雌雄両性のゲセン人を友に持った主人公は、最後に「愛」を語る
2021/08/13 22:57
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初説明が一切ない「ケメル」って何だと首を傾げるし、男性らしく描写された登場人物に、時折、女性っぽさが見出されるという違和感。カルハイド王国と隣国オルゴレインが相争う惑星<冬>のゲセン人が、雌雄両性の具有種だと徐々に解き明かされる。
NHK番組を契機に何の予備知識も無く本書を手にしたが、著者が女性作家で、アニメ化もされた『ゲド戦記』の原作者だと初めて知った。献辞(「私のとても大切なチャールズに」)を見れば、伴侶(夫)に捧げられた作品だと注意深い読者なら気づくだろう…。
『ソラリスの陽のもとに』(スタニスワフ・レム)や『柔らかい時計』(荒巻義雄)にピンと来なかった私は、アニメ作品に魅せられた『銀河英雄伝説』(田中芳樹)だけは何度も読み返してきた。
『都市と星』(アーサー・C・クラーク)は同じ惑星で異なる文明を築いた都市国家の出逢いがテーマだったが、『闇の左手』は遥かに宇宙を離れた惑星<冬>に「両性社会」を発見した外交使節ゲンリー・アイの冒険記だと言える。
アイ本人が「真実とは想像力の所産」と記し、「(選ばれた事実は)そのいずれもが虚偽ではない、そしてすべては一つの物語なのだ」という言葉が、読了後に重みを増す。
人類同盟「エクーメン」への参加勧誘のためにたった一人で外交交渉に臨んだゲンリー・アイも男らしいが、それ以上に交渉相手の執政エストラーベン卿が不屈の魂を宿した宰相、慈悲深い領主、用意周到な冒険家、信念の反逆者、義侠心の持ち主、友情と愛情に殉じる実に“男らしい”人物だった、そう断言できる。
「読者である貴方のほうが、的確な判断をくだせるにちがいない。しかし物語は一つである」。 アイは「シフグレソル」というカルハイド語に賭けて、亡き友の遺族に間違いなく「愛」を語ったのだろう。
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投稿者:佐々木 葵 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人類が地球のほかにも存在しており、その人類たちで組んだ同盟「エクーメン」の使節として、ゲンリー・アイは惑星ゲセンへやってきた。雪と氷に閉ざされた惑星<冬>。その過酷な環境ゆえに、遥か過去に人類がやってきて放棄した植民地。彼はもちろん外交関係を開き、同盟加入を促すための使節である。まずカルハイド王国をたずね、そこでエストラーベンという実力者に庇護されつつ国王に会える日を待ちつづける。そんな中、アイは惑星を巡る陰謀に巻き込まれていく。
前半はひたすらゲセンの社会や風景を描写する文章が続く。カルハイドとオルゴレインという2大国の様子が、緻密な文章で描かれていき、まるで自分がそこを知っているかのような錯覚を覚えさせる。
しかし見所は後半半分。大勢の人物が登場し、絢爛豪華な王国風景を描いた前半も面白いが、ふたりきりの会話、ふたりの心のうちを淡々と描いている後半が、なによりも胸に響く。惑星<冬>の中でも一番寒く過酷な地域を選び、脱出劇を試みるアイとエストラーベン。その過酷な自然描写、異性人とのたった二人きりの逃避行の中で芽生える確かな友情が、細かに、しっかりと、丁寧に描かれている。そしてエストラーベンの故郷で迎えるラストシーン。エストラーベンという人間の生き様を思うと、このラストシーンには素直に感動できる。真摯な心は、万国共通なのかもしれない。
半世紀も前の……
2022/09/26 04:22
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
それにしては、あまり古臭くなかったです。ヒューゴー賞とネビュラ賞受賞をしている作品。お話は、雪と氷に閉ざされたゲセンという所との外交関係を結ぶためにゲンリー・アイが、派遣されます。そして、ゲセンは、両性具有人の惑星で……というお話。
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まさに傑作ですよね。「盗んだ」と一言けろっと言った彼は幸せだったのだろうか、と、この話も切なさが記憶に残ります。
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この本を読んだのは20年以上前。性を超えた魂の恋愛だと思う。かなり後になって、ルグインが女性だと知りました。
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異星どうしの交流を計る「使節」の主人公が降り立ったのは、気温が常に氷点下の冬の惑星「ゲセン」。
雌雄同体のゲセン人たちの独特の文化、厳しい自然、ただ語り合うことしかできない主人公は、そこで愛とも友情とも言える絆を紡いでいきます。
とにかく冬の描写が圧巻です。戦闘もロボットも出てきませんが、切なくて奇麗なSFです。
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これは私がヨコシマに走る元凶だった気がする。ル グィンはブラッドベリと似て非なる魔法使いです。女史の作の中でこれが一番心に残ります。だからさー、じぶりはゲド戦記なんか手を出したらあかんよ・・・。重くしたいなら自作で。原付は軽いので行くべきと思うんだ。
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間違いなく傑作。ゲト戦記を中学生のときに読んだぶりの体験でしたが、より深いところでの他者とのつながりを実感できる醍醐味は、ほんとたまりません。
冬の惑星の風景がいまの季節に合っていてよかったです。
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心のバイブル。運のわるいほう(いいほう?)が妊娠すればいいのだ!とよく思うので、ゲセンの郷の習慣はとてもよさげに感じる。
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男性女性を問わずSFの書き手としての第一人者の一人、アーシュラ・ル・グィンの代表作。
光は暗闇の左手、暗闇は光の右手。生と死や男と女、対立する概念の和解への道は?
テーマは深遠だが、グィンが構築したゲセンと言う異文化、異質な土地、両性を行き来する原住民等々の設定は魅力にあふれ且つ確固としていて、テーマをより際立たせると同時に良質のエンターテイメントともなっている。
両立の難しい両者をうまく両立させた稀有の書である。
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アーシュラ・K・ル・グィンの本はどれも好きだが…特に思い出深い一冊。今は手元にないがまた読み返したい。
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宇宙連合(エクーメン)は、遥か昔に放棄した各植民惑星を訪れ、再び外交関係を築こうと使節を送った。
その1人として、惑星<冬>を訪れたゲンリー・アイと惑星ゲセンの人々の駆け引きと触れ合いを綴った話。
前半はゲセンの世界感の把握に時間がかかり、まさに「未知の世界」に取り残されたように感じる。ゲセンの人々から地球人を見たら逆にこのように感じるのかもしれないと想像した。
後半は前半のもやもやが一気に解消するような展開。
危機(二人だけで氷原を渡る旅)を共にしたゲンリーとゲセン人のエストラーベンの間に友愛が生まれる過程が、二人の視点でそれぞれ描かれていて、女性作家の細やかさを感じる。
時折、ゲセンの伝説や第一次調査隊の考察などが織り込まれ、それが物語りに奥行きを与えている。
だた、最後の展開が重く、いい作品ではあるが、再び読みたいかどうかは微妙だ。
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●古典的傑作として名高いSFなので、お勉強がてら読みました。こんなお話。↓
●銀河の端っこにある惑星に、宇宙人類平和機構的な組織から派遣された使節(※主人公)が、「うちの組織に入りませんか〜?」と勧誘するものの、そこの惑星の皆さんは「は?(゜Д゜)」程度のうっすい反応。そのうち、使節(※主人公)はその惑星の中にある国家間の争いにまんまと利用されることに。
そして、「とりあえず抹殺しとくか?」と判断された使節(※主人公)は、隣国で謀反人として処断されていた元首相と脱走し、寒くて死にそうになりながら、はるばる惑星の極地を横断する羽目になるのでありました・・・。←あながち間違ってはいない。ハズ。
●SF的ポイントとしては、その惑星の人々が両性体であることとか? そして、架空の惑星における自然や文化の描写はさすがです。さすが御大。
●しかし、読んでてしみじみ思ったのは、今更ですが「異文化間の相互理解は難しい」と言うこと。それでも元首相&使節は、限界状況の中でお互いに理解しようと努力し、友情を育んでいくのでした。や、バカにしたらあきまへん。ほんとにいい話なんだから。泣きこそしなかったが、胸に迫るもんがあった。友情だよなあ。いや、友愛?
そんな友情を味わいたい人に。←は?
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訳文の良さも無論あるのだろうが、一行ごとに開ける世界の鮮烈さに息が詰まるほど。壮烈にして凄絶。真冬になるたびに必ず読み返す。エストラーベンが「愛国心」について語る言葉は深く豊かだ。わたしのなかで特別な位置を一生保ち続けるであろう一冊。
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『ゲド戦記』のアーシュラ・ル・グィンの代表作と言ってもいいでしょう。
SFですが、それほどむつかしい設定は出てきません。
『ゲド戦記』でもそうですが、ル・グィンは人間心理や社会を描く作家だと思います。
子ども向けとは言えない気がします。
この作品で描かれているのはジェンダーや社会学です。