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戦争と愛と死
2017/08/19 18:41
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
8月は、日本人にとっては、72年前に約310万人の犠牲者を出した挙句敗戦と決まり、さらには広島・長崎で原爆で何十万人の命が一瞬にして犠牲になった季節である。死者の魂を招く旧盆の時期にも重なり、死と戦争を連想しない訳にはいかない、深く民族的な情緒に印象が刻まれる時である。
第一次世界大戦を経験したフランスにおいても、8月とは、開戦の砲声を聞き、総力戦の名の下で国家的消耗を強いられ、4年後の同じ月に第二次マルヌの会戦を経てぐだぐだになりながら戦局を決した、やはり戦争を想起する季節として印象深いようだ。
「ベートーヴェンの生涯」「ジャン・クリストフ」等の傑作で名声を得ていたロマン・ロランは、その揺るぎない理想主義的ユマニスムに基づき、当初より本世界大戦に反対を表明、戦闘停止を訴えた。実はこの時期の反戦関係文書が1916年のノーベル文学賞受賞対象作品とされている。あくまでも反戦という立場を堅持したといはいえ、ロランという作家には、大戦の悲惨とノーベル賞受賞の栄誉がない交ぜとなって濃い影が落とされていることが知れよう。だから、この戦争・反戦に対する結論として、芸術的昇華を遂げた作品を世に問う必要性をロランは感じたはずだ。そして完成したのがこの「ピエールとリュース」だったのではないだろうか?
主人公のピエールは、徴兵適齢者として6か月後には戦地に赴かなければならないことが定められたブルジョワの子弟だ。戦争はたった18歳の「少年」の血を要求していた。戦争さえなければ存分に青春を謳歌できていたはずなのに、それができない運命に彼は絶望していた。その感傷はロマン・ロラン自身が抱いていたもので、そのまま主人公に投影されたと思われる。この少年の繊細な神経には耐えがたい極限的な戦時の重圧下に、彼は少年の魂の片割れとでもいうべき美少女を配した。リュースは、やはりブルジョワの出身ながら親の望まぬ結婚を貫いたがゆえに実家と断絶し苦しい生活を余儀なくされた母との二人暮らしを通して、やや世知に長け、少年よりは精神年齢は高く、豊かな母性に溢れている。地上で起きたドイツ軍機による爆撃で負傷した男が地下鉄の駅に転がり落ちてきたときの騒ぎの中で、少年は見知らぬ少女の手を握った。少女もこれに抵抗しなかった。出会いの場面は鮮烈だ。運命の出会いから偶然の再会を経て、二人は純愛を育んでいく。しかしこの愛の行方が決して幸せに満ちたものではない、という悲しくも強い確信も二人は共有してしまっている。この小説を翻案した日本映画の「また逢う日まで」で話題になったガラス窓越しのキスのシーンも印象深い。約2か月の短い冬に燃えた彼らの愛の結論として、復活祭の日にひとつになる約束をする。しかし復活の前には死があるのだ。二人は特に強い信仰心を持っているわけではなかったが、自分の恋人しか愛せないような貧しい小さな心を持つ自分たちのことさえ愛してくれた、イエスの大きな愛を確認したかった。それにより、彼らの愛はイエスのそれに近くさらに強固なものになる。そして復活祭の前日である聖金曜日の礼拝に教会に出かけ、運命の時を迎えることになる。リュースは偶然見つけた自分より一回り若い赤毛の少女の恐怖と憐憫の表情に、次の瞬間に来る自分と恋人の未来を見ていた。ドイツ軍機の爆撃による出会いの時への永劫回帰。
この悲恋小説の最後に、ロランは1918年8月、と記した。まだ、完全な戦争終結には至っていないときだったが、そろそろ終わりが見えていた頃だったろう。ほぼ同時代を進行する物語として「戦争と愛と死」を書き上げた。人類への見事な遺産である。
詩のように…
2017/02/11 09:54
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投稿者:une femme - この投稿者のレビュー一覧を見る
どこにでもいるような、フランスの若者、ピエールとリュース。後半に進むにつれて、二人だけの世界が作られていく様子が、長い詩のようだった。
次第に、その世界の他は、そぎ落とされていくかのように、小さくかげり、最後には、一枚の絵画のようになった。
物語の終わり方が、悲劇だが、美しく印象的。
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