紙の本
やはり再読に耐える本、ていうのは立派だなと。もしかすると、五年後にまた読むかもしれません。とくに、小さな希望の描き方が好きな作品集です。
2009/06/10 21:38
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
篠田節子『秋の花火』(文藝春秋2007)
2004年7月に出た単行本は出版されて直ぐに読んでいますから、既に4年経っています。それを忘れて文庫で再読したんですが、やはり殆ど忘れていました。記憶力がないおかげで新鮮な気持ちで再読ができたというのは、嬉しい限りです。タイトルそのままの装画は派多野光、装丁は大久保秋子です。
カバー折り返しの案内文は
彼の抱えた悲しみが、今、私の皮
膚に伝わり、体の奥深くに染み込
んできた――。人生の秋を迎えた
中年の男と女が、生と死を見すえ
つつ、深く静かに心を通わせる。
閉塞した日常に訪れる転機を、繊
細な筆致で描く短篇集。表題作の
ほか、「観覧車」「ソリスト」「灯油
の尽きるとき」「戦争の鴨たち」を
収録。 解説・永江 朗
各話の内容ですが
・観覧車:女性に縁のない男のデートは、最初から予定通りには進まない。なんといってもそこに彼女が登場しない。だから遊園地の券も無駄になる。勿体無いから遊園地に行く、そこらあたりも「もてない」男です。そんな男の前にセーラー服姿の女子高生が現れて、とりあえずのった観覧車が・・・
・ソリスト:その演奏ゆえに熱狂的なファンを世界中に持つ幻のピアニスト。そんな女流演奏者を知り合いである、という理由で音楽祭に招待したのは甘い考えだったのか。日本には約束とおりにきた。でも、開場が始り、開演時間が近づいても彼女は現れない。そして私を代役にして演奏会が始り・・・
・灯油の尽きるとき:夫は自分の痴呆の始った母親の世話を妻に押し付け、手助け一つしようとない。ものが分からなくなった義母は、病院を出て家に戻ったものの、下の世話はすべて嫁任せ。愚痴をこぼそうにも、相手にしてくれそうな友人は見当たらない。そんなとき、私に声をかけてきたのは・・・
・戦争の鴨たち:ようやく運が向いてきたと思ったのに、スキャンダルで写真集の在庫を抱えてしまったカメラマン、一時は人気もあったが、今では依頼も減ってきている作家、二人が起死回生を図ってやってきたのが紛争が納まらないアフガニスタンに隣接する街。現地取材を熱望する二人をアフガニスタンに案内するという申し出が・・・
・秋の花火:女とみれば誘い、触り、撫で、頬擦りし、押し倒さないではいられない老人が、実は日本を代表する指揮者。家族を捨て愛人と暮らすことを選んだ老指揮者は、しかし相手を病で失い、自らも倒れる。そして転がり込んだのは、結局、家族のところ。そんなマエストロを指導者とする教え子たちは・・・
です。以前読んだ時のことはともかく、今回の印象を一言で言えば、甲乙つけがたいということでしょうか。どの作品にも緊張感があります。しかも、どの話も暗い。誰もが失意の底にあります。理解してもらえない、辛さの中で藁をも掴もうとする。少しの希望に縋りつこうとする。
でも、現実は厳しい。彼は、彼女は最後に傷つく。ただし、そのままお先真っ暗かというと、そうではありません。そこで学んでいます。だから、各話の冒頭と終わりでは、同じ小さな光でも彼らの受けとめ方が違っています。強さがある。本当の希望がある。篠田の小説に特有の、小さな希望が。
私としては、「秋の花火」の、指揮者をめぐるゴタゴタの陰で秘めやかに、殆ど誰にも気付かれないような形で進行する大人の静かな恋愛がいいです。「秋の花火」というのが実にピッタリとしています。人生の春でも夏でも、まして冬でもない40代から50代にかけての男と女の愛は、肉欲まみれではない、こういう淑やかなものもある、まさにクラシックの世界に相応しいものでしょう。
ケアマネとしてというよりは、義母の世話を見るという点で「灯油の尽きるとき」を真剣に読みましたし、恋愛に縁のない男女の出会いと言う点では「観覧車」を、クラシック好き、特にピアノと室内楽好きな私には「ソリスト」も面白かった。最近、長編がちょっと大味になっている感がある篠田ですが、短篇の緊張感とレベルの高さ、ばらつきのなさは流石です。また五年後くらいに再々読してみたいものです。
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なんだか、ちょっと寂しい感じのタイトルです。
作者の本は、いくつか読んだことがあるのですが、人物に対する細かい描写が気に入ってます。
そしてわざとらしい感じでない、もの悲しさ、人生の悲哀、ちょっとした感情の動きなど… 絶妙です。
年をとるということって、いろいろ辛いな…と思います。
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閉塞した日常に訪れる転機を冷静で繊細な筆致で描いた短編集。
バラエティーに富んだ5編が収録されており,
どの作品も設定やプロットがよく練られている印象を受ける。
女性が理論的に男を見るとこういう印象なのかと思わされる。
わざと蔑んだような面もあるが,示唆に富んだ視点は興味深い。
初めて著者の本を読んだが,導入作には適した本だったと感じる。
個人的には,「ソリスト」,「戦争の鴨たち」が良かった。
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篠田節子の小説には、いろいろな世界があるけれど、それを凝縮させた一冊という印象の短編集。
どの話の中にも「人生の秋」が根底に流れている。
諦めや寂しさ。やがてくる冬への漠然とした不安と嫌悪。
そんな感情が静かに語られている。
モテないまま中年を迎えた男とオンナ。天性の才能を持つものとそうでないものの心情。
篠田節子独特のホラーやミステリーをちりばめたストーリーはもちろん素晴らしいのだが、ラストに収められている表題作「秋の花火」が不思議な余韻を心に残した。
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0912 初篠田節子作品の短編集。各主役の心理描写が時に寂しく時に明るくリアルに描かれている。
暗い話より明るい話の方が好き。
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しっとりとした、だけどどこかしら怖い部分もある作品集。ここでの「怖さ」っていうのは……誰でもふと感じることがあるであろう「孤独」なのかなあ。「観覧車」や「灯油の尽きるとき」なんてまさにそうだと思う。
一方でなんともブラックなのは「戦争の鴨たち」。これにはもう笑うしかないのだけれど、ここに描かれているのって……絵空事? いやいや、相当に皮肉だわ。
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五編から成る。ソリストはピアニストのお話。秋の花火は弦楽アンサンブル。執筆に関して楽曲の構成、演奏方法等について専門家から実技を含んだアドバイスをもらっている。
篠田節子は、しっかりとした音楽小説を書ける作家の一人。
どの作品も、超常現象は出てこない。日常のちょっとした延長にスポットを当てている。いずれも印象深い、素敵な作品。
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最近、心おだやかになるような本ばかり、読んでいたのですが、桐野夏生の「I'm sorry, Mama」とこの本を読んで、冷たい隙間風が心にぴゅーぴゅー。いや、そういう本も嫌いじゃないんですけど、ちびっこのいる母として、なんとなく心穏やかでいたい気持ちもあったりして。って本の内容とは関係ない・・で、内容。一番印象的だったのは、「灯油のつきる時」なんとなくラストが想像できてしまうのですが、うまいなあと感心。寂しいときのやさしい言葉ってすがりたくなるものなのですよね。何げないひとことでも。「観覧車」は個人的にどっちにも感情移入できず。「秋の花火」は、老人の性について考えさせられました。いや、こういう人いっぱいいると思うんだけどなあ。(指揮者の先生ね。)自分の親なら許せないけど、知人なら、かわいいと思えるかもしれないです。誘われたら思いっきり拒絶ですけど。
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とても良かった!
ひとつひとつの短編が、息をつめるほど
リアルで深く、取材して綿密に組み立てられた
世界観という感じで、さすが篠田節子さんです。
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短編5話
観覧車
ソリスト
灯油の尽きるとき
戦争の鴨たち
秋の花火
いかんとも、篠田節子らしい、斜に構えた話が多い。
幸せな終わりではなく、悲惨な終わりでもない。
思わぬ落とし穴に嵌まるが、恐怖のどん底ではない。
人間らしさと皮肉屋さんらしさといえばいいかもしれない。
「戦争の鴨たち」はある意味笑える。
戦場の近くで、戦場を模擬する商売があろうとは。
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彼の抱えた悲しみが、今、私の皮膚に伝わり、体の奥深くに染み込んできた―。人生の秋を迎えた中年の男と女が、生と死を見すえつつ、深く静かに心を通わせる。閉塞した日常に訪れる転機を、繊細な筆致で描く短篇集。表題作のほか、「観覧車」「ソリスト」「灯油の尽きるとき」「戦争の鴨たち」を収録。
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久しぶりに篠田さんの作品読みましたが、やっぱりいいですね!閉塞した日常にあらわれた転機が表現されています。
5つの短編集ですが、後味のいい「観覧車」の話が一番好きです。篠田さんの作品が好きな方は是非!
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5つの短編。趣きはどれも違ったもので著者の幅広い作風が味わえる。短編ながらも落ちがちゃんとあるから一つの作品を読みおえた感があり短編というのを忘れてしまう。
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五つの短編集、特に『観覧車』と『灯油が尽きるとき』に惹かれる。観覧車は明るい未来に一歩踏み出し、灯油~は現状から離脱するために一歩踏み出したわけである。人の人生には慣性の法則が働く、一時的な成功を手にしてもしばらくすると自己のイメージに逆戻りするのである。観覧車の二人に幸あらんことを願う。
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閉鎖した日常に訪れる転機を、繊細な筆致で描く短編集…
まさしくその通りの5つの話。
「秋の花火」はオトナの静かだけど胸が苦しくなるような切なさを感じた。