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投稿者:今井 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いわゆるパスティーシュだろうか。未完の作品を独自の視点で描き繋ぐ試み。海外の小説ではよくあるように思うが、まさか江戸川乱歩の作品でそれがなされようとは。そもそも乱歩の作品に未完作があることすら知らなかった。物語は乱歩らしい独特の世界観。奇人・変人が多すぎやしないか、と思うがそれもまあご愛嬌。すべての謎が解かれるのか、心配だったがそれも杞憂だった。まあ納得できる展開。ただ構成が複雑で一回読んだだけでは理解しづらい。それとあとがきにもあるが、現代では不適切とされる表現がすごく多い。読んでてびっくりしたくらい。できればこれは最後のページではなく、一番最初らへんに注意書きしてほしかった。
「悪霊」中断の真相は?
2024/07/20 11:25
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
某新聞書評欄に、大物美術家によるビジュアルな書評が目に付いて手に取った江戸川乱歩の探偵小説である。乱歩の小説を全て読んだわけではないが、初めて聴くタイトル、しかもドストエフスキーの暗く陰鬱な小説と同名、とくる。乱歩ワールドが期待できる「新作」の登場、と思った。しかしそうではなかった。
乱歩は、昭和8年(1933年)、「二銭銅貨」で本格推理小説作家としてデビューを果たした雑誌「新青年」に「悪霊」の連載を開始した。しかし掲載延期や休載を重ね、結局「探偵小説的情熱を呼び起こし得ず」と宣言して連載を止めてしまう。それを「金田一耕助v.明智小五郎」という探偵小説へのオマージュ作品も書いている探偵小説家芦辺拓氏が書き継いだ作品である。
芦辺氏は乱歩自作の部分を改変することなく、そこに自らの創作部分を加えて物語を完成させる。音楽の世界では、他人の作をそのまま引用して新しい作品とする、パスティッチョ、パスティーシュという手法を使っている。「金田一v.明智」でもその手法を使っていたので、芦辺にとって手慣れたものであろう。創作部分は、乱歩と総ルビ入りの文章、発表当時の国語表記法を駆使し書いており、あたかも一体として続いているように見えるが、微妙にフォントが違うので、区別ができる仕掛け。
乱歩真作部分は、冒頭から乱歩特有ドロッとした濃厚さ・陰鬱さ・回りくどさに満ちて、あの「淫獣」や「孤島の島」を彷彿とさせる。密室殺人、全裸の美女変死体、意味不明の死体の傷、現場に残された意味不明の暗号または記号を示す図を書いた紙(「真正半陰陽」、一人の人間が男女双方の世紀を備えたもの、という解釈はやや強引な気がするが)、そして乱歩好みの奇人・変人が揃った怪しげな降霊会、迷路など乱歩ワールド満載である。
芦辺氏は、その世界を引き継いで、一世紀近い前に残した謎を、探偵小説家として、それこそ偏執狂に「推理」して「回収」していき、物語の結末へと向かっていく。後半では、連載当時の乱歩を登場させる。乱歩自身の生涯で、謎の部分とされる昭和9年(1934年)1月のスランプに陥った乱歩が環境を変えるために泊まり込んだ麻布の「張ホテル」でのプライベートの秘密の探索を交え、悪霊を「中断せざるを得なかった真の理由」何があったのかを推理する。そしてタイトルの「乱歩殺人事件」の意味も明らかにされていく、二重三重の推理小説の入れ子状の構成。
この本は、乱歩デビュー100年記念(『二銭銅貨』1923年)のオマージュ作品でもある。そのためか、乱歩のスタイルを駆使し彼になりきって、先人の推理を超えんとする力作だが、中止となったのは別の理由ではなかったか。NHK『英雄たちの決断』という番組で、『帰ってきた探偵〜江戸川乱歩 ミステリ復活の闘い〜』が取り上げられた。「大正から昭和にかけ人間の闇をみつめる探偵小説で一世を風靡した江戸川乱歩。しかし戦争へと向かうなかで多くの作品が発禁に。…日本が軍国主義へと傾斜していくなかで乱歩作品の多くは検閲によって発禁処分とされた。表現の自由が奪われ探偵小説は風前の灯に」。そこで乱歩が決断したのは、本格探偵小説は将来の後進の手に委ね、自身は「少年探偵団」「明智小五郎」といった子供向け小説に活路を見出し、探偵小説の底辺を拡大しようという考えがあった、という内容であったと思う。「悪霊」は1933年なので、二・二六事件、日中戦争はまだ先だが、軍靴は聞え始めた頃、戦後はまだ先だが、それを見越したうえでの決断で「中止」としたのではないか。乱歩ファンにとっては拍子抜けする顛末だが、いかがだろうか。
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江戸川乱歩が連載を中断した、未完の作品『悪霊』。書簡体で描かれる物語は、メインの趣向や犯人が知れ渡っている作品でもある。その伝説的な作品に、芦辺拓が結末をつけるという。果たして、虚と実を着地させる発想は見事であり、無邪気なミステリ読者への一撃も効いている、メタミステリの良作である。
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江戸川乱歩伝説の作品『悪霊』を芦辺拓が引き継いだ時代を超えた共作です!
何処から何処までが乱歩か芦辺か分からないぐらいスムーズに描かれた作品で、芦辺的解釈で上手く着地させてます!!
ただ近年のミステリーに慣れてたら物足りなさと読みづらさがあるかも!?
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乱歩先生が本当にここで休載したという連載小説の続きを今、芦辺先生が解決してくださった。
なるほどこのような事情なのではさすが乱歩先生も休載せねばなるまいねという納得のゆく解決編でした。
時を遥か超えそれでも紡がられてゆく一流の探偵小説にページをめくる手がとまらなかった。
乱歩先生の時代のままにオドロオドロしさが残っていて紙質、フォントが変わっていなかったら、素人読人の自分では現代に戻ってこられなかったやも。
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★5 江戸川乱歩の未完作『悪霊』 遂に続きと謎が明かされる!乱歩愛に満ち溢れる合作 #乱歩殺人事件
■きっと読みたくなるレビュー
ミステリー好きと言いながら、実は乱歩作品は傑作選にある有名どころの短編しか読んいない私…
こんなにも面白いとはびっくり! 古典と言っても特段読みづらくもないし、むしろ文字がするりと入ってきます。装丁もフォントも紙質すらも風情をだしていて、カッコイイし、不気味な雰囲気ながらも艶っぽく魅惑的。
謎解きも意味不明な問題を出されて、底知れないポテンシャルを感じます。いやー痺れました。大変勉強不足だったと反省しております、やっぱり大学で文学をしっかり研究したいなぁ。
本作は江戸川乱歩が途中休載してしまった『悪霊』に対して、芦辺先生が続きを追加した作品。さらに単に物語を紡いだだけではなく、なぜ乱歩は休載することになってしまったか、なぜ乱歩殺人事件というタイトルになっているかなど、非常に手が込んでる。二度三度美味しい仕掛けが技ありですね。
個人的には乱歩が書いた問題提示がめちゃくちゃ面白く、どんな真相を描いてくれたんだとワクワクしてたんですが、これが素晴しかった。伏線っつーか、乱歩のオリジナルの文章の中から怪しいところを拾い上げて、それを推理につなげていくんですが、犯人と動機、隠されていた真実がかなり衝撃でした。謎解きの納得感が高く、しかも乱歩の世界観も保たれてる。
目ん玉が飛び出たのは、紙に書かれた「符号」の解答ですよ。乱歩だったらありえる、そうだったのかも!と思えるほどで、精神にくる解答に打ち震えましたね。
■ぜっさん推しポイント
芦辺拓先生のあとがきにもありますが、乱歩愛が満ち溢れていて嬉しくなります。こんなにも愛せる作家がいるなんて、ホント幸せなことですよね。
そして乱歩の歴史から作品から何から何まで、よくここまで調べました。研究書としてもあっぱれな作品で、きっと今年を代表するミステリーの一冊になるでしょうね。
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江戸川乱歩の未完作「悪霊」。真相とされている「通説」をひっくり返し、それを踏まえて中絶の理由に言及している。
フォントの違いや差別表現を含めた旧来の言葉遣いが雰囲気を出している。
そして、作者が提示した真相は、(私が考えている)乱歩らしさがふんだんに盛り込まれていて、乱歩作品としてありそうだと思った。書き継いだ勇気に拍手。
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途中から別の人が引き継いだものって、違和感があるんだけど、これは完璧なんじゃないかと思う。しかし、ただただグロくて、読むのがしんどかった。
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江戸川乱歩の書き下ろした「悪霊」が、ルビ付きで旧かなづかいのないおかげで、とても読みやすくすぐに入り込めた
まるでからくり箱のように、ここか?ここを開けるのか?そうなのか!と、ただ書きつなげただけかと思っていたのに、こんなふうに入り組んで二転三転して、これは書いている人(芦辺拓)も楽しかったろうなぁ
あとがき込みで終了する本です
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謎解きに興味のない私は乱歩への関心に本書を手にとった
中断した作品に作者が登場する。書き手のトリック、子どものトリックは名作にある
だか、猟奇・欠損する人体・土蔵・覗き・変装・鏡・少年...と乱歩ワールドが展開する
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江戸川乱歩のもとに小説の材料として売り込まれた記録から話は始まる。資産家の美しき姉崎未亡人が密室の土蔵で全裸で殺されていた。現場に残されたメモに書かれた奇怪な記号。事件前に目撃された矢絣の女。死を予言した黒川博士の盲目の養女。邸前の空き地にいるいざりの乞食。未亡人を取り巻く心霊学会の仲間たち。心霊学会が降霊術を行うと、盲目の養女に降りた霊が「犯人はこの中にいる」「次の犠牲者はこの中にいる美しい人」と言う。
雑誌「新青年」に連載された乱歩の「悪霊」はもともとここまでで中絶するのだが、芦辺拓はこのあとを切れ目なく繋げて真犯人を提示、さらには乱歩が中絶した理由まで説明してしまうのだ。どこが切れ目なのか正直見分けがつかないくらい、耽美的で猟奇的でグロい乱歩の世界観を見事に再現している。乱歩本人ではなく乱歩ファンの芦辺拓が乱歩の世界を書くんだからそのツボは見事にファンの心を押さえている。200ページほどなので一気に読んでしまった。
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江戸川乱歩の未完の作品『悪霊』を芦辺拓が引き継いで“事件を解決”した一冊。公開済みの文章から謎や伏線を掬い上げる試みはこれまでにも乱歩ファンや研究家によって行われてきたが、本書が出色なのは「なぜ乱歩は一度始めた連載を中止したのか?」の真相にも新解釈を与えている点。しかもこれが多少ぶっ飛んではいるものの(いや、ぶっ飛んでいるからこそ)乱歩作品へのリスペクトを感じさせるのがニクい。もちろんミステリーである以上は乱歩が執筆した前半部分との論理的破綻は避けなければならず、いわゆる「俺が考えた最強の乱歩風味の小説」では読者を納得させられない。先行研究を前に「これならあっちの説の方が面白いよ」と酷評されるリスクとプレッシャーを乗り越えて一冊の探偵小説を完成させた著者の手腕と情熱には敬服。ある意味で本書のクライマックスはあとがき。
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乱歩が未完のまま残した作品を引継ぎ、登場人物たちの関係を明らかにし、事件の謎(密室、全裸遺体、複数の傷とバラバラな方向への流血、犯人、動機)を説得力を持って解き、さらには物語を膨らませて乱歩が未完のまま残した理由まで提示するという、ほとんど不可能な課題に挑戦し、それぞれ矛盾がないばかりか、1冊の作品としても十二分に成立する品質で成し遂げた、労作にして痛快作。
文中の一人称の使い方に唸る。
本書の困難さは作者のあとがきに凝縮されている。
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中絶作「悪霊」を引き継ぎ、完成させられた作品。のみならず、何故「悪霊」の続きが執筆されることがなかったのか、という謎まで解かれてしまいます。
「悪霊」は噂を聞いただけで、読んだことがなかったのですが。うわー、これはたしかに続き読みたい! いかにもな要素がいっぱいで、ぐいぐい引き込まれてしまいます。なのでここで初めて読んでよかった……でなければとっても不完全燃焼でした。芦辺さんの書かれた解決編、これですっきり納得できましたし。
そしてさらなる謎、何故「悪霊」が未完のまま終わったのかという部分についても、ミステリとして見事な着地です。こういうことが現実にあったとしたらちょっと楽しいかも、と思ってしまいました。
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江戸川乱歩の未完の作品を謎の解明も行いつつ補完した書籍。江戸川乱歩が好きな方なら、現代にそぐわない身体描写やどろどろした作風も受け入れられるかなと思う。私も小学生のころ乱歩作品を読んでいたので、久しぶりに体験する雰囲気だなと面白く読んだ。