紙の本
<ザ・チェーン>は鎖であり、がっちりした輪っかでつながっていくもの。
2020/03/15 04:15
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
よく見たらこれシリーズものじゃないじゃん!
エイドリアン・マッキンティの<ショーン・ダフィーシリーズ>の舞台はアイルランド、しかし本作の舞台はアメリカ、そもそもショーン・ダフィーは出てこない!
単独作ですよ、じゃあいきなり読んだっていいじゃないの。
というわけで読み始めたら、しょっぱなから引きずり込まれました・・・。
連鎖誘拐とは・・・「お前の娘を誘拐した。 返してほしければ、他人の子供を誘拐しろ」という電話がかかってくるという・・・。
多くは言えない!
しかし自分の子供を誘拐したのは、子供を誘拐された別の親で、お互い子供を殺したくないけれど自分の子供が殺されるというならば誰の子供でも殺す、という親ならではの共通認識がこの物語を恐ろしいものにしている。
何が起こるかわからないが、起こるならば悪いほうだろうという予兆に満ちており、上巻はものすごい勢いで読んでしまう。自分には子供がいないが・・・誘拐される子供たちと同年代の親はこれを読んで平気でいられるのだろうか?、と感じてしまうほど恐ろしい。
が、下巻に入ると若干失速?
この連鎖誘拐システム<ザ・チェーン>を仕切っているのは誰か・・・に触れてくるとスローダウンで、なんかもったいない感。しかも「え、今ここで、それ、書いちゃう?!」という、フェアを意識するあまりか手掛かりを堂々と開示してくれるので、真実が明らかになる次の章終わりの最後の一行で驚けない!
とはいえ、傑作が多々ある“誘拐もの”ジャンルの中で“連鎖誘拐”というワンアイディアで突っ走ったのは素晴らしい。登場人物に対して感情移入か共感の境目ぐらいの距離間を保たせるってのも絶妙。
巻き込まれて死んだ人がただただ哀れ。
悪意にはいつ牙をむかれるかわからない。
面白かった!、と素直に言えないくらい心臓に悪い。
紙の本
唯一無二の設定と卓越したスピード感及び緊迫感
2020/03/20 01:19
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
誘拐犯の要望は被害者にも誘拐を行わせること。
この素晴らしい発想を軸に本作は物語が進んでいく。
副題の通り誘拐が「連鎖」していくのだ。
被害者である主人公が愛娘の為に加害者と同じ位置まで堕ちていく。
しかし、元はといえばその加害者も被害者なのである。
この様な関係性を互いが認知していたため、加害者と被害者という関係でありながらどこか共犯者めいた関係になっていく様は本作ならではであろう。
加害者と被害者が一蓮托生の関係になるという物語は初見だった。
本作はその設定の素晴らしさもさることながら、物語のスピード感及び緊迫感がとても良い。
慣れない犯罪に対する主人公の葛藤や焦燥感が、物語のそれらを倍増させている。
ただでさえ不幸な境遇の主人公にどこまで過酷な試練を与えるのかと思いつつも、ページをめくる手を止められない。
また、連鎖誘拐のシステムを作ったと思わしき犯人の描写もチラホラ挿話されるので、その正体や目的なども気になるところ。
優れたサスペンスやスリラー作品は、読んでいて辛いと思わせたり胃が痛くなるようなキリキリとした緊迫感を抱かせながらも読む手を止めさせないものだと思う。
本作はその点において極めて優れた作品である。
下巻でも、上巻のスピード感及び緊迫感を維持してほしい。
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子供がいる親にとっては気になって仕方がないノンストップスリラー。がんを患う母親が主人公。娘がある夫婦に誘拐されるが、この夫婦も子供を誘拐されている。子供を救うにはほかの子供を誘拐して身代金を支払わせるしかない。この関係は延々と続いていて「チェーン」と呼ばれる。チェーンに逆らえば皆殺しの報復が待つ。環元米兵の元夫の兄に協力を得てトラブルに挑む。上巻で一区切りつくが、不穏な終わり方。
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「チェーン」は終わらない。
レビュー
プロットが素晴らしいの一言に尽きる。
誘拐犯の子どもは別の誘拐犯に攫われていて、その誘拐犯のもまた別の誘拐犯に攫われ、という、無数に繋がるチェーンという設定自体が秀逸だ。そして、そのシステムの性質上、自分の誘拐だけでなく、繋いだ先の誘拐の成否すら責任を負わなければならない。(会社で人事部のあなたが誰かを採用して、その採用した誰かが採用した人が問題を起こしたら、あなたまでその責任を追及されるということだ。)
この鎖は単なる誘拐連鎖ではなく、システムに組み込まれた時点で、その当事者の身体、そして精神を縛る鎖だ。我が子への愛を担保に繋がっていく。
レイチェルの決断力、カイリーの勇敢な脱出未遂、ピートの協力、誘拐した子どものアレルギー反応など、どれもが予想外であり興奮する要素になっていて、ページをめくる手が止まらなかった。
そして、カイリーとの邂逅も束の間、次のミッションも難儀を極めそうで、非常に楽しみだ。
余談
チェーンといえば、作中にも出てくる「暗号通貨」の技術である「ブロックチェーン」。これは分散システムであり、中央集権的なシステムでないからこそ、改竄を防ぎ、確実な追跡を可能にするものだ。この物語はきっと、この技術の特性を理解して、そこから着想を広げたのではないだろうか。
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マッキンティと言えば北アイルランドを舞台にした、闘う警察官ショーン・ダフィ・シリーズでの好印象しかないのだが、驚いたことに、いくつかの賞を獲ったにも関わらず執筆の対価に合わないとしてペンを折ってしまいネット配車タクシーのドライバーに転職していたのだそうだ。そんな、と思ってしまうのはぼくだけではない。
本作の彼の初稿(短編小説)を読んだドン・ウィンズロウは、もとより彼の才能を買っており、自身の米国エージェントを通して長編化と作家への復帰を説得したらしく、彼は本作で改めてアメリカでの出版での勝負に出たとのことである。作者自身のあとがきと杉江松恋の文庫解説にも詳しい。
さてその力の入った実にアメリカ向けの作品が本書であり、正直、ショーン・ダフィ・シリーズのマッキンティの躍動する、あの寒々しい北アイルランドの風土と闘いの歴史の上に繰り広げられる重たい捜査模様を期待する読者は、呆気に取られると思う。
むしろピエール・ルメートルなどに見られるスリリングな状況作り、逆転また逆転の仕掛けといった高いエンターテインメント性など、これがあのマッキンティなのかと驚くほど、それはアメリカンなエンターテインメント作品に仕上がっているのである。
誘拐された親は次の誘拐を完了させないと我が子を取り戻せないというチェーンに巻き込まれた家族。そのシステムを構築した者の正体は? そして結末は? とまず物語構造だけで緊張関係を作り出してしまっている。
さらにスマホ、タブレット、パソコン、アプリなど、現代ならではの道具による仕掛けが頻出と多彩な銃器によるアクション。世界中の若者に受けそうな、それこそ今にも映画化されそうな面白小説に仕上がっている。
個人的にはショーン・ダフィの鼻っ柱の強さが好みだっただけに、マッキンティにはこの手の才能で稼いで生活基盤を手に入れて頂いたら、生まれた地である北アイルランドを素材にしたショーンの物語も末永く紡いで行って欲しいものである。
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現代ネット社会の闇を映したミステリー小説の上巻。主人公・レイチェルの娘のカイリーが誘拐され、レイチェルは身代金&他の子供の誘拐を指示される、レイチェルは誘拐した子供の親に身代金&誘拐を指示し、被害者から加害者へと変わり、その後も誘拐はチェーンの様に連鎖していく。登場人物はSNSを使って他人の個人情報を把握し誘拐を企てる等、SNSによりすべての情報が筒抜けになる現代のネット社会を皮肉った側面もありつつ、展開もスピーディーで非常に面白い。絶妙なところで終わり、下巻へ続く。
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シングルマザーのレイチェルの娘が誘拐された。何者かから、身代金をビットコインで送金し、他人の子どもを誘拐しろと指示されるレイチェル。レイチェルが誘拐した子供の家族がまた身代金を払い、その家族がさらに別の子供を誘拐すれば、娘は生きて解放される。失敗すれば殺されてしまうというのだ。
謎の人物が仕組んだこの連鎖誘拐システム〈チェーン〉に組み込まれてしまったレイチェルは、無関係の子供の誘拐計画を試みることに……被害者から加害者へと変わってしまった彼女の運命は!?
よくもまあ、こんな設定を考えついたと思う。
あっという間に、下巻に続く。
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癌治療,離婚と最悪の時期を何とか乗り越え,新生活の第一歩を始めようとしたまさにその日,レイチェルに人生最大の悪夢が訪れる。娘が誘拐されたのだ。しかも誘拐犯からの要求は前代未聞のものだった。
誘拐犯が,次の誘拐を要求するという設定がすごく興味深くて読んでみた。普通の人がなりふり構わず,しかし良心の呵責に耐え切れずに苦しみながらも次第に犯罪に手を染めていく過程がものすごくて,でもほとんどの人が「自分もやるかも・・・」と思わざるを得ない。読んでいてしんどくなるうえ,チェーンの黒幕に対するむかつきが半端ないです笑
レイチェルの元夫マーティは悪人ではないんだろうけど頼りなさ半端なくてなんかむかつくし笑
レイチェルも共犯となってしまうピートももちろん犯罪者としては素人?なので,色々失敗や予想外の出来事に見舞われるものの,おおむねは成功して娘のカイリーが返ってくる。
上巻はここまでだけど,娘が無事に帰ってきても終わらないのがこのお話。レイチェルが選んだ被害者は無事に次の誘拐を実行できるのか。
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スピーディでスリルがあり、面白い!
そんなチェーン繋げられるのか、色々と危ういのに、他に道が無いと思わせる切実さが生々しく、力強い。計画の全体像の壮大な底知れなさより前に立つ、操る側と操られる側も地続きな人々のサイズ感。他人事では無い、一枚隔てた、そこにある、この世界。
スカスカのようでがっつり絡み合い逃さぬ一蓮托生の鎖たる様と、全てが繋がるような捉えよう。
普通に生きるためにモンスターになるという事。
続きが楽しみ。
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IRA全盛時代のかなり荒れた時代のアイルランドを舞台にした警察小説でかなり評価された作家なのだけど思ったような儲けが出ないということでUberのドライバーに転身していたというから驚き。大家のドン・ウィンズロウが才能を惜しんで自分のエージェントを紹介して書かせた作品、ということのようで興味津々で手にとってみた。本作の舞台は現代のアメリカでタイトルから想像できるとおり誘拐がテーマ。シングルマザーで癌闘病中の主人公の一人娘が拐われる。解放の条件は身代金を払うことと別の子供を攫って同じように身代金を払わせ別の子供を拐わせること。いわば被害者が加害者を兼ねる形になり苦悩も深まるのだが全体を監視しコントロールしている者はリスクを軽減できる、という話。誘拐のターゲットを見つけたり行動を掴むのにSNSを活用したりパソコンに監視ソフトを埋め込んだりと舞台が現代だけにテクノロジーも駆使されていてなかなか読ませる。全体をコントロールしている真犯人の設定や生い立ちも興味深く描かれている。ところどころ粗いところもあるのだけどそれも含めての魅力かな。面白かった。
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80年代の紛争下の北アイルランドから一転してアメリカに舞台は移り、誘拐犯罪を連鎖させる「チェーン」に絡め取られ心ならずも罪を犯す母親たちは苦悩と奮闘の末に子供を取り戻しはするのだが…
上巻だけで完結した作品になり得る、それほどまでに徹底的に連鎖誘拐の卑劣さを描ききっている。しかし作者はその後を敢えて追及する。下巻では黒幕との対決が待っているのだろうか?
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娘が誘拐される。誘拐犯からの要求は身代金と誰か他の子どもを誘拐すること。そして何より"チェーンを途切れさせないこと"。誘拐された側の緊張感と誘拐する側の緊迫感を読みながら同時に味わう本書、一気に読んでしまいそうなところ勿体ないのと心臓によくないのとで、ちびちび読んでしまった。大御所ミステリ作家の方々の帯の言葉通りです。チェーンを動かしている側をどこまで暴くのか期待しつつ下巻へ。
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ボストンの北東、ニューベリーポートに近いプラムアイランドで少女カイリーがバス停で誘拐された。シングルマザーのレイチェル・クラインは犯人からの要求に驚いた。
1つは、身代金$25,000-、二つ目は、誰かを誘拐し同じ様に身代金と誘拐を指示する事だった。犯人もレイチェルと同様に子供を誘拐され正に今、犯罪ミッションを遂行中で、このミッションは''チェーン''なのだと、、連鎖した誘拐。
物語は、淡々と身代金支払いから誘拐へと駒が進む。途中で警官が現れたり、誘拐目的と違う子供を拉致する場面があるがひたすらに''チェーン''の言いなりで事が進む。展開のテンポが良く飽きさせないどんどん項が進むが、誘拐に向けてのハッキングや武器の準備、警察との遣り合い等、手際がいい。まるでスパイだ。ただの主婦がそんなスキルが有るの? そもそもそれなら組織を潰したらなんて考えながら上巻読了。