ローマ世界の終焉──ローマ人の物語[電子版]XV
著者 塩野七生
教科書によれば、紀元476年に西ローマ帝国は滅亡し、一方で東ローマ帝国は1453年まで続いたとされている。しかし、地中海世界全体に高度な文明をもたらした空前絶後の大帝国は...
ローマ世界の終焉──ローマ人の物語[電子版]XV
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商品説明
教科書によれば、紀元476年に西ローマ帝国は滅亡し、一方で東ローマ帝国は1453年まで続いたとされている。しかし、地中海世界全体に高度な文明をもたらした空前絶後の大帝国は、本当にそのような「瞬間」に滅びたのか? 古代ローマ1300年の興亡を描き切ったアジア発、前人未到の偉業がここに完結。「永遠の都」よ、さらば。 ※当電子版は単行本第XV巻(新潮文庫第41、42、43巻)と同じ内容です。
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最後の泣き笑い
2007/12/31 20:02
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ローマ人の物語』最終巻が取り扱うのは、テオドシウス帝の死から、帝国の東西分裂、西ローマ帝国の滅亡を経て、6世紀なかばまでの時代である。東ローマ帝国は1453年まで続くが、この国は本来のローマとはまったく異質のものである。というわけで、このシリーズ、泣いても笑ってもこの巻で終わりである。「泣いても笑っても」は誇張ではない。そこには悲哀ばかりではなくある種の感銘やおかしみもあるからだ。
第1章「最後のローマ人」の主人公は将軍スティリコ。テオドシウスから後継者である2人の息子の面倒を託された彼は、蛮族侵入、反乱、宮廷の腐敗のなか、懸命にローマを立て直そうとする。もっと楽に権力を利用する方法はあったはずだが、前帝との約束を律儀に守り、少年皇帝たちを支え続けた。結局彼は、宮廷内の讒言にあい処刑されてしまう。ゲルマン人を父にもつスティリコが後世「最後のローマ人」と呼ばれるのは、死にゆくローマ社会の中で、彼だけがかつてのローマ人気質をもっていたからであろう。塩野は蛮族と文明人という言葉を躊躇なく使い、両者を分ける一つの基準を「信義」つまり約束を守る態度に求めているが、これは建国当初からローマ人が重視してきた徳目であった。
余談ながら、本巻での蛮族すなわちゲルマン人の侵入に関して、塩野は「歴史研究者の中にはこの現象を、蛮族の侵攻ではなく民族の大移動であると主張する人がいるが、かくも暴力的に成された場合でも「移動」であろうか」と問いかけている。
それが実際、どれほど暴力に満ちたものであるかは本書の記述からも窺える。たとえば、ゲルマン人たちは女子供もローマ帝国領内へ侵入したが、これら「か弱き者」による略奪や殺戮の方が、兵士による以上の被害をもたらした。当然彼らのうちには被害者も多かったが、人的被害に対して敏感なのは文明の民だけで、蛮族は同胞の死に対して無頓着である。それがまた彼らの強さの要因でもあった...つまり、老若男女問わぬ無法者集団があらんかぎりの略奪と殺戮をおこなったのが、「ローマ末期の民族大移動」なのであった。
今も歴史教科書の多くは、この集団的破壊行動を「民族の大移動」と形容している。他方、日本の大陸進出は、インフラ整備など現地にあたえた恩恵を無視し、「侵略」と一方的な表現で呼ぶ。塩野のひと言は、このような矛盾に一石を投じるものとして評価したい。
さて、スティリコの死後、西ローマ帝国は蛮族の天下となる。二度にわたる首都ローマ劫掠に加え、いたるところでゲルマンの王国ができ、帝国の支配は事実上イタリア半島のみとなる。476年にこの国の息の根をとめたのは、ゲルマン人傭兵隊長のオドアケルであった。しかし意外なようだが、彼が西ローマを滅ぼした者とされるのは、単に彼が自ら皇帝を名乗らなかったためである。しかも滅亡に際して、国内には破壊も混乱もなかった。オドアケルはその後立派な統治を行い、彼を殺して権力の座についたテオドリックもまたそれを踏襲した善政をおこなったという。つまり西ローマ滅亡後のイタリアでは、これら蛮族によって平和が保たれたのである。これを塩野が「蛮族による平和」(パクス・バルバリカ)と呼んでいるのは、おもしろい。
しかし平和は永遠ではなかった。テオドリックの死後、イタリアは分裂状態となる。ローマの故地イタリアを完全に滅ぼしてしまうのは、皮肉にもこの地を奪還すべく兵を送った東ローマ皇帝ユスティニアヌスであった。彼の夢は一時実現したものの、結局はくじかれ、その後イタリアは正真正銘の蛮族であるゴート族とランゴバルド族に、かわるがわる侵略され、暗黒の時代へと入ってゆくのである。
最後に泣きごとは書くまい。本書中思わず笑ってしまった箇所を引用して、本シリーズの書評を締めくくりたい。オドアケルによって退位させられた皇帝の名は、ロムルス・アウグストゥス。「西ローマ帝国最後の皇帝は、ローマ建国の祖とともにローマ帝国の祖の名をもつようになった。」
このシリーズを読み始めた頃、よちよち歩いていた長女は今は受験生。彼女は塩野の母校目指して頑張ってます。塩野のように目標を達成できるのでしょうか
2007/02/11 22:37
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私が塩野七生の著作に出会ってからもう30年近い年月が流れました。その歳月のうち、半分を占めるのが『ローマ人の物語』ですから、この作品が作者にとっていかに重いものであるか分ろうかというものです。10巻あたりだったと思いますが、塩野は自分の体調の不良を訴え、何とかこの通史を書き終えたいが、はたしてそれが可能か、というようなことを書いていました。
まず、私はそれがこうして見事に終わりを迎えることができたことを素直に喜びたいと思います。
塩野はこの本の「終わりに」で、
「誕生から死までを追ういわゆる通史は、私には二度目だった。『海の都の物語』と題したヴェネツィア共和国の歴史と、この『ローマ人の物語』で。だが、この二国の歴史は、一千年以上もの長命を享受したという点ならば似ていたが、同時代の他の国々やその後の時代にまで甚大な影響を与えたということになると、比較しようもないくらいにちがう。それが『海の都の物語』は二巻で終えられたのに、『ローマ人の物語』は十五巻にもなってしまった理由である。いや十五巻は書かなければ、ローマの歴史は書けなかった。」
と書いています。
最終巻に相応しく、この巻は面白いといえます。理由は、これもまた「終わりに」にで塩野が言うように、このローマ帝国の衰亡する時期については多くの著作があり、私たちにとっても馴染み深いということがあります。西洋史に必ず出てくるフン族やオペラにも出てくるアッティラ、フランク族、東西ゴート族といった名前は誰もが知っているといえます。
しかもです、フン族について「二本足で動く」なんていう説明は、そのあとに人間という文字がついても、爆笑もの。こういったユーモアも最終巻を無事迎えることが出来た余裕でしょう。ワーグナーの『ニーベルンゲンの指輪』への言及、あるいは、スコラとスクール、ギリシア語では椅子の意味だったカテドラ、山を意味するモンテといったようなラテン語を駆使しての語源解き明かしみたいなところも、この巻を読みやすいものにしています。
また、西ローマ帝国が滅亡後、東ローマ帝国の末期を支えた気の強い二人の女の存在も面白いものです。一人は皇帝ユスティニアヌスの妻で踊り子だったというテオドラで、猛女というのがピッタリ。もう一人が、将軍ベリサリウスの妻で子持ちの未亡人だったアントニアで、このひとは賢妻ということばがピッタリです。
他にも、心ある日本人ならば思わず手を叩きたくなる
「しかし、専制君主国では、君主は決定するが責任を取らない。そして臣下は、決定権はないが、責任は取らされるのである。」
といった発言もあります。そうか、第二次大戦前の日本ていうのは、専制君主国だったんだ。だって、天皇は責任とってないし、軍人の多くは責任取らされたし、なんて肯いてしまいます。ま、この構図は「あるある」問題でも同じですね。フジテレビは全く知らん顔で、関西テレビと下請けだけに責任あるみたい。
また、最終巻ゆえでしょう、過去の巻からの引用が度々あります。中でも印象的なのが第二巻『ハンニバル戦記』で、スキピオがポリピウスに答えたものです。
「われわれは今、かつては栄華を誇った帝国の滅亡という、偉大なる瞬間に立ち合っている。だが、この今、私の胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じ時を迎えるであろうという哀感なのだ。」
あまりにも古い話なので、そうだったかなあ、いつかもう一度読み直すときが来るのかなあ、でも私だったら、やっぱり『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』や『イタリア共産党讃歌』、或は何故か巻末の著作一覧に名前が出ていない『神の代理人』あたりから読み直したいなあ、と思います。
孤軍奮闘する将軍と無能な皇帝の物語
2007/02/12 15:39
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サッチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
滅びに向かう西ローマ帝国を何とか食い止めようとする軍司令官と、これを妨害したとしか思えない、無能な皇帝と官僚との物語である
(1)蛮族出身の西ローマ軍総司令官スティリコが孤軍奮闘して、ゲルマン族の進攻を防ぐが、皇帝ホノリウスの処刑されてしまう。
スティリコの死で、西ローマ帝国は実質的に滅亡し、それ故にスティリコは「最後のローマ人」といわれた。
(2)西ローマ軍総司令官アエティウスが、ゲルマン族と共闘して、アッティラ率いるフン族に対抗するが、皇帝ヴァレンティニアヌスに殺される。
21年後、西ゴート族のオドアケルによって、皇帝ロムルス・アウグストゥスが退位させられ、西ローマ帝国はあっけなく消滅する。
(3)東ローマのベリサリウス将軍が少ない兵站で、北アフリカのヴァンダル族を壊滅させ、イタリアを占拠する東ゴート族と戦うが、途中で帰還させられる。
最終的に、イタリアは東ゴート族と、次に来たロンゴバルド族に蹂躙される。
全15巻に及ぶ「ローマ人の物語」は最終巻まで興味深く読み進めることができた大著である。
諸行無常は世界史に共通
2015/08/16 14:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて隆盛を誇ったローマ帝国も、いったん衰えるとあれよあれよという間に馬鹿にしていた蛮族に蹂躙され、うちでは宦官がのさばったり忠臣が殺されたり無能な君主が何十年も帝位に居座ったりと、目も当てられない状況になってがらがらと崩壊していきました・・・・という“諸行無常”を感じずにはいられない内容。かつてスキピオやカエサルみたいな英雄やアウグストゥスみたいな名君が活躍した時代も描いているのでいっそう強く感じる。
情けない終末
2023/12/01 09:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
大帝国の最期はなんとも情けない終末ぶりである。中国における「周王朝」の最期にも少し似ているかな。前前巻あたりからローマ帝国がローマでなくなり、登場する皇帝たちやその部下たちも大半が情けない人物ばかり。事実であろうから仕方がないが、読んでいてがっかりする思いの連続である。