リアリティラインが自由自在な6編
2024/09/11 16:31
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投稿者:ブラウン - この投稿者のレビュー一覧を見る
寿命の定まった世界を舞台に初っ端から惚れ惚れするような老婦人を見せてくれたかと思いきや、トンチキ与党がデブ抹殺バラエティ番組を国営メディアに生中継させたり、数学禁止令のある異世界物があったり、夏休みの自由研究にほっこりさせておきながら悲観を一つまみ加える匙加減にくだをまき、フェルミのパラドックスを文明から孤立した島に託し、表題作で締めくくる……。一見バラバラな短編集だが、最後に表題作を持ってくることで、作中に散りばめたキーワードがワッと豊かな世界か芽吹いてくるようだ。
ディストピアで生きる少女たちを描くだけあって、どの作品もどこか素直に喜びきれず、しかしビターな読後感が心地よい。絶望に寄せる薬は思いのほか豊かなのだろう。次世代へ継ぎ、皮肉に笑い、喜びに触れ、先達らの知識に触れて考え、打ちひしがれた後に諦めきれなかった人の影を追うように未来を向き、もしもに慰めを見出す。
……かなり自己陶酔しながら浮かんだ感想でお目汚しして申し訳ないが、もしこれを読むあなたの心が塞がっていて、琴線に触れるような内容があったら、ぜひ読んでみて欲しいと思う。
世界は暗い予感に満ちている
2023/01/15 08:54
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投稿者:yukiちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
収録作の6編はすべて、語り口は柔らかいもののバッドエンドに満ちている。
人類の寿命は定められたままだし(「65歳デス」)、人類は宇宙生物に捕食される運命だし(「太っていたらだめですか?」)、元の世界に帰ってきても数学の点数は劇的には上がらない(「異世界数学」)。
どんなに頑張っても食卓に秋刀魚が乗るわけでもなし(「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」)、少女はブラックホールからのがれることはできない(「ペンローズの乙女」)、ゾンビの病原体はきっと世界を滅ぼす(「シュレーディンガーの少女」)。
読後感は、「何だかつれえな。」ってのが本音。
でも収穫もあった。今までどうにも謎で仕方なかった「シュレーディンガーの猫」と「ウィぐなーの友人」について明確な説明がなされていたこと。
そうだったんだという納得の説明を得られた。
2020年の発表にはまだ追いつけていないが、少しずつ勉強していこうと思う。
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ディストピア小説です。共通の世界の様々な時代で物語を作っています。決してやさしくない世界。その中で生を模索するそんなお話たちです。
個人的には巻頭作の「六十五歳デス」が好きかな。65歳くらいでもれなく人が死んでしまう世界。技術が継承されずに世界が衰退してく様がリアルです。
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#ヨンデルホン
#シュレーディンガーの少女 / #松崎有理
#創元SF文庫
#ドクリョウ #ヨミオワリ
六編とも、おもしろかった。もっと早くに読めば良かった。アニメで観たい気がする、「松崎有理劇場」的な。他の作品も読んでみたい。
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『あがり』以来久々の松崎有理氏。好きだ。
『65才デス』題名、ヘビメタですか。
この、遺伝子は残さずに、技だけ残すって、憧れかも。高校の家庭科の授業で、人生計画を立てなさいと言われ、この手の養子をもらう計画を書いて、こっぴどく叱られたのを思い出した。
『太っていたらだめですか?』BMI38って大したことないじゃん。って思ったらダメなんだろうけど、170cmで110㌔なんて、結構いるんじゃないかな?リングネームが太る原因を指していて、自虐的に笑った。健康的に長生きすることってそんなに大切なのだろうか?考えさせられる。
『異世界数学』胡蝶の夢系の話。
「一握りの数学者を発見するためのフルイが受験数学だ」という説を聞いたことがある。その通りだと思うし、私はフルイからこぼれてしまった。が、この話は、受験数学と数学の面白さは別だと教えてくれる。中学受験の縛りのキツい数学問題が好きでもOKと。
『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』人と瞬時に繋がれる世の中の宿題のやり方。なるほど。環境のお題があればこその発想か。
『ペンローズの乙女』自己犠牲ものは苦手。
『シュレーディンガーの少女』パンデミックをこう利用するとは。さすが、松崎有理氏!どの話が現実なのか混乱させるところまで、他世界解釈?
他にも、何冊か間にあるみたいなので、買おうと思う。
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SFの短編集で、作り込み度の高いSFというより、簡単なタラレバの世界観で一話一話構成されていると感じられる小説だった。SF小説の導入として読むのにおすすめです。
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個人的には『ペンローズの乙女』がお気に入り。
視点が行き来するので最初は面食らったが、収束していくのが気持ちよかった。皮肉なラストも切れ味抜群。
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数学や物理学などの理系ネタ、アカデミックディストピアが得意な著者、待ってましたの文庫オリジナル短編集はディストピア×ガールがコンセプトの詰め合わせ。「六十五歳デス」と「ペンローズの乙女」はウェブで発表されたときに読んで気に入っていた作品。他の未読のを読むのが楽しみ♪ カバーもかわいい♪
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12月にでてすぐに買っておきながら、なかなか読み始められなかったけれど、仕事が一段落して、読み始めてみたら厚いのに(既読作品あるとはいえ)あっという間に最後まで読んでしまった。再読した「六十五歳デス」はやっぱりかっこよくてよかった。「ペンローズの乙女」は壮大に切ない。
「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」は小学生の夏休みの自由研究の話、マイルドな内容なので小中学生読者の(松崎作品?SF?)入門用にもおすすめ。
初読の「太っていたらだめですか?」「異世界数学」「シュレーディンガーの少女」もそれぞれおもしろかった。女子高生が数学の禁じられた王国にトリップしてしまう「異世界数学」は安野光雅の挿絵が脳内に浮かぶ世界だった。数学苦手派にも数学好きにもそれぞれにおもしろく読めるのがいい。「シュレーディンガーの少女」は「シュレーディンガーの猫」の思考実験や量子自殺という考えについてけっこう勉強になった。フレンドAI藍がほしくなる。
6篇それぞれがまったく違うディストピアでありながら、ちょこっとずつ重なり合う設定があったりするのも楽しくてよかった(わかりやすいのは「おねがいモラヴェック」だけど、他にもこまごまと…)。
文身(ぶんしん)=彫りものというのはこの本ではじめて覚えた。
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ただの短編集と思いきや。長年のミステリ読みの習性で、知らない言葉を素通りできないタチ。「モラヴェックって何…?」
でも連作集ってわけでもない。
最終話の紅の屋敷にあった、カダレの著作とフジタの版画は、冒頭話の紫のアパートへ受け継がれているようだから、輪になってるのねー。
あと、ちょいちょい出てくる、手のひらを象ったマークも印象的。
チョイ役の銭形警部みたいな警官の名前が「菰野」=小者?ぷぷぷ。
「◆粒子」とか「◆力」とか「◆子」とか「◆覚」とか「◆波」とか、絶妙なネーミングセンス。でも、今日びの細っいフォントの中で、ベタ塗りの記号って悪目立ちしちゃう。「◇」のほうが良かったかもね。
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「本書のコンセプトは『ディストピア×ガール』です」と著者あとがきにあり、まさにその通りの短編集。ディストピアを描いた小説には耐性があるんだけれど、残酷描写はとても苦手なので、正直読むのがつらい箇所が多かったです。でも読み終えられたのは、ユーモアもあるから。魚を見るのも食べるのも好きなわたしは、『秋刀魚、苦いかしょっぱいか』が一番楽しんで読めました。
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東京はトーキヨーなのに、日本橋は日本橋で渋谷は渋谷なんだな…
ネタはすごく好みなんだけど、イマイチ入りきれない世界観で残念。
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洗練された科学啓蒙読み物と言おうか。ブルーバックスあたりでおなじみの数学トピックが乱れ打ちで、数学嫌いの偏見を解きほぐそうとする「異世界数学」が典型だけれども、「ペンローズの乙女」や「シュレーディンガーの少女」もコアになる最新科学のトピックを素人に優しく解説するためのお話と言われたら、なんとなくしっくりきませんか?ってそんな感じ。そんな中、カッコイイおばあちゃんを描きたかったと作者さんが語る「六十五歳デス」が異色で愉しい。
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もしかして松崎有理(単独の本)を読んだのは初めてじゃないかな。これまで各種アンソロジーで、単発の短編を読んだことはあるが、一本筋の通ったテーマ(ディストピア×少女)で文庫本に纏めたことは実に興味深い。
プロフィールを見たら、なんと大学の後輩だった。しかも水戸一高出身とは王道の進学コースだな。理学部という事だから、典型的かつ完全なる「リケジョ」。他の作品のことは判らないが、リケジョのSFであれば、作品に科学的なバックボーンを必須で入れ込んでいるだろう。マニアには確実にうけるが、一般人に対してはそれが足枷にならないか少々心配。まあ、SF小説だからSF好きな人に多く読んで貰えればそれで良し、何ら問題ない。変に、百合とか、ジュブナイルとか、アニメとか無理に意識・迎合しなくても構わない。女性ハードSF作家でいいじゃん、いや、今の時代、女性という冠を付けちゃいかんな、反省!次は東京創元社創元日本SF叢書01の「あがり」を読もうかな。
それでは、謹んで各作品の書評を記す。
〇 六十五歳デス
老いてある歳になると死ぬという設定はこれまでにもいくつか聞いたことはあるが、死ぬまでにやることのノルマを自分に課すという考え方が面白い。計画的に死を迎えるって、ちょっとパッシブ人生だけど、ここでは死ぬ直前に急に目標ができて、その達成(育成)に奔走するというのが実にドタバタSFっぽくてワクワク感満載だ。すごくテンポよく話が進むのも好感が持てる。読み終わった後に、爽快感が次々に押し寄せてくる感じがして、とても素晴らしい作品だと思う。
〇 太っていたらだめですか?
短い作品であるが、これもドタバタ活劇SFで、読んでいて本当に楽しい。現代の会社の健康診断でBMI測定は必須である。生活習慣病は企業の悪、幹部候補生は体調管理の一つもできなければ部下も管理できないという論法、これがどんどんエスカレートすれば太っているだけで解雇という社会がやってくるのは頷ける。これこそ、ディストピアの真骨頂かな。ただ、最後の地球外生命体の1ページは余計だな。なんか、取ってつけたような星新一ワールドで、作品全体が白けてしまった。そんなどんでん返しはいらん。本当に残念だ、実に勿体ない。
〇 異世界数学
リケジョ全開パラレルワールド。イケメン俳優が出演するテレビで頻繁にやってる時代劇パラレルワールド歴史改変に近いものがあり、ストーリーはその線上にある。もちろん数学の面白さを織り交ぜるのは知的でハードSFっぽいが、数学にあまり詳しくなくても数学の雰囲気を嗅ぎ取れるようにしているのは読者にとても優しい配慮だ。
話は逸れるが、松崎有理の「有理」は数学の有理数から来たのか?名付け親に確認したい(余計なお世話と言われそう)。
〇 秋刀魚(さんま)、苦いかしょっぱいか
夏休みの自由研究は小学生だけに与えられた足枷・苦行。これを始業式までに完成させなければならないのは小学生の宿命。今、夏休みの自由研究って必須なのだろうか。もしかしてこれを設定している小学校はほんの一握りではなかろうか。であれば、これが未来社会だったら、悪しき伝統はとうの昔に廃止されていないかと、まず考えた。こう考えてしまうと、作品の面白みが半減したような気もする。一方、夏休みの自由研究的授業を中心にしている学校(個性を伸ばす学校という謳い文句)も実際ありそうだが、それはそれで毎日締め切りに追われる授業ばかりで疲弊してしまいそうだ。
食品プリンターはもう実用化されているし、人工肉もそろそろ実用化しそうだし、人口イクラと天然イクラを判別できるガクトみたいな人は超レア人間として祭り上げられる。基本的に匂い成分というのは低分子有機化合物の混合物だから、成分データと物質を揃えばどんな匂いでも再現することができている。なので、このお話は技術的には近未来の話ではなく、あと5~10年以内に実用化できる話。いや、行列のできる名店の味は実際にインスタント食品で再現できている。だんだん、こんがらがってきた。
余談だが、広瀬川の河原で行う芋煮会は楽しかったな。そう言えば、会社の独身寮にいる東北大卒の若手社員が中心になって、荒川のキャンプ場で芋煮会が開催され、私も飛び入り参加した記憶がある。みそ仕立てと醤油仕立ての対決だと言っていた。どちらが宮城芋煮か山形芋煮かは忘れてしまった。
〇 ペンローズの乙女
仙台の流行作家、伊坂幸太郎を彷彿とさせる複数同時進行ストーリー仕立てで話が進む。どうせ最後に一つに纏まるだろうなと思いつつ読み進めたら、纏まった様な、纏まらなかった様なエンディング。
〇 シュレーディンガーの少女
何かイベントがある時だけパラレルワールドが分岐して発生すると考えがちだ。つい先日に読んだ伴名練の 「二〇〇〇一周目のジャンヌ」も同じ考え方。しかし私は、通常の生活でも、例えばある時間に特定の一個の赤血球が心臓から肺に行く世界と脳に行く世界とでパラレルワールドが出来上がってしまうのではと考える。更には、宇宙から来た特定のニュートリノが地球を素通りする世界と、不運にもカミオカンデで補足されてしまう世界とでパラレルワールドが出来上がってしまう。何をイベントと見るか、どのようなタイムスパンでパラレルワールドが生成するか、そう考えただけで無限の無限乗の世界に世の中は分岐しているのではないかと考えてしまった。自分や自分の周囲だけでもとんでもないパラレルワールドができているのに、宇宙全体ではどれだけのワールドができているのか、と思うと夜も寝られません(古い)。
基本ストーリー設定の話はさておき、既に松崎有理の世界観はしっかりと確立されているので、あとは方向性をどのように発展(ハードSF?ソフトSF?それともそれらに拘らない?)させるかは御本人にお任せするしかない。頑張って!
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2023-01-11
リケジョ松崎有理による、ディストピアxガールズ6編。個々の作品に繋がりは無いが、AI名称が統一されてたりする。(モラヴィッツって(笑))
世にも奇妙な物語にありそうで、文章でしか語りえない所に持っていくセンスはさすが。だいたい想像した範疇で進んでいくので、誰でも読みやすいでしょう。
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未来の日本。はたまたパラレルワールドのニポーンか。いづれもディストピア世界を生きる女性を主人公にした短編集で、佳作ぞろいと言ってよいだろう。
特に気に入ったのは、最初の「六十五歳デス」と最後の「シュレーディンガーの少女」。どちらも生と死を扱っている短編である。味わいと余韻を残す作品。
著者はいわゆるリケジョであり、パートタイムの作家である。もっと作品を出してもらえると嬉しい。