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9件
闇に香る嘘
著者 下村敦史
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果、適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。
闇に香る嘘
05/08まで通常858円
税込 429 円 3ptワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
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闇に香る噓
2019/03/23 22:51
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
緻密な構成に裏打ちされた謎が謎を呼ぶ展開に脱帽です。人格自体を特定することが困難な満州残留孤児(引き揚げ者も含む)を対象とし、更に謎を解明すべき主人公を視覚障害者とすることで、謎を更に根深いものとして描くことに成功している。周囲で起きている事象を的確に認識・判断することの困難さから、主人公がどんどん疑心暗鬼に陥っていく心理描写も凄い。そして全編を通じて貫かれる国を超え、家族愛すら超越した人間愛に感動でした。中国側からみたら何を日本を美化してるんだと言われそうですがね。こんな人達がもう少し沢山いれば戦争なんて亡くなるだろうになあ。いや、そんなことより単なる推理小説としても実に素晴らしい出来でした。流石、第60回(2014年)江戸川乱歩賞受賞です。
2018/03/03 09:17
力作
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
全盲であるが故の疑心暗鬼と、彼を思いやるが故の周囲の人たちがつく嘘が余計に疑惑を深めていく様が克明に描写されており、加えてお酒で精神安定剤を服用することによる記憶障害が彼自身に対する不安も強めていき、読み進むのが苦しくなるくらいでした。
中国残留孤児の苦悩も、兄・竜彦や兄の正体を探るために会って話をした他の中国残留孤児やその支援者たちを通じて切々と訴えられ、作品全体にやるせなさが漂っています。
最後のどんでん返しと、分断していた家族が再び一緒になる展望が見えることで一種のカタルシスが得られるので、読後感は悪くないです。
2018/02/11 10:31
真実から逃げないこと
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
これぞミステリー。主人公は全盲の男性。闇の中で疑惑と戦う。誰を信じ、誰を疑うのか。晴眼者では考えられない恐怖が次々と彼を襲う。読んでいて息が止まるほど怖かった。まるで私も眼が見えなくなってしまったかのように。知らない世界。考えても見なかった暗闇。彼は挫けなかった。傷つこうとも死の淵が真横にあろうとも進み続けた。彼の望みは意外な形で終わりを迎える。「真実」は時に残酷である。けれど乗り越えれば人間は大きく成長できる。彼も彼を取り巻く人間もみなふんばり、頑張った。だからこそ遺恨無く結末を迎えられたのだと思う。