スーパーマン?いや、ヒューマン!
2007/07/04 01:57
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投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
地中海における覇権国家に成長しつつも、国内では混乱にあえいでいたローマは、一人の男によって新たな方向を見い出す。彼自身はそれを実現することなく、この世を去ったが、生前の彼が書いた設計図は後継者たちにより確実に継承され、結果的に共和政ローマは帝政ローマへと成長をとげた。
男の名はユリウス=カエサル。1世紀に及ぶ内乱を終わらせ、独裁官として支配権を握るも、共和派のブルータスらに敵視され、暗殺される。彼が権力の座にいた期間、わずか3年。そのわずかな期間に新たな政治システムの青写真を示したのだが、その影響力の大きさは単にシステムの変更にとどまるものではなかった。
ある人間の55年の人生とその時代を2巻にわたって描いたのは、作者の塩野自身が、このカエサルをローマ史上最も重要でかつ魅力的な人物と考えているからのようだ。彼については独裁者の一人ぐらいにしか考えていなかった私も、読後は塩野の洗礼を受け、ローマ史のみならず人類の全歴史においても、これほどの偉大な人物がいただろうか!と思うほどに感動した。カエサルの魅力を描ききった本巻と次巻は、作者の意図としては大成功であり、『ローマ人の物語』シリーズ中の白眉といってよいだろう。
カエサルはまず、第一級の軍人であり、軍略家であった。ガリア地方(現在のフランス)の制圧に加え、ポンペイウスら対抗勢力を排除して最終的に全ローマに覇権を確立するまでの軍功の数々はそれを証している。彼はまた、新たな時代の要請に合った改革を次々と行った有能な政治家であった。さらに『ガリア戦記』に見られるように、同時代のキケロと並んで、ラテン語散文文学を代表する文章家でもあった。また上品で洗練された趣味と会話で人々を惹きつけずにいられなかった当代一の社交家であり、星の数ほどの女性をものにしたプレイボーイでもあった。
しかし、スーパーマンのごときこの人物を本当に魅力的にしているものは、これらの超人的能力ではなく、むしろ正義感あふれ、温かく、包容力のある人間性だと思う。彼が頭角を現す以前に、陰謀の罪で弾劾された元老院議員カティリーナを弁護して、怒りと敵意に満ちた元老院を前に、裁判なしに人を死刑にすることの非を説いた勇気。給料への不満をぶちまける兵士たちを一言で鎮めた器の大きさ。独裁者になったのちも自分に刃向かった者に対して、報復はおろか責任追及すらも行わない寛容さ...
このように、古代の政治世界ではありえないようなヒューマンな指導者の出現はしかし、寛容と信義を重んじてきたローマ人の伝統と相反するものではなかった。第二次ポエニ戦役でハンニバルを負かしたスピキオ=アフリカヌスもこのような人間の典型であった。むしろ、このような伝統的精神は、カエサルという個人のもと究極のかたちで花開いたのではという気さえする。塩野自身の言葉を借りるなら、「ローマの歴史がカエサルを生み、彼がその後のローマ世界を決めた」のだ。
ルビコン川は、ローマ北辺の国境である。元老院がポンペイウスと組んでカエサルを抑え込もうとしたとき、ガリアから戻ったカエサルは、軍を率いて渡ることの禁じられているこの川を、国賊となる危険を冒してあえて渡る。「賽は投げられた」という有名な言葉を残して...。本巻では、カエサルの幼年期からこのルビコン越えまでの期間が扱われている。
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投稿者:マー君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
塩野さんのローマ人の物語全巻読破中。これまで読んできて、ローマ人の物語とはそれぞれの主人公の戦いの物語。黙っていても何も得られない。
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界史上 英雄というと必ず入ってくるユリウス・カエサル、しかも名文家で著作が2000年後の現在まで残っている という、伝記作家にとってはあまり嬉しくないような主人公である。本書後半の主要テーマである「ガリア戦記」もカエサルの書いたガリア戦記の解説書のような体裁になっている。作者のカエサルへの惚れ込みはよく分かるが、やや面白み独自性にかけるところがある。敵対するガリア側を主人公にした佐藤賢一の「カエサルを撃て」のほうが読み物としては遥かに面白い。
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筆者が愛してやまない英雄カエサルの物語(前半)。
カエサルの幼年期〜ガリア戦役〜ルビコン渡河までを描く。
筆者のカエサルに対する惚れ込みようが文中から伝わってくる。
リーダー論の視点から読んでも面白い一冊。
以下、本文から抜粋。
「〜イタリアの普通高校で使われている歴史の教科書より
指導者に求められる資質は、次の五つである。
知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。
持続する意志。カエサルだけが、このすべてを持っていた」
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好きになりすぎると盲目になる。この巻では筆が腐っている。ではあるが,カエサルの敵になった人に感情移入させる効果があってそれがまた面白い。
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前人未到の偉業と破天荒な人間的魅力、類い稀な文章力によって“英雄”となったユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)。古代から現代まで数多の人がカエサルに魅きつけられ、政治・思想・演劇・文学・歴史等々、数多の視点からカエサルに迫った。それら全てをふまえて塩野七生が解き明かす、ローマ人カエサルの全貌―ルビコン川を前に賽が投げられた時まで。
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第4巻はいよいよカエサルの登場。
紀元前100年の誕生から、紀元前49年ルビコン川を渡る「賽は投げられた!」まで。
「生涯を通じて彼を特徴づけたことの一つは、絶望的な状態になっても機嫌の良さを失わなかった点であった。幼児に母の愛情に恵まれて育てば、人は自然に、自信に裏打ちされたバランス感覚も会得する。」
「スッラ・・・人は仕事ができるだけでは、できる、と認めはしても心酔まではしない。言動が常に明快であることが、信頼心をよび起すのである。世間の評判を気にしない男であった」
「アテネと並んで、当時の最高学府の名が高かった、ロードス島(バラの花咲く島という意味で名づけられた)に進学」
「ローマ人は家族を大切にする。それに、多神教の民族だ。この二つの流れが出会うとき、ごく自然に祖先を敬う気持ちが生まれる。」
「カエサルは女にモテ、しかもその女たちの誰一人からも恨まれなかった稀有な才能の持主。女が何よりも傷つくのは、男に無下にされた場合である。女と大衆はこの点ではまったく同じだ。」
「カエサルがなぜあれほども莫大な額の借金ができたのか、・・・多額の借金は債務者にとっての悩みの種であるよりも、債権者にとっての悩みの種になる」
「小林秀雄、ガリア戦記を読みおえて・・・少しばかり読み進むと、もう一切を忘れ、一気呵成に読み終えた。それほど面白かった。充ち足りた気持ちになった。近頃、珍しく理想的な文学鑑賞をした。」
「プロパガンダの重要性・・・人間は噂の奴隷であり、しかもそれを自分で望ましいと思う色をつけた形で信じていまう」
「復讐心・・・感情とはしばしば、理性で必要とされる限界を超えてまで、暴走する性質を持っている」
「カエサルは、正確に書くことこそ自分の考えをより充分に理解してもらえる、最良の手段であることを知っていた。意識的な嘘が一つでもあれば、読者は他のすべてを信用しなくなるからである」
「虚栄心とは他者からよく思われたいという心情であり、野心とは何かをやり遂げたい意思である」
「人間誰でも金で買えるとは、自分自身も金で買われる可能性を内包している人のみが考えることである。非難とは、非難される側よりも非難する側を映し出すことが多い。」
「憎悪も怨念も復讐心も、自分は相手よりも優れていると思えば超越できる。憎悪や怨念や復讐心は、軽蔑に席をゆずる。
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(2007.08.15読了)(2006.01.13購入)
「ローマ人の物語」全15巻は、完結していますが、読むほうは、やっと4巻目に辿り着きました。4巻と5巻は、ジュリアス・シーザーの話です。
第4巻の半分以上は、カエサル40歳からの「ガリア戦記」に費やされます。
ガリアを辞書で引いてみると
「ローマ時代、ピレネー山脈とライン川の間のケルト人居住地域を呼んだラテン語の古地名。ほぼフランスの領域に当たる。」(「大辞林 第二版」より)
と出ています。
カエサルが動き回った地域には、現在のスイス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、なども含まれていそうな感じです。ドイツは、ゲルマン人で、ケルト人を圧迫していたようですが、カエサルは、その動きを阻止する動きをしたようです。
この本を読む前は、ガリアとゲルマンは音が似ているので、同じものと思っていたのですが、間違いでした。
カエサルは、「ガリア戦記」と「内乱記」という2冊の本を残しており、翻訳が文庫本で出ていますので、今後の課題図書になりそうです。
そのカエサルが「文章は、用いる言葉の選択で決まる。日常使われない言葉や仲間内でしか通用しない表現は、船が暗礁を避けるのと同じで避けねばならない」と書いているそうですので、肝に銘じましょう。
カエサルが生まれたのは、紀元前100年です。ガリア属州総督に就任し、ガリアへ旅立つのは、紀元前60年、カエサル40歳のときです。ガリアを平定し、ルビコン川を渡ってローマへ向かうのは、紀元前49年1月12日、カエサル50歳のときです。
塩野七生さんの本は、分厚くても読みやすいので、読み始めると、面白く読めます。
●戦いを起こすこと(119頁)
戦いを起こしたこと自体では、誰といえども罰することはできない。カルタゴ人はしばしば講和条約に違反したが、極刑にはされなかった。
(第2次大戦後、戦いを起こしたこと自体で極刑にされることになった。)
●「元老院議事報」の作成(158頁)
紀元前59年、カエサルは、執政官に就任し、元老院で行われる議事や討議や決議のすべてを、会議の翌日に、フォロ・ロマーノの一画の壁面に張り出すことを実現した。
(情報公開制度の始まりでしょうか)
●兵糧確保(193頁)
敵地で戦う総司令官にとってもっとも直接的な課題は、戦闘指揮とほとんど同じ比重を持つ重要さで、兵糧確保がある。戦争は、死ぬためにやるのではなく、生きるためにやるのである。戦争が死ぬためにやるものに変わり始めると、醒めた理性も居場所を失ってくるから、すべてが狂ってくる。生きるためにやるものだと思っている間は、組織の健全性も維持される。
(第2次大戦中の日本軍、現在のイスラム過激派も狂っている。)
●経済の力(287頁)
カエサルは、ライン河を境にして西に広がるガリア全土を、ローマ化しようと考えていた。ローマ化することが、国家ローマにとっての最高の安全保障であると考えていた。彼は、民族の文明化とは、経済によることを知っていた。
●虚栄心と野心(419頁)
虚栄心とは他者からよく思われたいという心情であり、野心とは、何かをやり遂げたい意志である。他者からよく思われたい人には権力は不可欠ではないが、何かをやり遂げたいと思う人には、権力は、ないしはそれをやるに必要な力は不可欠である。
☆塩野七生さんの本(既読)
「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」塩野七生著、新潮社、1992.07.07
「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」塩野七生著、新潮社、1993.08.07
「ローマ人の物語Ⅲ 勝者の混迷」塩野七生著、新潮社、1994.08.07
「緋色のヴェネツィア」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.07.01
「銀色のフィレンツェ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.11.01
「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
「ローマの街角から」塩野七生著、新潮社、2000.10.30
著者 塩野 七生
1937年7月 東京生まれ
学習院大学文学部哲学科卒業
1968年 「ルネサンスの女たち」を発表
1993年 「ローマ人の物語Ⅰ」で新潮学芸賞受賞
(2007年8月19日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
前人未到の偉業と破天荒な人間的魅力、類い稀な文章力によって“英雄”となったユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)。古代から現代まで数多の人がカエサルに魅きつけられ、政治・思想・演劇・文学・歴史等々、数多の視点からカエサルに迫った。それら全てをふまえて塩野七生が解き明かす、ローマ人カエサルの全貌―ルビコン川を前に賽が投げられた時まで。
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どうにか最後まで読めました。
知らなかったよ、カエサルが女たらしの借金大王だったなんて・・・w
でも男前だよカエサル。
著者が惚れこむだけのことはあります。
アレシア攻防戦は圧巻。
その後はめっちゃとばして読みました。
アレシアの後だけに
政治がらみのあれやこれやがどうにもうけつけなかった。
次が気になりますが、少し間をあけたいです。
(09.07.25)
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図書館。
再挑戦。今度こそ最後まで読みたいなあ。
(09.07.12)
途中で期限切れ。
予約が入っていて延長できませんでした;
近いうちに再挑戦します。(09.06.04)
図書館。
いつも借りるコミュニティ図書館のもの(←新品同様)に比べて
傷んでいるのが気になる。
油断するとバラけそう。
(09.05.15)
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これはもうユリウス・カエサルに惚れるしかない本です。しかし、これはできないです。金も権力もない男が知力でそれを手にして行くんですが、途中までは借金まみれ。それをガリアを手にすることで消して、プラスに転じて…なんて個人的なことはスタッフに任せて、自分の目的を明確に持ち。祖国を立て直すことばかりを考えている。こんな指導者いますか?
そして重大な決意、ルビコン川を渡るところまでの物語。多分、シリーズで一番面白いのがここ。
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O市図書館より借用。
カエサルの青年期から、40過ぎにして”立ち始め”て3頭政治を確立して元老院に対抗する辺りや、ガリア遠征を中心に描き、ルビコン川を渡るところまでが描かれる。
カエサル自身が筆をとった「ガリア戦記」からの記述を中心に記載しているということだが、箇条書きの端的な記述でなんだかビジネス文書を読んでいるよう。
カエサルは、すべてにおいて”速攻”。
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ローマ時代の歴史書として有名な一冊。
世界史の教科書では三頭政治の一人でガリア遠征で成功を収め、志半ばでBrutusに暗殺された悲劇のヒーローとしてしか学ばなかったGaius Julius Caesarについての本。
この本で学ぶべき知識は次の二点にあるとおもう。つまり、ローマ時代の風俗と価値観そしてGaius Julius Caesarその人自身である。
ローマ時代の風俗特筆すべきはその政治体制であると思う。元老院が国会のそれにあたり、元老院のメンバーが国会議員と同様に、議論を行ない法を施行する。現在の政治システムの礎がローマにはある。
そしてGaius Julius Caesarその人である。40歳で起つGaius Julius Caesarの幼少期と青年期を丁寧に描いしている。そして所々に記載されている著者による推察がお見事(このような歴史書の名著か否かの分水嶺が著者による対象の推察であると思う)。ただしCaesarを良く見せようとしている感じは否めないが・・・
それにしても、当時の弁論術には脱帽をせざるを得ない。その言葉の明瞭さ、説得力そして論理展開は現在でも通用すると思う。
歴史書というカテゴリーを超えた、教養書
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ローマ人の物語の、おそらく最高峰のひとつである一人の男の物語である。「賽は投げられた」という言葉で有名な瞬間を境とした、その前半である。
あの瞬間は、カエサルが50歳の時だそうだ。イメージよりもずいぶん老けている。しかし、本格的に政治・軍事の前面に立ったのが40歳だから、わずか10年間の活動の結果と言えなくもない。
何よりも感動的なのは、彼のぶれない態度である。どんな障害物があっても、どんなに込み入った路であっても、彼の目はその先にある目標だけをまっすぐに見ている。そのまなざしの強さに、心を惹かれる。
そういう前半生を送ってきた人物だからこそ、「ルビコン川を渡る」という賭に出ることができるのだろう。
忘れられない読書経験になった。
2007/3/21
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ローマ最大の偉人、ユリウス・カエサルが登場。この第4巻は丸ごと彼の伝記となっている。
それにしても、カエサルの行動力には圧倒。男として、多くの愛人を囲う。軍人として、8年にわたるガリア民族との戦いで、ほぼ常勝。文筆家として、その戦いを「ガリア戦記」にまとめる。政治家として、クラッススとポンペイウス2人の実力者を味方にして、元老院に実力を見せつける。さらには民衆や兵士からの人気も抜群。
さらには若き頃の武勇伝もあり、いくらでもエピソードが出てくる多忙なスーパースター。このブ厚い第4巻だけでも、彼の一生を書くには足りず、反ローマ側を覚悟して、ルビコン川を渡る直前で次巻へ続く。
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以前読んだときの感想↓
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