紙の本
青山文平の真骨頂
2023/03/30 18:03
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投稿者:スマートクリエイティブ - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作「やっと訪れた春に」に続き、古き時代を背景にして人間を描いた作品。北重人が逝き、乙川優三郎が転向してしまい、最後の砦。
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本好きにはうれしい時代小説
2023/06/22 16:57
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『本売る日々』なんて、なんともうれしくなるタイトルじゃないか。
青山文平さんによる時代小説で、
表題作である「本売る日々」と「鬼に喰われた女(ひと)」、
それに「初めての開板」の三篇からなる連作短編集だ。
時は文政の御代。西暦でいうと1800年代前半、
ちょうど町人文化が発展した頃。
主人公の私(平助)は本屋の主。
店を構えていても、月に一度は「城下の店を出て、在へ行商に回る」、そんな商い。
この本の表紙挿画(村田涼平さんの作品)は、
梅雨空の下、田植えをしているそばの道を大きな荷を背負って歩く
主人公らしき男が描かれていて、
これもまた感じがいい。
三篇の作品ではやはり冒頭の「本売る日々」がいい。
主人公の私の今のありようが簡潔に描かれ、短編集の骨格を描きつつ、
村の年老いた名主が孫ほど年の離れた娘を後妻に迎えたその心情を
巧みにとらえている。
単に人情話に終わるのではなく、
この時代の書物の幾篇かをうまく物語に埋め込んでいく。
そのあたりの手触りが、本好きにはうれしい。
そして、猫。
「ヤマ」と名付けられた猫もまた作品の中で重要な存在となる。
そういえば、表紙挿画にも本屋のあとを猫が一匹歩いている。
紙の本
本の行商人
2023/05/11 21:57
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代は、江戸時代です。本を村々回って売る話。オール読物に連載中、少し読んでいましたが、やはり、まとめて読むと違う印象です。中でも名主が若嫁の盗んだ本2冊を買い取ると言い出す話は、裏に何があるのか……
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【柴田錬三郎賞&中央公論文芸賞受賞の著者、最新刊!】本屋の私が行商に出向いたのは、孫ほどの娘を後添えに迎えた名主宅。披露した画譜が無くなり、彼女が盗んだとしか思えないのだが…。
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焦りから少なくない借金を背負うことになり、稼ぎを増やすため本を売る行商として様々な地をまわっている平助
本当に本が好きで好きで、どうしたって雑には扱えずごまかして接することもできない、商売人としては真面目過ぎるのでは?と思うほど
その誠実さが、同じく本の愛好家に好かれ信用されるところなのだろう
その繋がりのおかげで夢の版行まで辿り着けた最後は良かった
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江戸時代・文政期、学術書の行商で、村の寺、手習所、名主の家を回る本屋の目を通して、顧客たる名主(庄屋)との「知の交流」や彼らの暮らしぶりを中心に描く。
主人公は「松月堂」という屋号の本屋を営む平助。彼が扱うのは浄瑠璃本や草双紙などの流行物ではなく、仏書、儒学、国学、医書といった「物之本」(学術本)だ。
顧客たる名主には国学を深く研究し、塙保己一が著した「群書類従」全666冊を購入したいという剛の者もいる。また、蔵書が2300冊を超える名医もいた。
絵画集や和歌も含め様々な学術書や専門書に関する書籍談義には距離感を感じたが、エンターテイメント性のある3つの物語で成り立っているので読みやすかった。
第1話「本売る日々」は、71歳で17歳の女郎上がりの娘を後添えにした小曾根村の名主・惣兵衛の話。娘の罪を資力でかばい、彼女を護ろうとする惣兵衛の想いとその本気度を知った平助がある提案をする。
第2話「鬼に喰われた女」では平助が東隣りの国にある八百比丘尼伝説について尋ねようと名主・藤助のもとへ向かう。その途中、身に降りかかった怪異な体験と、藤助が語る恋する女の50年に及ぶ復讐劇の真相に関する話。
第3話「初めての開板」は100頁弱にわたる長い話。平助の姪っ子が逗留先で持病の喘息発作を起こし、城下の町医・西島晴順の治療を受ける。この医者は名医のようだったが、過去の評判はよくなかった。彼が日本一の名医として名高い小曾根村の60過ぎの医師・佐野淇一との交流があったとされることから、平助はその関係や、晴順がなぜ変化したのかを調べる。その過程で、淇一が含蓄のある言葉を語る。「村医者は町医と異なりなんでも診なければならない」、「医師にとって書物はすこぶる重要」、「私は学者ではない。実地診療に携わる者」
そして、実地診療で着想を得た口訣に触れる。この口訣を集めた書物を巡って晴順が過去に取った行為を暴露するという内容になっている。
第3話では、医師にとっての医書の重要性、手軽な解釈書ではなく原典の研究が大事といった当時の医療に係る奥の深い話と、村の豊かさに貢献する淇一の姿勢に感銘を受け、読みごたえもあった。
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城下に店を構え、四日ほどかけて二十ほどの村を行商して回る本屋、松月堂の主人平助が主人公。
行商でまわるのは村の名主や寺や手習い所。そこで出会うさまざまな不思議で不可解な出来事たち。平助が「本屋」としてその不思議を解いていく。本屋ならではの視点、本屋ならではの解釈。
本を扱うものとしての平助の姿勢に思わず背筋が伸びる。それが主ではないけれど、同じ世界にいるものとして本を売る者としての矜持に打たれる。平易に流される我が身を深く反省。
得意先の主人に起こっている出来事、我が身に降りかかるわけでも巻き込まれているわけでもないのに、本屋として、本を扱うものとして、どうしても関わらざるを得ないその、不思議不可解な出来事。
真摯に向き合うその姿勢。
「本」というものが持つチカラ。「本」を作り出すことの意義。「本」を手渡すことの意味。
本に関わる者全ての必読書。
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文化文政期に「物之本」つまり仏書・儒書・史書・軍記・伝記・医書や、和古典書(純文学)を扱う書物問屋の主人で、城下町に店を持ち、農村地帯の寺や手習所、名主の家を行商している松月平助を主人公にした3つの短編
「本売る日々」平助の得意先で篤農家の名主・惣兵衛の後添いは孫ほど年の離れた遊女上がりの少女だった。
「鬼に喰われた女」御取潰しになった元藩士に裏切られた娘は八尾比丘尼(人魚の肉を食べたことで不老長寿になった比丘尼)になり・・。ちょっと趣の違う幻想譚。
「初めての開板」かつて優柔不断だった町医者が、なぜ今は名医と言われるようになったのか?
良いですね。
分類するなら人情もので、地方の城下町で硬い本ばかり扱う勉強家の本屋を主人公に据えたのが秀逸です。
青山さんの鋭すぎる文体は武家物にはピッタリですが、人情ものになると少し違和感があります。さらに青山さんのストーリーにはしばしば「そこまで決めつけるか?」と思う偏固さが有って、人情ものとは言えあまり柔らかく無いのが特徴です。ただ、それらはちょっとした異物感で、それ自身が悪いという訳ではなく、個性と言えなくも無いのですが。。
そんな中で、最後の短編「初めての開板」は登場人物の心の広さや前向きな姿が心地良い、私の好みの作品でした。
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時は江戸時代。
城下に店を構える私は毎月二回、在へ行商に回る。
そこで出会う人々との関わりと、本への想い、人の情。
謎解きあり、怪異あり、当時の生活と文化ありの3つの連作。
・本を売る日々・・・71歳の名主、弥兵衛が17歳の娘を嫁に?
里になる山葡萄は自由に摘める森の山葡萄とは違う。
あなたが変われたように、彼女を変えるのは、あなただ。
・鬼に喰われた女・・・東隣の国の八百比丘尼伝説を尋ねようと、
向かう途中で出会った怪異。伝説を知る名主が語る
真実は、50年の恨みか?それとも。
・初めての開板・・・隣国の姪が治療を受ける町医者は良医らしい。
が、過去の人物像との違いは?名医と名高い村医者と
交流することで、町医者の変化の境界を知る。
借財があり、自分は一介の業者で、これは商いだと嘯く私。
だが、物之本に対する想い、本に関する知識、
客のために何年も掛けて京・大坂で探し出す情の深さは、
本屋としての矜持をも感じさせられます。
そんな彼が出会う人々との「知」の交流と、本屋ならではの
視線で探る、謎や人の想い、怪異の物語。
独特の間の取り方や淡々とした語りは、当時の生活や文化に
添うようでした。在野や村にも「知」を求め、本を贖う人々が
いること、彼らに本を運び、本談義の相手となる本屋。
そのお互いの息遣いが感じられる作品になっています。
特に「初めての開板」は、佐野淇一先生の言葉に思わず涙。
これは私と、西島晴順への口訣なのかもしれない。
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星4.5
丁寧すぎるほど丁寧に心情を語るので、苦手な人もいるかもしれないが、さすがだと思った。これは、「底惚れ」も読まないと。
最後の「初めての開板」が好み。
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大山文平子の時代小説は何冊も読み続けているが、今回もなかなかの秀作で読み進めた。
本能を持つ力、本の持つ影響力、本を読む楽しみ、読書家の一端に入ると自認している。私にとって青山氏の本に対する愛着、本の力に対する思いがひしひしと伝わってきた。
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【収録作品】本売る日々/鬼に喰われた女/初めての開板
江戸時代の本屋を主人公とした連作。
今とは違う「本」の重みが感じられる。
真にその価値を知る人たちの開かれた目が好もしい。「知」とは万人に開かれているものであるべきだが、いくら本を読んでも皆がそれに気づき、そのために尽力するわけではない。
だからこそ、村名主の惣兵衛や藤助(トウスケ)、医師の佐野淇一(キイツ)、そして主人公の松月堂・平助のあり方に心惹かれる。
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“ついでに寄るのでは『群書類従』に失礼にあたる”。ここ好きだわ〜。
ラストの佐野先生が素晴らしすぎる。
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幕末近くの地方?で本屋を営む主人公。
本が取り持つ交流が描かれる。
中編3篇のテーマは老いらくの恋、怪異、医師の志と幅広い。
それぞれ調子を使い分けているのは老練の技か。
主人公の控えめながら筋の通った佇まいが好もしい。
冒頭で大枚をはたいて購った板木は結局使わなかったのだろうか?
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松月平助はひっそり閑とした村から村へと本を売り歩く行商人である。お得意先で難事に巻き込まれるが、彼の人柄と才智で穏便に説く。読書を愛する人へ熱の籠もった一冊だ。