紙の本
あくまでも「学問」でした。
2011/09/02 07:57
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投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
もう20年くらい前になるかもしれない。「JAF」の雑誌で、渋滞の原因のひとつに、「サグ」というものがある、という記事を読んで非常に興味深く思ったことが記憶になる。サグって、つまり緩やかな(気づかないくらいの)上り坂にさしかかる個所、ってことで、無意識に車のスピードが下がることによって、ある程度の密集度のある状況だと後続の車が次々にスピードダウンしてブレーキを踏むようになって、結果渋滞が...ってことだった。当時に比べれば、「上り坂。速度注意」っていう標識があったり、もっと大きな原因であった料金所が、ETCの普及によって緩和されたり、かなり「取り組み」はされているんだなあって改めて思う。
そんなこんなで、車を運転する身になって考えて、この「渋滞のメカニズム」的なものには興味がある。「学」門としてあるとは知りませんでしたが、精神的な意味も、或いは時間コストという観点でも、渋滞は基本的に回避したい、というのが万人に共通している「問題点」である以上、それを解決するための研究が存在するのは当然だろう。
本書はその課題に取り組んでいる著者が、車だけではなく、人間そのもの、アリ、インターネット、たんぱく質、などさまざまなフィールドにおける「渋滞」を、簡易にしたモデルを使って「解説」してくれるというもの。著者自身が本書で述べているように、専門家向けの論文ではなく、一般向けに「やさしく」説明してくれているものである。が、やはりそこは「学問」であり「専門家」「科学者」であるので、途中から「難しさ」が、「(渋滞への)興味」をはるかに上回るようになってしまって、結構読みこなすにはパワーが必要。インターネットの例あたりで、専門用語(専門家にとっては「一般用語」扱いかもしれないけれど)の比率が多くなってきて、後半はアタマに入らなくなってしまった...
アリの行列にも「渋滞」が生じる、という話や、電車の「幅広ドア」などの取り組み、など面白い話もでてくるので、読めるところは読めます。「学術書」ではないので、興味がより深ければ読み切れたのかも...ちなみに東京メトロ東西線の幅広ドアは、個人的には嫌いですね。ドアの開け閉めに余分な時間がかかるし、すいている時間帯に席の少ない幅広ドア車両がくると気分的によろしくない。
都心と空港を結ぶリムジンバスが、GPSとリアルタイムの渋滞情報を利用して「管制塔」のようなコントロール機能によって、高速を使ったり一部一般道を使ったりして時間通りの運行を実現している、という話は面白いし、こういう取り組みが実行されることが「学問」の在り方だと思いますねー。
「渋滞学」自体が新しい分野であり、従来の他の分野との「横断的な」取り組みであることを強調されています。これは大事なポイントかもですね。渋滞は誰でもイヤなもの。外的環境に左右されることは多いし、そもそも心理的な要因が多いと思いますが、こういった課題に取り組む姿勢は、なんだかかっこいいと感じます。
【ことば】...砂時計で1分を正確に測るのに必要な砂の量や容器の形を理論的に計算することすらまだ誰にもできていない...実験と経験と勘によって作られている...
「へぇ~」って感じですねー。昔はいざしらず現在ではもっとも「科学的」に作られているのだと思ったら...科学でも越えられない「経験」って価値があります。こういうのがあるから、おもしろい。
紙の本
予想通り。
2021/12/26 13:57
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『渋滞学』と題された本書は実に多岐に亘る渋滞について著述されています。渋滞と言えば、真っ先に思い付くのは車の渋滞ですが、それに限った事ではありません。アリの行列、出口に集中する人の流れ、インターネットのパケット通信、航空機の離着陸、砂時計の砂の落下、脳の神経伝達、火事の延焼・・数多くあります。
本書はこれらの中の幾つかをピックアップして数学的な或いは物理学的な視点から詳しく述べています。故にちょっと難解な箇所が散見されますが、その様な箇所は流し読みしても大丈夫です(私は流し読みしてしまいました)。
車の渋滞原因は言わずと知れた『サグ』なので(約30%というトップ原因である)、サグの解消法についての詳細を本書に期待すると、その期待は外れてしまいます。もっと広い範囲・分野での渋滞の実状に関心を持つ場合に本書は有効だと思います。
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大げさかもしれないけど、自分にとってこの本は衝撃的な一冊だった。工学的な渋滞という問題に対し、そこから共通点を見つけ出し分野横断型の新しい学問の創出をしてみせている。 ニュートン力学と非ニュートン力学の違いを明確にして自己駆動粒子を定義し、セルオートマトンの一つであるASEPというモデルを利用して様々な渋滞問題にアプローチしていく姿は、まさに学問の素晴らしさを物語っている。また、理学・工学の本質にも焦点が当てられているので、とてもためになった。
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セルオートマトンと呼ばれる計算の難しい自然現象の模型の作り方とそれを応用すると面白そうな分野への解説。わかりやすい科学啓蒙書。
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渋滞については、いろいろ実験や考察がなされているらしい。
しかも結構わかりやすい単純なモデルで表現できるらしい。
道フェチとしてはかなりおもしろかったが、途中で挫折してしまった。
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交通渋滞はなぜ起きるか、それ以外でも人ごみの仕組み、蟻はなぜ一列で歩くのか、そしてインターネットの渋滞まで。さまざまな渋滞についての多面的な考察がおもしろい。
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「渋滞学」っていうと、何それって言う感じですが、奥が深い。題名から待ち行列のように感じますが、その適用範囲は広く車の渋滞からネットワークの輻輳まで扱っています(車もネットワークも同じようなものですが)。
渋滞と名の付くものの原因および解決方法が列挙されていますが、やはり原因の部分がなぜこうなるのかという部分を丁寧に書かれているので、非常に面白い。
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「なにやってんだよ」。高速道路で誰もが体験したことのある、あのワケがすっぱりとわかる。渋滞は、科学(化学?)反応なのだ!
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ある状況下では渋滞は必ず起きる。それを数学的な簡単なモデルで示す。条件を変えるとどうなるかを調べる。頭の中の実験場でモデルを動かす。結果を見る。渋滞が起きる。もしくは渋滞にならない。その変化の起きる条件を導き出す。こうして少しずつ渋滞が起きる原理をつかんでいく。
面白い本だ。待ち行列なんて考え方が私がまだ学生の頃に登場した。それが少しずつ変化して、手法を加えて、渋滞学になった。さらに、様々な分野で、どういう原理が働いているのかを解明するための手法として使われ始めている。面白い。神経の中の物質の動かし方、山火事の広がり方、ネットワークでのトラブル。様々なところへの応用がすでに始まっている。うん、面白い。
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渋滞の可視モデルの話や、物質の液体、固体のように、渋滞にも相があるという話。自然渋滞はなぜはっせいするのかなど。
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どのような条件がそろうと渋滞が起きるのかが、「モデル」や実験に基づき解明されている。渋滞と一口に言っても、交通渋滞、人の混雑、アリの行列、コンピュータのパケット送信・・と様々な渋滞が扱われている。
個人的にもっとも興味がひかれたのは、交通状態の章。
平均速度×交通密度=交通流量という公式に基づき、流量を縦軸に、密度を横軸にしたグラフを用意する。そのグラフに、実際の高速道路で観測したデータをプロットしていく。そして、そのグラフから、渋滞のメカニズムを探って行く。
私自身は、このようなグラフを読み解くことに不慣れだ。縦軸が金額で横軸が時間、というようなグラフは見慣れているが、流量と密度が軸になったグラフを見たとき、それがパッと何を意味するか理解できない。そこで、スピードを落として説明を読むことになる。しかし、本書では、常にわかりやすい説明がされていて、1、2度読めば意味が必ずわかった。
交通渋滞のメカニズムを探る過程を読みながら、科学者の方がどのような思考展開をしているのか、ちらっとだけど垣間みることができたような気がした。その意味で、なぜ交通渋滞が起きるのか?に対する答えそのものだけでなく、その検証の過程の説明を読むのがとても楽しかった。
科学者の方で、説明が上手な方というのは、明晰な頭脳とそれを伝える力の両方を持っている訳で、西成先生のような説明の上手な科学者が日本にもっともっと増えるといいな。
※知識をたくさんいただき、内容もわかりやすく楽しめる1冊でした。
私の★の付け方の基準は、「私の考え方にどれだけインパクトを与えたか?」にしたいと思っているので、その意味で星3つです。
読んだ日: 8月13日
読んだ場所: 平塚→東京の東海道線内
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星を4にするか5にするか迷ったけど
とりあえず5で
世の中には「相転移」と呼ばれる、秩序とも無秩序とも言えないような不思議な状態がある。
本書はそれをASEPと呼ばれる数理論を用いて行なわれた研究を一般人向けに書いてくれた大変ありがたい本である。
ASEP自体は1970年代くらいにはもうあって、自分の研究室の教授もこの理論でその頃には人の行動モデルの作成を行なっていたようだから特別に新しいわけではないようだが、それがここに来て一般に知らせられるほどの成熟と他分野、ネットワーク論やパーコレーション論などとの相性の良さや、扱う問題の共通性によって注目を集めているようだ。
実際に80:20の法則で有名な「ベキの法則」に始まり、スケールフリーネットワークなど、現在のホットな話題の陰には「相転移」という状態があり、その情報の受け渡しシステムがどのような仕組みになっているかを知るには非常に便利な本と言える。
渋滞とはブレーキを踏むと言う情報の連鎖の結果である。このときネットワークが密である事で情報は後方に伝わって行く、そして情報とは機械情報・日常情報でなければ、そこに観察者の解釈が加わる、その解釈によってブレーキ量は変化していって最終的には渋滞にまで到達する。ようは、伝言ゲーム
スケールフリーネットワークとはまさに密な「小さな世界」を構成するネットワークである。そこに流れる情報は伝言ゲームのように伝わって行くものである
その仕組みを理解する一つのアプローチがここにあると個人的には思っている。
一般の人に対して分りやすくを心がけたと言う筆者の言葉は非常に良く伝わってくる。
ぜひとも、一度読んで欲しい本であるし、買って欲しい本である。
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自己駆動粒子という自由-『渋滞学』
http://d.hatena.ne.jp/kojitya/20100428/1272405002
http://d.hatena.ne.jp/kojitya/20091127/1259291863
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読んで良かった。大学院へ行って研究を続けるモチベーションをくれた本。
将来立派な研究者なれたら、「この本が私の人生を変えました」と言うと思います。もし研究者になれなかったとしても、やはり同じ事を言うと思います。
セル・オートマトンを用いて車の渋滞を説明するモデルを提示。シンプルなミクロの動きが不思議なマクロの現象を導く、複雑系の世界に触れられる。経済への応用についても少しだけ触れられているが、そこはあんまりピンと来ない。そこまでやられてしまってはこっちは商売上がったりなんですが。
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先日読んだ、同著者のもうちょっと詳しい本。
たまたま今日、明石歩道橋の事故の判決が出てましたが、あの事故についても語られてて興味深かったです。
渋滞が起こるメカニズムはわかってきたけれど、じゃあ渋滞をどう解消するのか、というのはまだまだこれからの分野。
実生活に密接に結び付いた研究は面白い。