ハードな設定、セミハードな世界描写、ソフトな人間模様がシームレスに繋がって、読み味が心地良い
2024/08/18 13:58
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投稿者:ブラウン - この投稿者のレビュー一覧を見る
パラレルワールド×青春・将来の不安・孤独、タイムトラベル×文学偽史・女学生たちの才覚を巡る関係、脳改造×愛、超能力×姉妹関係、AI幼年期の終わり×米ソ冷戦、局所的超常現象×ポストディザスターの世情・少年の葛藤……ふんだんなSFと世界観の掛け合わせが、個人の手で紡がれたとは思えないほどそれぞれの物語にマッチした文体で表現されている。
小規模な世界のSFは「内輪の秘密」として描かれたものならよく目にしたが、この作品内だと小規模な世界ながらSF要素が何らかの形で公然に現れているように読めた。後者だと設定とスケール感のギャップでちぐはぐな読み味になりそうなものだが、工夫された言葉選びと丁寧な世界説明でそのギャップを埋めるのに成功している。すごいなあ、すごい。面白いなあ。
他に類を見ないエモーショナルな短編集。
2022/07/25 23:15
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
繋がりを断絶するものが時間であろうとも価値観であろうとも世界であろうとも、決して諦めず手を伸ばし続ける。
そんな人々の姿を卓越した表現力と見事な設定、構成力で紡いだ珠玉の短編集が本作だ。
本作では並行世界や人工知能、作られた人格や時の静止など、SFファンなら一度は見聞きしたことがあるはずの題材が散見される。
にもかかわらず、いやむしろそうした人智を越えた状況や環境を描くことで逆説的に、人の心の本質を浮き彫りにし、私たち読者の心を掴むことに著者は成功している。
数多のSF的設定を人の心や繋がりに昇華させるその手腕は、テッド・チャンを彷彿させる。
特に表題作「なめらかな世界と、その敵」はテッド・チャンの「あなたの人生の物語」と同じく、人生の選択と自由意志について深く考えさせられる一作と言えるだろう。
また本作は、他の作品へのオマージュや先人たちへのリスペクトが込められている部分も多く、SFファンにとっても大いに楽しめる作品となっている。
どこまでも超王道なSF作品であると同時に、人々の心を鷲掴みにし揺さぶるようなエモーショナルな力も内包した本作は、SFファンであろうとなかろうと一読に値する。
SFとしてはもちろんのこと、物語としてここまで心を揺さぶることができる作品はそうそうお目にかかれないだろう。
パラレルワールド
2023/02/23 19:10
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
並行世界との行き来という、SFの王道です。設定もいいし、さすがベストSF2019[国内篇]1位になった作品だけはあります。自分は、その頃読んだのですが、いまだにインパクト強かったこと覚えています
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・・・うーん、なんと言ったらいいんでしょう。
SFとしての完成度がとても高く、間違いなく面白いのですが、「閉じている」。そんな印象です。
並行世界を駆け抜ける少女たちの青春。改変歴史における日本SF第一”女流”世代の生き様。伊藤計劃へのオマージュを込めた精神改造恋物語。特殊能力を持つ姉と平凡な妹の相克。AIが幻視する人智を超えたソヴィエト連邦。超低速現象に見舞われた新幹線の乗客を救うべく奔走する者の悔恨。
今風に言うと、「エモい」です。求めても得られないモノを、得られないと分かっていても手を伸ばさずにいられない心の痛みを、熱量の高い筆運びでドラマティックに描き出します。熱量が高い、と言っても、日本SF第一世代のような暑苦しいまでの熱気ではなく、スマートな語り口の行間から熱量を感じさせるところが、これまた今風、ではあります。
が、鴨の率直な感想を述べさせていただきますと・・・
SF好きで、SFの歴史やファンダムやマーケット等もよくわかっている人が、同じSF好きに向かって「みんな、こういうSF読みたいんでしょ?ほーらほらほら」とアテ書きで書いた作品、という印象が強烈過ぎて、それを拭えないのです。
とても地頭の良い人なのだと思います。あとがきを読むと、SFへの果てしない愛情と該博な知識を強く見せつけられます。そんな「SF大好きでSFをわかっている人」が書いたSFを「そうそう、こんなSFが読みたかったんだよ!!」と熱狂的に受け入れる読者層も、間違いなく相当います。
ただ、その読者層は、かなり、かーなーりー、狭い。一SF者としての、鴨の率直な感想です。
これからSFを読んでみようと思っている人には、オススメしやすいと思います。エモさをトリガーにして、作品世界に没入することができます。
ただ、このエモさにあざとさを感じずに読み進められるのは、20代止まりかなぁ・・・とも思います。
SFとしての完成度の高さは間違いありませんので、これからも読みたい作家さんではあります。なお、鴨的には、女性キャラのリアリティの無さがとても印象的で(SFとして欠点ではありません、念のため)、女性SF者の感想をぜひうかがってみたいです。
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――
単行本で読んどきゃよかった。
瞬間最大風速的な、と表現されているけれど、「いま、ここ」のちからに支えられた作品というのは確かに、ある。
勿論文庫化したいま手に取って、その魅力が損なわれてるということではまるでないのだけれど、それでもこの1冊を読んだ自分と読んでいない自分の間に大きな差があるなと思うと、約2年文庫になるのを待ってしまったのを、凄く取り返しの付かないことのように感じてしまう。
その間いろいろ溜め込んできたものがあるからこれほど揺さぶられる、というのも、あるんだろうけど。
+αで云うと、その2年間の情勢変化でこの作品に加えられた変化修正を、いまから後追いでしか体験できないというのもなんだかくやしいなぁ。
それほどまでに、なんと云うか当事者でありたいなと思う名作たちでした。
全篇を通じてあるのは、断絶や隔絶、相互不理解に対するもどかしさ。面白いのはそれらが、いかにもSF的に、技術的に担保された不理解であるというところ。そのあたりを進歩した技術の功罪であるとか人類の自己責任だとか、それに対して愛はすべての障害を越えるとか、まぁそれはそれ、それならそれで良いのだけれど、そんなふうにフィクションとして切り離して楽しめない冷ややかさもある。
きっとこうなる、確かにこうなるかもしれない、と云う仮想に対して、それに取り残された側の姿を、まだ取り残されている側に居る自分たちはどう読むべきか。あまつさえその、自分たちの普通が一種の障害とまで表現された場合はどうか。
手を繋ごう、ひとつになろう、って、ほんとうにそうなったことを想像できているのか。そうならないことを想像している者は、その環の中でどうなるのか。
不確かな叡智の中で、自分たちの「確からしさ」を担保してくれるのは何なのか。
と、あらゆるSF的テーマと四つに組みながら、それでも突き抜けたエンタメ性を忘れないのが何よりたまらない。
最近☆5多いのは豊作の季節なんだということにして。狙って読んでるんだからいいよねー☆4.7
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「人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集」という売り文句は伊達じゃない。この本の最終話に収録されている「ひかりより速く、ゆるやかに」を読み終えたとき、その奇跡のような美しい結末に心が熱くなりました。
あとがきからも伝わってくる著者の伴名練さんのSF愛。その思いが結実したのがこの一冊なのだと思います。
収録作品は6編。いずれも密度の濃い作品が並びます。密度が濃すぎてすぐにはついていけない作品もあったけど、それでも作品の熱というものは伝わってくる。
表題作の「なめらかな世界と、その敵」は複数の並行世界を自由に行き来する少女たちの友情を描いた一編。書き出しこそは世界が飛び飛びになっていて、読んでいるこちら側もおおいに混乱しました。
こんな設定で物語が成立するのかとも思ったけど、この世界観だからこそ描かれる世界の危機と圧倒的なまでの孤独や疎外感に震え、それを一息で吹き飛ばす主人公の決断と、たった一つの世界の美しさに胸がすく思いになりました。
「美亜羽へ贈る拳銃」もまさしく人の心の隔たりと繋がりをめぐる作品。脳科学をテーマとしています。
科学で性格を変えられて生まれた人格は認められるのか。その人格から生まれた愛は本物なのか。
自己とは、愛とは、心とは。
SFで何度も描かれたテーマだけど、この作品もその問いを物語を通して、登場人物たちの葛藤を通して問いかけてきます。終盤の目まぐるしく変わる展開は「技術が進んだ世界でも人を愛する心の矛盾は変わらない」。そういったことを表すようで切なくもどこか美しい余韻を感じました。
「ひかりより速く、ゆるやかに」多くの乗客を乗せたまま時間が止まってしまった新幹線。本来なら修学旅行のためにその新幹線に乗るはずだった二人の生徒が、物語の中心となります。
新幹線の中と外でまったく違う時間が流れていく。そんな突飛な設定ながら事件に対する世間の反応を詳細に描くことで、話の強度は増していきます。コロナやSNSなど現代を象徴する話題を取り込みつつ、物語は徐々に核心に迫っていく。新幹線が止まった原因は? そして主人公が目を背けたかった真実とは?
卑しい真実の向こう側に待っているのは、奇跡の光にあふれたエンディングでした。
人の心の隔たり。それは圧倒的な時間の壁として、そして妬みや嫉みといった人間の持つ卑しい感情として現れるけど、それをすべて乗り越えて、人をこの世界へとつなぎとめるのは「人の心の繋がり」なのです。
突飛な設定をここまで温かい人の繋がりの物語に昇華した伴名練さんに、ただただ脱帽してしまいます。
収録されている作品はどれも設定としては一筋縄ではいかないというか、今まで自分が読んだSFをすこしひねったようなものを多く感じました。そういう点でも様々なSFを咀嚼してきた伴名さんの嗜好やこだわりが見えてくる気がします。
でも一方で、描かれるものの普遍性というものは変わらない気もします。SFというジャンルのこれまでをこれからにつなげていく。そんな作品のようにも感じました。
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SF短編集。
「なめらかな世界と、その敵」「ゼロ年代の臨界点」「美亜羽に贈る拳銃」「ホーリーアイアンメイデン」「シンギュラリティ・ソビエト」「ひかりより速く、ゆるやかに」
どの話も好きだけど、伊藤計劃の「ハーモニー」が好きなわたしは「美亜羽に贈る拳銃」がぶっちぎり。
最後の2行で『すきぃぃぃぃぃぃ!!!!』ってなった。
「ひかりより速く、ゆるやかに」は普通に泣いた。
泣かない理由がないよね?って感じ。
最初から最後まで飽きずに読める短編。それが6編。
作者は天才か?って思った。
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SF物は久しぶりに読みました。
読む時間がなかなか取れず、戻って読み、戻って読みを繰り返していたのでかなり読み終えるのに時間が掛かってしまいました。
SF物は大昔に読んだ星新一以来かも知れません。
構成、発想が非常に面白く、緻密に書かれており面白かったです。
後書きにも書かれているが、著者はSFが非常に好きなんだと分かる。
表舞台にSFは、なかなか出てこないが、新しいSF界を築き盛り上げて行ってもらいたいですね。
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短編集だけど、どの話もすごく良い。中でも表題作と最後の作品がすごく好み。どれも読後の満足感がすごい。最後の作品は特になんかもうよかったねえよかったねえって言ってあげたくなる。
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読みたかったので文庫でようやく読了
どの話も楽しめて大満足。
一話目の表題作から強く引き込まれ
毎話読み終えてからすぐ次に進めない余韻があった。
書き下ろし作品
新幹線が超常現象災害に巻き込まれる話で
この話自体を楽しむことが作中で「災害をネタに騒ぐ人々」と重なるようで構えてしまったが、暗い結末になるのではとソワソワしつつ読むも登場する男女の掛け合いに"昔のボーイミーツガールSF"感を感じ、終わり方がとても良かった。
(私自身、そんなにSFを読んでる方では無いので錯覚なのだろうけど)
この話を遅延する電車の中で読むことになったのはなんかの因果…
著者のあとがきにて
幼少期から触れていたSFへの愛と埋もれてしまう物語たちへの想いについて語り、企画して発掘していくことの重要性を説いていた。
その成果としてSF作家の作品集やアンソロジーを出しているようなので、そちらも読んでみたい。
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おっさんには、この表紙の本を図書館で借りるのはそこそこ勇気の要ることなのであった。
文庫になったが、書店で購入するのは更に…
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上質なSF短編小説
時間と空間を超えた王道SFでありながらも、次の展開が想像よりも斜め上にいくように書かれている点素晴らしい
読んでいくごとに、もっと読みたくなるスピード感と余韻が美しい。
ひかりよりも速く、ゆるやかに。に関しては主人公の孤独と青春が詰め込まれていて、一番印象に残った。
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色んな話が入ってて面白かった
ちょっと解釈が難しいところがちょいちょいあったけど面白かった!
最後の「光より速くなめらかに」はSCPのようこそ未来へっぽくて、でも展開が異なっていたからどうなるのかワクワクしながら読めて楽しかった!
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夏に読むのにふさわしい良質で読みやすいSFでした。全話面白い。個人的に好きなのは「美亜羽へ贈る拳銃」だった。互いの感情がエモすぎる。読めてよかった?
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ようやく読み終わった。どの短編も面白かったが、やはり前評判が良すぎると期待値が上がりすぎて良くない。
個人的に特によかったのは「美亜羽へ贈る拳銃」と「ひかりより速く、ゆるやかに」。
「美亜羽に贈る拳銃」はハーモニー、伊藤計劃トリビュートから。恋愛インプラントWK(ウェディングナイフ)。人の意識を変え、その人を愛するように脳を切り替える銃と愛の話。
「ひかりより速く、ゆるやかに」は日本SFの臨界点でも読んだ「暴走バス」と状況は似ている低速化もの。中の人たちと残された人たちの話。低速化を救う方法も面白かった。