疲労の研究が、コロナ後遺症から大展開
2024/08/11 15:59
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投稿者:y0a - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても面白い本だった。著者によると、欧米では疲れても働くのは効率の悪い愚かな行為とみなされていて、疲労はたいした研究がされておらず、むしろ日本で進んでいるのだそうだ。重要なのは、「疲労」と「疲労感」を分けて考えることで、ドリンク剤を飲んで頑張って疲れを(表面上)取り除いたとしても、それは見かけ上の疲労感が減っただけで、本来の疲労は蓄積されてしまうこと。この区別は日常の健康維持にも役立つ。
ちなみに、疲労の科学的本態はすでに明らかで、「統合的ストレス応答」 (integrated stress response=ISR)が生じた結果起こる生体内の変化であると。「このISRというシステムは、われわれヒトと同じ真核生物の祖先である酵母にもそなわって」いるのだそうだ。古い!それだけ重要なシステムなんだろう。
先の「疲労」と「疲労感」の違いは、
「疲労感…ISRによって産生された炎症性サイトカインが脳に伝わって生じる感覚」
「疲労…ISRを引き起こす「eIF2α」のリン酸化による細胞の停止や細胞死」
とシンプルに定義される。
我々の体にも、(まるで栄養ドリンクみたいに)一時的に疲労感を抑える機能がもともと備わっていて「HPA軸」と呼ばれる。視床下部→下垂体→副腎という経路で副腎皮質ホルモンが作られ、「炎症性サイトカイン産生を抑制することで、疲労感を弱める」。けれども、その結果いわゆる過労死につながることもある。
さらに、病的疲労の代表疾患である「慢性疲労症候群」と「うつ病」のことも詳しく解説される。特に「慢性疲労症候群」(chronic fatigue syndrome:=CFS)は、ウイルスによる感染後疲労と考えられており、脳内で炎症が生じていることから「筋痛性脳脊髄炎」 (myalgic encephalomyelitis=ME)を合わせて、英語圏では「ME/CFS」と略されるそうだ。ウイルスはまだ特定されていないが、病態が「新型コロナ後遺症」と似た部分も多いとのこと。(ちなみに、脳内でウイルス増殖があれば脳炎で、増殖がなければ脳症と区別するが、「「脳内炎症」という言葉には、脳炎も脳症も含まれ」るので少しややこしい。)コロナ後遺症では、ウイルスの脳内増殖はない「にもかかわらず脳内炎症が生じるという現象」なのだそうだ。
そして、ズバリ「うつ病の原因となる遺伝子」SITH-1「を発見した」と述べている。発見までの道のりも面白いが、ポイントだけ提示すると、嗅球細胞が破壊される→脳内のアセチルコリン産生の低下→コリン作動性抗炎症経路の作用の低下→「労作後倦怠感」(Post-exertional malaise=PEM)という病態が考えられている。
さて、以上の様々な病的疲労に関わるウイルスとして、ヘルペス・ウイルスの一種HHV-6が本書では何度も登場する。このHHV-6はアフリカ以外の地域では決して珍しいものではなく、常在ウイルスの一緒に数えられる。そんなやっかいなモノ、なんであるのかという問いに対して、まだ科学的な回答はないが、筆者は「ここからは、サイエンス・フィクション」と註を置きながら大胆な仮説を展開する。それは、体格も能力も優っていたネアンデルタール人を、なぜ我々ホモサピエンスが滅せたのか、という問いにかかっている。直接は本書で楽しむのがよかろう。
いずれにせよ、うつ病の原因がSITH-1だったとしても、何か役割があったからこそ広く現在の人類がこの遺伝子を持っているということになるはずだ。
中身が濃く、面白みのフックがあちこちに在る一冊。
様々な観点から見た人類の進化
2023/05/12 06:35
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
複数の専門家による遺伝子から見た人類の進化、化石から見た人類の進化など多角的に進化について語られていて勉強になる。
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比較的専門外の読者にも優しい入門書。とはいえ第一部は専門的な話もありなかなか難しい。一方第二部は細かく章立てして分かりやすくまとめてくれており、なんとかついていけたし楽しめた。
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ブクログの献本企画でいただきました。
ネアンデルタール人に関する本やテレビの特集番組が好きで、正直、何かネアンデルタールの話が読めればと言う気持ちで、応募しました。
学校で人類について学んだのは、かれこれ30年以上前で、当時の教科書には、ネアンデルタール人、クロマニヨン人、現代人が並べて絵図になっていたと思います。
その後、本、雑誌、テレビ等で、新しい発見や学説が紹介され、いつも驚きを感じていました。
本の内容は、人類進化について、仕組みをとても広い範囲で書かれてました。過去の気象の話題では、マウンダー極小期や、温暖化による気候の激変の説明もあり、進化にはありとあらゆる現象がかかわっている事を理解しました。
第11章の「日本列島人の変遷」の世界的な短頭化現象で、人類の系統を調べる考え方が変わったことはおもしろかったです。
参考文献も興味深く、書店や図書館などで捜して読みたいと思っています。
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献本企画に当選していただきました。
自分は文系であるので理系分野の本を面白く読めるのかなと思いましたが図解が多くて必要以上に構える事なく読めました。図のイラストが緩くて可愛いなと思いました。遺伝子の話で数式が少し出てきた所は難しいなと思ったけれど難しさを感じたのはその部分くらいでした。人類の起源はアフリカからとかマンモスの骨を利用して家を作っていたとか知らなかった事を沢山知る事が出来たし興味深かったです。小学生の時に国語で勉強した記憶のある大陸移動説の話もあったりして昔の世界の環境についても知る事が出来ました。
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人類の誕生から現在まで、そして短くではありますが未来の人類にまでをも視野にいれた、人類史の概説・入門書として楽しめる本です。二部構成という形で、第一部では進化論の誕生と進歩の話、DNAの話や年代測定の話、大きなスケールでの気候変動の観測やメカニズムの話などがつづいています。各章それだけで一冊の本になるくらいのものを短くまとめているので解説なしででてくる用語に難儀する部分はあったのです。けれども、人類学の成り立ちを知るうえで、生命科学や地質学や物理学や歴史学なども大きく関係する学際的な姿を知っておくことで、人類学そのものを隠すことなくをまるごとイメージすることができますし、人類学を志す方にとっては優先的に知っておくべき学問がなんであるかがわかりますから、道筋をぱーっと照らしてくれる体裁になっていました。第一部で紹介されて解説される部分はもう、第二部でぞんぶんに人類学の髄を楽しむための鍛錬であり、より人類学を立体視するための視野拡張にあたるものだと思います。
そして第二部の「人類の進化」の部分はこの本の佳境で、ずいぶん面白かった。アウストラロピテクス類などの猿人から原人、旧人、新人と一直線に進化して今にいたるわけじゃないことは前に読んだことのある人類史の本からなんとなくわかっていました。それでもうろ覚えになっていて今回の『図解 人類の進化』ではっきり、数多くの途絶えた系統があることが理解できました。そして、原人も旧人も、どうやら段階的にアフリカから出発して世界に広まってそして途絶えていったのだと。新人が最後のトライとしてアフリカから出ていって世界に広く住まうことに成功して今日にいたる。偉大なるアフリカですよ。進化の起こる土地。だからひとえに、70万年前の原人の化石がでたから、アフリカを出発したのがその頃だし僕らにつながる祖先がその原人だ、ということではないんです。あくまで原人は先発隊のような先輩だったのであって、現生人類(ホモ・サピエンス)への遺伝的な繋がりはどうやら無い。僕らの祖先は20万年前頃にアフリカを出た、アフリカでそこまで進化を遂げた種なのだと考えられる。
また、文化史的視点からの自然環境を重く見るような考察がありましたし、「人種」という観方についての倫理的な考察もあるのが僕にとっては嬉しかったです。そういう見方が含まれていると、より複数の観点から人類を眺めることができると思うのです。安直なモノの見方が差別や偏見などを生みますし、より大きなスケール感を持って人類史の知識を学んでいけると隘路での行き止まりにハマりにくいのではないでしょうか。
最後のほうでは日本人の成り立ちについての仮説(置換説・混血説・変形説)などが語られてもいます。現在、定説になっているのは、広い意味で混血説に属する二重構造説だそうです。この説を見ていくと、縄文人の直系のように現在につながっているのがアイヌ人で、本土の人間たちは渡来人たちとの混血が深まり縄文人としての血が薄まっているようです。沖縄人もアイヌ人に近いという説が昔からあり、この二重構造説を構成するミトコンドリア分析や骨形態解析���どからも、おそらく祖先は同根なのではないかというような結論が導かれていました。つまり、アイヌ人と沖縄人は縄文人の血が比較的薄まっていない。比べて、本土の人たちは薄まっている。その違いがあるだけで、先祖は同じように縄文人である可能性が比較的つよく見られるようなのでした。
それと、日本の旧石器時代は30万年前くらいから、なんて僕が子どもの時には教わったり本で読んだりしたものですけれど、その研究はねつ造が元になっていて、現在は5万年前くらいからということになっているんだそう。人類史的には比較的おそくホモ・サピエンスが渡来してきたということでしょう(そして彼らが縄文人になったのでしょう)。
勉強して知っている人にとってはなんのことはない知識なのでしょうけれども、僕のような「学問のおのぼりさん」はきゃーきゃー言っちゃいます。そんな面白みのある読書でした。
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4人の学者の共著であるため、少し難しい部分があったが、概ね興味深い話をわかりやすく語ってくれている。
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それぞれ分野の異なる?専門家4人が一般読者向けに書いた入門書。
真面目にわかりやすく書かれてはいるが、専門のサイエンスライターでないためか、メリハリがあまりなく、好奇心を掻き立てられるような感じではない。
ミトコンドリアDNA、Y染色体DNA、ネアンデルタール人との雑婚、日本人の起源など、膨らませ方はいろいろありそうだが。(触れられてはいる)