紙の本
いい子もつらいんだ
2023/08/02 17:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
他人(ひと)の気持ちなどわかるはずがない。
何故なら、自分の気持ちでさえわからないのだから。
だから、他人(ひと)とどのように接していいのかわからない。
そんなこと素直に言える訳ないのだが、
そんな感情をすっと書けてしまうから、高瀬隼子(じゅんこ)という作家は
読者を引き付ける。
高瀬さんの作品を読んで、うなづいている読者は多いのではないだろうか。
この『いい子のあくび』には、表題作である中編「いい子のあくび」のほか、
短編「お供え」「末永い幸せ」の2篇が収録されている。
表題作「いい子のあくび」は、高瀬さんが『犬のかたちをしているもの』で
2019年にすばる文学賞を受賞後第1作として発表された作品。
つまりは芥川賞を受賞した『おいしいごはんが食べられますように』より前の作品にあたる。
高瀬さんがあるインタビューで、
「むかつきながら書いていた」と述べているが、
そういった作者の感性がストレートに出た傑作だと思う。
主人公は子供の頃より「いい子」として育った直子。
会社員として働き出しても、彼女は「いい子」であり続ける。
しかし、その一方で内面では下品な言葉を発す、時にそれをノートに書きとめたりしている。
直子はスマホを見ながら歩いてくる人間が許せない。
「いい子」の彼女はそんな人間が来たらよけるが、
もう一人の彼女はそんな人間がいたらよけずにそのままあたる。
悪いのは、スマホに夢中に顔を上げない人間ではないか。
そういう「むかつき」は彼女の周りにあふれている。
「いい子」はそんな「むかつき」を隠そうとするが、
直子の「いい子」という仮面はついにやぶれてしまう。
高瀬隼子さんが描く世界は表題作だけでなく、
他の短編もまた多くの共感を呼ぶだろう。
私も、実は、そうなんだと。
紙の本
いい子だってやさぐれる
2024/04/26 16:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
真面目でそこそこの容姿で働く直子。教諭の恋人がいて、職場での受けもよくて、友だち付き合いもあって充実しているかのようだが、心の中では呪詛の声をあげている。
いい子だって人間、聖人君子ではない。でもいつもと違って、ながらスマホを避けなかったら……。癪に障るが慣れないことは難しい。
紙の本
この負の感情は、人の中でどんなふうに形成されていくのだろう。
2024/04/29 19:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:びずん - この投稿者のレビュー一覧を見る
少なくともSNSの影響は計り知れない。「いい子のあくび」とはうまく言ったものだ。仕事の時に私もしたことあるよ。でもそういう、ちょっとした気遣い、我慢、人に言うまでもないことを溜め込んで、全く関係のないところで言葉にしないで体でぶつかっていったら、びっくりする。ぶつかったるって思っていい。思っていいけど、それを実行する前にできることがあるよ、言葉とか合図とか、他人じゃなくて、その人に思ったことはその人に伝えないと、後悔することになる。
投稿元:
レビューを見る
大好きな高瀬隼子さんの新刊、待ってました。
日々の中にある割に合わないことをテーマにしていると思われ、私もいい子になりながら心の中で悪態をつくこともある側の人間なので、すごく共感してしまった。
周りのことを顧みずに得してる人っているよね。
その周りの人がサポートしていることにも気づかずにね。こっちの役回りははっきり言って損だよね。
それでもそれを解消する方法って無いんだよね。
もやもやしたままなんだよね。
でも、世の中にはそういう感情を抱く人がいるんだなとわかって、少しほっとした。
投稿元:
レビューを見る
すごい好みだった、表題作。
歩きスマホしてる人にわざとぶつかって、そこから繰り広げられてくる斬新な話たち。ぶつかった中学生のTwitterを見つけてフォローし監視し続けるところとか、その中学生の担任であり自分の恋人である彼が実際良い恋人のように見えて隠れて二股かけてるとか、ドロドロっとした感情が見え隠れする感じがとても好みだった。残り2つの短編も少し腹黒い感情がチラつくのが好き。
芥川賞で知った著者だけど他の作品も読んでみようかな
投稿元:
レビューを見る
最近、特にハマっている作家さん!今回もとても読みやすくサクサク読み終えた。
歩きスマホに関しては、私も日々感じている。
なぜ間違っていないはずの自分が遠慮しなければならないのか?
あるいは、バス停やエレベーター前で、並んで待っている私を、後から現れ何食わぬ顔で抜かして乗る人がいる。
なぜ?
こんな些細な事を日々、イラッとする。時には心の中で舌打ち「しね」と思ってみたり。でも顔では平気な風を装っている。
私ってなんて小さい人間だ、、とか
心の狭い人間だ、、と落ち込む事も多々あり。
だからとても共感した。
私だけじゃなくて同じように考える人もいるんだ〜という安心感。
表題作の他、2作の短編集、どれもとても面白い。
「末永い幸せ」はなんだか泣きそうになった。こんなに意固地な奏なのに、呆れるわけでもなく、仲良くしてくれる二人の友達が素敵だ。結婚して末永くお幸せに、と願うばかりではく、この3人の友達関係も「末永く幸せに」と願いたい。羨ましいな。
投稿元:
レビューを見る
とても好みだった。高瀬さんの作品はどれも私を代弁してくれて、自分の歪んだ考えに寄り添ってくれている気がする。そしてぶっ飛んでいて面白い。
読み終わった後は自分の世界の見方が変わる。
・知り合いの結婚披露宴に行って、ウェディングケーキを食べさせあう新郎新婦を見ながら、心底ばかばかしくてこんなもの見せられる私がかわいそうとも思うし、そう思っている時の自分の顔は、この世で一番あなたたちを祝福していますという表情だったりする。
・心は、どうしてこんなにばらばらなんだろう。
・部活の大会、仕事押し付けられる、何部だか知らないけど負けますように
・自分で自分のことを、どう思っているんだろうか。人に好かれたら、どうして好かれたのかって考えないのだろうか。何のために好かれたのか分からなくても、不安じゃないんだろうか。
投稿元:
レビューを見る
どうしても「いい子」が求められる世の中。
自分も知らない間に避ける側の人間になっているなあと実感。バランスは難しいけれど、優しくありたい。
投稿元:
レビューを見る
納得のいかない事、違和感、どうしようもない感情、そいつらが頭の中で、ぐるぐるぐるぐる回り続けてる感じ。
何かが解決する訳でもないし、モヤモヤする物語だけど、読んでよかった。
投稿元:
レビューを見る
「いい子のあくび」
目の前の相手によって言葉遣いや振る舞いを変えたり、相手の好む自分でいようと細工する。
割に合わないままで良いと思える本当にいい子、など存在しない。
他人の腹の中はこんなものだろうなと想像していたけれど、確信に変わった。
自分にもある薄く黒い部分が言語化されてしまい、近しい人には薦めたくない一冊だった。
投稿元:
レビューを見る
短編集。(いつも思うが、短編と中編の違いが分からない。)
表題作は、いい子でいることに疲れてしまったであろう女性の話。本当は歩きスマホしてるような奴はぶつかって怪我でもすりゃいいんだと思っているけど、あからさまにはそう言えない。だから気づかないフリをしてぶつかってやると。
互いに道を避けるのは当たり前で、こんな(ぶつかったる…)とか思ってる人が周りにいたら嫌だとは思うが、気持ちは分からないでもない。こっちばかり避けてやる義理はないのだから。
大半の人は多少腹立つことがあっても、それをあからさまに表面化しないが、この主人公の女性はかなり態度に出している。
自分が悪意を持っていると、周りからも悪意を持たれるのだろうかと思ってしまうほど、女性は地味に嫌な思いをすることになるのだが。
かと言って、この本は教訓的に「人に優しくしましょう」と言っているのではないので、読んでいて面白く感じた。
表題作も良かったが、結婚式が嫌いな女性の話が印象的だった。
親しい友人の結婚式には出たくないが、幸せそうな姿を見たいという思い、何となく分かる。
新婦だけが親への手紙を読む慣習、ファーストバイトのときの決まり文句など、私も気持ち悪く感じる。(気持ち悪かったので実際、自分の式のときには元夫にも手紙を読ませたし、ファーストなんちゃらは省略した。)
「結婚式に出ること=最大限にその人を祝うこと」にしないでほしい。世間の不条理、逆らえるところは逆らって生きていきたい。
投稿元:
レビューを見る
毒気が強いなと思ったけどわたしも主人公と同じくらいの年齢で、舐められてるなと思ってもやもやする時ある。この主人公は怒りが薄まらないように手帳に書き留めといたりするのが自分とは違うとこだなと思った。
投稿元:
レビューを見る
とっても共感した。
良い人であることで損をする、と言うのはよく聞く話だけど、そんな言葉にならないレベルの小さな事で「割に合わない」と感じることが多くある。
気付いてしまう側の人でないと分からない。
相手に合わせた顔を持ってること。相手の需要に合わせて話を用意する。だけど本当は内側で誰にも言えない別の顔がある。感じてることは全部自分なのに表も裏もない。
自分の知ってる部分だけ評価してて、それは真っ当な評価なのかな?って思う。
現代には多くある悩みな気がする。
諦めのような決めつけはやめる、切れてでもそうするしかないと思う最後のシーンはとても良かった。
「末永い幸せ」は短いけど、これもかなりの共感が詰まってた。
決まった何かでしかその気持ちを表すことは出来ない、って訳じゃないのに、文化とか風潮でそれは受け入れられない。
「いい子のあくび」とは真逆の気持ちを内側に秘めてた話で面白かった。
本当に好みで良い作品でした。
投稿元:
レビューを見る
「いい子のあくび」、「お供え」、「末永い幸せ」の3篇収録。
Amazonの紹介文で、
「社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る全3話。」
と書いてあり、面白そうと思って読むのを楽しみにしていた。
「いい子のあくび」は、主人公は周りからいい子と見られるように、無意識に行動してしまう性格なんだけれど、心の中では、職場の隣の席のおじさんを嫌っていたり、彼氏にも本音が言えなかったり、友達によってキャラを使い分けていたりするところが、共感する部分が多かった。
「桐谷さんが不幸になりますように、と息をするように思う。」
とか、はっきり書かれているのを読むと、元気を貰える。私も嫌いな人に対してまで気を遣って嫌いなことがバレないように振る舞ってしまうタイプで、嫌いってはっきり思っていいのかな…自分が悪い部分もあるし…とか思ってしまうので、主人公が心の中の声ではっきり嫌いと言ってて、読んでてスッキリするし面白かった。
桐谷さんの飲んだコーヒーが気持ち悪いとか、辛辣なのも面白い。
あと猫を被ってる描写が素晴らしいと思った。
主人公はめちゃくちゃ繊細でHSPだと思うのに、歩きスマホしてる人を避けないでいられるメンタルはすごいなと思う。割に合わないこと、理不尽なこと、納得できないことをこれだけ気がつく人だと避けないで歩くこともできるんだろうか。
それにしても、社会生活の中でこれだけ気がついてしまうと、働くのも生きていくのもしんどいだろうなと思う。
「お供え」は、すばるで読んでいた。
職場の人間関係の複雑な心理が面白かった。嫌いなのにつるんでいる複雑な人間関係、職場の人は特別悪い人ではないのに、みんな死ねばいいのにって思っている、主人公のブラックさが読んでて面白いし爽快。
登場人物たちの行動や心がよく理解できないところもあるけど、複雑で面白かった。
短編じゃなくて、もっと長く読んでいたいと思った。
「末永い幸せ」は、結婚式が嫌いな主人公が、幼馴染の結婚式に呼ばれたけど、断って、結婚式当日、会場のホテルの部屋の窓からこっそり式を観察する話。
結婚式では定番の、バージンロードや、ファーストバイト、花嫁の両親への手紙の朗読などに対して疑問と嫌悪感を抱いている。
私も10年前の自分の結婚式で、当たり前にやるものだと思ってやったけど、言われてみれば、確かに時代遅れな意味合いが強くて、読みながら恥ずかしくなった。もしかしたら、そのうちこういう演出はなくなっていくかもと思った。
あと、田舎の母親の思考は、現代でも女が嫁ぐっていう感覚が強いのか…とショックだった。
やっぱり高瀬隼子さんの作品は大好物。
投稿元:
レビューを見る
普段から思う「どうしてこう思わないの?」がふんだんに詰まっていて、私は「ひとりじゃない」「おかしくない」とやっと安心できたのだった。
ドロドログズグズしたものが、丁寧に、それでもどうにか人目に触れられるように言葉で飾られて印刷されていた。
間違っていないはずの、むしろ損をしているはずの人間がとたんに加害者として認識されて、まったく“ゆるす”気配が感じられない恐怖。
ネットリテラシーも肖像権についての弁えもない現代人たちに堂々と目の前から“盗撮”され、おそらくデジタルタトゥーを刻まれまくっている主人公の様子に、「こうなりたくないから、我慢しているにすぎない」と再度認識した。
過去、「なんとかなる!」と明るく言ってのけた同僚にものすごくイライラしたのは、彼女のために他の誰かが「なんとかなるようにしている」のを知っていたから。
「人をよけずに歩ける」人はなぜそうなのか、ぜひ振り返ってほしい。
そう思いながら読んでいた。