紙の本
各人の生活そのものを見直すだけでなく、実践しないと生きる意味がないだろう
2024/03/23 22:23
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
介護難民が増加する、保育所に入れないというニュースが世を賑わす。介護とか保育という狭い範囲に限定されず、ケアをめぐる問題がクローズアップされている。そんな時代において、「ケアの倫理」と題する新書が出版された。介護とか限定的に絞ることなく、ケアの倫理を人間社会の存続に不可欠なものを押さえたものである。本書は副題でケアの倫理がフェミニスト思想であることを明示して、歴史的経過を辿り、ケアに満ちた(満ちているはず)政治や社会を展望する。実際に読むと難解である。専門書のレベルを落とさず、新書という範囲に盛り込んだためか、ページも多いし、字も小さい。
本書は、米国第二波フェミニズム運動から始まり、C・ギリガンの著書「もうひとつの声で」を中心に、女性たちの抵抗や実践、思想を検討している。男性は普遍性や合理性を重視する「正義の倫理」を何となく論じてきたが、男性中心の視座を批判、女性たちの語りで異なる倫理観を示す。ケアと正義の二項対立は不毛で互いに結びつくものと話を進める。目次を見ると、
序 章 ケアの必要(ニーズ)に溢れる社会で
第1章 ケアの倫理の原点へ
第2章 ケアの倫理とは何か
-『もうひとつの声で』を読み直す
第3章 ケアの倫理の確立
-フェミニストたちの探求
第4章 ケアをするのは誰か
-新しい人間像・社会観の模索
第5章 誰も取り残されない社会へ
-ケアから始まるオルタナティヴな政治思想
終 章 コロナ・パンデミックの後を生きる
-ケアから始める民主主義
あとがき 参考文献 となっている。
以上のように展開される。政治がケアの報酬を決定する中で社会的な価値を貶めてきたと批判する。現在の介護報酬決定が典型的だろう。介護保険では高齢者の面倒を見ることは価値がない(無料でやってきた)とし、スーパーのレジ打ちと同等の発想してきた。ケアをごく普通に受けてきた特権的地位にいる男性政治家たちが、性別役割に基づき、女性にケアを押しつけてきた。経済力のある者が善い市民とする社会、根拠のない配分は不正義とし、転換を訴える。終章で一気に具体的になる。一読してほしい本である。
紙の本
難解なのは仕方がないのか
2024/04/04 17:56
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ケアの倫理」が岩波新書となって、広く知られることは非常に喜ばしいことであると思う。家の中こと、女性がするもの、とされてきたさまざまな「ケア」が社会的価値として重視されることは重要である。
とりわけ、政治がケアの報酬を決定する中で社会的な価値を貶めてきたとの指摘にはうなずける。
「個人的なことは政治的なこと」「難しいことを難しいままに(分かりやすくステレオタイプに表現をしない)」ということを、フェミニズムの思想に触れ、学んできてはいるが、本書はそれにしても難解。読み込むのに体力を要するのが難点だと思う。
もう少し、一般人にも分かりやすい類書が出ないものか。
紙の本
注意深く読まないと、立ち位置を見失います。
2024/02/23 10:11
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投稿者:広島の中日ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
フェミニズムを説いた数多の倫理学者の書籍の解釈をまとめた1冊です。
倫理学の詰まった内容なので、抽象的な文章が多く、注意深く読み進めないと、読んでいる今の自分の立ち位置を見失いかねません。じっくりと読み進める必要があります。難解な書籍です。
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出版社(岩波)
https://www.iwanami.co.jp/book/b638601.html
目次、概要、著者
岡野八代×三浦まり対談「フェミニズムで政治を変える」(20240209)
https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-240209
竹端 寛による感想「脆弱性の平等」(20240219)
https://surume.org/2024/02/7575.html
藤田結子による書評(20240316「朝日新聞」)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15888177.html
著者インタビューによる紹介記事(20240324「毎日新聞」)
「「政治の中心にケアを」 岡野八代さんが問うリベラルの不正義」
https://mainichi.jp/articles/20240322/k00/00m/040/158000c
将基面貴巳による書評「抵抗の思想としての「ケアの倫理」を展開 フェミニズム政治思想の最新到達点へ誘う書」(20240329「週刊エコノミスト Online」)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20240409/se1/00m/020/015000c
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烏兎の庭 第七部 2.11.24
http://www5e.biglobe.ne.jp/~utouto/uto07/doc/care.html
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配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01426303
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現時点で「ケアの倫理」を学ぶために最もまとまった書籍、ただ読みこなすためには、ある程度の基礎知識と粘り強さが必要である。「ケアの倫理」を読み解くためには、現在の社会を理解するための基礎たきな考え、マルクス、フロイト、そしてフェミニズムの歴史、そしてロールズの正義論、これは押さえておくべき基礎理論である。「ケアの倫理」が示す民主主義的な態度は、主流とは異なる「もうひとつの声」に耳を傾けること、それが今後の私たちの未来を照らす声になるし、そのこと自身でケアを問い直すことが新しい社会を作っていくことにつながる。新自由主義に基礎付けられた現状を続けるのか、「ケアの倫理」に基づいた社会を構築するのか、今、現在、社会は大きな分岐点にある。
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うーん。とても難しかった。
結局問題が大き過ぎて、どうしたらよいのかわからない。
ただ、「人が善く生きるには、ケアで満たされなければならない。」はその通りだなと思う。
じゃあ、誰がケアするのか。
今までは、家父長制と資本制の結託により女性が無償でそのケア業務を一手に担ってきたが、今は多くの女性が有償労働に参加する。
子どもを生んだ後も、女性が稼ぎ続けることは、将来への安心にもつながるし、自立感も得られる。子育てに専念してお金を稼げないと、パートナーに稼ぎを依存する二次依存が発生するからだ。
ケアする人は、ケアするだけで大変だから、二次依存が発生するのもしょうがないとも言っている。
昔は稼ぎが一本でもなんとかなるだろうと思えたが、今はそう思えない。わざわざ自分から稼げる力を投げ出して子育てに専念するのも勇気がいる。
でも、それはそれで子育てに専念しなくて良いのかとの、葛藤もある。
それぐらいケア労働とは合理的ではないし、効率的なものでもないからだ。単純に子どもの成長を見守ることは大変だけれど楽しい、というのもある。
反対に、バリバリ働ける人というのは、陰でケアをしてくれる人がいるからであり、そのつながりで経済活動ができている。
つまり、
「ケアなしでは経済は成り立たない。」
「ケアと経済は切り離すことができない。」
「ケア労働は経済の一部であるどころか、狭い市場経済をむしろ支える、広範囲で多くの人びとによって担われている経済活動であると。」
だから、ケアの倫理から政治を見直す必要があるよねと。もう政治の話なので、政治・経済学部の人にも読んでほしい、、。
これからの社会を担う人を育む、労る、寄り沿うケア労働は、愛の労働という括りだけではなく経済活動なんだという言葉はなんだか嬉しかった。
そうだよねと、
母が「人を育てることは何より大事なことだ」と言っていたことを時々思い出すように、嬉しかった。
「何が正しいかを問うか」ではなく、
「どう応えるべきかを問うか」
「人はケアされないことによって傷つく。」
新しい人たち、赤ちゃんや子どものケアがやはり最優先と思ってしまう。
本最後に、コロナ禍についても触れている。
コロナ始まりの、高齢の政治家さえ未だマスクをしていない時期に、子どもへの一斉休校が要請されたことが、まさに政治がケアを安直にみている良い例だとの憤りにも触れていて、そこもなんだか忘れていた困惑、憤りを掬い取ってくれていて嬉しかった。
ちなみに、わたしはフェミニズムの意味さえしっかりと理解していなかったが、男性嫌悪、女性支持ではなく、すべての人間にとって、うんたらかんたらの話。
あまりそこはタイトルに引っかからずにいろんな人に読まれてほしいなとは思う。
でも、難しかった、、、。
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序 章 ケアの必要に溢れる社会で
第1章 ケアの倫理の原点へ
1 第二波フェミニズム運動の前史
2 第二波フェミニズムの二つの流れ――リベラルかラディカルか
3 家父長制の再発見と公私二元論批判
4 家父長制批判に対する反論
5 マルクス主義との対決
第2章 ケアの倫理とは何か――『もうひとつの声で』を読み直す
1 女性学の広がり
2 七〇年代のバックラッシュ
3 ギリガン『もうひとつの声で――心理学の理論とケアの倫理』を読む
第3章 ケアの倫理の確立――フェミニストたちの探求
1 『もうひとつの声で』はいかに読まれたのか
2 ケアの倫理研究へ
3 ケア「対」正義なのか?
第4章 ケアをするのは誰か――新しい人間像・社会観の模索
1 オルタナティヴな正義論/道徳理論へ
2 ケアとは何をすることなのか?――母性主義からの解放
3 性的家族からの解放
第5章 誰も取り残されない社会へ――ケアから始めるオルタナティヴな政治思想
1 新しい人間・社会・世界――依存と脆弱性/傷つけられやすさから始める倫理と政治
2 ケアする民主主義――自己責任論との対決
3 ケアする平和論――安全保障論との対決
4 気候正義とケア――生産中心主義との対決
終 章 コロナ・パンデミックの後を生きる――ケアから始める民主主義
1 コロナ・パンデミックという経験から――つながりあうケア
2 ケアに満ちた民主主義へ――〈わたしたち〉への呼びかけ
あとがき
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フェミニズムを深く研究し、広め、そして社会運動に参加する著者だからこそ、男性の理論で構築された社会のなかで、女性たちが自らの声で語り、自らの経験から編み出したフェミニズムの政治思想、ケアの倫理を重層的に論説する。ケアの倫理とは、女性たちの多くが家庭生活にまつわる営み、すなわちケアを一手に引き受けさせられてきた社会・政治状況を批判することから生まれた、人間、社会、そして政治についての考え方、判断の在り方である。第1章から第4章までは、アメリカ合衆国が中心となるが、第二次世界大戦後のフェミニズム運動と、その経験から生まれたフェミニズム思想・理論のなかでいかに、ケアの倫理という新しい道徳が編み出されてきたかを多面的・複眼で検証する。第5章の「誰も取り残されない社会へ」では、「ケアする民主主義-自己責任論との対決」「ケアする平和論-安全保障論との対決」「気候正義とケア-生産中心主義と対決」など、社会・政治活動に関する行動提起を指し示す。終章では、コロナ・パンデミック後のケアに満ちた民主主義社会の在り方を提起する。全体を通じて、重厚な研究書であるが故に、挫けそうになる気持ちになりながら、読了後の充実感は半端ない。
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自分がげっそりしながら投票していることの説明を始めて言語化してもらえたのがうれしかった。追っかけるのに相当な頭の体力がいる。それだけの価値が私にはあった。
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「脆弱性への注目こそが、ケアの倫理を社会構想へと導いていく」245頁。ここ数年コロナ禍、災害、紛争で、ケアの脆弱性を見てきており、誰もが傷つくことなく、誰かに過度な負担を強いることのない配慮とそのしくみづくりに関心と責任を持つことをあらためて意識させる本でした。