紙の本
過去の記憶、異文化との狭間
2010/02/20 23:53
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る
『キララの海へ』に引き続き、サンゴロウとナギヒコが話の中心である。
今回サンゴロウは、ナギヒコに頼みごとをする。
医者であるナギヒコに往診を頼むのは普通といえば普通なのだが、
まずもって、サンゴロウの方からナギヒコにものを頼むのが珍しかった。
そして、往診のために用意するようにと頼んだのが
カレハ熱の薬をたくさんと予防ワクチンだった。
その行き先は、船で一日。
カレハ熱は、うみねこ島ではこわい病気ではない。
うみねこ族の子どもは、うまれてまもないうちに予防ワクチンをうけるからだ。
一体行き先はどこなのか?
黒ねこサンゴロウシリーズは、語り手がさりげなく毎回変わる。
『旅のはじまり』では、
ケンが語り手で、ケンが自分のことを「ぼく」と言っていた。
『キララの海へ』は、サンゴロウが語り手で、「おれ」で話が進んだ。
今回は、ナギヒコが語り手で、「わたし」が話を進めていく。
そして、毎回の語り手が心の中で、あるいは対話の中で、
印象的な言葉を紡いでいく。
『キララの海へ』は、サンゴロウが語り手なので、
海や船の描写が多かったが、
本書はナギヒコが見るサンゴロウがおもしろい。
正論を言うサンゴロウに、
「おまえねえ、ただしいことばっかりいうなよ。
世の中って、そんなにただしくできていないんだよ。」
と言ってみたり、
サンゴロウの船であるマリン号を見ながら、
「たぶん、船は、船長ににるんだ」と思ってみたり。
ふたりのやりとりも微笑ましい。
サンゴロウとナギヒコは、キャラクターは異なるが、
心地よい友情関係を築いていることがわかるのだ。
主人公が自分語りをしているときよりも、
他者が主人公を語っているときのほうが、
主人公の姿がよく見える場合もある。
自分のことは案外わからないし、
当たり前に思うところは語らずに飛ばしたりもする。
他者にはそれは当たり前ではないから、しっかり描写する。
主人公の内面描写が出なくても、
かえって様子が詳しかったりもするのだ。
語り手が多様という手法はシリーズを続ける上で
飽きさせないひとつの方法と見ることもできる。
行った先で、サンゴロウとナギヒコが体験したこと、
それは、ここでは多くは語らないでおく。
ナギヒコは、正論ばかり言うサンゴロウに対して、
世の中はそんなにただしくできてないと言うような
社会にもまれて生きてきたタイプだったが、
ここでは、「患者は患者だ。どこの島だって、関係ない」という思いで、
「病気をなおすのが、わたしの医者としてのつとめだ」という思いで、対処していく。
ナギヒコは医者として、サンゴロウは船乗りとして、
ただすべきことをしたのだ。
ナギヒコが語るサンゴロウもカッコ良いのだが、
ナギヒコ自身も、サンゴロウの影響で、
そして、この経験の中で、その個性が引き出されていく。
本書では、うみねこ島に記憶喪失で流れ着いた頃の
サンゴロウのこともナギヒコの回想で出てくる。
そして、物語の後半で、ナギヒコは、
サンゴロウのルーツに向き合わざるを得なくなる状況に追い込まれる。
こうして少しずつサンゴロウの謎を解くための情報が
読者の前に示されていくのだ。
本シリーズは1冊1冊の冒険のエピソードがおもしろいだけでなく、
社会的なことを考えさせるテーマ性も持っている。
また、サンゴロウのルーツという大いなる謎が
シリーズを貫く大きな物語として存在し、
それが全体としてのおもしろさと深みを与えているのだ。
紙の本
船を建てる。
2002/06/13 18:05
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投稿者:本箱屋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「サンゴロウ」の依頼で行く先も告げられぬまま、
カレハ熱の患者を診るため、向った先は無人島であるはずの島。
しかしそこにはひっそりと隠れ住む一族が暮らしていた。
うみねこ島の医者「ナギヒコ」の一人称で語られる物語。
一刻も早い治療が患者には必要であるのに、
古い知識とよそものに対する反感がそれをはばむ。
医者としての使命に燃えながらも、
周囲の圧迫感に不安を感じながら
治療を続ける「ナギヒコ」だが、
実は彼らがうみねこ族とは宿敵同士の、
やまねこ族の末裔であると知り、愕然とする。
だが、どこの島でも関係ないと「ナギヒコ」は言い切る。
同じ医療者である「クルミ」の前では、
苦しむ患者たちの前では、それは意味をもたないのだ。
過去など知らなくとも「サンゴロウ」と「ナギヒコ」が
友人となったように。
「何者であるか」より、大切なのは「何をするか」だ。
かたくなに接触を拒む封鎖された島だが、
いつか彼らも船を漕ぎ出す日がくるのかもしれない。
自分たちの船を。
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ここで私(ナギヒコ)が登場します。「ポケットから手をだそう」という言葉があります。新しいところに踏み出してみよう,ということです。フツーに言われても「そうかもしれないけどさ」と思うところですが,サンゴロウに言われるとそれができるような気がしてきます。
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サンゴロウシリーズ第三弾。サンゴロウとはゆっくりしたような、やさしいようなナギヒコ先生視点の文章がとてもいい。
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『キララの海へ』に引き続き、サンゴロウとナギヒコが話の中心である。
今回サンゴロウは、ナギヒコに頼みごとをする。
医者であるナギヒコに往診を頼むのは普通といえば普通なのだが、
まずもって、サンゴロウの方からナギヒコにものを頼むのが珍しかった。
そして、往診のために用意するようにと頼んだのがカレハ熱の薬をたくさんと予防ワクチンだった。
その行き先は、船で一日。
カレハ熱は、うみねこ島ではこわい病気ではない。
うみねこ族の子どもは、うまれてまもないうちに予防ワクチンをうけるからだ。
一体行き先はどこなのか?
黒ねこサンゴロウシリーズは、語り手がさりげなく毎回変わる。
『旅のはじまり』では、
ケンが語り手で、ケンが自分のことを「ぼく」と言っていた。
『キララの海へ』は、サンゴロウが語り手で、「おれ」で話が進んだ。
今回は、ナギヒコが語り手で、「わたし」が話を進めていく。
そして、毎回の語り手が心の中で、あるいは対話の中で、印象的な言葉を紡いでいく。
『キララの海へ』は、サンゴロウが語り手なので、海や船の描写が多かったが、
本書はナギヒコが見るサンゴロウがおもしろい。
正論を言うサンゴロウに、「おまえねえ、ただしいことばっかりいうなよ。
世の中って、そんなにただしくできていないんだよ。」と言ってみたり、
サンゴロウの船であるマリン号を見ながら、「たぶん、船は、船長ににるんだ」と思ってみたり。
ふたりのやりとりも微笑ましい。
サンゴロウとナギヒコは、キャラクターは異なるが、
心地よい友情関係を築いていることがわかるのだ。
主人公が自分語りをしているときよりも、
他者が主人公を語っているときのほうが、主人公の姿がよく見える場合もある。
自分のことは案外わからないし、当たり前に思うところは語らずに飛ばしたりもする。
他者にはそれは当たり前ではないから、しっかり描写する。
主人公の内面描写が出なくても、かえって様子が詳しかったりもするのだ。
語り手が多様という手法はシリーズを続ける上で
飽きさせないひとつの方法と見ることもできる。
行った先で、サンゴロウとナギヒコが体験したこと、それは、ここでは多くは語らないでおく。
ナギヒコは、正論ばかり言うサンゴロウに対して、世の中はそんなにただしくできてないと言うような
社会にもまれて生きてきたタイプだったが、ここでは、「患者は患者だ。どこの島だって、関係ない」という思いで、
「病気をなおすのが、わたしの医者としてのつとめだ」という思いで、対処していく。
ナギヒコは医者として、サンゴロウは船乗りとして、ただすべきことをしたのだ。
ナギヒコが語るサンゴロウもカッコ良いのだが、
ナギヒコ自身も、サンゴロウの影響で、
そして、この経験の中で、その個性が引き出されていく。
本書では、うみねこ島に記憶��失で流れ着いた頃のサンゴロウのこともナギヒコの回想で出てくる。
そして、物語の後半で、ナギヒコは、サンゴロウのルーツに向き合わざるを得なくなる状況に追い込まれる。
こうして少しずつサンゴロウの謎を解くための情報が読者の前に示されていくのだ。
本シリーズは1冊1冊の冒険のエピソードがおもしろいだけでなく、
社会的なことを考えさせるテーマ性も持っている。
また、サンゴロウのルーツという大いなる謎がシリーズを貫く大きな物語として存在し、
それが全体としてのおもしろさと深みを与えているのだ。
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またもや一時間たらずの冒険に出たのです。
医師のナギヒコがサンゴロウに強引に連れていかれた島ではかれは熱が流行しており古い知識だけで女医のクルミが奮闘していた。
住民たちが危険なほどひどく閉鎖的な理由は?
クルミ先生はまたいつか登場するかもしれません。
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『黒ねこサンゴロウ』シリーズ第3巻。
今作はお医者さんのナギヒコ視点です。
《うみねこ族》と《やまねこ族》との確執を描いた物語。
ナギヒコ先生のロマンスに注目です。
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毎回、物語の風景がぱっと見えてくる。
今回も同じ。
先が気になって、どんどん読んじゃう。
小学生の男の子なら、絶対にはまるはず。
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謎の島である、貝がら島で流行っていた病気が、まさかのカレハ熱だったなんて!
ひどく熱い熱が出て、カタカタと震えだすという・・・。恐ろしい
しかも、帰りにサンゴロウがカレハ熱にかかっている事が判明!?
医療器具は、すべて島に置いてきてしまい、医者のナギヒコも手も足も出ない状態に!
でも、精神力で乗り越えたサンゴロウがすごいですね。
丈夫なやつだなあ
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うみねこ島で医者をしているナギヒコは、カレハ熱が流行しているので助けて欲しいというサンゴロウの頼みを聞き共に船で出発した。行き先は無人島とされている貝がら島だったが、そこにはうみねこ族とは宿敵関係にあるやまねこ族が隠れ住んでいたのだった。
種族の歴史的軋轢などを描き、なかなかハードな内容を含んでいます。しかしそれを判り易い文章と、クールなサンゴロウとお人好しのナギヒコのキャラクターの掛け合いによって読み易くまとめられています。シリーズを通して書かれている謎や伏線もチラホラ見えており、続きを読むのも楽しみです。
また鈴木まもるによる挿絵がカッコいいんですよね。
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小学校以来。今回はナギヒコ視点。サンゴロウ視点じゃないからこそ明らかにされるサンゴロウの事情。ナギヒコがちょっと不憫。そしてサンゴロウとナギヒコはやっぱり対称的。ナギヒコは良くも悪くも普通のひとという感じ。この時点で「旅のはじまり」から最低5年は経ってるのか。
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あまり他人(他猫?)と係り合いを持ちたくない主人公サンゴロウですが、ふとしたことから何やら秘密めいた島に行きつきます。それは自らのルーツとも関係のありそうな島でした。
子供に与えていましたが、次第に親の方ものめり込んで来ました。児童書って、シンプルだけど、逆に必要なものだけが凝縮されているかもしれません。
自分も、気に入った船に乗って海に出たい!そう思ってしまいます。
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くろねこシリーズ三作目!今回は前回も登場した島医者、ナギヒコの視点でサンゴロウと共に謎めいた離島に向かう!第三者から見たサンゴロウの自由さとワイルドさが描かれており新鮮な気分だった。また一巻から出ていたヤマネコ族が出てきたり、サンゴロウの記憶喪失について詳しく説明されたりと色々な動きがあった回。ヤマネコ族に関しては色々まだ起こりそうな予感であり、続きを早く読みたい…。