ウェルメイドな推理小説。戦後の価値観の転換をめぐる悲劇。
2024/09/26 16:58
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投稿者:flowerofzabon - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後の価値観の転換を子どもの視点から描いたものは小説、エッセイなどあまたある。特に教育現場における教師の豹変ぶりを見た子どもの多くは、人間観、人生観に大きな影響を受けているので激しい筆致で描写したものも多いが、辻真先氏はお人柄というか、随所に皮肉をこめながらも、穏当な書きぶりだ。推理小説、風俗小説、名古屋の地域史、日本における映画受容の歴史、青春小説、こうした要素をすべて引き受けながら、推理小説としてうまく着地させる力量は素晴らしい。映画に興味がない人にとっては固有名詞の羅列が若干つらいかもしれないが、名作がちりばめられているので映画ガイドとしても使える。
戦中戦後が入り交じる複雑な時代を感じられる一作
2023/05/27 06:49
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投稿者:とりこま - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和24年というまだ戦中の考えが色濃く残り、戦後の新しいことへの抵抗や戸惑いが人々を覆っていた時代を存分に感じられるのがとても良い。題名の意味に気付かされたときはハッとさせられるし、ラストシーンを読んだ後に冒頭に戻ったときの衝撃も印象的だった。
昭和ミステリーシリーズ
2023/04/28 05:22
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投稿者:くみみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和24年、戦後の混沌を生きる高校生の未成熟な感情のコントラストが美しく描かれた、昭和ミステリシリーズ第2弾の文庫版。
敗戦後、180度かわったイデオロギーに戸惑う当時の日本人の心理描写が丁寧で、ふわりと情景が浮かんだ。外から入ってくるものに目を輝かせる無邪気さと、過酷な環境が生んだ諦念がとても印象的だった。
トリックや動機はわからなかったけど、犯人はわかり易かったように感じた。勝利が頻りに言っていた推理小説の醍醐味「伏線回収」をし易いよう、敢えて誘導している小粋さを最初から最後まで感じ、存分に楽しめた。
シンプルなミステリー
2024/01/16 19:23
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投稿者:ミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和ミステリシリーズ二作目。2020年の年末ミステリーランキング3冠に輝く作品。昭和24年を舞台とした物語は、主人公が高校三年生と作者と同年齢に設定されており、ある種自伝的青春ミステリーの側面も有る。しかし本作のどこが素晴らしいのか?、それは作者自身が知る当時の社会風俗や人々の考え方が非常にリアルに感じられ、近過去時代小説として優れているからだと思う。また、伏線と回収、構成の妙、心情描写には読み所があり、トリックや犯人の意外性のみで評価をするべきでは無いのだ。推理小説は推理クイズでは無い。良い小説だった
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一番犯人でいてほしくなかった人が犯人だったなぁ。
戦後の青春推理小説。初作家さんだった。
シリーズ2作目だったらしい。
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ミステリとして展開が遅く、ほとんど風俗小説だった『深夜の博覧会』から一転して、本作はガチガチのミステリ。早い段階で殺人、それも密室殺人が起こるのはマニア向けのサービスだとしか思えない。第一の殺人が不可能興味だとすると、第二の解体殺人は、なぜそんなことをしなければならなかったのかというホワイダニット。ただ、ミステリとしてみればフーダニットの部分も含めて甘い。推理なんかしなくても、辻ミステリをそれなり読んできた人にはなんとなくで見当が付いてしまうんじゃないか。辻氏が手癖みたいなものをまるで隠してない気がする。これはもう意図的ですね。それも含めて読者へのメッセージなのだと思う。僕はこんなものを書いてきました、なんだろうか。泣いてしまうではないか。
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昔のテレビのサザエさんで、脚本として画面で名前を見たこともある辻先生の作品。皆川先生、辻先生と言えば、御年90歳代で精力的な執筆活動をする凄い先生方なのだけど、一読者としてはただただ敬服するのみ、ほんと畏れ多いです。
ジュビナイル的な雰囲気を残しながら、時代の変遷と当時の状況の描写が印象深く書き込まれているし、戦後の名古屋市街の描写も個人的に良く知っているので微妙なノスタルジィも感じられる。六・三・三制の導入で突然高校3年生になった青年たちの抱える現状の描き方も良く、子供なのか大人なのかわからない設定が巧いです。
謎解きストーリーは定番ながらも鮮やかで、幕切れの秀逸さも加わって見事な出来栄えと言える。前作を読んだ上でこの本の面白さがわかるというのは、感情移入の点で
そのとおりなのだと得心した次第です。
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戦後の色濃い、探偵推理小説。
タイムスリップした様な感覚で読みました。
今の時代からはちょっと想像しにくい様な、教科書でしか知らない昔。時代によって価値観も常識も変わるんだと当たり前の事に気づかされます。
舞台は名古屋、わたしも以前住んでいたので広小路や栄などの地名が沢山登場するのは懐かしい気持ちになりました。
肝心のストーリーですが、王道本格ミステリに思います。密室トリックや犯人の動機なんかも硬派で、あぁ、久しぶりに本格ミステリを読んだという満足感がありました。
最後は、してやられました。コレが一番気持ち良かったです。楽しかったですね。
ただ、映画や俳優の会話がやや多かったのでそこは読み飛ばし気味でした。
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昭和24年の名古屋、きっと作者の体験が反映された風景なのだろう。リアリティを感じさせる。
トリックは突飛な気がするし、いろいろ都合よくものが運ぶ面はある。でも、青春ものの、どこかあっけらかんとした感じが心地よく、どんどん読めてしまう。
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昭和独特の描写や世界観が心地よく、なつかしいような少しあたたかい気持ちになりながら読んだ。
長期休暇(できれば夏休み)にちびちび読むのがよさそう。舞台設定が今の時代ではないので、本が遠くの世界に連れて行ってくれ、頭の心のリフレッシュになりそうだと思った。
ただ、昭和時代の物語なので、言葉が入ってきづらく、またイメージが浮かびづらい場面が多く、読むのに少し時間がかかってしまった。
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一番想像しづらい時期。
生活様式もそうだが、人の気持ちみたいなところも戦前とか戦中みたいに振り切って考えられる時代と比べても、なかなかわからない。
殺人事件への温度感も低いし、殺人の動機はわかったけど、なんで密室?なんでバラバラ?というのもわからなかった。
「たかが殺人…」恐ろしい言葉。
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終戦後、昭和24年を舞台としたミステリ
犯人は明白
トリック寄りも時代描写、価値観などに面白味を感じた
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コロナ禍真っ只中の2020年、年末ランキング3冠を達成。当時、著者の辻真先さんは御年88歳。91歳となった現在でも作家として活動中であり、頭が下がる。というわけで、文庫化を機に、初の辻作品を手に取ることにした。
サブタイトルに「昭和24年の推理小説」とあるように、時代は戦後間もない頃。何となく避けていた理由だが、読み始めるとぐいぐいと引き込まれる。古臭さは一切感じない。むしろ瑞々しい。活字が小さい創元推理文庫だが、早く読みえた。
占領下の学制改革で、新制高校3年として1年間だけ共学で過ごすことになった主人公・風早勝利。辻さんは終戦時に13歳だったそうなので、勝利はほぼ辻さんご本人と同年代。混乱期を過ごした辻さんの経験が、随所に生きている。
勝利たち推研の面々は、最初は異性とどう接するべきか戸惑っていたが、徐々に打ち解けていく。そんな彼らが2件の殺人事件に遭遇するのだが、謎解き自体は終盤まで引っ張った割には呆気ない。自分が思うに、謎解きは本作のメインではない。
軍国教育の影響はまだ色濃く残っており、誰もが生きるのに必死な時代。勝利たちは、理不尽な出来事、ショッキングな事実に打ちのめされる。それでも、新しい時代に前を向く。そして事件の動機にも、戦後間もない時代背景があるのだった。
『たかが殺人じゃないか』という物騒なタイトルの意味を、やがて読者は知ることになる。戦中は散々に殺し合って来た。玉音放送を聴いたところで、麻痺した感覚はすぐには戻らなかっただろう。そこでこのような局面に接してしまった。
戦後世代の基準では、被害者の行為は受け入れられない。当時、地位のある相手を告発するのは困難だっただろう。それでも、他の手段はなかったのかと、勝利でなくても考えてしまう。量刑はどの程度か。どうか更生の道を残してほしい。
本作は三部作の第2作に当たる。また、解説によれば、探偵役の人物は他の辻作品にも登場するようである。次に読むとしたら何がよいだろう。
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戦後の男女共学が始まった時代を背景につらく切ない青春物語と年配者が喜びそうな戦争前後の往年のハリウッドスター達の話し、そうした話の筋とはやや違和感を感じる密室とバラバラ殺人。そうしたプロットが上手く融合して楽しめる。
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「犯人はお前だ!」から始まり「ヘェ、私が犯人?」に終わる小説でした。
鉄道ファンの私も唸る当時の鉄道描写もさることながら終戦後の混乱期のままならなさがとても印象的でした。
偶々手にした本でしたがとても面白かったです。辻先生のほかの本も読んでみます。