人と文化と文字との関係
2023/03/17 20:08
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投稿者:719h - この投稿者のレビュー一覧を見る
「文字と組織の世界史」の著者が
その内容を圧縮して書いたような本です。
どれほどの独創性があるのか分からない
五大文字圏を提示するところ迄ヮ、まあ
いいとして、その文字の字形や書字方向と、
その字が用いられる文化との間に、如何なる
関係性があるのか、をもっと突っ込んで議論
してもらいたかったです。
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
前段の「文明」概念と「文化」概念の整理と識別のあたりは「なるほど、うんうん」と感じながら読ませて頂いたが、著者の分析枠組み(カテゴライズ)である「現今の五大文字圏としての五大文化圏」=「ラテン文字圏としての西欧キリスト教圏、ギリシア・キリル文字圏としての東欧正教圏、アラビア文字圏としてのイスラム圏、梵字圏としての南アジア・東南アジア・ヒンドゥー・仏教圏、そして漢字圏としての東アジア・儒教・仏教圏」(17頁)の提示はよいとして、それ以降の各圏における文明・文化の進展と伝播、相互干渉などの諸相の描写や当てはめの記述は、事項の羅列レベルに終始しており散漫で退屈。(例えば、諸言語の言語学的な構造なり特性なりが、対応する諸文明・文化と一定の内在的な関係にあるとかいうなら別ですが、そういう建付けでもないので・・・。五大文字圏=五大文化圏の設定自体はいいのですが、だからどうなの・・・という感じです。)一応、幾つか頷いた点をメモしておきますと:
「日本政治思想史の巨匠丸山眞男先生が日本の思想の持続低音とされた「成る世界」も、じつは、漢字世界の辺境の日本では、アニミズム的世界観が清算されていないところへ、先進地域から仏教・儒教がつぎつぎに伝播したが、アニミズム的自然観が残りつづけたことを指しているのではなかろうか。このアニミズム的自然観は、「さざれ石の巌となりて」の我が国歌「君が代」にも端的に表れている」(79頁)。
「そもそも、我々が「科学」と呼んでいる「近代科学」を生み出した西欧世界においても、「超自然的世界」と神の存在は、根本的な命題であった。・・・ この前提に立てば、物理法則が成り立つのも神の御意思次第との説となり、・・・ しかし、・・・ そのようななかで、唯一絶対で天地を創造した神の存在は前提としながら、神がひとたび天地を創造した後は、この地上の自然的世界の秩序には干渉なさらないであろうという「理神論」が現れる。自然現象についての法則が成り立つか否かもすべて神の御意思というような考えに対抗するようになった。」(84頁)
「明治日本で、「近代」法典編纂が比較的速やかに進んだのは、日本の伝統法が、宗教的戒律とまったく関係をもたなかったことが大きかったと思われる」(172~3頁)。
「今日、「芸術は、国家も民族も超える」などといわれるが、それはこの近代西欧ベースのグローバル文化が形成されてきたからなのである。もし形成されていなければ、とりわけインターナショナルだとされる音楽でさえ、そうはいかなかったであろう」(174~5頁)。
「文化の刻印を帯びた個別文明、さらにはそのなかの諸社会の存続にとって、内的な凝集力とそれを実現しうる文化的同化力の強さは、決定的な重要性を有している」(209頁、凝集力と同化力に富む閉鎖空間型(空間固定型)文明(ex. 中国、インド、エジプト)vs. 機動力と瞬発力に富む開放空間型(空間拡張型)文明(ex. メソポタミア、ローマ帝国)という整理がなされている)。
なお、著者の前著として『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』があり、評者も購入済みだったのですが、引越しの荷物に紛れてしまい未だ出てこないため、本書をまず読んでみた次第です。両方読むと、また印象が変わるかもしれませんので、以上は暫定レビューということで。
文字圏から見る文明論とは?
2023/05/13 13:57
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界をラテン文字圏、ギリシャ・キリル文字圏、アラビア文字圏、梵字圏、漢字圏に分けて考えるという観点は面白いと思ったがあんまり本文では文字そのものについては関係なかったように感じた。
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文字からの文明というタイトルですが、なかなか幅広く眺めて書かれています。
1番心に残ったワードは「行け行けどんどん」でした。
こう、著者が歩いてきた時代背景がうかがえて、フフッてなります。
内容の深いところは、私には難しかった!噛みごたえがありました。
「文明」…科学・技術。都市と社会の秩序。
「文化」…人間が集団の成員として、後天的に習得し共有する、行動の仕方、ものの考え方、ものの感じ方の「くせ」とその所産の総体。
「人種」…生物学的な概念
「民族」…文化的な概念
音声の可視化 → 文字言語
楔形文字世界
・ラテン文字世界
・ギリシア・キリル文字世界
・梵字世界
・漢字 … 四大文字中、甲骨文字以来、本来の姿で用いられている唯一の文字
広大な地域で用いられる文字は、共通語としての文化語の性格をおびる。
大文字圏、大文化圏の形成。
言葉を持つ → 「個々の経験知」から知の体系としての「体系知」を創り出す。
宗教と科学
太古、宗教は科学だった。
『易経』『占星術』
「自然的世界」 → 科学
「超自然的世界」 → 宗教
…かつては渾然一体としていた。
ギリシア・アラビア・近代科学
アラビア数字 0の概念
錬金術→化学の萌芽
宗教から科学の分離
…宗教は「意味」と「救い」を与えるものに変貌したのではないか。
「なぜ」を問う哲学は、宗教から見下されていた。
哲学が宗教に取って代わり、世界は狭くなり、哲学も学問の発展により、領域が狭められているのではないか。
家族の在り方の国による違い
中国・西洋…「血統の貴さ」
日本…「家門の誉」
日本の家→労働組織(柳田国男)
住まいの形…遊牧民・狩猟民・定住民
城壁
遊牧民…水に乏しく、なかなか洗髪出来ない→髪型に工夫→無帽は失礼であるという風習。
食のマナー、食の禁忌
唐辛子…新大陸産→日本→韓国(当初、害するために送り込まれた。と思われていた。唐辛子以前のキムチは甘い)→沖縄(コーレ・グース高麗草)
グローバリゼーション第二段階…大航海時代
「音楽は国境も民族も越える」
→音の世界で、グローバルモデルとして、近大西欧モデルの需要
→異文化圏との接触の中で西欧人の耳も異文化の音を捉える
→共有する音の世界の拡大
同化力↔多様性
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高校の世界史を思い出しながら読んだ。高校で習う以上の知見には乏しいが、知識の再整理と、著者がオスマン帝国の研究者である為、イスラム文字圏にやや突っ込んだ著述が見られる。自分にイスラム理解が乏しい事、日本の学校教育にイスラムへの視点が乏しい事も言えるが。
世界史の副読本として、高校生にオススメ。
くまざわ書店阿倍野店にて購入。
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-2020/09/11
新聞記事に引用されていたのでネット購入した。内容は、比較人類史の視点からの文明論。だが、「新書」は素養がなければ読み進められない。辛かった。▶︎惹かれたのは数カ所だった。①グリム童話が恐怖を題材にしているわけ。②日本に明治以前に肉食文化が広まらなかったわけ。③メキシコ原種のチワワが小さいわけ。
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トピック毎にそれぞれの文字世界の事を紹介するので忙しい印象もあった。目がすべる所があるのは私の素養が足りないだけか。
第七章の閉鎖空間と内的凝集力・同化力、開放空間と機動力・瞬発力、核、といったワードが興味深かった。
「多様性の社会というものは、たしかに文化的に異なるバック・グラウンドをもつ人びとが、各々の特色を生かして、イノヴェーションを生み出しうるかもしれない。しかし、そのような社会が内的凝集力を保つことはなかなかに困難であり、統合の維持に要するコストは、少なからぬものがある(p235)」
「努めるべきは文明の行き過ぎとその不都合な諸結果を防止し、生じたときにはこれに迅速的確に対処するフィードバックシステムを創り出していくこと…前例のない試みであるから、…創造的イノヴェーションを工夫することが、必須…(p251)」
フィードバックすなわち「民主主義」が「正常」に機能すること(p12)
民主主義によるフィードバックと創造的イノヴェーション、簡単なことではないけど忘れないようにしたい。
今や滅びて謎を残す楔形文字やインダス文明は、今後研究が進むのが楽しみ。
第二章 ことばと文字、第四章 文明としての組織 文化としての組織、第五章 衣食住の比較文化 は入りやすかった。
行け行けドンドンは言葉としての印象が強くて邪魔だった…。
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現在の世界を五つの文字世界に分ける。
そして、それをそれぞれの圏内を文明と文化の二つの位相に分ける。
これが本書の基本的な分析の枠組みだ。
知を体系化する方法としての宗教と学問が、それぞれの文字圏でどう立ち現れてくるか。
これが文化のハードの側面とすれば、ソフトの側面として組織を取り上げ、家・企業・国家の権力の継承の機構を具体例に分析する。
衣食住の生活文化の分析がそのあとに続く。
最後のパートは近現代のグローバリゼーションと文化交流を整理し、「文明」が生き延びるにはどうすべきかを提言する。
取り上げられているそれぞれの文化・文明の具体例については、もうちょっと詳しく読みたいと思う個所もある。
それぞれの分野で詳しい人からすれば正確さに欠けるところもあるのかもしれない。
しかし、この本は、最近の新書としてとても貴重な一冊ではないかと思う。
少なくとも、最初に分析の枠組みが提示され、その見取り図の中できちんと論が展開される、構造が非常にしっかり見える本だ。
グローバル・スタンダードとなった西欧文化の伝播例として、近代小説が取り上げられたところが面白かった。
ロシア以外で比較的早く受容された文化圏として、トルコがあるというのだ。
フランス語に堪能なエリート層がいたためらしい。
そこは、オスマン朝研究の第一人者だった著者ならではのところかもしれない。
時期的にはーいや、日本の小説受容の時期とそれほど違わないのでは?とも思うが、長編の物語の伝統がない国で、日本より早くフランスで試みられている手法が取り入れられていたという指摘が新鮮だった。
結論はー穏当というか、何というべきか。
筆者は文明の未来を割と楽観的にとらえようとしているが、最後の方で指摘される多文化共生の多大なコストのわりにイノベーションに結びつかないことを見ると、むしろちょっと悲観的になってしまう。
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テーマと帯に惹かれた一冊。
プロローグから二章までの筆者の論理展開に知性を感じた。最終章の読み応えも十分。
しかし、「文字世界で読む文明論」というタイトルに少し負けている感も否めなかった。
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私自身あまり歴史が得意ではないことが理由の一つかもしれないが、内容が書名に負けているように感じた。
「文字世界で読む」と書いてあるが、内容的に文字圏≒文化圏ぐらいの扱いで、淡々と文明と文化の歴史が紹介されていて目新しさがなかった。