日本とアメリカとの関係をどう表現したらいいのだろう
2025/05/20 22:38
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投稿者:雑多な本読み - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は著者が2018年のアメリカのハーバードで講義したものに基づいて書かれたものという。アメリカの大学といっても、白人よりアジアや中南米からの留学生が多かったようで、この講義を本にするにあたり、劇中劇のような構造という。本書の目次を見ると、
はしがき
イントロダクション
アメリカ・イン・ジャパン ― 非対称的なクラインの壺
第1講 ペリーの「遠征」と黒船の「来航」
―転移する日本列島
第2講 捕鯨船と漂流者たち
―太平洋というコンタクトゾーン
第3講 宣教師と教育の近代
―アメリカン・ボードと明治日本
第4講 反転するアメリカニズム
―モダンガールとスクリーン上の自己
第5講 空爆する者 空爆された者
―野蛮人どもを殺戮する
第6講 マッカーサーと天皇
―占領というパフォーマンス
第7講 アトムズ・フォー・ドリーム
―被爆国日本に「核」の光を
第8講 基地から滲みだすアメリカ
―コンタクトゾーンとしての軍都
第9講 アメリカに包まれた日常
―星条旗・自由の女神・ディズニーランド
参考文献 となっている。
以上のように展開されている。変わった角度からのアプローチであるが、読むと「日本の中のアメリカ」という視点だけでなく、アメリカとは何かと問うている。アメリカは資本主義国家であるが、相当前から帝国主義国家であることは間違いなく、ヨーロッパから引き継ぎ、さらに拡張したといえる。江戸時代末期に、日本はアメリカと出会っているが、それ以前から個々の出会いがあったことはジョン万次郎だけでなく、多くの例がある。しかし、ペリーの計画的なアプローチから、アメリカ流の軍隊の派遣とネットワーク化、宣教師の教育事業、ハリウッド映画からディズニーに至る文化的な面からのアメリカンナイズ。日本だけでなく世界的な規模での展開。読みどころの多い本である。知らないことに気付かされるであろう。本書は多くの人に読んでもらいたい。
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配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01436542
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1. 講義の背景
- 本書は、著者が2018年にアメリカで行った「日本の中のアメリカ」という講義に基づいている。
- 講義は、アメリカ本国の学生に対して「日本の中のアメリカ」に関する自身の考えを英語で伝えることを目的としていた。
2. 講義の実施と挑戦
- ハーバード大学での講義は、英語での表現が求められ、準備に時間を要した。
- 学生の多くはアジアや中東からの留学生であり、初期の想定とは異なる背景を持っていた。
3. 日本人の経験とアメリカの視点
- 著者は、「日本の中のアメリカ」というテーマを、アメリカ側から捉え直すことの重要性に気づいた。
- 近代日本人が「アメリカ」と出会うドラマがあり、そこには非対称性が存在する。
4. 歴史的な事例
- ペリー提督との交渉や、日米戦争、占領期における日本人の経験が、アメリカとの関係性を形成した。
- これらの歴史的出来事は、アメリカの帝国主義的拡張と関連付けられている。
5. 抱擁の概念
- 「日本の中のアメリカ」は、文字通り「アメリカの中の日本」に「抱擁」されているという視点が強調されている。
- 特に、占領期から続く文化的影響が強調されており、谷崎潤一郎の「痴人の愛」における描写が例として挙げられる。
6. アメリカの太平洋戦略
- ペリーの遠征は、アメリカの太平洋における覇権拡張の第一歩であり、その背景には大統領親書があった。
- アメリカは当時、日本を「危険な壁」と見なしていたが、ペリーの再訪により日米関係が変化した。
7. 捕鯨と漂流者の物語
- 太平洋における捕鯨の歴史が、アメリカと日本の接触を示す重要な事例として取り上げられている。
- ジョン万次郎の物語は、アメリカ社会への理解を深める一助となった。
8. 日米間の文化的非対称性
- 日本とアメリカの文化的な違いが、具体的な事例を通じて示されている。
- 特に、ジェンダー関係や家族観の違いが強調され、福沢諭吉の経験が引用されている。
9. モダンガールと職業婦人
- 日本におけるモダンガールの登場は、アメリカ文化の影響を受けた社会の変化を象徴している。
- 職業婦人の拡大も、アメリカの影響を受けた結果として位置付けられている。
10. 結論
- 本書は、日米関係の歴史的な文脈を通じて、日本の中のアメリカを再考する重要な知見を提供している。
- 講義の内容を通じて、日本人がアメリカとの関係をどのように捉えてきたのかを考察することが求められている。
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筆者が2018年春学期にハーバード大学教養学部の東アジア言語文明学科で行った講義をまとめた本です。
1000円ちょっとでハーバード大学の講義を読めるのはお得過ぎます。
ペリーが日本に「遠征」した頃からの日本がアメリカとどのように関わってきたのかを講義しています。
幕末、明治、大正、大戦前、大戦後それぞれの時代でいろいろと知らなかったことが書いてあって面白かったです。
アメリカは西へ西へと開拓(侵略)していって、日本にたどり着いたとか、
明治の頃のアメリカの宣教師の人たちがいろいろな大学の元になっているとか、ほんとうにいろいろあって面白かったです。
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境界としての日本を見ることで、侵略という持続不可能なアイデンティティーをもつアメリカと、アイデンティティーを追求せず劣等感を他者に押し付けてきた日本が絡まっていく過程がよくわかった。
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日本の中のアメリカ、
アメリカの属州ではないかと思うことが様々ある中で、アメリカの独立戦争、西部開拓の歴史、ペリーの浦賀来訪、アメリカの捕鯨活動の基地の必要性、などから、現在までの原子力の平和利用、アメリカ軍基地を巡る、様々な問題、星条旗に対するアメリカ人のナショナリズム、自由の女神、(お台場に行った時に、なんでここに自由の女神があるのだろうか?)と思ったことを思い出した。
ディズニーランドが日本を包み込む、多くの人がディズニーランドに憧れ、アメリカの文化が日本の文化を包み込むことに喜びを感じる。日本人、ドジャースとカブスの開幕戦が東京ドームで行われることに熱狂する多くの日本人の様子をテレビでこれでもか、これでもかと放送することを見ながら本書を読み終えた。
色々と参考になることが多く、このハーバード講義録が白人のアメリカ人が少なく、アジア系、中南米系の学生が多かったとの記述に、ちょっと残念な気がした。
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日本にとってのアメリカの存在。
ペリー来航に始まりジョン万次郎、宣教師たちの大学設立、空襲、占領期、原子力、米軍基地、ディズニーランドと順を追って日米関係に新たな視点を与える、画期的な講義録。
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◆戦時中、アメリカ人は日本人を「猿」と見ていた!
本書は、日本人である著者がアメリカの大学で「日本の中のアメリカ」を講義した、
劇中劇?のような記録がもとになっています。
まず印象に残るのは、そもそものアメリカ論として、
西へ西へと膨張し続けるアメリカン・スピリッツ。
西部劇に代表される「西部開拓」の話ですが、
先住民の強制移住や虐殺を伴ったものだったことは周知の事実。
それは「西部侵略」にほかなりませんが、
いまでは「西漸運動」というニュートラル?な言い方がされているとか。
この膨張のエネルギーは、「マニフェスト・ディスティニー(明白なる運命)」として、
まさにアメリカのDNA。神の定めとされていたのですが、
実は妄想に過ぎなかったのかもしれません。
とまれ、カルフォルニアに達した「西漸運動」は、
太平洋を飛び越え、日本にも達し、ペリーの「遠征」となる訳ですが、
実は、太平洋航路には安全や補給がまだ確保できていなかったため、
東回りで半年以上をかけて日本に来たというのは興味深い話です。
このとき以来、日本はユーラシア東端の国から、太平洋西端の国へと、脱亜入欧ならぬ、
脱亜入米に、自己意識を旋回していくことになるのです。
以上は、あくまでもイントロで、本論では、
下記のような興味深い歴史的事実と分析が多数示されています。
・すでに1860年に幕府は、遣米使節団を送り、技術を取り入れ、軍の近代化を進めていた
・当時、捕鯨産業はアメリカの一大産業で、日本近海は好漁場だったため、
ペリー来航以前から、捕鯨を通じて日米の交流や小笠原をめぐる駆け引きがあった
・ハードード大学など歴史ある大学の多くは、布教に向けた宣教師養成のためにつくられ、
日本の多くのミッション系大学もそうであった。
・1920年代の日本は、ハリウッド映画の影響もあり、
「モダンガール」を始め、アメリカ文化が席巻していた。
谷崎潤一郎の『痴人の愛』は、まさにハリウッド映画からの引用だとか。などなど。
とくに驚くべきは、戦時のアメリカ人の日本人認識。
日本人のアメリカ人認識は「鬼畜米英」=「鬼」であったのに対し、
アメリカ人には、黄色人種を脅威とする「黄禍論」がベースにあり、
日本人は、野蛮な帝国の「黄色い猿」だったこと。
この露骨な人種主義は、戦争末期、日本人の殺戮は「殺人」ではなく「狩り」として、
正当化にもつながっていたようです。
その意味では、ヒトラーのホロコーストと大差なく感じます。
戦後の日米関係についても、天皇を巧みに活用したマッカーサーのメディア戦略や、
原子力を恐怖のシンボルから復興の希望のシンボルに転換したキャンペーンなど、
読むほどに歴史の綾を感じさせます。
最後は、戦後日本におけるアメリカの象徴的存在として、
忠誠・愛国のシンボルとして大衆化・神聖化された星条旗、
日本では通俗的な記号・欲望のキッチュ(紛い物)と化した自由の女神、
そして「アメリカの幻想」を再演しているディズニーランドの3つを取り上げ、
アメリカ文化の日本への浸透を分析。
著者は、2007年に『親米と反米』という本も出しており、
本書はその続編とも言える新刊。
日本にとってアメリカとは何かを考えるには最適な一冊と言えそうです。