『呼人は旅をする』
2025/01/12 20:23
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投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「呼人」(よびと)とは何かを引き寄せてしまう人
そこにいるだけで雨を、植物や動物を、人間を呼び寄せてしまう原因不明な特殊体質
だから一つところにとどまることができず、旅をする
そんな呼人が身近にいたら、あるいは自分が呼人になってしまったら……
社会の少数派であることに目を注いで紡がれた“痛みと希望の連作短編集”
《人とちがうこと、それでも隣りあって生きること》──帯のコピー
“名前買い”できる注目の若手作家の単行本第7作、2024年10月刊
〈呼人の能力は役に立たない、ということは最初に決めました。“別に役には立たない。ただいるだけです”と。その“ただいるだけ”が、周りからはなかなか許してもらえないし認めてもらえないんですよね〉──小学館の小説ポータルサイト「小説丸」の「熱血新刊インタビュー」より
ちなみに物語の出発点は漆原友紀のマンガ『蟲師』だったとのこと
[著者作品情報]
『お絵かき禁止の国』講談社/2019年
『かすみ川の人魚』講談社/2021年
『満天inサマラファーム』講談社/2022年
『キノトリ/カナイ』静山社/2023年
『杉森くんを殺すには』くもん出版/2023年
『砂漠の旅ガラス』小学館/2023年
『呼人は旅をする』偕成社/2024年=本書
社会派ファンタジー
2024/12/12 22:41
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
自然現象や動物など、意図せず“何か”を引き寄せる体質を持つ「呼人」。ひとところには留まれないマイノリティの彼らの生き辛さと、それを支える人やその他のマジョリティの葛藤と―――すべてを平等には出来ないこの世界の仕組みを、優しく諭してくれる社会派ファンタジー。
人と違うという事は、我慢が伴うのも仕方のない事なのか?それとも、一人の特別な人に合わせて皆が我慢をするべきなのか?誰の所為でもない、というやり場のない憤りが、様々な形となって呼人に降りかかる。
あらゆる差別、家庭やジェンダー問題、福祉制度など、多岐にわたる現代社会が抱える闇を「呼人」を通して炙り出した気付きの物語。
まず設定が面白い。何を寄せてしまうかによって、同じ「呼人」でも生活の困難さが違う。これはマジョリティにも言える事で、結局は全く同じ状況で生きている人はいない、という当たり前をガツンと突き付けられた。彼らに関わる人たちの「わかっていたはずなのに」という後悔に強く共感し、その度に「また気付けなかった」と何度も落ち込んだ。
語り手がどちらであっても、偏る事なく双方の気持ちが描かれているように感じ、肯定から始める事の大切さも再認識させられた。
言わない正しさと、言う正しさ。言葉が持つ力など、子供の頃から知っておきたい事が盛り沢山の、子供から大人まで感性が磨かれる作品。
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この本の中で描かれる呼人は、実際にはいない特殊体質の人たちのことだけれど、現実世界には呼人と同じような扱いを受けているマイノリティの人たちはたくさんいる。
その人たちに対して、本書に出てくるような理解ない人たち、配慮の足りない人たちのような振る舞いを、果たして私はしていないかと、我が身を振り返りながら読んだ。
特に母と子の関係については、勉強になることも、反面教師にしようと思うことも書かれていた。
自分の体質や育つ環境は、選ぶことができない。
でも、その中でも選択できることはあるのだということ。苦しんでいるあなたを見て、心を痛める誰か、助けになりたいと願う誰かがいるのだということ。
もし呼人たちに共感するような辛さを抱えている子どもたちは、この本を読んでほしい。
そして、大人たちは、辛い思いをする本人の考え方の問題と切り捨てるのではなく、自分が家族や周囲にいる人間として何ができるのかを振り返るきっかけとして、この本を読んでほしいと思う。
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連作短編集。
人と違うことの意味を考えさせられた。
「呼人」とは何かを引き寄せる特異体質で、政府機関に認定され、生活に制限が生じる。
社会の中では少数派。
少数派の生き辛さを読んでいてひしと感じた。
理解することと理解した気でいることは違うとか、選択肢の有無の違いとか、考えれば考えるほど悶々としてしまう。
児童書とされる作品ではあるけれど、大人が読むことに意味がある1冊のような気がした。
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長谷川まりるさんの物語は設定がとても魅力的
今回のお話は、人や動物、植物などを引き寄せてしまう呼人のお話。呼人は引き寄せてなにか害を及ぼしてしまうかもしれないため一箇所にとどまれない。だから、このタイトル。
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何かを寄せてしまう”呼人”にまつわる連作短編集。「自分とは違う」こと、「他者」を受け入れることとはなにか、を考える物語。
雨の呼人、たんぽぽの呼人…いろんな呼人がいるけれど、「普通の人とは違う」「特別扱いされているようにみえる」呼人と、それ以外の人々との対比の描かれ方が素晴らしいのだ。あまりにも切なくて、それでも人と関わりたくて、という日常が描かれている。
これはすごいぞ。
全員、この作品に出会ってほしい。
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思いがけず読み応えのある作品に出会うことがある。
この『呼人は旅をする』はまさにそれだった。
“何か”を引き寄せる「呼人」になってしまった人達が主人公となる短編集。
その“何か”はその呼人それぞれだが、呼人が同じ場所に居続けることで、ある一定の物を大量に呼び寄せてしまい、多くの人が生活に支障をきたすことになる。
だから呼人という特殊能力が己の身に出現してしまった人は、一箇所に留まらずに旅を続けなければならない…子どもであっても。
ちょっと有り得ない設定だが、ファンタジックなわけでもなく、何かすとんと腑に落ちる語り口なのだ。
きっとそれは呼人が感じることや呼人に対する周囲の反応が、私たちの日常にも見え隠れしていることだからだろう。
分かっていても目を瞑ったり、見えないことにしたり…呼人という存在を通してそれに気づかせてくれる。
小学校高学年〜中学生に是非読んでもらいたい。
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呼人が存在する世界がリアルに感じられた。もし存在していたら、政治的側面、人権擁護、家族の葛藤など、現実の社会ではそんなふうに人々は様々に解釈したり途方に暮れるのだろう。が、最後に、『ただそこにいるだけ…』その言葉の通り、肯定や否定を超えたところの真っ直ぐな視点が清々しかった。
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「呼人」とは、政府機関が認定した植物や虫、動物、自然現象を呼び寄せてしまう特異体質のこと。その特異体質の10代から20代前半の若者を主人公とした連作短編集。
これは現代社会の差別偏見のあるマイノリティの問題をYA向けに置き換えている作品で、みんなと違う人を排除しようとする動きをよく捉えている。
我が子が呼人になってしまい、それを受け入れられない母親なんか、そんなことダメだと思いながらも、わかるような気がして心の弱い自分が情けない。
まりるさんは当事者だけでなく、その周りの人たちの心情を描くのがうますぎる。
まりるさんは野間児童文芸賞授賞式で「書店にYA向けのコーナーがない。作って欲しい」とおっしゃっていたけど、ほんとその通り。
心がまだ不安定な10代には児童書では幼すぎるし、一般書は刺激が強すぎる本もある。図書館にはあるのだから、書店にも児童書コーナーと一般書コーナーの間にぜひYAコーナーを作って欲しい。
こんな素晴らしい作品が埋もれてしまうのはもったいない。
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何かを呼び寄せてしまう力を持ってしまった人たちの短編集。ある日突然普通じゃなくなり、一箇所に定住できない。心ない言葉をあびることもある。みんなと違うことは悪いこと?我慢を強いられ、自分を押し殺してでもやんわりと笑って過ごすことを選んだ、選ばざるをえなかった人たちの心中が痛かった。
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マイノリティについて考えるためのとても良い本だったと思います。
“呼人”とは、何かを呼び寄せてしまう体質を持った人のこと。雨だったり、動物だったり、植物だったり。分かりやすく言えば雨女みたいなことですね。でもこのお話の中の呼人の力はハンパないので、ひと所にいるのを政府から禁じられるほど。ひと所にとどまると災害や自然破壊が起きてしまうから。
なので旅を続けなければならないのですが、国から保障を受けている存在。
そんな呼人たちの短編集。主人公は10代の子たちなので、その年代の人たちへのメッセージなんだろうな、と思われます。
呼人は特殊な存在という理由でいつでも我慢しなければいけないのか?という問題や、今まで遠巻きにしていた呼人という存在に、ある日突然自分がなってしまったら?とか、マイノリティとマジョリティの関係にバッサバッサとメスを入れてきます。呼人である我が子を受け入れられない母まで登場します。そして呼人である自分だって差別をすることがあることに気付いたりもします。
呼人であることに意味や原因なんかない、ただそう生まれついただけ。
結局、根っこのところが違うのだから分かり合えなくて当たり前。分かり合えて当然と思うからぶつかるのだ、とこの本は訴えてきます。
ぜひぜひ10代の人たちに読んでもらいたい作品。もちろん大人の私たちにも。
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呼び寄せ体質の呼人。思い通りにいかなくても折合いをつけ前に進む。常識に囚われずに柔らかく考えたい。「小林さんの一日」は呼人支援局職員の話。雨・タンポポ・鹿・男・鳥呼人
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あさきょさんのオススメYA本!
これは読まねばと図書館でお借りしました。
呼人って何?と呼人の設定を理解するのにやや時間がかかってしまいました…
呼人とは…色々なタイプの物や者を引き寄せてしまう人のことで、その特性によって他者から誤解されることを一生受け入れなければならない。
ザックリ言って、マイノリティについて考えさせられる本。
読み進める度に、私もマイノリティの方々に数々の失言をしたであろうと、背筋が伸びる思いでした。
自分がその人の立場になることができない場合、どれだけ想像力を駆使しても相手の気持ちはわからない。
でも、だからと言って相手を思いやることをしない理由にはならないわけで…
わからないなりにも、相手の気持ちを想像しよう
と思えてくる。
子ども達に、ただ「相手の気持ちを考えて!」と言ってもなかなか伝わらないけれど、この本を通して上手く伝わればなぁと思う。
すべての小中学校と図書館のYAコーナーに置いてほしいなあ。
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何かを呼び寄せてしまう特異体質を持つ呼人と呼ばれる人たちが主人公。何かを呼んでしまうので旅をしているというのが軸。個人的にはあまり合わないタイプだった。
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呼人という架空の特性に仮託して、想像力を働かせることの大切さとやり方を気付かせてくれる。過剰な悪口を言ってしまったり、アンチコメントを書き込んでしまったり、自分の小さな常識に当てはめた一方的な思い込みや発言をしてしまったりすること、誰にでもあるじゃん。己を省みて目から鱗がボロボロ落ちる。うますぎる。こんな童話素晴らしすぎる。短編集だからこそ、いろんな人いろんな生活が描かれている。