紙の本
子役から戦争まで
2002/01/18 13:05
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:喫読家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
世の中には、本人の意志に関係なく波瀾万丈な生涯に生まれついてしまう人があるようだ。高峰秀子さんも、どうやらそんな方のひとりらしい。
4歳で実母に死にわかれ、叔母の養女となり5歳で映画の子役となる。役者へのきっかけは、松竹撮影所見学のとき、養父がいたずらで子役のオーディションに幼い彼女を紛れ込ませたのが発端だったという。それ以来、わき目もふらず仕事に追われる毎日。彼女は友達もいない孤独で暗い少女時代だったと回想するが、本書の豊富なモノクロ写真は、どれも輝くような笑顔であふれている。
映画俳優の自伝なので、戦前の錚々たる映画人との交流が興味深く語られているのはもちろんだが、そのほかにも、東海林太郎、谷崎潤一郎、新村出などが登場する。谷崎潤一郎を「谷崎ライオン」などと書いてしまうのは、高峰秀子さんならではの親愛と敬意の示し方なのだが、つぎのように書いてしまうところが楽しい。
谷崎ライオンは、まるで校長先生の前に出た優等生の如く、お行儀よく両手を膝に置いて四角く座ったまま、「ハイ、左様でございます」「ハハーッ、同感でございますな、ハイ」などと新村博士に相槌をうちながら、カッと見開いた大きな目玉を正眼に据えて身じろぎもしない。(中略)「新村出という人は、こりゃ余程の大人物なんだな、ライオンが借りてきた猫みたいになっちゃったんだから」。
谷崎潤一郎とともに訪問した新村博士は、あの『広辞苑』で知られる新村出のことだ。話はさまざまに脱線しながら、やがて戦争の時代に突入していく。そんな中での、助監督時代の黒澤明との淡い恋愛は、やがて短くせつない幕切れを迎えることになる。
紙の本
ちゃんと観たのは「二十四の瞳」だけですが
2019/07/05 20:10
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
高峰秀子は戦前から戦後にかけて大活躍した大女優です。
代表作は数々あれど、私がちゃんと観たのは「二十四の瞳」だけですが。
この高峰秀子、女優引退後はエッセイストとして名をはせたそうです。
『わたしの渡世日記』は、彼女の自伝的エッセイ。
自由闊達、融通無碍な文章で、全盛時代の映画界のことだけでなく、時代のようすもくわしく描かれます。
宮城道雄や谷崎潤一郎、梅原龍三郎に新村出などという超大物との交流も出て来て、当時の映画女優という存在の大きさがうかがえました。
まあそんなことより、読んでて面白いし、豊富に掲載されている往事の著者の写真がかわいい!
文庫本上下巻あわせて700ページ以上の分量を、楽しんで読めました。
紙の本
戦争時代の重みを感じました
2020/04/26 07:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:makiko - この投稿者のレビュー一覧を見る
高峰さんの幼少期から戦争直後ぐらいまでの出来事がつづられていました。戦時中に撮影した映画、慰問のエピソード、戦地の兵士から送られてきた多くの手紙や贈り物のくだりが、戦争時代を生き抜いた人ならではの重みを感じました。今の薄っぺらい俳優さんたちとは背負っているものが桁違い。
戦時中には大真面目に行われていた日常生活の規制が、昨今のコロナ禍の日本において行われている規制と似ているようで寒気がしました。
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現実より面白いものはない。
お母さんの話がもう苦しいような、明るいような、で。
肝の据わった食いしん坊な、偏った自分を受け入れている女性。
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理知的な昔の女優さんだよね
たしか本出してた、という記憶があったので
blogでお薦めする方がいらしたのをきっかけに
買って積んでおいた。
女優さんの回顧録、というには
中身がこゆ過ぎ注意!
何度か午前様になったから。
昭和史であり 映画史でもあり
読み出したら とまらない。
業界の人、社会的地位のある人
それこそ国の首相以上に
多くの人々を観てきた上
子役から女優業をしてこられたのだから
人を見る目と、その批評眼力は凄いのヒトコト。
学業を全うできなかったことを
気にかけておいでだが
今で言うれっきとした『ストリート・スマート』な方かと。
あと、昭和の映画を見る機会があれば
ちょっと試してみようという気にもなった。
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新刊コーナーで見つけて、あれっ同じ表紙で10年以上前に出たはずなのにと思いましたが、増版だったのでしょうか。
この本については苦い思い出があります。
目についた映画関連の本をかたっぱしから集めようと、何年か前までブックオフに毎日通っていた私は、およそ2,000冊に及ぶ映画に関係する書籍を集めましたが、きちんとリストアップして行ったわけでなくメモも取らなかったため、なんとこの本、といっても1976年に朝日新聞社から出た単行本ですが、下巻を3冊も購入するという“うっかり八兵衛”ぶりでした。
それはともかく、俳優の書いた随筆・エッセイというと池部良や沢村貞子のものが絶品だとつとに有名ですが、戦前・戦後にわたる国民的大スターの高峰秀子も、歯に衣着せぬ個性的な屈託のない洞察眼で、俳優生活を回想した本を何冊も書いたことで知られているようです。
日本の敗戦直後の男たちは、ただ放心して闇市を彷徨うばかりだったとか、映画界のパーティーは大嫌いだとか、天皇陛下はいい人だったとか、真の喜劇役者はたいてい孤独で生真面目だとか、女は宝石を身につけたくなったら最悪だとかなど、まあよくもこれだけ言いたいことをと思うほどですが、特に明確な主義主張があるわけではありませんけれど、たいした人間観察と驚嘆せざるを得ない断言に満ちていて感心します。
なかでも私がもっとも気に入ったのは、「納得のいかない勲章などが家の中に舞い込んで来ては始末に困る」といって、紺綬勲章の授与を断ったというエピソードです。
こういう常識的でない反骨精神旺盛な人物こそが、私がもっとも尊敬し愛する人なのですが、それからは、今まで見た明るく美しい実物をそのまま活かした役柄よりも、1960年の木下恵介監督作品『笛吹川』で85歳の老婆を演じた際の老醜の方が、みごとに美しく神々しいとさえ感じられる錯覚となって彼女を神格化させるほどになりました。
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ほとんど学校教育を受けられなかった女史がこれだけの文才を揮えるのは、各界の巨匠と呼ばれる方から様々なことを貪欲に吸収したことと彼女の仕事の合間を縫っての独学によるところが大きいのでしょう。掲載されている写真は、子供から少女へそしてうら若き乙女へと変貌を遂げる姿をしっかりととらえています。その容姿のなんと美しいことか!最近の女優には感じられない美しさが感じられます。
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こんな女優がいたんだ、と驚きました。天才子役から大女優となった、怜悧な女性の苦悩。
この甘えのなさ、私も見習いたい。
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偶然に5歳で映画界に入った著者の複雑な家庭環境を語り、義母との確執との決別を告げた自叙伝である。また、昭和の映画史としても貴重な記録でもある。評論家が語る映画史ではなく、現場での様子が生々しく語られている点に注目する。時代の世相と著者の心中が絶妙に語られている。谷崎潤一郎や梅原龍三郎をはじめ、各界の重鎮逹との交遊から見えてくるものも多い。
著者が低落したと思う日本映画界への応援のエールである。
ここまで身内や自分のことを赤裸々にさらすことは、余程の覚悟がいったことでしょう。脱帽。
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なんだこれは、べらぼうに面白いな!
この面白さはなんなのだろう?書いてある内容をかいつまんで説明しても、この本の魅力はまったく伝わらないだろう。むむむ。
そこんとこの考察はおいておいて、備忘メモ。
上巻は、
・養母しげのおいたち
・秀子のおいたち
・子役デビューのきっかけ
・人気子役として、そして一族郎党の稼ぎ頭としての生活
・学校生活への憧れ、無学コンプレックス
・松竹から東宝への移籍
・たくさんの映画人、文化人との交流あれこれ、特に黒澤明
・戦時下の女優業
といったところか。
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高峰秀子の語り口長の文書が深い。幼い時から映画の世界で仕事をし続け、魂を成長させていく様がとてもいい。清々しい。
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掛け値なしの名著。高峰秀子は人生の達人だ。
司馬遼太郎が高峰秀子を「どのような教育を受けたらこのような人間ができるのだろうか」と評したというが、子役でデビューして小学校もろくに行っていない高峰は、学校教育をほとんど受けていない。では、どうしたのか。彼女が自分自身を教育したのだ。本書を読んだ今なら自信をもってそう言える。
自分の意思や力ではどうにもならないことは、決して悩まないし、振り返らない。周囲に対しては期待しないし、求めない。世の自己啓発書に出てきそうなことを、彼女は自己教育で見事に体得し、実践している。養母との関係など並の人間なら投げ出すか、もしくはキレるところ。でも、高峰は至って冷静。自分を客観視しているもう一人の自分がいるかの様だ。
そして、この感覚、どこかで読んだ覚えがあった…美輪明宏の『紫の履歴書』だ。美輪も同じだ。悩まず、振り返らず、期待せず、求めず。この奇妙な一致は何なのだろう。美男子・美少女として子どもの頃から芸の世界に身を置いていると、自分を客観視できる人生の達人になれるのか。それとも、この二人が持って生まれた才覚なのか。
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楠木センセが影響を受けた本と紹介していた著書。5歳から俳優を続け、まともに小学校も行かせてもらえず、仕事に明け暮れた凄まじい半生を描いている。
しかし、丹羽宇一郎の「人は仕事で磨かれる」という著書があるが、まさにその通りで、寝る時間も十分に与えられないほどに、ずっと仕事に取り組み、また、一流の人々と交流を続けたからこそ、このような素晴らしい文章が書けるのだと思った。とても学校に行けなかった人の文章ではない。自分が恥ずかしい。
私はいつも、自分の人生を「おかげ人生」だと思い、今もそう思っている。まず、映画俳優の仕事は画家や彫刻家と違って、一人だけでは絶対にできない。だれかがライトを当ててくれなければ、だれかがカメラをまわしてくれなければ、私がいかに熱演しようとも画面には映らない。そんなことは百も承知だが、それをあえてここに書くのは、私が感傷的なのかもしれないし、お年のせいで涙腺がゆるんできたと言われるかもしれないけれど、人間は一人では生きることも死ぬこともできない哀れな動物だ、と私は思う。
私は中国のことわざにある「昼のために夜がある」という言葉が好きだ。苦労は苦労のためにするのではなく、明日という光明に向かっての下塗りだと思わなければ、とてもじゃないが無数の「恥」をブラブラぶら下げて生きてなどゆけるものではない。
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昭和の名女優の初エッセイは自伝的内容。子役からスター女優。この独自の感性があったからこその活躍だったのだと本書を読んでつくづく思う。
昭和の映画史に欠かすことのできない名女優の一人、高峰秀子。本作が初エッセイでその後多くの作品を残している。
子役からその後もずっと活躍する役者は少ないというのが定説。それを覆す存在の筆頭が本書の高峰秀子だろう。ここ最近再評価されている。本作も別の出版社でも何度か刊行されている。
べらんめえ調のような独自のテンポの語り口が面白い。子役からそのままずっと映画界。学校教育をほぼ受けられず独学のようにこっそり読書。育ての母との葛藤ゆスターではない苦しい生活、台所事情など赤裸々な内容。
女優さんというと単なる表現者かと思っていたが、その前提となる受け身の部分、感性が実は重要であることを本書は教えてくれる。例えば最近で言えば名子役だった芦田愛菜ちゃんの何とも高度な読書歴などインテリなご活躍ぶりは、同様な感性のなせるワザであろうかと思う。
日本映画は好きで当然高峰秀子作品も多く見ているが、本書には良い意味で裏切られる。屈指の表現者として人間高峰秀子の魅力のトリコになりました。
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複雑な家庭環境で裕福とは言えない暮らしだったみたいですが卑屈にならず見栄も張らず、売れても天狗にならず、周囲から学びながら一生懸命生きてこられた様子がいきいきと語られていました。娘たちにもこんなたくましい人生を送ってほしいなと思います。たしかに何が彼女をこうさせているのかもっと知りたい。下巻が楽しみ。