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火怨(講談社文庫)
  • みんなの評価 5つ星のうち 4.5 4件

電子書籍

火怨

著者 高橋克彦 (著)

辺境と蔑まれ、それゆえに朝廷の興味から遠ざけられ、平和に暮らしていた陸奥の民。8世紀、黄金を求めて支配せんとする朝廷の大軍に、蝦夷の若きリーダー・阿弖流為は遊撃戦を開始した。北の将たちの熱い思いと民の希望を担って。古代東北の英雄の生涯を空前のスケールで描く、吉川英治文学賞受賞の傑作。(講談社文庫)

火怨 上 北の燿星アテルイ

702 (税込)

火怨 上 北の燿星アテルイ

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みんなのレビュー4件

みんなの評価4.5

評価内訳

  • 星 5 (1件)
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  • 星 1 (0件)

紙の本火怨 北の燿星アテルイ 上

2002/10/22 10:48

敗北の美学に酔う

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

推理小説では「写楽殺人事件」SF伝奇で「総門谷」この二つの作品を読んで作家の力量を感じていました。最近、いささか量産傾向にあるような気がしているが、この歴史小説、「火怨」、文句なしに面白かった。八世紀、東北制覇を狙う朝廷の十万の大軍を迎え撃つ一万五千の蝦夷。真田戦記や三国志などかつて戦記物に興奮した記憶がありますが、智將、勇将が繰り広げる戦闘シーンの連続にゾクゾクし、義侠心、「男の心意気」にうっとりします。これは周りにいる若い人達に読んでもらいたいと思いました。高橋克彦は岩手出身で、その誇りとする強い思いが溢れる作品でした。
蝦夷(エミシ)とは日本古代史上、東北日本に住んだ土着民をさし、政治・文化の中心であった朝廷に従わない(まつろわぬ民)未開・野蛮な人たちであった。先進の軍事力を備えた渡来人・大和朝廷が西日本の先住部族を制覇、東日本もすでにヤマトタケルの時代よりターゲットではあったが、桓武天皇期におよび国家的大事業・大仏建立に要する莫大な金の需要によって黄金の眠る蝦夷地制圧は基本戦略として本格化していく。
土着の部族のなかにはすでに中央との交易によって財をなすものもあり、また農耕するもの、狩猟をなすものと、生活基盤はそれぞれに異なり、大軍を前にしてけっして反攻策に一枚岩ではない。朝廷側もあの手この手の懐柔策を弄し穏健派部族を篭絡しようとする。ここに主戦論を掲げ部族間の統一を実現するのが「アテルイ」と呼ばれる若き族長と参謀「モレ」であった。彼らは陸奥の山岳を堅牢な要塞とし、精鋭のゲリラ部隊を養成、遊撃戦をもってこれを迎え、数次の戦いに圧勝するのである。
ここにあらたに智将・坂上田村麻呂が征夷大将軍に任ぜられ、外交を併用したその軍略によって部族間の離反が相次ぎ、形勢は逆転していく。彼は旧来の「蝦夷はヒトではない。オニ、ケダモノである彼らを殲滅、蝦夷地経営を先進民族の直轄とする」大和朝廷の基本戦略を放棄、「降伏」を求めず、「和議」による解決の糸口を模索する。「同盟を誓った蝦夷らはことごとく許されることになった。支配地もこれまでと変わらぬ。朝廷はアテルイらばかりを敵とみなしておる」。
「異民族の平等」「都と対等の国家建設」を夢とするアテルイは武人として信頼にたる敵将の前に腹心らと最後を戦い、この戦さの全責任を背負って投降する。「最初から死ぬと決めてかかったこと。と言うてこれ以上田村麻呂の軍と戦っては敵にも無駄な死傷者を出しまする。『蝦夷の先行きが定まったからには』死ぬのはわれらばかりで充分でござる」。
この数年わが国経済の未曾有の混乱の中で、企業の合従連衡、吸収合併が進み、特に銀行、証券界では以前の会社名は消え去った。巨大外国資本に飲み込まれた企業、グループ化の流れに組み込まれた企業、これら責任者たちの多くがこの局面に真剣に立ち向かい、そして去っていった。その姿を見てきたものにとっては、実に感無量の内容が描かれている。
「結局アテルイの描いた国家建設はならなかったではないか」などとカタイことをおっしゃりなさんな。ここは敗北の美学に酔おうではないか。国内事情、国際事情に思いをはせながら。

坂上田村麻呂が創建したという京都清水寺にはアテルイ・モレの顕彰碑がある。

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紙の本火怨 北の燿星アテルイ 上

2004/12/08 15:23

小説における戦い

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:チョビ - この投稿者のレビュー一覧を見る

8世紀、陸奥の民蝦夷と朝廷の戦い。もしかしたら日本史の授業で習ったのかもしれないが、今日まで私の意識には残っていなかった。微妙な均衡を保っていた両者の関係に亀裂が入ったのは、陸奥から大量の黄金が発見されたことが発端である。蝦夷の願いはただ、同じ人間としての扱いを受けることだったのに…。
戦という混沌の中から生まれた英雄、その名は阿弖流為(アテルイ)。軍師母礼(モレ)、腹心の部下飛良手(ヒラテ)たちを得て、阿弖流為は若きリーダーとなっていく。
高橋克彦という名前を知ったのは、もう20年近くも前のことだ。いくつか短編を読んだことがある。古い洋館が舞台だったりする、ぞくっとするようなホラーがかったショートショート(この名称懐かしい)で、怖い話があまり得意ではない私はそれ以来ずっと敬遠していた作家だった。まさかこんなに素晴らしい歴史小説を書かれるようになっていたとは!自らの不明を恥じる。
上下巻合わせて1000ページを超える大作であるが、巻措く能わざる一冊(上下巻だが)。どうしたって、下巻を読まずにはいられますまい。

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紙の本火怨 北の燿星アテルイ 上

2002/11/04 22:47

蝦夷の平安を見事に表現

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 高橋克彦が蝦夷を描いた作品には三部作がある。NHKの大河ドラマにもなった『炎立つ』、伊治鮮麻呂の乱を予兆させる『風の陣 立志編』、そして阿弖流為の活躍する『火怨』である。
 上下2巻の長編であるが、長さをまったく感じさせない迫力である。『炎立つ』で少し世間にも知られることとなった平安時代の蝦夷の物語で、蝦夷の側から描いた作品である。阿弖流為が活躍する以前に伊治鮮麻呂の乱が陸奥に勃発し、それまでも蝦夷征伐に軍を派遣していた朝廷は、いよいよこの乱によって光仁帝が退位することになり、奈良時代が終わり桓武天皇の時代になったが、桓武天皇から始まる平安時代は、蝦夷にとってはどのような時代であったろうか。
 学校の歴史の時間に教わった平安時代には、当然陸奥を平定した征夷大将軍、坂上田村麻呂が登場し、その名前は日本人の誰もが耳にしたことがある。この田村麻呂と阿弖流為が本書の主人公である。
 本書では二人が折を見て話し合いをする場面が描かれている。戦闘の両将がこのように会談をする機会があったのか否かははなはだ疑問であるが、話としては面白い。平安時代の戦はこのようにのんびりとしていたのかも知れない。そこにも時代が描かれていると言ってよい。
 阿弖流為の投降によって、陸奥には平穏な時代が訪れたと言われているが、その二百年後に、再び前九年の役、後三年の役がおこり、陸奥は再び戦場となった。この二百年後の物語は『炎立つ』に描かれている。田村麻呂との戦闘は、歴史上の史料が失われて、詳細は定かではないが、高橋克彦の描くこの物語では戦闘らしい戦闘は生じていない。陸奥の民を苦しめる戦闘をあえて避ける阿弖流為の奇策によって、見事に平穏な陸奥が生まれたという筋立てである。
 この物語を大河ドラマとするアイデアがあったと聞いているが、おそらく登場人物が信長、秀吉、家康等に比べると、相当地味になるし、視聴率も稼げないであろう。朝廷の蝦夷征伐に苦労する姿などは見ものと思われるが、やはり派手さはない。
 『風の陣 立志編』には鮮麻呂、物部天鈴の若い頃が描かれているが、それとの間にはいささかの時間的な空白があり、ファンとしてはその間を埋める続編の出版を期待したいところである。

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紙の本火怨 北の燿星アテルイ 下

2004/12/08 16:01

現実における戦争

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:チョビ - この投稿者のレビュー一覧を見る

身分を隠した阿弖流為たちが、支援者である天鈴とともに京に上るところから下巻は始まる。宿敵(であり、不思議な信頼関係を保ってもいる朝廷側の貴族)田村麻呂との出会いが深く印象に残る。それぞれ違った星のもとに生まれていたら必ずや固い友情で結ばれていたであろう2人は、否応なく敵味方に分かれ戦いを続ける。そして常勝の阿弖流為が最後に仕掛けた戦とは…。
上巻の書評で、エンターテインメントとしてのこの小説の素晴らしさについて書かせていただいた。もしも実話に基づくものでなかったなら、どんなによかっただろうと思う。阿弖流為たちも田村麻呂も戦いを避けたいと思いながら、しかし避けることはできなかった。フィクションであれば、それもしかたのないことと思いつつ冷静に読むこともできよう。しかし、この戦いは実際に行われたものであり、多くの人々の命が失われたのだ。
阿弖流為は“蝦夷を救うため、未来を担う子どもたちが何もわからぬまま戦に巻き込まれるのを避けるため”最後の戦いを決意した。いまさら歴史上の事件を変えることなどできないと知りつつも、最後の戦いを含め、和解の道はなかったのかと胸が痛む。この小説の戦いの根底にあったいちばん大きな原因は、朝廷の蝦夷に対する差別意識だったと思う。もしも自分が何か次の世代のためにできることがあるとしたら、他者への偏見や差別の芽を植え付けないことしかない。それが実現できれば、いつの日にか誰も戦争などしないですむ世の中になるかもしれないと夢を見ている。理想論と言われても、夢は持ち続けなければ現実にならない。阿弖流為たちの神々しいまでの戦いぶりに、かえって戦いの空しさを強く思った。

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