紙の本
普通のアパート生活が残す軌跡
2020/03/07 17:10
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投稿者:E司書 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一風変わった間取りのアパート5号室に住んできた13世帯の歴史的な日常物語。その時々に歴代住人が感じてきた思いを屋根の雨音、ブレーカー、風呂の漏れる音のする栓、襖の穴などを題材に展開する今までにないストーリーに新鮮味を感じる。前の住人をひとくくりにせずに前の前、さらにその前の住人までさかのぼり普段考えたことのないことを思うことで日常のさりげない一日がとてもいい一日に感じさせてくれる作品。
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長嶋有氏の独特な文体、作風で、読者の心を優しく揺さぶってくれる傑作です!
2020/08/08 10:43
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『サイドカーに犬』(文学界新人賞)、『猛スピードで母は』(芥川賞)、『夕子ちゃんの近道』(大江健三郎賞)などの傑作を次々に発表しておられる長嶋有氏の最高傑作とも呼ばれる作品です。同書の内容は、「傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―」という不思議な文体で綴られ、さらに「今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい」というような、驚きの手法で描かれた、小さな空間に流れた半世紀を綴った作品です。なかなか珍しい作風で、優しく心を揺さぶってくれます。同書は、谷崎潤一郎賞を受賞した傑作でもあります。
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これは人の話
2020/03/06 01:04
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投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一藤岡荘(66~16)5号室を舞台に
住人たちの様子を縦軸で。
柴崎友香さんの「春の庭」が人から見た建物の物語だったのと
対照的だなあと思いながら読んだ。
どこまでも人の営みの物語。
半世紀もあると、文化も大きく変わる。
でも使い手はずっと人。
改めて気付かせてくれる小説です。
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シブすぎる大河小説
2021/06/21 22:11
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一藤岡荘に住んできた13人の半世紀の生活を描いた作品。連作短編集のようでいて、著者が思い出すままに各人の生活の様子が入り乱れて描写されている(あえて読みやすい年代記スタイルにしない)。単身赴任のオッサン、独身のOL、普通の家族、それぞれの生活が描かれる。
やたら響く屋根の雨音に聞き入る瞬間、ザ・テレビジョンのCMソングを口ずさみながら洗濯する姿を見られる恥ずかしさ、生きている限り何もない、などということはない、っていうメッセージを感じるシブすぎる大河小説。電車の窓から一生接点のないであろう家族の団欒を目撃した時のような気持になった。
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NHKの72時間というドキュメンタリーを思い出した。ある場所を3日間定点観測する番組だが、この小説の場合はあるアパートの一室を数十年にわたって観察している。
この部屋にやってきて、数年住み、去っていった、年齢も性別も経歴も異なる人たち。後から住む人たちは、前の住人たちとは全く関係はないのだけれど、なんとなくその痕跡を引き継いだり、同じようなことを思ったり、全然異なる生活を営んだりして暮らしていく。ある場所に積み重なる、様々な人生・時代の地層のような感じ。すごく面白い観点だなと思った。
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谷崎賞受賞作ってことで。そこまで文学文学してなくて、マルチ目線形式ってのも自分好み。しかも、同時代的横の繋がりじゃなく、時代を超越した縦の繋がりで描かれるのも、ちょっと斬新で良い感じ。マンションの同居人を色んな目線で書いた物語とか、家族三代にわたる物語とか、そういうのはちょくちょく目にするけど、本作のようなのはなかなかない気がする。知らんだけかも、だけど。何の気なしに過ごしてきたけど、賃貸物件って、確かに色んな謎の痕跡があるかも。そんなことをボヤっと考えながら楽しませてもらいました。
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今はもういない者たちの日々がこんなにもいとしい。小さな空間の半世紀を驚きの手法で活写する、アパート小説の金字塔。谷崎潤一郎賞受賞。〈解説〉村田沙耶香
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1966年から2016年の間に、とある木造モルタルアパートの一室に暮らした13代の住人達を描いた、変則的な連作風小説です。登場人物はそれぞれアパートの何代目の住人であるかに対応して名前に数字が含まれています(三輪、五十嵐のように)。登場順は時系列とは限らず、前後しながら複数回登場します。
小説としての構成の珍しさから、はじめは興味を持って読んでいたのですが、登場人物たちへの関心が深まらず、結局最後まで乗り切れないまま終わりました。半世紀ものあいだに存在した登場人物たちを描くことになるため個々の時代に合った不自然ではない描写をするだけでも困難であり、相当な力量が必要だろうとは思います。
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*傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―。今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい。驚きの手法で描かれる、小さな空間に流れた半世紀。優しく心を揺さぶる著者最高作*
うーむ。
表現的なセンスは好みなのですが・・・この、凝った手法が全く合わず。
時代や登場人物が入り乱れ過ぎ、感情移入する前にこんがらがってしまって、あえなく途中棄権。評価がいいのに、読み解けなかった己が残念。
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「文化住宅」というような、昔よくあった建物の1つの部屋の様々な移り変わりを、その部屋の中にある物や雰囲気をテーマにして優しく語り続けられていく。よくあるような手法に思えて、そういえば真新しい表現方法で楽しく読むことができました。
それにしても密人さんの部屋の中にあった箱の中身は何だったんだろうか…?
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珍しい小説、おもしろかった。
みんながこういうささいなことを思ったり考えたり、工夫をしてみたり、していると思うと、かわいらしく思える。
難しいだろうけど、映画とかでも観てみたい。
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第一藤岡荘の5号室を舞台に、同室に居住した合計13代の住人が織りなす物語。方法論としては「問いのない答え」と同様、多くの人々・出来事が連想ゲームのようにつながっていくというところなのだろうが、「問いのない答え」よりもさらに研ぎ澄まされているように感じる。何しろ、場所は同じ五号室でも、時間を前後していったり来たりしながらなんの違和感もなく、しかしなんでもないのにちょっとひっかかる言葉が、結構ページ数を離れてもしっかりと想起されるようにできている、というのは物凄いことではないだろうか。そこで描かれていることは他愛のないことかもしれないが、しかし時を超え人々が共有するものがある、ということが、何か意味があるような気がしてくる。それが大事なのではないか。なお本作は住人達の名前が第1代から13代までどこかにその代の数字を含んでいるということで、アパートものの傑作である「めぞん一刻」へのオマージュを捧げていると思われるが、アパートものの傑作としても数えられるであろう。
「人生にはしばしば、そういう時間がある。誰も自ら語らないし誰から語られることもないが、あるはずだ。側溝や、自動販売機の下に転がっていった小銭に手を伸ばしたり、瓶になにげなく差し込んだ指が抜け亡くなったり、タイルとタイルの間のもう落ちない黒ずみをこすったり、洗面台の排水溝に落としてしまった母親の指輪を拾い上げようとしたり。そういうときのあらゆる苦闘を『人生の時間』と誰も思っていない。だけど、仕事や恋愛や、なにか大事な時間を経たのと『同じ』人生の時間上にそれらのこともあるはずだ。」
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傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。そして全員が去った。それぞれの跡形を残して―。今はもういない者たちの一日一日が、こんなにもいとしい。驚きの手法で描かれる、小さな空間に流れた半世紀。優しく心を揺さぶる著者最高作。第五二回谷崎潤一郎賞受賞。
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★星4.4
初めての作家さん。
第一藤岡荘五号室に、1966年~2016年の間に入居した13人(世帯)の住人の、それぞれの物語。
物語は、時系列ではなくランダムにそれぞれの住人にスポットが当たるってのがテンポ良くて好き。
最終章は、何かあるんじゃないか!って思わせるようなフラグがありちょっとハラハラ…でも結局、日常に戻るのが、この物語の良さなのかなって思いました。
何気ない日常を描く、とっても好きなタイプのお話でした。
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『三の隣は五号室』長嶋 有
こういう小説もアリなのか。純文学って本当に面白い。
ある人の何気ない暮らしが全く知らない別の人の暮らしに少しのドラマを与える。これを読んでいると、自分のマンションの『前の人』はここでどんなことを考えたんだろうとか、どこにベットを置いてどんなテレビを見てたんだろうとか分かるはずもないことを色々と想像してしまった。
解説で村田さやかさんが書いてたけど、自分もいつかはこの部屋において誰かの『前の人』になるだろうし、自分はその誰かのことなんてどうでもいいんだろうな。
何にもしていない時間でも人は思った以上に「生きて」いて、自分とは別の誰かに何かしらの影響を与えている。すごくドラマチックだなぁと思いました。