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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治時代に「刺青」でデビューした谷崎は推薦した永井荷風が言うように、デビュー当時から「完成」していた。しかし文学史的には後の昭和の時代に入ってから作風が大きく変わり、『吉野葛』『細雪』など日本的な美という作風に至って文壇の大家となったとされる。本書に収録されている作品はこの両者の間、作風としては試行錯誤を繰り返しながら、後の作品にも受け継がれる芽のようなものが出ている。あまりほかの本に収録されていない作品も多く、面白かった。
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投稿者:狂人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文庫にしたら高価ではありますが、納得の内容。金色の死が入ってる文庫はあまりないですし、乱歩のパノラマ島奇譚に影響を与えたとのことで読んで見たかったので。あとの作品も素晴らしい。人面疽は個人的に好きなテイスト。小さな王国みたいなアイロニックな作品もニヤッとできるし、母を恋うる記の表現力は、美しくも寂しくて涙しました。いろんなかおの谷崎を味わえる文庫でおすすめです。
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投稿者:によ - この投稿者のレビュー一覧を見る
文章に手を引かれるままに心地よく身を委ねていれば、あとはそこに書かれている言葉がどんどん頭に身体に流れるように入ってきて、とても気持ちが良い。
これが美しい文章ってものなのだなぁと満たされる、この感じが谷崎潤一郎の素晴らしさなのかな。
これもまたとても好みの1冊だった。
「金色の死」は、乱歩の「パノラマ島綺譚」に影響を与えた…と知っていても驚くほど「パノラマ島綺譚」原案という感じだった。だけど、やっぱり印象が違って「パノラマ島綺譚」は息が止まって目がチカチカしそうな気がしたけども、「金色の死」は初めて訪れる不可思議で珍妙な場所を手を引かれて散歩しているような感触。
(どっちも大好きだから、単純に文章の空気が違うってことなんだろう。)
怪奇小説の冷やりとした空気も美しい「人面疽」、何度読んでもどきどきする犯罪小説「途上」がやっぱり好みだけど、「富美子の足」「青い花」も美しくてうっとりしてくる。「小さな王国」も酷いラストでとても良かった。
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谷崎潤一郎が、こんな幻想的怪奇的な趣の作品を書いてたということが、この短編集を読んだ最大の発見だ。
人格が抹消された非人称的・匿名的な"何か"、或いはそれに触媒されて自我が溶解・侵犯されてしまうことへの憧憬と恐怖が、様々な意匠を通して繰り返し語られているように感じた。
「青い花」
男が抱く女体・女性装への物神崇拝の心理をみごとに表現した傑作。十年前に以下の文章に出会っていたら、狂喜乱舞して谷崎信奉者になっていただろう。
"………じっと見ていると、岡田にはそれが手だとは思えなくなって来る。………白昼――銀座の往来で、この十八の少女の裸体の一部、――手だけが此処にむき出されているのだが、………肩のところもああなって居る、胴のところも………腹のところもああなって居る、………臀、………足、………それらが一つ一つ恐ろしくハッキリ浮かんできて奇妙な這うような形をする。"
"今日はその彫像をいろいろの宝石や鎖や絹で飾ってやるのだ。彼女の肌からあの不似合な、不格好な和服を剥ぎ取って、一旦ムキ出しの「女」にして、それのあらゆる部分々々の屈曲に、輝きを与え、厚みを加え、生き生きとした波を打たせ、むっくりとした凹凸を作らせ、手頸、足頸、襟頸、――頸という頸をしなやかに際立たせるべく、洋服を着せてやるのだ。"
"靴屋の店、帽子屋の店、宝石商、雑貨商、毛皮屋、織物屋、………金さえ出せばそれらの店の品物がどれでも彼女の白い肌にぴったり纏わる、しなやかな四肢に絡まり、彼女の肉体の一部となる。――西洋の女の衣装は「着る物」ではない。皮膚の上層へもう一と重被さる第二の皮膚だ。外から体を包むのではなく、直接皮膚へべったりと滲み込む文身の一種だ。――そう思って眺める時、到る処の飾り窓にあるものがみなあぐりの皮膚の一と片、肌の斑点、血のしたたりであるとも見える。彼女は其れらの品物の中から自分の好きな皮膚を買って、それを彼女の皮膚に貼り付ければよい。若しもお前が翡翠の耳環を買うとすれば、お前はお前の耳朶に美しい緑の吹き出物が出来たと思え。あの毛皮屋の店頭にある、栗鼠の外套を着るとすれば、お前は毛なみがびろうどのようにつやつやし一匹の獣になったと思え。あの雑貨店に吊るしてある靴下を求めるなら、お前がそれを穿いた時からお前の足には絹の切れ地の皮が出来て、それへお前の暖かい血が通う。エナメルの沓を穿くとすればお前の踵の軟かい肉は漆になってピカピカ光る。可愛いあぐりよ! あそこにあるものはみんなお前という「女」の彫像へ当て嵌めて作られたお前自身の抜け殻だ、お前の原型の部分々々だ。青い抜け殻でも、紫のでも、紅いのでも、あれはお前の体から剥がした皮だ、「お前」を彼処で売って居るのだ、彼処でお前の抜け殻がお前の魂を待って居るのだ、・・・・・・。"
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文章に手を引かれるままに心地よく身を委ねていれば、あとはそこに書かれている言葉がどんどん頭に身体に流れるように入ってきて、とても気持ちが良い。
これが美しい文章ってものなのだなぁと満たされる、この感じが谷崎潤一郎の素晴らしさなのかな。
これもまたとても好みの1冊だった。
「金色の死」は、乱歩の「パノラマ島綺譚」に影響を与えた…と知っていても驚くほど「パノラマ島綺譚」原案という感じだった。だけど、やっぱり印象が違って「パノラマ島綺譚」は息が止まって目がチカチカしそうな気がしたけども、「金色の死」は初めて訪れる不可思議で珍妙な場所を手を引かれて散歩しているような感触。
(どっちも大好きだから、単純に文章の空気が違うってことなんだろう。)
怪奇小説の冷やりとした空気も美しい「人面疽」、何度読んでもどきどきする犯罪小説「途上」がやっぱり好みだけど、「富美子の足」「青い花」も美しくてうっとりしてくる。「小さな王国」も酷いラストでとても良かった。
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7篇収録の短篇集。
「金色の死」は江戸川乱歩の「パノラマ島綺譚」に似ているなと思った。実は逆で、江戸川乱歩が「金色の死」に影響を受けて「パノラマ島綺譚」を書いたとのこと。理想の美を具現化すると気味が悪い。私はディズニ―ランドにも同様の気味の悪さを感じていて自分がおかしいのかと思っていたが、解説ではずばりその点について指摘されていて安心した。ディズニ―ランド大好きな人が多いのであまり大きな声では言えないけれど。
「富美子の足」の足フェチぶりはおもしろい。富美子の足の素晴らしさについて滔々と語られる。そんなに良いのか、足が。
「小さな王国」は世にも奇妙な物語的で印象に残る。謎の転校生が学校内でリーダーとして頭角をあらわし、ついには教師までもその配下におさめてしまうまでの過程。
谷崎潤一郎の作品を読むのは今回が初めて。「細雪」「痴人の愛」「春琴抄」などの有名な作品も読んでみたいと思った。
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「金色の死」「人面そ」「小さな王国」「母を恋うる記」「富美子の足」「途上」「青い花」。
谷崎の大正期の短編集。
「金色の死」は、江戸川乱歩に「パノラマ島奇談」を書かせたという。芸術にとりつかれたような「岡村君」の結末は、とても彼らしい気がする。
どの作品も読んで損はないが、個人的には「途上」がよかった。探偵もの。この短さで濃い雰囲気、詰め寄り。
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収録されている「途上」が読みたかったので。
推理小説の部類だろうけど、谷崎らしさがそこかしこに表れているのは何とも言えない。
湯河が「夫の言うことを疑わない病弱で従順な前妻」よりも「派手な装いが似合う、ねだり上手な20歳そこそこの後妻」が好きなあたりが、特にタニザキ作品の登場人物っぽさを感じた。
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これを読み、僕の中では谷崎潤一郎と江戸川乱歩がつながった。怪奇趣味、倒錯趣味、陶酔主義。どちらもいいね!
「金色の死」:破滅的美意識。
「人面疽」:幻惑的不条理。
「小さな王国」:服従の陶酔。
「母を恋うる記」:孤独な追憶。
「富美子の足」:フェチズムの虜。
「途上」:不可解なまでの心理的追及。
「青い花」:少女に搾り取られる精気。
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金色の死―谷崎潤一郎大正期短篇集
(和書)2010年02月10日 22:49
2005 講談社 谷崎 潤一郎
良い短篇集だった。以前に読んだことがあるのが何作かあった。
「小さな王国」は柄谷行人「日本精神分析」に入っていてそこで読んだことがある。
「金色の死」は印象深い作品だった。
それぞれ良い作品で、はずれがなく楽しめた。
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小さな王国 読了
沼倉を中心として学級が社会主義的な構造になっていく様が、異様でありながら興味が湧いてくるそんな気分で読んでしまった
谷崎潤一郎のイメージとはちょっと違う作風だけど、これはこれでなかなか…
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解説によると、新しい思想、文化の出現、私生活での千代夫人をめぐるトラブルなど、谷崎にとって大正期(関東大震災まで)は試行錯誤の時期だった。
理想の芸術の実現を目指す「金色の死」、撮った覚えのない映画にまつわる「人面疽」、学級を支配する生徒についての政治的な「小さな王国」、6ページに及ぶ足の描写にあっけにとられる美脚賛歌「富美子の足」、探偵との会話によって次第に真相が明らかになる「途上」など、いろいろなタイプの作品が収録されているが、どれも後の作品に通じる要素を含んでいる。(一見まじめに思える人物が、急に変貌する(正体を現す)というのもそのひとつ)
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•金色の死
•母を恋ふる記
は、⭐️⭐️⭐️
その他は、作品としては面白いけど、好みという観点からはちょっと外れる感じ
残念