紙の本
江戸時代が悪く、近代は進歩という見方を見直すことはできるだろうか
2024/02/20 11:38
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、「賃金事情」という労働関係の雑誌に連載したものを再構成したものという。一般的には江戸時代は封建社会で、日本は明治維新で近代化の道を歩み、進歩してきたという歴史観があるが、揺らいでいるという見方もある。学校で学ぶ歴史は、庶民の働き方についてあまり触れていないので、楽しく読める本である。現代の労働様式はいつから始まったのだろうか。例えば、一般的に男がどこかに勤めに出て、女性は専業主婦として家庭を守るというパターンは、戦後の高度経済成長を経て定着したと言われ、それまでは共働きが当たり前だったが、何十年か経つと昔からと錯覚する。今や、共働き世帯が半数を超え、それどころか結婚しない、できない男女が増えている。社会の生産力、経済力の影響が大きいと見るべきだろう。それなら、具体的な労働や生活は時代ごとに見てどうなのだろう。目次を見ると、
はじめに
第1章 「働き方」と貨幣制度
第2章 武家社会の階層構造と武士の「仕事」
第3章 旗本・御家人の「給与」生活
第4章 「雇用労働」者としての武家奉公人
第5章 専門知識をもつ武士たちの「非正規」登用
第6章 役所で働く武士の「勤務条件」
第7章 町人の「働き方」さまざま
第8章 「史料」に見る江戸の雇用労働者の実態
第9章 大店の奉公人の厳しい労働環境
第10章 雇われて働く女性たち
第11章 雇用労働者をめぐる法制度
第12章 百姓の働き方と「稼ぐ力」
第13章 輸送・土木分野の賃銭労働
第14章 漁業・鉱山業における働き手確保をめぐって
おわりに -近代への展望
あとがき
参考文献一覧 となっている。
以上のように展開される。見ての通り章立ての数が多く、目次を見ただけで何を押さえていこうと考えているかが見えてくる。働き方は時代によって変わるのは当然だが、現在を当たり前と思ってしまう。しかし、江戸時代でも百姓は米作以外で、綿の生産を行い、さらに加工して綿糸、綿布で多額の副収入を得て、女性が現金を持っていた地域もある。戦国時代から江戸時代に移り、従属的な関係が薄まったという指摘もあるので、進歩しないという見方も否定されるが、思い込みもよくないことを感じる。新書で豊富なことが読めるのは喜ばしい。一読してほしい本である。
紙の本
経済の発展と身分制度
2023/12/08 19:28
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投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代には経済が発展し、明治からの資本主義を準備した。しかし、身分制度もあり、その中でそれぞれの身分でどのような仕事があり、どのような仕事観があったのであろう。本書は、そういう観点から江戸時代を見た、面白い一冊である。
紙の本
スモールステップ形式で著されています。
2024/01/11 08:34
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルに惹かれて購読しました。タイトル通り、江戸時代に日本人はどんな働き方をしていたのか、様々な職業が紹介された内容です。
全14章、各章15頁前後のスモールステップ形式で著されています。身分別に職業が紹介されていますが、個人的には武士の中でもさらに細かい身分の分類があることに驚きました。絵の史料も多く掲載されています。
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<目次>
はじめに
第1章 「働き方」と貨幣制度
第2章 武家社会の階層構造と武士の「仕事」
第3章 旗本・御家人の「給与」生活
第4章 「雇用労働」者としての武家奉公人
第5章 専門知識をもつ武士たちの「非正規」雇用
第6章 役所で働く武士の「勤務条件」
第7章 町人の「働き方」さまざま
第8章 「史料」に見る江戸の雇用労働者の実態
第9章 大店の奉公人の厳しい労働環境
第10章 雇われて働く女性たち
第11章 雇用労働者をめぐる法制度
第12章 百姓の働き方と「稼ぐ力」
第13章 輸送・土木分野の賃銭労働
第14章 漁業・鉱山業における働き手確保をめぐって
おわりに
<内容>
もとは業界紙「賃金事情」連載の記事を基にした論文。大変緻密に比較的読みやすくまとめられている。江戸時代を語るに際し、こうした知識を持つと持たないのでは、江戸時代を「夢のような時代」と見たり、「悪夢の時代」と見たりしてしまうが、実態がよくわかる本なので、どの視点から江戸時代を語るかで、そのプラスマイナスもよくわかるだろう。惜しくは、遊郭の様子が深く語られなかったこと。まあ、この分野は他にも詳細の本が出ているけど…
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時代の変遷は、人々の働き方にも変化を与えた。
中世・戦国時代の仕事は戦乱の終焉と経済の発展により、
江戸時代には多様な働き方が見られるようになった。
当時の社会における仕事について、その実態を解き明かす。
・はじめに
第一章 「働き方」と貨幣制度
第二章 武家社会の階層構造と武士の「仕事」
第三章 旗本・御家人の「給与」生活
第四章 「雇用労働」者としての武家奉公人
第五章 専門知識を持つ武士たちの「非正規」登用
第六章 役所で働く武士の「勤務条件」
第七章 町人の「働き方」さまざま
第八章 「史料」に見る江戸の雇用労働者の実態
第九章 大店の奉公人の厳しい労働環境
第一0章 雇われて働く女性たち
第一一章 雇用労働者をめぐる法制度
第一二章 百姓の働き方と「稼ぐ力」
第一三章 輸送・土木分野の賃銭労働
第一四章 漁業・鉱山業における働き手確保をめぐって
・おわりに――近代への展望 ・あとがき
参考文献(主要なもののみ、引用順)有り。
各章の見出しに見られるように、
江戸時代には様々な仕事と労働形態が生まれた。
武士では、仕事内容や職務、給与や収入、副業、役得、
雇用労働、年季、斡旋と派遣、福利厚生、
出勤簿、手当と賞与等について。
町人では、序列である家持・地借・店借、
その日稼ぎの独立自営業の振売(小売商)や屋台、
日雇や月雇、専門職の職人、住み込みの奉公人や召仕。
女性では、生活の維持と家計を差配する商家の妻、
内職、商家の下女、年季奉公の女中、乳母、不条理な遊女屋奉公。
一生奉公の奥女中と花嫁修業にもなる下位役職の年季奉公。
百姓は「村」に居住する第一次産業従事者。
米・麦・大豆と、商品作物や加工品売買で得た金銭での納税。
家族労働と、日雇労働の手間取り。農閑余業という副業。
道の整備からの宿駅制度と商い荷物の輸送により、
宿場町が形成され、馬士が置かれるが、馬持百姓も輸送を担う。
河川舟運でも河岸問屋以外に舟持百姓も輸送を担う。
船頭や水主、舟引き人足は、農閑稼ぎの百姓の賃銭労働。
治水事業にも百姓の賃銭労働。土木専門の黒鍬の派遣。
漁業での、網元と網子や水主の雇用は、遊女屋奉公の如く。
鉱山では、手間賃は一般職人の数倍だが30歳前後で死ぬほど
過酷。特に水替人足は成り手不足で無宿者が動員。
どの仕事も一長一短ありきです。
超過勤務、窓際族、非正規雇用、副業、アルバイトにパート等、
現代社会にもある働き方の問題が、この時代にも内在しています。
また、武士の主従関係の影響で、主人に反旗を翻したら、
酷い扱いをされていても奉公人が罰せられる不条理さも。
そして、求人と求職を仲介する人宿(口入、桂庵とも)にも
言及されていたのは、知りたかったので嬉しい。
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知ることのなかった江戸時代の各階層における働き方を知れてとても有意義だった。
武家奉公人の労働環境が過酷であったことや、商人の例えば大店における奉公人は11~12歳から働き始め、過酷な労働環境で半数以上が死んだり逃げたりしていたこと、伝馬制度はコストや時間がかかることから抜け道として百姓が馬を飼って荷運びするようになったなどなど、興味深い情報が多い。
遊郭での奉公や鉱山労働などでは、前払いで年額を賃金を第三者が受け取って本人を働かせるような、ウシジマくんの世界のような状況が江戸後期まで続いていたというのも驚きだった。
現在は人権意識が高まり制度も実装され、浸透してきたことでコンプライアンス遵守やワークライフバランス重視の姿勢が強くなってきたが、自由に職業を選べ、辞めることもでき、休息や栄養を摂ることも可能という当たり前なことは今ならではのことで、これを改めてとても有難く思う。
こういった、健全な働き方というのは近代になってようやく整ったわけだが、それを可能にしたのはおそらく産業革命に始まる技術革新と、欧米からの「人権」や「民主主義」といった新しい概念の流入だったと想像できる。
こういった大きなブレイクスルーがないと、カースト的階層や既得権益層による支配-従属関係が固定化されてしまうこと、それが社会を澱ませ制度疲労を起こしたり国力を減らすようなことにも繋がってしまうのだろう。
江戸時代には鎖国によって独自の文化が維持継続、発展したというメリットがあった一方で、外部から得られるイノベーションがやはり激減していた。
戦がないという意味で太平の世の中ではあったのだろうが、固定化された階層における弱者にとっては無間地獄のようにも感じられたのではなかろうか。
それでも少しずつ歪み、鬱憤は溜まり、また制度としても袋小路に直面していた。
黒船来航による開国がきっかけであったとはいえ、既に社会のリセットの萌芽は出ていて、外国からの圧力はトリガー程度だったのかもしれない。
歴史にたらればを言っても意味がないが、外国からの働きかけがなかった場合でも幕府が倒れるようなことには早晩たどり着いていたんだろうなと本書を読んで思った。
しかしその後の発展は、鎖国を続けていた以上やはり遅れていただろうし、労働環境の改善はさらに後ろ倒しになっていたかもしれない。
持続可能型社会のモデルとして江戸時代を見直すという意見があるが、本書によって当時の労働環境のリアルを知ると、すぐに応用できるような得られるTipsは多くない気がした。