を取っているのは、この編集者なんだ。すばらしい。主人公女性も徐々に自分を見出し強くなっていく。とても気持ちがよかった。私は強い女性の話がやっぱり好きなんだな。ひとつ、夫が不貞を犯して離婚に至ったのだから貰える物は貰って当然と思う。ここに負い目を感じていたがそうじゃない。成り上がって行く様がぞくぞくするほどかっこいい。
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う~ん、この作品「砂上」と、作中で令央が書く作中作「砂上」が交錯して、わけがわからなくなる。
見たくないことも含めて事実を直視しないことには、そこから虚構を作り出すことはできないということが、桜木さんの小説を書くということへの回答でもあるのかなと思った。
令央よりも、女性編集者の乙三を表に出した小説を書いて欲しいと思ったのは私だけかな・・・
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先が気になって,一気読みしました。
私は,主人公の母が,主人公を産むことを決意するところが一番印象に残りました。
小説を書くということの厳しさとそれを克服しようとする姿,書くことによって母・自分・妹(実は娘)の人生について納得していく姿に,物語の展開は明るい方向へと思ったら,珠子さんの言動で冷水を浴びせられたようで,珠子さんがいい人だと思っていただけに,個人的には辛かったです。
定期収入を失うことで,主人公は小説家という茨の道に不退転の覚悟で臨むことになったという点では,必要なエピソードであったのでしょうが…。
私は,直木賞の「ホテル ローヤル」よりは本書の方がよかったです。
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ランチから休憩をはさみディナー後の閉店まで働いて、月収が6万円。時給が安すぎる。LINEがある時代の物語なのに。
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図書館で借りた本。小説家になりたい中年女性が作家デビューするまでの話で、女性編集者のアドバイスを通じて自分の生き様、母や妹との関係を題材にして小説を書き上げる。心には響かない話だった。
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作家になるために、自らの生活を素材にして、
それまでの母や妹との関係を振り返っていく。
作家の世界の見方と、自分の過去と現実を見る目が変わっていく様が興味深かった。
母親のことを認められない
主体性がない
元夫に対しても冷静で情が一切沸かない
そんな指摘を受けるような主人公が、本を1冊出すまでに少しは自分を肯定して行く
気持ちの変化がとてもリアルで、途中から作品に入り込んでしまった。