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王ドロボウJING新装版 みんなのレビュー

  • 熊倉裕一(著)
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みんなのレビュー11件

みんなの評価4.9

評価内訳

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11 件中 1 件~ 11 件を表示

衝撃を受けた第一話

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る

掲載誌は当時の『コミックボンボン』
少年誌を読む年齢からは少し離れていたけれども、偶然目にした「ゆーれい船」の見開きページに目を奪われてしまった。興奮のあまりその号を何度も見返して、その日のうちに掲載号と既刊を調べてバックナンバーを取り寄せたのは記憶に新しい。

定番の少年誌風でもありなから時にアメコミ風で、鳥山明のようでもあり松下進のようでもあり、数コマで完結するコマ割りとテンポの良さは藤子・F・不二雄のようでもある。そのどれとも異なる個性的な絵柄なのに、見開きから大ゴマまで丁寧に描き尽くされているのに読みにくさや詰め込み感を感じさせない。繊細かつ緻密に描いて緩急動静を同居させるのかと驚きの連続だった。
次から次に先読みを裏切る展開、コマのすみに描かれた何気ない意匠や気の利いた字面。少なくとも巨大生物の死骸らしき骨があったとして“calcium 100%”なんて描き込む漫画家に出会ったのは初めてだった。

印刷に乗るかギリギリの危うさがたまらないトーンのあしらい方と筆運びも魅力のひとつだと思う。(実際に旧版の単行本では印刷がカスレてしまっていた、また単行本化に当たってコマごと加筆・修正された箇所も複数確認できる)
その上で、ダブルマーメイドたるシードルの透明感や金貨の光沢を白黒のマンガでここまで感じさせてくれたのは未だに本作以外にない。肉筆でこれだから正直呆れてしまった部分もある。

初期の連載だけあって、ジンもキールも外見こそ少年誌風だけれど、ここから後版にかけて画風が変化していった、ように思っていた。ところが、諸々の出版物を見るに、後版ほど本来の熊倉タッチで、ここではあえて少年誌風の絵作りをしていたという、実は真逆だった点が非常に興味深い。

本巻では「初期設定集」も収録されている。残念ながらコピーではあるがゆーれい船の原形スケッチ、虜囚のシードルはなんと下半身の鱗まで緻密に描かれている。作者の手と思われるが「これやめ 天井からつるす」とぞんざいに書かれていて、細部まで描いてから軽々とボツにするのか…と恐れ入った。

非合法のカジノ船を取り仕切るグラッパの意匠は不気味極まりない、これもモンテカルロをアナグラムで変えただけではない。南欧で、聖者を貶めたばかりに醜い豚の化け物に変化させられてしまった故事があり、祭りで供される豚の面はグラッパの通り毒々しい独特なニヤケ面をしているのだ。愛嬌のあるキャラクターとグロテスク寸前の怪物を共存させつつ、絵面も名付けでそのバックグラウンドまで含めてしまう絶妙さは凄まじい。

『ドロボウの都』は外観こそブリューゲルのバベルの塔を想起させるのだけれど、熊倉作品と言えばシュールレアリスムの大家であるレメディオス・バロやデ・キリコの作をパロディとしてふんだんに取り入れている(もちろんそれだけではなくとりあげようにもキリがない)。表層だけでなく、作品や作家が持つ背景までもが創作の骨子となっているように見えるからたまらない。ネット検索で諸作に簡単に触れられるようになっているので、ご興味があれば是非ご覧頂きたいものである。

唯一の不幸は、本作の登場が時勢よりも早すぎた、世間の理解が得られなかったくらいか。それでも読者へ与えた影響は計り知れず、現役の作家も多くが本作の影響を述べている通り。一時期は絶版寸前だったのだけれどこうしてまた読めるのは眼福そのもの。

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こんな日が来るとは

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投稿者:87# - この投稿者のレビュー一覧を見る

小中学生の頃リアルタイムに読んでいました。人生イチ好きな漫画です。後期になるほど絵柄も内容も大人びてきますが、独特なファンタジー世界がとても素敵な作品です。台詞回しのセンスも素晴らしい。

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王ドロボウJING 1 新装版 (ZKC DX)

2002/02/16 21:05

伝説の王ドロボウ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:真泰 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 輝くものは星さえも、森羅万象たちまち盗む伝説の「王ドロボウ」。その一族の末裔のジンと、相棒の鳥のキールが、お宝を求めて街から街へ渡り歩く冒険物語。
 初めて読んだ時、鳥肌が立つほどに興奮しました。ジンたちが狙うお宝がまた面白く、金貨や宝石といった普通のものではなく、「ダブルマーメイド」、「時計じかけのブドウ」などといった、いったいどんな物? とわくわくさせてくれるものばかり。登場人物たちも生き生きとしていて本当に面白く楽しい作品です。

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アドニス編

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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る

時間に管理されるのではなく、時計に支配されてしまった街・アドニスが舞台の本編。

城門の大時計はプラハの旧市街に実在する大時計がモデルである。キールが「唐揚げにされる夢を見た」り、エッグノッグ団(=卵酒)、ジンの「Cock a doole doooo!」、ミラベルの得意料理がローストチキン。明告鳥・東天紅たるニワトリを存分に盛り込んでいる。

ネバーランド、フック(手鉤)の「船長」、クロックダイル(=時計ワニ)と一見するとピーターパンから着想を得ているように見える。もっとも、時計に支配されるという管理社会の大筋は古くから描かれているモチーフでもある。
トマス・モア『ユートピア』、ジョージ・オーウェル『1984年』、ミラベルが公開処刑される段は星新一『白い服の男』にも見えるように思う。行き過ぎた管理社会をここまで作り込んでおいて、ジンの活躍と型破りさを演出するための道具でしかないのだからたまらない。
筋として近いのは、キューブリック『時計じかけのオレンジ』のようにも思える。こちらではまぁまぁアウトローの主人公が当局の厳重な管理生活と最新鋭のルドヴィコ療法により「更正」させられていくのだが、古い映画ながらも巨匠による大胆な演出は見所で、本作ともヴィジュアル上の共通点を多く持っている。
厳重な管理社会と化したロンドンの街並みは、アドニスの雑然さを想起させるので、カルト映画と評されることも多いけれどお時間があればこんな雑文を読んだついでに是非ご覧頂きたい作品である。

イギリス英語のスラングでは、何を考えてるのかよく分からない「ぼーっとしているやつ」を指して時間(時計)じかけオレンジ野郎~的な言い回しがある。本作のゲームボーイ版ソフトに“デッド・ライン”なる魔物が登場するが、〆切間際には作者宅にも頻繁に登場するとのことである。(悪魔じみた両翼と振り子状の翼を持っている)

「マスターギア」がシェリーに「接吻(くちづけ)てやれ」なんて言ってるのを見て、ミシェル・ポルナレフなんかを思い出してしまった私はオッサンである…。(ちなみに産まれる20年も前のヒットナンバーです…。僕の腕をつかんで~、君が欠かせない~なんて言い回しがあり、本作でもいかんなくパロディとして使われている。

意図は分からないが、シェリーに逃走された直後マスターギアは機械体と融合してしまうカットは連載時から修正程度ではなく、大幅に描き直されているので記しておく。

後半では、爆弾生物ポルヴォーラが登場。イザラに向かってリボン付きの鯛を投げると、トレードマークのぐるぐる目玉の半透明ネコがにゃーにゃー寄ってくるのだが、よく分からないけれど猫だからかわいい。
序盤の老人宅の雑然とした部屋で浮かび上がるシステマ・ソラール、ヴィーナス焦原でひたすらトーンを削りだして描画されたマグマの化け物達。
ここはもう圧巻の一言。ミルキー・ウェイのつり橋を越えてすぐのカットに墓標があり、ヤマモト、サイトウ、タモリ、イナダ、ゼンザイと当時の作画アシスタントの名が刻まれている。

こんなトーンワークをさせられたらアシスタントも死んでしまうのは確かだ。漫画なのか絵画なのかよく分からない域まで踏み込んでみせて、それでも冒険譚をきちんと描くのだから素晴らしい。

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ついて来られるか?少年達よ

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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る

連載当時(そして新装版前の旧版にも)「On Air」の解題が結構なページ数を割いて掲載されていたのを思い出す。
多少なりともラジオ・テレビ・音楽製作に興味があればオンエア、なんて言い回しはそれ自体が正規表現かどうかはともかく、業界用語ですらない一般常識ではないだろうか。
(もっとも本編は電力の話であるから『楽園の子供達編』の方が無線がらみという点では相応しいのだけれど)

このあたり、分かってくれる読者にだけ分かってくれという割り切りが潔く、一ファンとしてもそんな事も解説されないと分からないなら来ないでくれ、という思いもないではない。
ある意味でマイナー宣言をしたのも同然だと考えている。

さて、水銀電池なら現在でもわずかながら存在しているが、化学的にもっとも安定である金は物理的に電池にはなり得ない。
本当に電池として作られたのか、一時期だけ生産されて宝飾品として扱われたのは不明だが、錬金術とも科学とも混交してない交ぜに扱われているのが興味深い。
ミュージカル『キャッツ』を想起させるような盗電団(なお彼ら彼女らの猫耳は後付けではなくそもそも人種が異なる)、デウスエクスマキナ(=機械仕掛けの神)を逆手にとった「機械仕掛けの魚(神のお使いとしての)」、世の成り立ちをあらわす曼陀羅そのもののすごろく図盤、お寺の宝珠が実は電球だった。
絵もセリフも片っ端から分かりづらく、とにかく細かいパロディの積み重ねである。
ファジーネーブルに至っては、桃のリキュールから転じて不老不死の象徴であり世の中心(へそ)でもあり、雷様があらわれたらへそ隠し、の古伝にも通じており、着いた先はバロの『螺旋の回廊』を彷彿とさせる街並み。
実にキリがない、キリがないから天上海に関しては『十二国記』の雲海と同様に雲の上にあるから雲海、程度に留めておきたい。時には深読みせずにありのままを受け入れる姿勢も大事だと思うのだ…。

閑話休題。
本作も実に緻密なトーンワークが施されており、見開きを余すことなく使ったファジーネーブル、ペスカ・ギガンテッサ、そしてその雲像が崩れ落ちていく様と雲上海、その美しさは圧巻の一言である。
この美しさを表現できるだけの語彙を持ち合わせていない自分が情けない。

敬虔で従順であるがゆえに祖を盲信し、最後には大罪を犯してしまうアラク。ただ透明な天上海に洗われ「生まれ変わり」を決意した彼。
純粋を失い還俗した彼はその後どんな生を過ごしたのか。
「汝、殺すなかれと言うなかれ」とは間違っても言わないだろうなw
元は高位の僧である。貧しい人に読み書きを教え道を説き、慎ましやかでも変わりない日々に幸せを見い出す、そんな平々凡々とした日々を過ごしたと思いたいのだが。

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生存確認と眼福の思ひ出と

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投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る

色彩都市ポンピエ、それを切り抜いた巻頭絵のカラー収録は見事。
白黒の表現が中心となるマンガ表現で、なぜ色彩を扱おうと思ったのか、異端の漫画家ならぬ画家・熊倉祐一の本領でもある。

大筋はバルザックの『知られざる傑作』、身体に入れ墨なのか装飾・描画を施される当たりは矢野徹のSF作『折紙宇宙船の伝説』も想起させる。
芸術に全てを捧げてしまう普遍のテーマは、『宇治拾遺物語』の「絵仏師良秀」と、それを下敷きとする芥川『地獄変』にも見られ、日本文学の奥深さと幅の広さを思い知らされるという逆説めいた決着を見る。
(本作のファンの方には「そんなのも読んでないの?」と言われてしまいそうだがw)

しかしクォート画伯は求道者なのか破滅思考の持ち主なのか、頭のなかに実現したい像はあっても肉体も技術も追い付かない。
他方で湯水のごとくを財を浪費し、ただただ所有欲を満たすドランブイ。
「身を捨つる 人はまことに捨つるかは 捨てぬ人こそ捨つるなりけれ」西行の歌であるが、俗の塊であるドランブイは世も人も真に捨てている様に思える。

閑話休題。「極楽鳥」の正体は判然としないが、そもそもキール自身の来歴も同じである。
どこかの鉱山では同族が大砲代わりに使われていたようにも思うが、どのみち深追いは無用である。(アニメ版では名前が与えられていたような…)
やはりカラス、つまり神格・眷族と考えるのが好適だろう。そうでないと辻褄が合わないのだ。カラスは神様のお使いになりやすい。すると、この世界を構成する神の一柱は…。

さて本シリーズでは屈指の悪役ドクトル・シュペートレーゼが登場する。
他缶でも悪役は多々登場するが、どこか抜けていて茶目っ気がある人物ばかりだった。
しかし彼は冷徹極まりない卑劣漢、医療行為は救命や心身の健康が目的ではなく、自身の所有欲を満たすための手段に過ぎない。
医師ながら無用な殺傷もためらわない。その果てに死者達を地底湖に沈め辱め、それによって深紅を得る方法を考案したのだとしたら空恐ろしい話である。
身体を透過させ擬態もし、それが仇となって死と同化する、さんざん殺しを働いておいて死にたくないとのたまう。どこまでいっても悪党らしい。

白黒の描線なのに、なぜか彩りを感じさせつつあくまで読者の創造に委ねる。
見開きを余すところなく埋め尽くす『知られざる傑作』、苦痛と死を想起させる絵画はただただ緻密な描線と、職人芸と呼ぶべきトーンワークで成り立っている。
そこから転じて、雪に覆われ白一色と化したポンピエの街並み、この構成も群を抜いている。

ここまで、ダラダラと評なのか解説なのか感想なのか、愚にもつかない内容を書き連ねてきたがもはやここまで。
本シリーズのアニメ化に際して、スクーデリアエレクトロが劇伴曲を担当している。
石田小吉(当時)がパーソナリティを務める番組で述べていたが、渋谷陽一が連絡をよこして曰く「ティム・バートンに似てる?これは“読者がティム・バートン”だよ」とのこと。

ともあれ電子版が刊行されたのは熊倉祐一自身が存命であるという意味でもある。
知る人ぞ知る、しかし決して大衆ウケはしない、しかし多方面の作家に多々影響を残し駆け足で去っていった。
同時代に立ち会えた、ただその幸せをかみしめるだけである。

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Rising Son!!

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仮面舞踏会と武闘会、少年誌にしては高度すぎるような気もする掛け言葉で一本通してしまう本作。
そもそもの連載一本が比較的長いのだが、単行本一巻を丸々一挿話として扱うのは本缶が始めて。
単語の分かりにくさは別として、描線の美しさと緻密な構成に魅入られずにはいられないだろう。

仮面なのでベネチアンマスク、ザザの街はさながら水の枯れた水の都といった趣である。無数の細い支柱で宙に浮いており、海岸か湖岸かは不明だがとうに退行してしまっている。
英映画『ザ・ロッキー・ホラー・ショー』の装画を思い出させる“クチビルのオッサン”、控え室の“無敵君”(頭部もついていたのだろうがバネだけが残っている)、その非常停止を押そうとしたのか謎の血痕が残っていたり細かいところまで仕掛けだらけである。
作中では伯爵夫人が面を着けるに至る道程も記されており、トーンワークで描かれた般若面は実に印象深い。
ステア扮する「日出処の戦士」は有名な山岸涼子『日出処の天子』そのもの。(本作のあらすじで誤表記をしているサイトも目立つが…)
キールが読んでいるタブロイド紙にも「RISING SON!!」の小見出しが踊る。SUNとSONの引っかけ方は秀逸である。ギンジョウのセリフ「・・・・女みてえにヒラヒラ踊んなよ・・・・兄さん」の通り。(さらに細かいがこのシリーズは三点リーダでなく、四点リーダで統一されているが、意図は不明)
痩身のように見えてどこに馬鹿力を隠していたのだろうか、もっとも「そういうものだ」と受け入れるのが正しいかもしれない。
「死闘の果て」の口絵に描かれたScare Clow=カカシ、アニメのオープニングにも短時間ながら登場している。鳥を脅すカカシに使われる面、物言わぬカカシ、その歌詞はShout it loud、絶妙な均衡である。
そして最終盤のバッフルまで考えると、一連の事件は人の皮を被った人外のモノによって仕組まれていた、『The Stranger』(邦題『素顔のままで』)の真反対のようにも思わせるのだ。
なお、その後のステアとアンゴスチュラであるが、生涯独身を貫き通した…かどうかは定かでない…。巻末収録の「王ドロボウ 犯罪白書」はファンならば必見である。

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根無し草と隠された右手

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稀代の奇術師・カンパリを収監する第七監獄。
泥棒の名にふさわしい舞台で、前期の少年誌を意識した作風と作者自身を全面に出した後期の作風が絶妙に入り交じっている。
夢を前面に出しているだけあり、超現実的な薄気味悪さが往々にしてあらわれる。
凝りに凝ったトーンワークが実に美しく、セリフ回しもいちいち気が利いていてたまらない。
天使ちゃんだからなのか刑務官の制服はなかなか動きづらそうである。
刑務所の秩序維持から所長の立像補修まで、業務も実に幅広くハードワークそのものだ。

いくつか気付いた点を挙げていくと、カンパリの独房を下ってベネディクティンと邂逅するがそこで鳴り響く「ハオーマガジンフォーエバー」の文字。
本作の連載と前後して『覇王マガジン』誌の休刊を始め、雑誌の整理と作家陣のリストラが進行していた時期で、編集や講談社とも大小諍いがあったと邪推できる。
夢の世界はデ・キリコの絵画が下敷きになっている。夢だけに超現実=シュルレアリスムそのものである。
広場を行き交う人々が読んでいる新聞、「JING IN JAIL」の見出しが踊る。
その裏面にはレトラセット(スクリーントーンのブランド)の商品仕様が書き写されている。レトラセットで埋め尽くされた原稿。機会があれば、生の原稿を拝んでみたいものである。
ベネディクティンがマネキンに捕まりかけるやり取り、意味は定かでないがアカシア族の言葉を書き文字にするとこうなるのであろう。
人形やマネキンに追いかけられる、悪夢の典型的なパターンである。

再び極独房で夢の世界。“メダルド子爵”といえば『まっぷたつの子爵』である。未読であればぜひご覧頂きたい。もっとも本作に魅了されるような読者ならば、とうに読んでいるかも知れないけれど。
テントから出ると夢が集まったお祭り騒ぎ、しかし“KINGDOM”の入り口には、引き返せ!あの世行き!だの、永遠の夢見になるだの、物騒な文句が並ぶ。
メダルドから逃げると「太陽がくしゃみ」をする人形劇へ。
容姿からしてもメダルドが「ヒゲの男達」の一味であるのは間違いないだろう。
『まっぷたつの子爵』が織りなす世界と現実の大戦を比較すると、この構図がより鮮明に浮かんでくる。
終盤、ポットを投げて黒く塗られた玻璃が割れ、アカシアの村が再び眼前に。
丘陵地にうねる黄金色の麦の穂に夕陽が沈もうとしている。この見開きは実に圧巻、美しいの一言である。


『アマルコルド』前後編では、ジンとキールの出会いが描かれている。
執筆されたのは「第七の監獄」編よりもう少し遅い。連載は少し時期がズレている。
街並みはどことなく同時期のRPGに影響を感じさせる。ゲームにはまっていたのだろうか。
封印された右手、森の精、作中ではすでに死没しているようにも思われるジンの母親。
不可解だらけであるが、特に詳細が明かされることもなく終幕へ。
一応、シモーヌ登場の短編「joshua tree」、最終刊「黒天鵞絨の底」編ともつながる。
身も蓋もないが、ヨシュア樹で描かれたのはこのバラライカの街が植物に支配された後の事であり、黒天鵞絨編でコートごと幽閉されていた人物は当の母親その人だったのである。
つい謎解きに血道を上げたくなってしまうが、この世界はジンを引き立てるために創造されたものであり、ジンは世界の理を知っている超越的な存在でもある。
そういう事なので、ジン自身の謎に関しては謎解き不要なのである。

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テグジュベリとランボオとバートンと

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危険物を乗せた「運び屋」のモチーフは古今東西数が多く、これといった特定の作が思い浮かばない。
とりあえずポルヴォーラ編に関しては、冒頭の老人の部屋(システマ・ソラールを浮かべる)がティム・バートンの『ピーウィーの冒険』、固有名詞はサン=テグジュペリ『星の王子様』からの着想と引用で間違いないだろう。
割りと“ティム・バートンの影響が強く”なんて微妙な評も多いが、画面そのものをなぞっているのは、実はごちゃっとしたあの小部屋くらいなのである。
なお岩波版でない新訳では、訳出の稚拙さも相まって必ずしも一致はしない。

ミルキー・ウェイのつり橋に恐らく『SCATMAN』とおぼしき「SKI-BA-BOP-BA-DOP-BOP」(スキャットなので字面に意味はない)。
元ネタをごちゃごちゃ書くより、ノリと勢いが大事なのである。(あるインタビューで「絵の具をテキトーに投げてよく飛んだ色を中心に配色してるだけ」といった、もはや常人には理解不能の話をしている)
ゴブレットが風船をドツいて割ってしまうカットは、丸々チャップリンの『独裁者』である。地球儀に見立てた風船を割るのだ。
細かいが、ゴブレット私邸のバオバブ邸の書庫に仕込んだ文字バチ(白アリなのか判然としないが)の腹部にも多々書き込みがあり、読解ができるところといい、どれだけ描き込めば済むのか。
太陽石起動の陰影の取り方といい、マンガ表現を逆手に取るような手法ばかりである。それでも、少年誌向けに気を使って抑えているとこが端々に感じられるのだ。
これだけのパロディと脱線を詰め込みながらも、最終的には涙の国でオチをつけてまとめてしまうのは漫画家離れしているとしか書きようがない。


続く「不死の街リヴァイヴァ」編では、不死という人類普遍のテーマだからか、古典作からの引用が実に多い。
朱子の詩からランボオの散文詩、ヴェルレーヌの愛の歌、カフカの「オドラデク」、意匠そのものはベックリンの絵画から。
なおリヴァイヴァの不死の秘密を持ち出そうとした人は、たちどころに捕らえられて、殺されたそうである(作中の『見えない都市の歩き方』)
「BATEAU IVRE」の外套をまとう「永遠という名の年季の入った酔っぱらい」。
彼もまた、秘密を外部に持ち出そうとしてアルコールの牢獄に閉じこめられたのだろう。
「私は不感の川を下っていったのだが~」に続く『酔ひどれ船』、「~私の靴のゴム紐を、足を胸まで突き上げて、竪琴みたいに弾きながら。」の『我が放浪』。
大筋としては不死にまつわる種々雑多な伝承を、ランボオのこの二作でなぞっている。詩中の通りに行動しているのだ。
ランボオと言えば個人的には中原中也である。繊細にして、漢語を大胆に読ませる言語感覚。
ランボオとともにあまりに短いが、世の中に与えた影響は絶大である。繊細だが実に緻密で、本作とも相通ずる部分がある

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王ドロボウJING 3 新装版 (ZKC DX)

2002/03/02 02:30

絵の細かさに圧倒

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投稿者:真泰 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 この巻でこの作品の本当の良さと面白さを知りました。
 前半は「爆弾生物ボルヴォーラ編」の後編。命を無視され道具にされるポルヴォーラ……人間は勝手だと思いました。ジンが運ぶ小さなチビポルだけはどうか生き延びますようにと、幸せを祈らずにはいられませんでした。
 後半は「不死の街リヴァイヴァ編」。ベルモットという少女から、永遠の命と巨万の富を手にできるという“もうけ話”を持ちかけられたジンとキール。だけど“もうけ話”の裏には……。キング・コアントローの書き置きの言葉と穏やかな表情に涙が零れ、そして最後のジンのセリフがとても胸に響きました。

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王ドロボウJING 2 新装版 (ZKC DX)

2002/02/19 20:03

時間の盗み方

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投稿者:真泰  - この投稿者のレビュー一覧を見る

 前半は「時の都アドニス編」の続きと完結です。マスターギアに“アドニスの町から時間を盗む”と予告状をつきつけたジン。どうやって時間を盗むのか胸をわくわくさせました。気持ちのいい終わり方でした。
 後半は「爆弾生物ボルヴォーラ編」です。ポルヴォーラという可愛い爆弾生物一家が登場するのですが、彼らに待ち受けていた運命に涙が止まりませんでした。

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