太宰の新刊文庫。
2024/08/26 02:14
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投稿者:キェルケゴ - この投稿者のレビュー一覧を見る
太宰治のデビュー作の新編集の文庫。注解や解説が行き届いて、信頼がおける。
それにしても、太宰20代の初めての作品集に「晩年」と題名を付けるあたり、皮肉なのか、自殺をほのめかしているのか、独特のセンスに脱帽してしまう。
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岩波文庫から『晩年』が出版されたので読んでみました。岩波文庫は注釈が付いているので読みやすかったです。注釈なしの他の文庫で挫折して途中で放り投げた人は、再チャレンジにいいと思います。
さて『晩年』ですが、太宰治の最初の創作集で15作品を収録。巻末の解説には、名だたる文人たちと解説者が、『晩年』が最も優れている作品集としてあげています。自分は、新潮文庫の『きりぎりす』の方が面白い短篇がよくまとまっていて好きなのですが、これ如何に?とはいえ何作か良かったものもありました。
『思い出』
主に幼少期から少年時代にかけて、自らの人生を振り返る自伝的小説。『津軽』で鍵となるタケが登場します。それにしても、自然派と言えば聞こえはいいですが、壮大な暴露大会と化しているのは、当時の親族はどう思ったのか気になるところ。
『地球図』
キリスト教布教に信念を抱くローマからの使徒を、新井白石らが審問する歴史小説。当人の心情を考えると、とても悲しく思いましたが、当時のキリスト教の背景にある、闇の部分を考えると、これも仕方ないことだと思いました。
『道化の華』
太宰治の心中事件を、後に『人間失格』の主人公である大庭葉蔵と、僕という人物が客観的に外から評しながら語りかける様は、ロシア文学やフランス文学の作者から読書へのツッコミのようで面白い。あと、なぜ自分は小説を書くのだろうと自問するところが好き。
『猿面冠者』
小説を生み出す苦しみを、ギャグを織り交ぜながら書き連ねる様が面白い。別に書かなくても牛乳配達でもいいじゃないかと自虐的に語っているところが面白い。
『彼は昔の彼ならず』
貸家に入居してきた住人が、仕事もせずに家賃滞納したまま居座るダメ人間に翻弄される話し。この男、嘘ばかり言っていて、森鷗外『青年』のモデルは自分だと言ったところが面白かったです。
あと、『魚服記』『猿ヶ島』『ロマネスク』も秀作です。『雀こ』は津軽弁が、さっぱりわからなかったです。
追記:
岩波文庫で長年放置されていた太宰治ですが、ここにきて刊行ラッシュになる模様。
(予定)
『富嶽百景 女生徒 他六篇』(2024年9月)
『走れメロス 東京八景 他五篇』
『十二月ハ日 苦悩の年鑑 他十二篇』
『惜別 パンドラの匣』
『ヴィヨンの妻 桜桃 他九篇』
(既刊)
『右大臣実朝 他一篇』
『津軽』
『お伽草紙 新釈諸国噺』
『斜陽 他一篇』
『人間失格 グッド・バイ 他一篇』
『晩年』
つまり、既刊の中でも書体の古い『富嶽百景 走れメロス 他ハ篇』の収録作を分けるみたいです。ワイド版も、そのうち分けるのでしょうね。
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1番印象に残ってるのは、道化の華。
まさか、小説の途中途中で、太宰自身の考えが入ってくるなんて夢にも思わなかった。
今まで小説を読んできた中で初めてのことだった。
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初の太宰治として、処女作である晩年を読了。
想像していた太宰治に対するイメージは、もっと弱々しくて執拗に嫉妬深く、すぐ自殺しようとする、くらいにしか思っていませんでした。
この作品を読んでみて、全体に漂う土着的な独特の妖しさと、二重三重に俯瞰して自身を見ているペシミスティックな思考回路が複雑で、理解を拒むような文体が素晴らしかったです。
生と死と諦めと希望と、ユーモアが入り混じった、全体を通してヒリヒリとした緊張感が素晴らしい。
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魚服記、雀こ、道化の華、彼は昔の彼ならず、ロマネスクが好きだった。
魚服記は晩年の中で一番好きだった。考察の余地を与えてくれる文章でありながら無駄な部分が一切ない。日本神話のような幻想的で格調高い雰囲気は完成されきっており、色々な考察をしなくても作中の雰囲気を感じるだけで好ましく思える小説。父とスワの関係性やスワの行末などは本当に微かに匂わせるだけの表現になっていて、物語の幻想性を高めている。そこの塩梅がとても良かった。
道化の華の始まりは何ともない文章で普通に読んでいたのだが、途中で登場人物達が険悪な雰囲気になり、読むのに少し嫌気がさしてきた時に筆者の『僕』が出てきてつらつらと散々言い訳を並べてくる。これがめちゃくちゃ面白い。筆者が介入してくるタイミングも丁度良く、だれてきた瞬間に梃入れがなされるので手段は斬新なのに安定している。思い出、魚服記、猿ヶ島など道化の華までの短編はスタイリッシュで完成度が高かったのに、急に道化の華でグダグダしてくるのがとても面白い。
太宰治らしさを詰め込んだような作品集だと思った。
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“「ほんとうに、言葉は短いほどよい。それだけで、信じさせることができるならば。」”(p.11『葉』)