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投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
2巻におよぶカエサル伝を読みながら、カエサルを愛する一人の女としての視点を強く感じた。たとえば、若い頃から借金王だったカエサルの主な金の使い道は、愛する女たちへの贈り物であったことに関連して、作者の塩野はこう書く。「女はモテたいがために贈物をする男と、喜んでもらいたい一念で贈物をする男のちがいを、敏感に察するものである」。また、自らの美貌でカエサルを誘惑し、自国の権力争いへと彼をまんまと引き込んだとされるエジプト女王クレオパトラについては、カエサルが彼女の側についたことが、あくまでローマの国益にもとづいた政治行動にすぎないことを明言している。あたかも、カエサル様はあんたのような低レベルの女にたぶらかされるような男じゃないのよ、と言いたげに。
愛おしさと崇拝の念が入り混じったこの感情は、決して女だけのものではあるまい。カエサルは男が惚れる男でもあったからだ。特に兵士たちにとって、この人のためなら死ねると思える上官であった。 ポンペイウスとの雌雄を決する戦いの前、ある百人隊長が彼に叫んだ言葉「わが将軍よ、今日のわたしの働きぶりは、わたしが生きようが死のうが、あなたが感謝しなければすまないようなものにしてみせましょう」は、まさにそれを表している。
かくも魅力的に描かれたカエサルに比して、キケロや小カトーの人間としての小ささはどうだろう。特にキケロはカエサルとは文学を通じての友でありながらも、共和派の立場から彼に敵対し続けた。一方のカエサルは、そんな彼を許すばかりか、友として変らぬ交際を続ける。内戦に勝利を収めローマに戻ったカエサルは、群集の中にキケロを見つけ、彼を抱擁する。終身独裁官として多忙を極めていた頃、自分を訪ねてきたキケロを長い間待たせたことに気づいたカエサルが、ウィットのきいた言葉でそれを詫びる...カエサルという人間の底抜けな人のよさと共に人間としての大きさを示す逸話である。
このように表裏のない友情を示すカエサルが暗殺されたとき、キケロは暗殺者たちを共和政の守護者として讃える。これがラテン語散文の完成者と言われ、ルネサンス以降の西欧思想・文学に影響を及ぼした人の真の姿であるかと思うと情けないが、恩を仇で返すという点ではブルータスらカエサルの暗殺者たちも同様である。彼らの多くが、内戦中はカエサルに刃向かったにもかかわらず、戦後彼が打ち立てた寛容政策にもとづき何の咎も受けなかった者たちであった。そんな彼らが共和政擁護の名のもと、血をもって寛容に報いた。カエサルの壮絶な死を伝え、暗殺者を非難する塩野の語り口は淡々としながらも鬼気迫るものがあり、こんなところにもカエサルへの深い想いを感じる。
ローマ史における稀代の英雄、ユリウス・カエサル。この人物の暗殺により、なんと偉大な人をローマは失ったか!本書を読めば、その損失の大きさは実感できるだろう。そして、この最悪の事態を収拾し、故人の遺志を継いだのは、彼から後継者に指名された当時18歳の若者、オクタヴィアヌスであった。カエサルのルビコン越えから始まる本巻では、このオクタヴィアヌスが前31年のアクティウムの戦いでアントニウスを破り、一世紀にわたる内乱を終わらせるまでが描かれる。
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投稿者:マー君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カエサルによって治ったかに見えた内乱もその暗殺によりそうではなく、東方の制定が残っていた。それもカエサルの後継者オクアビアヌスにより治る。次が楽しみ
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公カエサルを始め、ポンペイウス アントニウス クレオパトラ そして後継者オクタビアヌスと有名人がぞろぞろ出てくるこの巻である。主人公カエサルを持ち上げるあまり、キケロやポンペイウス等の敵対する人物をあまりにも卑小に描いているが、当時の人の視点から見てもそうだったんだろうか?
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英雄カエサルの壮年後期〜改革〜暗殺。
さらに後継者オクタヴィアヌスがアクティウムの海戦で
アントニウス/クレオパトラ連合軍を破るまでを描く。
志半ばにして凶刃に倒れたカエサルであったが、後継者選びには成功した。
当初の目論見通り、事実上共和制に幕を引き、帝政への礎を築いたカエサルの
卓越した政治手腕と先見性に脱帽の一冊。
野心に燃えるクレオパトラ、恋に落ちるアントニウスなど
カエサル以外の登場人物のドラマも見逃せない一冊でもある。
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カエサルを語ることなくローマ人を語ることができようか。とは言え読んで恥ずかしくなる文章。深く知りたければ他の本を読めばいい。これはエッセーだ。
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ユリウス・カエサルがルビコン河を渡った以降のお話。
「賽は投げられた!」で有名な、その後。
塩野先生はカエサルが大好きなので絶賛。
たしかにカッコイイ惚れます。
兄貴!ついていきやすぜ!!!そんな感じ。
かの有名なクレオパトラも出てきます。
塩野版彼女、結構コテンパン。
塩野版オクタヴィアヌスは好き。大好きです。
そして私のローマバイブル。
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カエサルの「3月15日」―人間を、歴史を動かした男の全貌。世界の運命を一身に凝縮させてルビコン川を渡ったカエサルは、たった五年間であらゆることをやり遂げた。地中海の東西南北、広大な地域を駆けめぐり、全ての戦いに勝ち、クレオパトラにも出会った。ついにはローマ国家改造の全改革をなし遂げて、元老院・共和政に幕を引く―。読みだしたらやめられない面白さ、迫真の筆致で描かれるコスモポリス(世界国家)を目指した男の物語。
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第5巻は紀元前49年「ルビコン」からカエサルの勝利、カエサル暗殺、アントニュウスとクレオパトラ、オクタヴィアヌスの勝利、紀元前30年帝政ローマのスタートまで。
たった19年間だがめまぐるしい展開でローマ世界が動く、歴史が動くときは、一気に世の中が変わるのだろう。
西洋の歴史は、帝政から共和制へ進んだとばっかり思っていたら、ローマは王政から共和制、帝政へと進んでいる、共和制が正義ではない。
多神教のローマがなぜキリスト教を国教とするのか、興味は尽きない。
「カエサル・・・何ものにもまして私が自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから他の人も、そうあって当然と思っている」
「オクタヴィアヌスにはカエサルにはなかった資質があった。それは、偽善だった」
「失敗した場合、人は二種に別れる。失敗した事態の改善に努めることで不利を挽回する人、それはそのままでひとまずは置いておき、別のことを成功させることによって、一挙挽回を図る人である。カエサルは、後者の代表格」
「カエサル『内乱記』・・・パニックが起きると、人は自分個人のことしか考えなくなる」
「憎悪とは対等かでなければ上位にある者に対して抱く感情である」
「苦境は友を敵に変える」
「カエサル・・・アレクサンドリアで、ポンペイウスの死を知った、小林秀雄・・・大理石に刻まれた、文章というよりは古代の美術品」
「クレオパトラとカエサル・・・女とは理によったのではなく、自分の女としての魅力によったと信じるほうを好む人種なのである」
「カエサル・・・自己制御能力とは、緊張の張りとゆるみを自ら制御する能力でもある」
「筆者・・・歴史は、勝者が自分たちに都合のよいように書いたものだという、思い込みがまかり通って久しい。そうとは限らない。カエサル暗殺時のキケロの書簡集こそが、現場証人の証言集である」
「なぜカエサル下の高級将校が、カエサルの暗殺に参加したのか・・・王政への移行を阻止し、元老院主導の共和制に戻すこと・・・人間ならば誰にでも、すべてが見えるわけではない。多くの人は、自分が見たいと欲することしか見ていない」
「ひとかどの女ならば生涯に一度は直面する問題、優れた男は女の意のままにならず、意のままになるのはその次に位置する男でしかない」
「歓待とは、客人が無意識かで望んでいたものを提供することである。ただし、それだけでは充分ではない。満足してもいつかは飽きるからだ。ゆえに、思いもしなかったものを提供することで。プラスアルファする必要がある」
「他者の文化を、自分のものにはしなくても尊重することこそ、知性である」
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(2008.01.04読了)(2007.11.17購入)
(「BOOK」データベースより)
カエサルの「3月15日」―人間を、歴史を動かした男の全貌。世界の運命を一身に凝縮させてルビコン川を渡ったカエサルは、たった五年間であらゆることをやり遂げた。地中海の東西南北、広大な地域を駆けめぐり、全ての戦いに勝ち、クレオパトラにも出会った。ついにはローマ国家改造の全改革をなし遂げて、元老院・共和政に幕を引く―。読みだしたらやめられない面白さ、迫真の筆致で描かれるコスモポリス(世界国家)を目指した男の物語。
☆塩野七生さんの本(既読)
「銀色のフィレンツェ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1993.11.01
「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」塩野七生著、新潮社、1992.07.07
「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」塩野七生著、新潮社、1993.08.07
「ローマ人の物語Ⅲ 勝者の混迷」塩野七生著、新潮社、1994.08.07
「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサルルビコン以前」塩野七生著、新潮社、1995.09.30
「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
「ローマの街角から」塩野七生著、新潮社、2000.10.30
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なんでカエサルを殺してしまったのか、というのを同時代から見たら意味があったんでしょうけど、後から見たら無意味もいいとこという感じ。
それにしてもカエサルという人は実に素晴らしい人だったのではないかと思います。塩野さん自身がそう解釈されているんでしょうけど、ともかく自分ではなくローマのために生きた人だったんだと思います。
そのカエサルを無意味に殺したローマ人たち。そしてその報い。それはさておき、続きはパクス・ロマーナ。ちょっとここで休憩しよう。
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O市図書館より。
『内乱記』を中心としたルビコン以後、3月15日、後継者アウグストゥスの台頭を描く。
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2009/11/28 復習しながら進んでくれるのでありがたい。有名な逸話も何も知らなかったのを思い知る。
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前巻ほどリアリティをもって書かれているわけではないけれど、当時の生活様式と歴史的な変遷を知るには良書だと思う。
第一回三頭政治が終わりを告げ、Caesarが独裁官になるところからスタートする。本書の中盤でCaesarが暗殺され、後継者のAugustusへとバトンを渡し、第二回三頭政治そして帝政ローマ帝国を誕生させるところまでが後半。
歴史的事実とそれに対する筆者の考察のバランスが良い。読み手を飽きさせない文章は流石です。
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「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」と続く、ウイリアム・シェイクスピアの戯曲を、一時期むさぼるように読みながら、そこに描かれている人物たちに思いをはせたものである。同じ登場人物が活躍するこの本は、シェイクスピアよりもずっとリアルで、だから冷酷で、同時に同じくらいドラマチックである。
前半3分の1のカエサルのエネルギッシュなこと。「権化」のような人というのは実際にいたのだなあと思う。たとえば幕末において坂本龍馬が時代の何かを人格化したような存在であるように、カエサルもまさにそうなのだろう。
しかしだからこそ、彼が暗殺された後の、愚かな人間たちのあがきあいがより切なく感じられるのかもしれない。天才よりもずっと人間らしい存在に。この上なく愚かに、まさに晩節を汚したとしか言いようがないアントニウスに一番それを感じ、カエサルを抜け目なく冷たくしたようなオクタビアヌスの「かわいくなさ」は、なぜシェイクスピアが、あのような人物として描いたのかがわかるような気がする。
それにしても、暗殺の瞬間を書かない作者は、なかなかずるいと思う。
2007/3/26
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ルビコンを渡ったカエサルはあれよあれよとローマを制圧。
正直、著者のカエサル萌えがひどすぎる。批判されない完全無欠のスーパースターとして、カエサルを描くなら、小説でやってくれ。
カエサルの陰の部分を書かないおかげで、カエサル暗殺シーンが非常に薄っぺらい。シェークスピアによるフィクションなのはわかってるけど、名言「ブルータスよ、おまえもか」の暗殺シーンに期待したほどの感動・迫力はない。
この巻ではこのシーンこそ、一番力を入れるとこだろう。