紙の本
ぐいぐい読ませる
2021/11/11 17:30
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代の資本主義が抱える問題を描いた世界各国の映画13本をピックアップして論評。
「格差」を描いた映画がテーマだけに、けっして明るい内容ではないが、町山さんの深い知識と書き味で、ぐいぐい読ませる。
13本とはいえ、各作品を撮った監督のほかの作品や、影響を受けている作品、劇中歌/詩やネタとなった文芸作品まで、幅広く触れられており、とても勉強になる。
すでに見ている作品はもちろん、まだ観ていない映画についても、よく分かるように書いてあり(もちろんネタバレはなし)、これから見てみたくなった。
『万引き家族』がパルムドールを獲ったときに、さまざまな批判を浴びたが、チャップリンもまた石を投げられていたことや、本書で取り上げた映画を貫くものとして「子ども」を挙げていることなど、なるほど~と思わせるところも多々。
貧しい子どもの存在は、自己責任論に対する最も根源的な反論です、という言葉がとても腑に落ちた。
「人生はクローズアップで撮れば悲劇だ。だがそれをロングショットで撮ればコメディになる」というチャップリンの言葉を引いて、『ジョーカー』を説いた章もうなずける。
ほかにも書いていたら切りがないのだが、非正規労働者やギグワーカーなどの問題を、『ノマドランド』のジャオ監督と『わたしは、ダニエルブレイク』『家族を想うとき』のケンローチ監督を対比している解説も興味深かった。根底にある構造的暴力を、批判的に描くか、反転させて描くか。
13本の中に『天気の子』が入っているのが意外に思ったが、読んで納得。
紙の本
思い当たることがあるでしょう。
2021/10/16 14:35
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ここ二十年ばかり、日本は給与水準が変わっていない。子どもの、家族の給与明細、所得関係の書類を見てみよう。金額が伸びているだろうか。収入が上がっていないのに、物価が上がったと感じる。
先進国、いや世界中各地での経済は似たり寄ったりらしい。芸術であり、興行物でもある映画で描かれるテーマが社会格差、そして底辺で喘ぐ人たちの姿なのだ。
著者は作品を紹介しながら、世界の社会状況を紹介し、その構造を示していく。
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「新自由主義」的経済政策によって進む格差社会は近年の映画作品にも強い影響をおよぼし、世界中で格差と貧困をテーマとした映画がつくられつづけていると筆者は指摘する。タイトルを裏切ることなく、収められた13本の映画への評論はすべて経済格差を軸に展開される。SNSなどでもつねづね現代社会にたいする憤りと苛立ちをあらわにする筆者による、きわめてメッセージ性の強い映画評論集である。
新書としてはやや長めの270ページ弱で、各章ごとが10~26ページで構成される。2作品を除いては公開時期が2016から2021年と、主旨のとおり近年の作品をおもな対象として扱う。国別ではアメリカとイギリスが3本、日本と韓国が2本、そしてインド、ベルギー、スウェーデンがそれぞれ1本ずつとなっている。あらかじめの注意点としては、基本的に対象の映画を観ていることを前提としているため、多くの作品で結末までが語り尽くされる。ネタバレを嫌う方は、観るつもりの映画についてはスキップするなどをお勧めする。
監督の作家性を重視する方針で、章ごとに掲げられている作品以外にも監督の他作品への言及や内容の紹介にも紙数を割く。とくに#9から#11の連続する3本はすべてイギリスのケン・ローチ監督作品であり、長年にわたって格差を描きつづけた映画監督として重点的に取り上げられている。本書内で何度も参照される古典的な作品としては、序文でも「いつのまにかチャップリンの血をたどる作業になっていた」と述懐したチャップリンの作品群と、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』が挙げられる。また、多くの作品でドキュメンタリー的な手法や素人の演者が起用されている点も共通点として興味深い。
従来からの筆者らしい小気味よく切れ味のある語り口に引き込まれ、非常に重いテーマながらもスムーズに読み通せた。個別に印象に残ったのはやはり身近さもあってか、日韓の4作品と監督だった。なかでも感情を揺さぶられる『天気の子』の評は独立した一篇の読み物としても完成度が高く、本書の最後を締めくくるにふさわしい。そして全体のなかで日本の2作品を最後に配置した点にも本書のメッセージ性を感じる。あとがきでボーナストラック的に登場した青柳拓監督の『東京自転車節』も気になる。
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町山さんの解説は謎解きミステリーと同じだ。
ジョーカーや万引き家族、パラサイト、ノマドランドといったアカデミー賞受賞作の謎を解いてくれる爽快感。
ケンローチ監督の、ストレートな格差への怒りがどのように映画に結実されているか、よくわかる。
この本で紹介されている映画でまだ見ていないものも、謎解きの謎を知ったうえで観賞するのも楽しいと思う。
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シリーズの中で今作は今までにないほど激しい意志を感じる。リアルタイムの問題提起だからということもあるが、アカデミー賞をはじめとして全世界的な映画界の潮流が資本主義の矛盾について語りだしているということが、かなりの危機感を持って重く受け止めなければならないのだろう。
「天気の子」で極まったまるで慟哭しているかのような評論が胸に突き刺さる。
ダルデンヌ兄弟作品は予想しうる重たさに怯んでu-next のお気に入りにマークしつつ何年も見ることができなかった。ケン・ローチ作品も「天使の分け前」が軽い傑作だったぶん、そのギャップになかなか手を付けられずにいた。
本作に背中を押されようやく見ることができた。見る前と後では予想以上に世界の見え方は変わった。感謝。
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読んだ本に連続して「善きサマリア人の実験」の話が引き合いに出されました。神学を学んでいる学生であっても近くのビルで人助けの説教をしてくるという大至急のミッションを与えられるとそれを遂行するため、目の前に倒れている人を助けられない。人も組織も脆弱なところがあり気がつかないふりができないよう映画におとしこまれていると思いました。
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いつもマニアックすぎて未視聴の映画がおおいんだけど、今回は
・パラサイト半地下の家族
・ジョーカー
・ノマランド
・家族を想うとき
・万引き家族
・天気の子
とこんなにあったので見応えもばっちし。
この解説書を読んでからも一回観たくなるわ。
「万引き家族」のあの浜辺のシーンの樹木希林の口の動きの”ありがとう”はアドリブだったとは…。
家族になってくれてありがとうって意味もあったのね。
あの表情は妙に印象的ないいシーンだった。
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#5『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
p96
つまり、「他にも目撃者がいっぱいいるんだから、誰か助けるだろう」「助けないのは俺だけじゃない」という言い訳による保身。
#8『ロゼッタ』
p177
貧しい人々は、経営者や資本家といった自分たちを搾取する者たちに怒りを向けず、自分よりもさらに弱い者の足を引っ張ることが少なくない。
#10『わたしは、ダニエル・ブレイク』
p201
日本でも生活保護など福祉の受給申請は複雑で、審査は厳しい。まるで申請者の心を折るように。
#12『万引き家族』
p236
実は大阪で釣具を盗んだ一家も、釣り竿を換金しなかった。彼らの家から押収された盗品のなかに釣竿があった。彼ら親子は釣りが好きだった。金のために盗んだのではなかった。それを知る者は少ないが、それを知った是枝監督は「悲しいが美しい」と思ったという。
映画は7本ほど鑑賞済み。ケン・ローチに限っては『ケス』しか観ておらず、早く観なければなと思いながらも楽しく読了。しかし楽しいだけでなくひたすらに苦い。
格差と貧困にスポットを当てた本書。好きな評論家で、町山さんの映画ムダ話をちょいちょい愛聴しているのもあり、テキストの形で手に取れるのは嬉しい限りです。取り扱っている作品も2021年のもあり、テーマはタイムリーで現在進行形。
『はじめに』のツイートもバックラッシュを生で見ていて、貧しいのは財布の中身だけじゃないのがグロテスクな形で露呈していたようにも思えました。みんな貧しい、みんな苦しいのだから我慢、ルールもみんな守っているから守ろう。正論だが苦しく、映画を観る余裕もなく、そして観たとしてもはたして読み取れるのかどうか、というところ。『ロゼッタ』の足の引っ張り合いの文章が現実としてあります。
近年の良作だけでなく、風刺描写がてんこ盛りの『ザ・スクエア』、そして外せないケン・ローチなど充実したセレクションだと思います。古い作品だと、(たしか)YouTubeなどでしか観ることのできなかった66年の『キャシー・カム・ホーム』も収録。ポッドキャストの補足としては有り難く、書籍に収められていること自体珍しいかもしれません。
映画業界自体は資本主義どっぷりで、チケット高いのも配給会社の取り分が大きいせい(?)もあるのかなと、最近は映画館のチケット高いなとか考えるくらいには自分も貧しいのかもしれない今日この頃、せめて心だけは豊かに、その余裕をシェアできる程度には、映画や文化に触れていたいと改めて思いました。
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『ジョーカー』『パラサイトー半地下の家族』『万引き家族』など観た映画もけっこう入っていた。それぞれの映画の話だけでなく、その映画をとった監督のデビュー作あたりから話を始めて、その作品が撮られる背景、監督の思想まで説いてくれるので、興味深く読めた。タイトルの映画だけでなく、この監督の別の作品も観てみたいなと興味をひかれるものもあった。ただねぇ。それぞれの作品に貫かれたテーマは、格差と貧困。家族を抱えて憂き世を渡る身としては、決して他人事ではなく、考えるべきことと思うんだけどさ。いや、それだからこそ、なおさらそういう話を立て続けに読まされると、だんだん気が滅入ってくる。特にスウェーデンとかインドとか、知っているけどなじみのない国の話となれば、その国はみんながそういう状況にあるのか、とすら感じてしまって、つらくなってくるんだよね。だから、読み進めるのに、ちょっと時間がかかったな。夢ばかりみて生きていたいわけじゃないんだけど、つらい場面ばかりみるのもまた、ちょっとしんどいんだよね。
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今の御時世、フィクションに対し「何を描かんとしているか」ではなく「自分の善悪基準に則っているか」でモノ申す人間があふれている。そんな社会に対し、敢えて鋭く挑戦的な問いかけを行った映画たちを取り上げている。『パラサイト/半地下の家族』『ジョーカー』『万引き家族』『天気の子』などの話題作は、話題になるだけの強烈なドラマツルギーが存在していたのだ。好き嫌いが両断されるくらいの。
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アカデミー受賞作品「パラサイト」「ジョー
カー」、パルムドール受賞作品「万引き家族」
これらの映画は製作された国は異なりますが、
ある共通点があります。
格差社会をリアルに描いているのです。
日本でも最近問題になっている格差社会は、
世界中で発生し、やはり問題となっています。
「我々はみんなひとつのグローバルな経済の
中に生きている」からです。
その格差社会の中で生きる人々の希望や絶望
を映画では、どのように描かれているのかを
とても丁寧に解説します。
すでにそれらの作品を観た人は納得すると思
います。
まだ観ていない人は必ずそれらの作品を観た
くなる一冊です。
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このシリーズ、やっぱり面白い。観る前に読むような本ではなく(多くはしっかりネタバレしている)、観た後に読んだならば、さまざま発見と新しい視点を貰えるだろう。
今回は13作品のうち9作品は公開時に鑑賞済み。私はそれなりに深読みしていたつもりだったのだが、映画のバックグラウンドの知識が全然不足していたし、観察もかなりの部分で見落としがあったことが判明した。
⚫︎『パラサイト半地下の家族』ポン・ジュノ監督のフィルモグラフィーは追っているつもりだったけど、日本未公開の『白色人』『支離滅裂』などを知ると、ずっと同じテーマを描いているタイプの作家だということがよくわかる。
⚫︎『ジョーカー』幾つかの「謎」部分が一刀両断で解説された。そう言われれば、そうとしか思えない。
⚫︎『ノマドランド』クロエ・ジャオ監督は、社会問題を告発しない。彼らを美しく、詩的に描くことに全力を注いでいる。←だから、映画評を書こうという気も起きなかったのか!
⚫︎『バーニング劇場版』ミステリとしての見方が間違いだということを、説得力持って示してくれた。全てメタファーだったのだ!
⚫︎『わたしは、ダニエル・ブレイク』見落としていた格差社会の構造をかなり解説してくれた。1人だと思っていたけど、沢山の労働者がそのままの役で出ていた。『家族を想うとき』と重ねて、ケン・ローチの真っ直ぐ敵を見据えた告発映画だった。
⚫︎『万引き家族』是枝裕和監督のフイルモグラフィーから解説。ポン・ジュノ監督と同様、描いていることはずっと同じ。
⚫︎『天気の子』帆高は『ライ麦畑でつかまえて』を読んで家出して東京に行ったのか!予想通り、これはかなり社会に物申す作品だった。
改めていうことでもないけど、映画は高校生にもわかるように(ということは普通の大人にもわかるように)、物語の背景を説明しない(2時間で、全ての世界を出し切らないといけないから)。多くは1の台詞を聞いて、3くらいはわからないといけないし、それを求められている。だからこそ、映画は面白いのだけど、やはりこういう解説書は大変役に立つ。慎重に見ていたつもりなんだけど、相当見落としていた。「1」と「3」は読んだので、やはり「2」も読んでおこうと思う。
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扱われる13作品中、10作は観たことがあった。
どこの国でも格差が拡がっていて、ストライキなんて起きない日本は特に労働者が軽視されて資本家や経営者のやりたい放題なんだなと感じた。
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町山さんの本は時折垣間見える感情を抑えきれない文が好きなのですが、本作はそれが顕著だと思いました。それはやりきれない社会への思いの表れなのでしょう。中でも「天気の子」の章は、自分が感じていた印象と大分異なっていたので、改めて観たくなりました。
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最近の映画のあらすじの説明が多く、映画を視聴した方が早いと感じた。
格差という視点からの「天気の子」の作者の解釈や、「ジョーカー」を見たときに分からなかった背景や小ネタは面白かったので、見たことある映画の章だけ読むのが良いと思う。