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7件
三面記事小説
著者 角田光代
「私は殺人を依頼しました。恋人の妻を殺してほしいと頼みました…」誰もが滑り落ちるかもしれない、三面記事の向こうの世界。なぜ、姉夫婦の家は不気味な要塞のようになってしまったのか? 家出少年を軟禁する主婦の異常な執着心。「死んでしまえ」と担任の給食に薬物を混ぜる女子生徒。平穏な日常が音をたてて崩れてゆく瞬間のリアルな肌触り、追いつめられていく様子。現実の三面記事に書かれた、いわくありげな事件から著者が幻視した、6つの短篇。
三面記事小説
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三面記事小説
2012/02/09 08:14
家族、生きる、人間...生々しいテーマでハマります
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
何かと目にする機会が多い著者の本を読んでみたいと思っておりまして、やっぱり最初は「直木賞受賞作」かなあ、と考えておりましたが、機会あってこの本が「デビュー」となりました。
本書は、実際の事件がテーマなのか、「三面記事に載るような話」をテーマにしているのかわかりませんが、非常に身近な、自分たちの周りでもあるであろう環境の中のお話の短編集です。
貫かれているのは、「家族」「仲間」「恋愛」といった、人間関係です。これまでうまくいっていたものが、時間の経過とともに何か歯車が狂いだす。いったんはずれてしまった道から、気が付けばどんどん離れていく、といった、かなり「日常」の話であります。
読み始めてまず感じたのは、(ど素人の私が「上から目線」ですが)文章の展開や、導入、盛り上がり、エンディング、めちゃ読後感がいい。完成度が高い。何か「高尚な」音楽を意識的に聴いているような感覚がします。テーマは「歌謡曲」に近い(誰にでも近い距離にある、という意味で)のですが、作品全体からにじみ出るBGMは、「クラシック」のような...
小説ですので、「事件」が起こるわけですが、事件そのものではなく、その背景、関係者の心理描写、変わっていく環境、一度走り出したら止まらない感情、そんなものが余すところなく描かれます。もしも自分がその環境に置かれたら、そうなってしまっても不思議はないだろう、という気持ちがするほど身近で、多少「恐怖」を感じる場面もあります。
女性が「主役」であるストーリーが多いのですが(結構男性のキャラは「汚れ役」が多い。苦笑)、最後に収録された「光の川」は特に秀逸です。人ごととは思えないところもあり、「今」の社会の歪を描いているのかもしれません。
いずれも「三面記事」のベタ記事で見れば、 関係者以外は「その場限り」で済んでしまう事件ですが、もちろん当事者たちには、いろいろな背景があり、事情がある。そしてそれはいつ自分の身に降りかかるかわからない。これは自分がどうこうすれば避けられるとか、そういうことではなくて、ある意味「運命」に近いものかもしれません。
非常に「深い」「濃い」小説です。角田さんの最初がこれでよかった、と思える感じ。読んでいると情景が浮かぶんですね。自分が経験したことのない場面にも関わらず。すごいです。
【ことば】...空を仰ぎ口を開けて泣き続ける。そうしていれば、母がすぐにでも抱きしめてくれることを知っていた幼いことのように、泣き続ける。
痴呆により「母が母でなくなって」しまった話の中に。現代で一番悲しい病気かもしれません。でも「母」であることには変わらない、幼いころから今まで注がれた愛情は変わらない。家族「のようなもの」になってしまったのは表面的なもので、それは「家族」であることに違いはない。
三面記事小説
2021/11/11 04:10
救いのない
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆかの - この投稿者のレビュー一覧を見る
事件が起きるのは決まっているから、どうしたって不幸な人、救われない人はいるってわかっているんだけど、それでも読んでてつらい。
いつも何気なく目を通している記事の向こう側には、彼ら彼女らがいるんだと思うと、ひとつひとつの重みがこれまでと変わってくる。
2017/04/05 19:22
暗くて重くて救いがなくて、でも光差す短編集
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
角田さんの小説では好きな方。暗くて重くて救いもない話ほぼ。高校生男子に入れあげる馬鹿親ネグレクトやお金払って不倫してもらっているOL、その相手の男の話などムカムカするのもあったけれど、最終話の母親介護の話はとてもよかった。結末は推して知るべしだけれど、まだ愛がある。愛があるということは光があるということだ。蓋しこの話は京都のあの母子がモデルになっているのだろう。少し触れられている生活保護のこと、やはり働き盛りの人間が仕事をやめて介護するというのはダメなのだろうか。生きたい人が生きられないシステムへの警鐘。