紙の本
全八巻のなかで一番長い中世編に突入
2020/04/13 13:22
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヨーロッパでいう中世の前半。イスラームの成立、中国やインド哲学の展開、日本密教など多様な哲学を扱い、相互の関連を重視し論じている。インド思想がメインで取りあげられている一巻。第9章の「インドの形而上学」は、インド哲学を研究者レベルで知っていないと難しいかもしれない。リベラルアーツartes liberalesに一章割かれており、「自由な(liber)」と「書物(liber)」の関係性など、リベラルアーツという知っているようで知らない用語の、一枚岩ではないその歴史を紐解いていく様が読んでいて面白い。
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中国でアリストテレスをシリア語で
2023/01/24 13:18
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
高橋英海によるコラム3から。「今から約一〇〇〇年前に現在の中国領内でアリストテレスの著作がシリア語で読まれていたことが確認されたことになる」。このシリーズに期待したいのはこういうものである。
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第1巻では、似ているところもあるものの、国ごとというか、地域ごとに別々に生まれてきた哲学が、第2巻ではすこし影響しあうところでてくる。第3巻にくると、文化圏間での相互影響関係がさらに高まってくる。
とは言っても、まだまだ哲学は、文化圏ごとにそれぞれの発展の道を歩んでいる感じかな?
この巻では、キリスト教関係の話が面白かったな。とくに、東方教会(ギリシャ正教)の発展が新鮮。なんだろう、ここでは身体性とか、神秘主義的なスピリチュアリティとのつながりが重視されている。この傾向は、カトリック的な世界では、しばしば出てくるものの、異端として弾圧された流れだな〜。
自分のなかに神性があって、それを身体があるから、感じることができるというのは、現代では、分かりやすい方向かな?
あと、ネオ・プラトニズムやグノーシス的なものとも統合されているのが面白いな。
一方、西方でも、スコラ哲学が発達しはじめていて、ここでもプラトンやアリストテレス思想とキリスト教の統合が進んでいる。
天才的というイメージがあるアベラールの展開する議論は、当時の最先端なのだが、彼が読むことができたアリストテレスは、「カテゴリー論」など、「論理学」的な著作が中心であった。その後、西方世界にやってきた「形而上学」の議論はしらなかった。このため、アベラールの議論は、限界があったとのこと。
そうか〜、アリストテレスの考えたことって、ほんと数世紀あるいは、10世紀くらい先を行っていたということなわけですね。
プラトンやアリストテレスなど、ギリシア哲学の水準のレベルの高さに改めて、驚く。
あと、面白かったのは、中国における儒教と老子などの思想の統合、さらには、仏教徒との関係とか、とてもスリリング。
そして、中国経由の儒教や仏教が日本にどういう影響を与えたのか、そして、空海という人がの思想の深さがほんと衝撃。
空海は、当時、ほんと世界的水準で、「世界哲学」の先端だな〜。
第4巻では、世界の資本主義システムとしての統合が進み始めてくるので、哲学の文化圏間での影響がさらに進んでくるはず。楽しみ。
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世界哲学史の3巻は「中世Ⅰ超越と普遍に向けて」のサブタイトルが付されている。全部で10章の構成。コラムが4つ。
最初に「超越と普遍について」が手際よく概説されている。中世が古代に付け加えたものの1つが「超越」という論点であった。また「超越と往還は一体の問題なのである」(p.20)と指摘され、「極言すれば、中世において、人間は「旅人(viator)」であった」(同上)。そして、「人間が旅する者(viator)」であったことは、中世という文明の基本的ありかたを示している」(p.24)。
同じく普遍について。中世という時代は、実体論を残しつつも、関係性や流動性を重んじ、聖霊が伝達の原理として中心的な位置を持った。これについては第4章「存在の問題と中世論理学」で詳細に論じられている。かの『アベラールとエロイーズ』を見よ。中世においてメディアとしての聖霊主義は、「終末論的な歴史観、現実の教会批判、貨幣価値をめぐる変更を引き起こす、社会変革を引き起こしうる思想群となった」。アリストテレスの交換の正義、分配の正義、貨幣の問題は第7章の「ギリシャ哲学の伝統と継承」における『ニコマコス倫理学』の註解書を論じた箇所で詳説されている。
第5章「自由学芸と文法学」はとても重要な章だ。結論だけ抜き書きしておく。「ともあれ、こうして、他の言語によって蓄積された文化や学問を吸収し、自らの活動のうちへ取り込む手段としても発展していった文法学は、やがてヨーロッパ外の文化を自らの枠組みで翻訳・再構築する世界的な文法学化の母体を提供する」(p.124)。さらに現代思想とのつながりでジョルジョ・アガンベンの思想も取り上げられている。
イスラームやインド、仏教・道教・儒教などの話はなかなか難しくて理解できない部分も多々あったが、最終の第10章は空海の世界哲学的スーパースターぶりが縦横に描かれていて大変面白く読んだ。密教、最高!と思わず叫ばずにはいられないスリリングな章となっている。本巻の掉尾を飾るに相応しい章であった。
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初めて知ることが多い。しかし、それらの知識が私の既存の知識に的確に布置されていっていることも感じながらの読書であった。博識は力である。井の中の蛙となって、自らの世界だけが一番と思ってはいけない。特に思想・哲学では。
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テーマは普遍と超越
イスラームのところが興味深い内容だった。ISが悪さをしているとき、イスラームの宗教的指導者がもうちょっと役割を果たせばいいのにと思ったことがあるが、どうもそういうもんじゃないらしい。カトリックのように異端を簡単に決められないみたい。そもそもムハンマドも自分は普通の人と言っているしなと思ったりした。故・井筒俊彦の本をすこし読んだときは、イスラームってキリスト教よりわかりやすいかも?と思ったが、この本を見ると、イマーム(指導者)が死後に再来するとかいう説もあるようで、やっぱりなんか一神教だよねとか思った。コーランは経典じゃなくて、「啓典」って書くのかとか、読んでいて面白かった。
ヨーロッパの自由学芸のところに、教養のことが書いてあったり、論理学や注釈の歴史がまとめてあったりと、このあたりはたいへんな労力だろうと思う。
中国の神滅不滅論争や、ヨーロッパの普遍論争などをみていると。中世ってなんか「論理の時代」じゃないかなと思う。
インドの形而上学のところは、面白い記述はあるが明晰さに欠ける。ちょっと悪文じゃないかと思う。
空海の部分も面白いが、唐の道教・仏教をもう少し言及してくれるといいと思う。儒教を密教でつつみこむという発想じたいが、三教合一思想にさかのぼるんじゃないかなと思ったりする。
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世界哲学は中世に突入した。副題に『超越と普遍に向けて』とあるが、主役は西洋ではなく東洋である。
東洋哲学は500年から1000年、西洋哲学を先行していると言っても過言ではない。インドでは6世紀にはバラモン教と仏教の間で普遍論争が繰り広げられる。また、日本では空海がソシュールの言語論を先取りし、それを超越しようという壮大な試みをしていたことが語られる。
8章から10章の東洋哲学史だけでも一読の価値がある。ただ、インド哲学史が難解で、読者が置いてけぼりにされることは必至だ。
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第1章 普遍と超越への知
第2章 東方神学の系譜
第3章 教父哲学と修道院
第4章 存在の問題と中世論理学
第5章 自由学芸と文法学
第6章 イスラームにおける正統と異端
第7章 ギリシア哲学の伝統と継承
第8章 仏教・道教・儒教
第9章 インドの形而上学
第10章 日本密教の世界観
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中世Ⅰ
古代で3つの枢軸であった3つの文化がついにユーラシア大陸の両端に達するのが中世である
冒頭に世界哲学史として、中世の特徴を俯瞰する
①民族の大規模な移動と侵入が世界を動かした時代(旅人の時代といっている)
②古典を形成するのではなく、古典を継承し、それに対する註解を蓄積する時代。
③思想の伝達と交換をする時代
④神と人間の対立⇒神の人間からの超越
ギリシア文化⇒ローマへ⇒(アカデミア→修道院、学校へ)西欧へ
⇒東方(ビサンチン)へ:コンスタンチノープル、東欧へ
⇒イスラム世界へ(シリア語→アラビア語)⇒再びヨーロッパへ
インド文化(仏教)⇒中国⇒日本へ
西洋思想というものは、とっつきがわるい、イメージがわかない、仏教や儒教はそれよりはまし。
気になったことは以下です。
・文化の伝播は民族や習慣ではなく、翻訳である。
・西欧における哲学とはアリストテレスが中心であり、ギリシア語からシリア語、アラビア語に訳されて、再びスペインのトレドで、ラテン語に翻訳されたものが西欧全体にひろがった。
・アリストテレスの著書に膨大な註解がつけられて、伝播していく。
・ビサンツに伝わった、キリスト教、ビサンツ正教が東方正教の中で、母体となって、ロシア、ルーマニア、ギリシアなどの伝播していく
・東欧は、制度としては、ローマ帝国を継承したのだが、文化としては、古代ギリシア、キリスト教を基盤として作られた
・受肉した神、イエス 前者では、血を滴るようにして苦しむイエスが、後者では栄光のイエスとして描写される
・ビサンツ正教が生んだ、特異な書物「フィロカリア」 修道生活の指南書がヨーロッパ全体に広がっていく。
・中世の2つの論理学、アリストテレスの古代ローマから継承されたものと、アラビア経由で再輸入されたもの、旧論理学(カテゴリー論)と新論理学(分析)とあるが、その明確な差異はよんでもわかりませんでした。
・ローマ法:ユスティニアヌス法典:は、スコラ学が援用されて、現在もヨーロッパ法の原点となっている。ゲルマン部族の侵入においても、異民族はローマ法を守ったのである。
・リベラルアーツ(自由学芸)がでてくるが、単なる教養ではなさそうだ。正しく話すこと、文法学の再構築などの言があるも、イメージがつかめなかった。
・イスラームの思想史、12イマーム派、シーア派、スンナ派。イスラームの宗教的な特徴は、宗教的な権威を一手に握る個人や組織が存在しないことである。時間が経るにつれて、イスラームにも、異端と正統が問題となる。啓典クルアーンの他に啓典の母というテクストがある。
・イスラームのペルシア派がギリシア哲学をイスラーム世界に取り込んだ。
・ギリシア哲学の伝統と継承では、註解書のスタイルを論ずる。註解書がもたらしたものは、既存概念の説明とともに、新しい概念を生み出す場でもあった。
・儒教には、仏教のいう、輪廻転生という概念がなく、死後の世界をめぐって、神滅不滅論争を引き起こしてしまう。仏教は、一切衆生悉有仏という生けとし、生けるものは、仏性をもつという如来蔵思想により不滅とする。
・仏教は、中華思想のように、1つの世界に固執しない。仏教の世界感を三千世界という
・インドにおける仏教、バラモン教、存在論の話があったが、各章、各段落の結論がわからなかった。残念
・日本の密教について、空海を中心に展開する。
・平安初期は、実力があれば、官僚にもなれ、遣唐使にも参加できた。空海の時代とはそのような空気の時代であった。
・空海の登場は、律令制=儒教が中心であった朝廷を、東アジアでもっともはやく仏教中心になるまでのインパクトがあった。
・空海の知られざる業績、それは、「文鏡秘府論」という音韻論、修辞法などのあらゆる詩論を網羅した漢文のテキストを残したことだ。松尾芭蕉も愛用したとある。
・空海は、さまざまな業績を残したもかかわらず、世俗を捨て、山野での修行をえらんだ。「家もなく国もなし、郷属を離れたり、子にあらず、臣にあらず」。これには官吏には理解されなかったようだ。
目次は以下の通りです。
はじめに
第1章 普遍と超越への知
1 中世という時代
2 超越ということ
3 普遍という視座
第2章 東方神学の系譜
1 ビサンツ帝国における哲学と神学の位置づけ
2 グレゴリオス・パラマスにおける身体へのまなざし
3 ビザンツ正教のその後と『フィロカリア』
第3章 教父哲学と修道院
1 教父たちと修道生活
2 アンセルムスの神学と哲学
3 11世紀から12世紀へ
第4章 存在の問題と中世論理学
1 はじめに
2 中世論理学のラフ・スケッチ
3 ボエティウス カモメの皮を被ったタカ?
4 アベラール 中世哲学の狼
第5章 自由学芸と文法学
1 複数の自由学芸(リベラルアーツ)
2 文法学と註解の伝統
第6章 イスラームにおける正義と異端
1 はじめに
2 イスマーイール派の起源
3 極端派と創世神話
4 10~11世紀における教義修正
5 おわりに
第7章 ギリシア哲学の伝統と継承
1 註解書というスタイル
2 ギリシア哲学の伝統と継承
3 おわりに 註解の営みの意義
第8章 仏教・道教・儒教
1 言語
2 精神、霊魂
3 孝
第9章 インドの形而上学
1 認識論的回転以後の論争史
2 実在をめぐる問い
3 認識論
第10章日本密教の世界観
1 はじめに 寓話から哲学史へ
2 空海の生きた時代と社会
3 文章経国的「正名」の理論と空海の密教的世界観
4 空海の密教的言語論の世界
5 まとめ 天皇の王権と真言化する
あとがき
編・執筆者紹介
年表
人名索引
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■細目次
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・「哲学史」は、これまで西洋、つまりギリシア・ローマから現代のヨーロッパと北アメリカまでの範囲だけを対象とし、そこから外れる地域や伝統を枠外に置いてきた。つまり「哲学(フィロソフィー)」は西洋哲学を指すと理解され、インドや中国やイスラームといった有力な哲学の諸伝統も「思想」という名で区別されてきた。それ以外の地域、例えば、ラテン・アメリカ、ロシア、アフリカ、東南アジア、日本などが考慮されることはほとんどなかった。
しかし、現在私たちが生きる世界は西洋文明の枠を超え、多様な価値観や伝統が交錯しつつ一体をなす新たな時代を迎えている。今日、環境や宇宙の問題など、地球さえ超える規模の発想が必要となっている。あらためて「世界」という視野から哲学の歴史を眺めると、古代文明における諸哲学の誕生、世界帝国の発展と諸伝統の形成、近代社会と近代科学の成立、世界の一体化と紛争をへて、さらにその後へという流れが見えてくる。私たちはその大きな「世界」のうちで生きている。