紙の本
自分の力でどうすることもできないものを「業」と呼ぶならば、その中で生き抜いていく人たちの心が強く伝わってくる力作。
2021/12/31 07:07
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投稿者:mitu - この投稿者のレビュー一覧を見る
2021年11月9日。
作家の瀬戸内寂聴さんが逝去された。
享年99歳。
多くのメディアでその訃報が伝えられたなか、最も興味が引かれたのが作家の井上荒野によるものだった。
人気作家だった寂聴さんは51歳で出家。
その当時男女の仲にあった作家の娘がこの本の著者その人だ。
物語は、作家の長内みはると、その不倫相手である白木篤郎の妻・笙子の視点から交互に描かれていく。
「何かあって白木を好きになったわけではなかった。理由などないのだ。雷に打たれたようなものだとわたしは思った。結局、あの徳島の講演会の日の朝に、わたしめがけて白木が落ちてきたのだ」(みはる P75)
男女の関係を解消するために、出家を決めたみはる。
その場に行かなくて良いのかと、妻の笙子は篤郎に告げる。
そして、男女の中ではなくなった篤郎と寂光となったみはるの友人としての付き合いは続いていく。
「そんな男を、どうして彼女は愛してしまったのだろう。眠りに落ちながら、私はまだ考えている。愛が、人に正しいことだけをさせるものであればいいのに。それとも自分ではどうしようもなく間違った道を歩くしかなくなったとき、私たちは愛という言葉を持ち出すのか」(笙子 P102)
書き続けることで、自分を探し続けた寂光。
書くことを拒むことで、自分が明らかになることを拒んだ笙子。
「作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった」
「モデルに書かれた私が読み傑作だと、感動した名作」
この本のモデルとなった寂聴さんが、帯に絶賛のコメントを寄せている。
自分の力でどうすることもできないものを「業」と呼ぶならば、その中で生き抜いていく人たちの心が強く伝わってくる力作。
紙の本
寂聴さんを偲ぶ
2021/11/23 07:24
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投稿者:GORI - この投稿者のレビュー一覧を見る
実際のモデルがはっきりしているので実名で書くと、井上光晴とその妻、そして愛人の寂聴の三人の視点で語られるフィクション。
筆を取ったのは光晴の長女荒野。
小説家は特定の人物を描く時、こうだと思って書くが、書いたことによって分からなくなり、さらに書き続けなければならなくなる。それほど人間の心の奥底は分からない。
光晴を愛したことから決別するために出家した寂聴。
光晴の墓を寂聴に誘われて建てた妻。
妻も同じ墓に入ることを望む。
寂聴と親交がある荒野。
人間の奥深い物語を書き切った荒野には三人と共に生きてきた足跡が存在する。
光晴が亡くなって抜け殻のようになってしまった妻の姿が、なんとも裏淋しいと感じる。
紙の本
読後の余韻に浸る
2022/07/29 15:59
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投稿者:カレイの煮付 - この投稿者のレビュー一覧を見る
白木篤郎は、どうして、そんなにもてる人なのだろうか。憎めない人柄だからなのだろうか。周囲で、このような人を見たことは無い。
紙の本
一番凄い人は?!
2020/05/24 09:06
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投稿者:ピーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
娘が両親と父の愛人の三角関係を描く。
ドロドロした時代を乗り越え、三人で食事をしたり、お墓も愛人の薦めるところに作ったり、その娘のお祝いに愛人が駆けつけたりと、単なる不倫物語という物だけでもないような不思議な感覚。
三人の中で一番肝の座っていた人というのは、結局は妻ではなかったかと、卓越したすごみを感じた。
又それを淡々と描く娘である著者も流石あの妻の子!凄いと思った。
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作家生活30周年記念作品
と謳うだけある作品。
読み終わったあとずっと身震いが止まらない。
奇妙。とにかく奇妙。信じがたいほどな関係であり、
怖いのがフィクションでないということ。
作者の父井上光晴と、私の不倫が始まった時、作者は五歳だった。
と、瀬戸内寂聴が寄せているのも、褒め称えているのも奇妙。
ずっと怖かった。これが創作も踏まえたうえでの事実であったことが。
すごい作品だし、だれにも書くことができない作品。
荒野さんの作品、すごく好きですがこれはまたちょっと違う。
好きとか嫌いとか、そういうのとは離れた、すごい一冊。
これを読めて、よかった。
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男はばかだよねー
自分の自尊心をくすぐられたがり、
女は、そうされたいだろうなってことを
使いこなしてうまくやってる
2019.03
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作者の父・井上光晴さんと瀬戸内寂聴さんの不倫と井上家との関わりが題材の小説。この題材を小説にした井上荒野さんに作家としての凄味を感じます。題名の中の「鬼」は作家である登場人物達、「あちら」は作家の世界の事だと感じました。
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小説家とは業の深いものだ。
浮気性の旦那の敢えてバレる嘘をついていても家族と生活を守って、自らも嘘をついていた母を、娘が描いていることが興味深かった。
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作家である父とその愛人。そして母。とりまく人々。
よくもまぁ、こんなスキャンダラスな事実をモデルに書いたものだ。それがまた恐ろしく淡々と平穏な風情で描かれているからすごい。
愛のかたち、女性の強さ。愛される弱き男。愚かな女たち。その行方。
心の拠りどころを探すように読破しました。
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自分の父親である小説家・井上光晴と、瀬戸内寂聴の三角関係をモデルとして描いた、異色にして出色の一冊。
実際の関係がどれほどのものだったのかは知る由もないが、それを上質な小説に仕立て上げた著者の手腕は、お見事としか言いようがない。その上質さを構成する要因のひとつは、小説家(=著者の父親がモデル)に語らせず、小説家の妻(=著者の母親がモデル)と愛人(=寂聴がモデル)を語り手としたところだろう。これによって、読者はどちらかの立場に肩入れするわけでもなく、客観的に三人の関係を見守ることになる。言葉を交わしたこともない二人の女性の語りは、まるで一人の男を間に置いて会話をしているかのようで、その距離は一頁毎に縮まってゆく。会いたい、話したい、という二人の思いと、それが叶わないもどかしさ。この小説の読みどころはここだろう。
そして、この読みどころを支えているのは、小説家の妻の溢れる知性と品格。寂聴がこの小説を絶賛してしているのも、この点ではないかと思う。
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自分の父親の愛人を描いていく覚悟はなかなか。登場人物に誰にも感情移入できないのがいい。
作家として一段上がった感じがする。
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1組の夫婦とその夫の不倫相手の女性、2人の女性の人生が描かれている。情熱に溢れたものというよりは内に秘めながらの想い。ドロドロもしていないけれど1人の男に対する想いの強さが伝わってくる。それが年を重ねるのとに増していき女性を揺さぶる。憎しみとかそういうものではなく、友人とも違う2人の女性の関係や、男を介してそれぞれの人生のなかにある人を想うということ。離れることはできないなにかがそこにはあって他人からはわからない特別なものがある。『ママがやった』を読んだ時にも思ったけれどここまで圧倒されるものはなかなかない。
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井上荒野の父(井上光晴)と瀬戸内寂聴との(恋愛?というか宿命というか)関係と父と母の関係というか(これまた宿命というか...)
を瀬戸内寂聴の著書を参考文献にして書き綴った小説...
みはる=寂聴の声が、語り口が聞こえてきそうなその文体
笙子=母親...その佇まいが目に浮かぶ
小説とはここまで自分の身体(身も心も)を輪切りにしてま
で書くものなのか?
書かねばならないものなのか??
著者、井上荒野が書いた父のこと、瀬戸内寂聴が書いた井上光晴のことも小説になっているようだ...
井上荒野を通して描かれる寂聴のその内面、それが本当かどうかはわからないが、とても魅力的に表現されている。そしてきっと寂聴はそういう人間なんだろうとも思う。
瀬戸内寂聴...人間、人間らしい人間...そんな気がした。
寂聴の本も、井上荒野の本も読んでみたいなぁ...と思う。
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井上荒野という素晴らしい作家を始めて知りました。
人間とはどのような生き物なのか、愛とは何かを考えさせられた。最後を読み涙が出そうになった。この作家の他の作品も読んでみたくなりました。
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少し前に著者と瀬戸内寂聴さんの対談を読んで「つやのよる」の著者が井上光晴の娘さんだと初めて知った。対談を読んで二人の関係を知り、驚いた。全身小説家のあの人の娘さんが作家になっていたこと、波乱の人生で知られる寂聴さんの恋人の一人、それも特別な一人があの人だったこと。愛人と正妻の娘が笑顔で雑誌に載り、恋人と父について語り合っていること。全部が小説の中の出来事のようで、こういう経験を持つ人たちが小説家になるんだというか、こんな人生を経験したらこれはもう小説という形で掻き出すしかないだろうと思った。
ノンフィクションとフィクションがごっちゃになった不思議な感覚と、物語の持つ力に押されて一気に読んだ。一人の男と二人の女の人生が見事に切り取ってあり、目が離せなかった。