紙の本
人気作品の「レギオナルクリミ」Regionalkrimi
2021/11/22 12:30
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
『咆哮』に続く、アンドレアス・フェーアのヴァルナー&クロイトナー・シリーズの第2作。
あるカード会社の会報誌にドイツのKrimi(ミステリー)の特集記事があったが、今「レギオナルクリミ」Regionalkrimi、「その地域とそこに住む人々の文化など特異さを活かし、そこに描かれている世界を身近に感じることが出来る」いわば「ご当地」ミステリーが人気なのだそうだ。さしずめ日本の「信濃のコロンボ」「さすらい署長」シリーズの独版。このアンドレアス・フェーアのヴァルナー&クロイトナー・シリーズ、また10月に第9作も登場した、同じ酒寄氏によるドイツミステリの女王ノイハウスのオリヴァー&ピアのシリーズは、いずれもミュンヘン・フランクフルトといったベルリンではない地方が舞台であり、このRegionalkrimiの人気作品と言えるだろう。後半バイエルン地方の山を舞台にする追跡劇の描写があるが、登場する山谷は地元住民がいったこともある馴染みのあるところだろう。聖地になってミステリーツアーも始まりそうだ。
主要な登場人物・場所などは変わらないのだが、第2作は前作と違って雰囲気が変わったような気がする。「ゆるさ」が目立つのである。巻末の解説で納得したが、フェーアにはリーガルサスペンス「弁護士アイゼンベルク」もあるが、コインの表裏の関係で、一方はシリアス、片方はコミカルという形で作者自身の精神的なバランスシートにしているのだ。そしてヴァルナー&クロイトナーのコンビは、「ゆるい」「コミカル」さが際立つのである。
「バディ」らしさ演出でヴァルナー&クロイトナーがともに動く場面も増えた。前作に続き、クロイトナーが事件現場に、しかもワル仲間が殺されるのを目撃するというのは、前作で死体の第一発見者になるというはるかに偶然すぎる設定。何よりも事件解決のカギとなる被害者の死体を「霊媒師」のお告げに従って、しかもクロイトナーが発見する、ということ自体ミステリーの設定としてはあまりにも「ゆるい」。
このシリーズで、エピソード的に挿入される2つの物語、クロイトナーと研修生の話、そしてヴァルナ―の祖父の話も用意されている。クロイトナーのバディ、前作シャルタウアー君は研修を終え巡査として勤務、新しい研修生ホル君が登場するが、「粘着質」の彼は溜口で口答えする。前作同様ボケと突っ込み漫才は健在。ヴァルナーの祖父は意気軒昂で女好きの癖は変わらず。そのヴァルナーは、祖父の血を受け継いだか、恋多き中年新しい恋人ヴェーラとの紆余曲折のラブロマンス。前作最後ではいい関係になりそうな女性メアリーとの関係はどうなったのか。
出版社は第1作を「インテリジェントな事件、ブラック・ユーモアと典型的なバイエルン地方色」の警察小説と紹介しているが、前作の謎解きのような難しい事件に比べると、地方都市のごく狭い世界の知り合いの間の事件で、「インテリジェント」なところはあまり感じられず、「ブラック・ユーモア」満載の第2作である。
巻末に現在第9作まで出ているシリーズの紹介があるが、時空を超えて、過去にも戻り、ヴァルナー&クロイトナーのプロファイル、そしてコンビの始まりなどの秘話も展開されそうだ。酒寄氏は第5作まで読破したようなので今後もシリーズが続きそうだが、休止(中断?)中のゲレオン・ラートとリヒャルト・オッペンハイマーの両シリーズが気になる。同じ警察小説でも2作の「ベルリン」シリーズは、内容は「シリアス」で、また実在の歴史上の著名人も登場するなど歴史・時代考証もあり、訳すのも大変なように思える。しかし「シリアス」と「コミカル」のバランスを取りつつ是非続編を期待したい。
投稿元:
レビューを見る
ヴァルナー! そして、クロイトナー!
またあなたたちに会えて嬉しい。
ヴァルナーは、相変わらずおじいさんに振り回されて、クロイトナーは、さすが、死体発見機能が冴えている。
ヴァルナー、クロイトナー、ミースバッハ署の皆が元気そうでなによりだ。
ミステリーのタイトルに『羊の頭』とは、なんとも、物騒な言葉である。
血まみれの現場に羊の頭が転がっていそうな、犯人が羊の頭を常食していそうな、そんな絵柄が浮かんでくるが・・・・・・なんということはない、『羊の頭 Schafkopf』とは、カードゲームの名前なのだ。
トランプに似た、バイエルン地方独特のカードである。
食堂に集まった男達が、金とプライドをかけて熱を上げていったこのゲームが、物語の始まりだった。
誰かが勝って、誰かが負けた。
その結果が、転がっていくのだ。
事件は、色々な出来事が複雑にからまった結果だ。
運の悪い者、性根の悪い者、そこまで悪くはない者、様々な人物が関係する。
その上、過去の話、現在の話が細々とあって、ややこしい。
捜査をするヴァルナーたちもたいへんだろうが、読むほうもかなり頭を使う。
最低限、人名のメモはとったほうがいい。
もちろん、人物紹介はあるけれども、それでも、誰と誰が友達で、誰が恋人で、家族なのか、誰が死んで、誰が生きているのか、自分で把握できるために書き留めたほうがよいと思う。
面倒だろうが、その甲斐はある。
この物語は、文句なくおもしろいからだ。
なにせアンドレアス・フェーアは、あほみたいに滑稽に、残酷なことを書くのがうまい。
たとえば、ある山祭りで大惨事があったのだが、その描写がなんともおかしいのだ。
居合わせて目撃したら、確実にトラウマになっただろうが、彼の手にかかると、それが、どうにも笑いのこみあげる滑稽話になる。
時々誰かが――主にミーケが吐く悪態や悪口でさえ、創造性に富んでいて、おかしい。
『「たまねぎがたっぷりの肉の煮込みを食ったあとの義理のおやじの糞みたいに臭い」』(171頁)
『「おい、すぐに本当のことをいえ。・・・・・・さもないと刑務所でまともに作業ができないようにおまえの尻を引き裂いてやる」』(393頁)
だから、描かれる事件が、重く、悲しく、胸の痛むものであっても、読む手をとめられない面白い物語になるのだ。
そして、ミースバッハの町を訪ね歩くような心地になれるのも、ご当地ミステリーを読む醍醐味である。
リーダーシュタイン山も、テーゲルン湖もあるままに描かれるし、町並みも、広場も、店も、出される料理もあるようにある。
オーバーバイエルン地方の郡、ミースバッハに密着したこの『羊の頭』は、ヴァルナー&クロイトナー・シリーズの2巻目である。
シリーズ1巻目は『咆哮』、アンドレアス・フェーアの、なんとデビュー作で、こちらも間違いなく面白い。
シリーズは好評に継ぐ好評の上に巻を重ね、2021年には、9巻目が出版されている。
同様に、翻訳版も次々と出版されることを、強く望んでいる。
投稿元:
レビューを見る
私には難かしかった。事件当日と現在を行きつ戻りつしながら犯人を特定していく手法だが、私からしたらミステリーの行先よりツィムベックのDV
さえ止められないクロイトナーの不甲斐なさが不快だった。二転三転、ハラハラさせる展開だが、次作を読みたいかは否かな。
投稿元:
レビューを見る
クロイトナーとヴァルナーのシリーズ第2弾。
ドイツ、ミースバッハという地方。ミュンヘンの南にある田舎らしい。「羊の頭」とはゲームの名前。ドイツのバイエルン地方で盛んに行われるトランプの遊び。賭け事の場面で使われているからポーカーみたいなもんかなと思う。
あらすじ
地元の暴れ者の男が銃で撃ち殺される。たまたまその場に居合わせたのがクロイトナー彼は警察官の大会?のため、山でジョギングしていたのだった。被害者の男性は、かつて恋人が行方不明になった。男性がDVを行っていたため、逃げたのだと思われていた。しかし、最近になって、彼女の行方を弁護士が知っていると勘ぐっていたらしい。その弁護士は、かつてインサイダー取引で失敗し、義父からのお金を失っていた。
数日後、被害者男性の親友が出所する。彼も同じくDV の加害者。恋人は彼の食堂を経営しながら待っていたが、彼女も彼女の家族も出所する男が嫌いだった。どうやらこの出所する男、弁護士、行方不明の女性は何か因縁があるらしい。
結末・・・弁護士の義父のお金を奪ったのは出所した男たち。弁護士は元々射撃の腕があったあった。殺人請負の詐欺を働いていたが、脅迫され、やむなく実行したのだったと思われたが…。
ヴァルナーの祖父が、若い女性にモテモテの現役感を出しているということで、このシリーズを思い出す。今回もおじいさんは、大はりきりで自転車を乗り回したりしていた。 タイトルが「羊の頭」とあって、これはあくまでもトランプゲームの名前。だから羊の頭も出てこないし、残虐なシーンもない。女性二人に対する、殴るシーンは何回かあったが耐えられる。基本的にはコメディタッチの小説かなと思う。生真面目なヴァルナー、警察官だけれども地元のワルとも遊ぶし、好きなように捜査するクロイトナーのコンビ。他にもコミカルだと思うシーンがあって、行方不明になった女性を探すときに、クロイトナーが大真面目に地元の魔女?それから霊媒師?に真剣に聞きに行っている所。好きだ。あと何回も山に登るというシーンが出てきたけれども、確かにここの地方はいくつも山があるみたいで、そこの描写も楽しい。
投稿元:
レビューを見る
その日、ミースバッハ刑事警察の上級巡査クロイトナーは、リーダーシュタイン山の頂上を目指していた。全欧警察技能コンテストに向けてのトレーニングの一環だった。
やっとの思いで頂上に着くと、小さな礼拝堂のそばになぜか大きなビール樽が立ててあった。運んできたのは顔見知りの小悪人スタニスラウス・クメーダーだった。
挨拶もそこそこに、クロイトナーは突然気分が悪くなり、頂上を囲む手すりから身を乗り出して嘔吐する。だが、顔を上げて振り向くと、クメーダーの姿が消え、頭部が吹き飛んだ胴体がその場所に横たわっていた。
2年前、クメーダーの恋人が失踪した。クメーダーが殺される前、クロイトナーはその失踪中の恋人の行方を弁護士のファルキングが知っていると聞かされていた。
クメーダーの恋人が失踪した頃、弁護士のファルキングは、20万ユーロに及ぶ大金を義父から借りていた。ファルキングは仕事上の損失を補填するため、インサイダー取引の危険な賭けに出るつもりだった。
シリーズ第2作。霧の中の追跡シーンが読ませる。私にしては珍しく、オチが分かってしまった。
投稿元:
レビューを見る
シリーズ第二弾。
ドイツ南部、リーダーシュタイン山の山頂で、クメーダーという男が射殺される事件が発生。
クメーダーは、死の直前に偶々居合わせたクロイトナー上級巡査に二年前に失踪した恋人の行方を、弁護士・ファルキングが知っていると告げていて・・・。
タイトルになっている「羊の頭」とは、バイエルン州の伝統的なカードゲーム・「Schafkopf(羊の頭)」のことで、本文中にも登場人物達がSchafkopfに興じる場面が出てきます。
さて、前作で凍結した湖で少女の死体を発見し、本作では、目の前で男が射殺されるという、相変わらず“持っている”クロイトナーと、祖父のマンフレート爺さんの“現役っぷり”に心乱されている苦労人・ヴァルナー主席警部の対比が楽しいこのシリーズ。
プロローグは、義父から大金を預かろうとする弁護士・ファルキングの場面と、恋人からのDVに耐えきれなくなって逃げだそうとしている少女の場面という不穏な状況から始まり、これらの過去のパートと現在のパートを交互に織り交ぜながらスリリングに話が進んでいきます。
内容的に、結構入り組んでいるのですが、展開が気になってついついページを捲ってしまいます。
特に終盤は手に汗握るシーンの連続で、DV男・ペーターから逃げようとするズージー。彼女を守ろうとするも、ペーターに連れ去られてしまい、追う羽目になる警察側の脇の甘さにジリジリしながら読みました。
二転三転を経てたどり着いた、ラストのどんでん返し的な真相は、意外ではありましたがちょっと切なかったです。
このように、展開の上手さに引き込まれてしまう本書ですが、今回の事件の背景にあるDVも辛いですし、女性に暴力をふるう男は勿論、彼女達の苦しみに付け込むような輩がクズすぎて不快だったので-★となった次第です。
とはいえ、ミースバッハ刑事警察署の面々のキャラは、割と好きなので次作以降も追っていきたい所存です~。
投稿元:
レビューを見る
弁護士アイゼンベルクシリーズの作者による別シリーズ、クロイトナー上級巡査とヴァルナー警部シリーズ。
シリーズ2作目ですが、シリーズ最高かも。例によって、引っ掻き回すクロイトナーと、私事に悩み事を抱えつつ慎重に事件を解決に導くヴァルナー。ドイツに警察制度では、クロイトナーとヴァルナーは別の警察に属しているのかと思っていましたが、同じ警察に属しているんですね。
いやぁ、それにしても、シリーズ最高というのは、入り組んだ謎もそうなのですが、その真犯人が意外な人物であること。それも、無理やりではなく「あー、そーなんだ」と納得できる描き方。いや、良かったです。