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紙の本
八つの小鍋 村田喜代子傑作短篇集 (文春文庫)
著者 村田 喜代子 (著)
土地からたちのぼる綺想、生きることのたくましさとおおらかさ。大人のユーモア漂う短篇の名手の代表作をデビュー30年を機に精選。「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」「白い山」...
八つの小鍋 村田喜代子傑作短篇集 (文春文庫)
村田喜代子傑作短篇集 八つの小鍋
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商品説明
土地からたちのぼる綺想、生きることのたくましさとおおらかさ。大人のユーモア漂う短篇の名手の代表作をデビュー30年を機に精選。「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」「白い山」(女流文学賞)、「真夜中の自転車」(平林たい子賞)、「蟹女」(紫式部文学賞)、「望潮」(川端康成文学賞)など、さまざまな味わいをお楽しみ下さい。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
熱愛 | 7−43 | |
---|---|---|
鍋の中 | 45−143 | |
百のトイレ | 145−167 |
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紙の本
男達の知らない老婆とそして
2008/04/29 19:43
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
それぞれに強烈なインパクトのある作品が集められているのだが、それもそのはず、なんとこの一冊で五冠王である(笑)芥川賞、女流文学賞、平林たい子賞、紫式部文学賞、川端康成文学賞の受賞作や候補が含まれている。賞が売り上げに結びつきそうなのは最初の1個だけで、あとは読者を敬遠させる効果しか無さそうなのがなんと微妙なところ。しかしさすがに作品それぞれは切れ味鋭く、あるいはずしんと重い手応え、軽く世界を蹴飛ばすような奔放さなど、強い印象を残す。ただ代表作のチョイスということで、執筆時期が十数年間に渡っているせいなのか、全体にあまり強い癖というか、作家個人が持つ匂いは感じにくい、ただ掘り下げも描写も巧い、というだけにも見える。
だからといって無個性ということは断じてないのであって、まずお婆さんをテーマに取り上げることが多いとか、明らかなファンタジーと、ファンタジーかどうか微妙なラインのエピソードが混在していて目が回るとか、よく考えれば外形的にもかなり特徴的ではある。
最も初期の「熱愛」「鍋の中」は、若さの持つ疾走感と少しだけの成長が叩きつけられるように刻まれて、心地よい。「百のトイレ」「白い山」「真夜中の自転車」では主婦の視点の世界。「蟹女」「望潮」「茸類」では吹っ切れたような自由さがある。ボリューム的には、従兄弟同士4人の子供達が田舎の祖母の家に泊まる顛末「鍋の中」、主人公が出会った老婆達が矢継ぎ早に描写される「白い山」が中心であろうし、両作に登場するお婆さん達の印象の強烈さは圧倒的だ。お婆さん達は小さくなって、ゆっくりになって、摩訶不思議になっていく。それは衰えたり惚けたりしているのではなく、複雑さを増してゆく内部構造の溢れ先に困ってちょろっと流れ出る、そのせせらぎにさえ人智の及ばない精妙な秩序が隠れていて、唐突に提示されると思考停止に陥ってしまいかねない混乱を引き起こしてしまう。
その発見に取り憑かれてしまった作者はどんどん暴走する。椎茸栽培農家の手伝いに行く話「茸類」は遂にその極限で、外部からは信じられないようなエロスの形態が、逼塞した日常の必然として静かに育っている。この空想力の八方破れな自由さ加減は恐るべきもので、偶然の重なりや、思考実験などに頼らなくても、人間の持つ驚異は日常生活の中にも、まるで真空の空間から相転移で粒子が溢れ出すようにざくざくと湧いていることを分からせてくれるのだ。
紙の本
「百のトイレ」の危うさといったら、ありません。男性がこの話を「面白い」なんて言ったら、イエローカード。ちなみに、我が家の夫の反応はレッドカードものでした。ぜひ、男性のリトマス試験紙代わりに、どうぞ・・・
2008/10/01 19:33
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
村田喜代子『八つの小鍋 村田喜代子傑作短篇集』(文藝春秋2007)
村田喜代子は私の中でビミョーなポジションにいる作家です。経歴を見ると凄いです。87年に「鍋の中」で第97回芥川賞受賞。90年に「白い山」で女流文学賞、92年に「真夜中の自転車」で平林たい子賞、97年に「蟹女」で紫式部文学賞、98年に「望潮」で川端康成文学賞、99年に「龍秘御天歌」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年、紫綬褒章受章です。
目ぼしい賞でないものといえば、彼女が狙わないであろう日本推理作家協会賞とSFの星雲賞を除けば、谷崎賞と野間文藝賞くらいなもの。作風から言えば直木賞とってもおかしくないので、エライんですが、私、なにせ純文学系はそんなに得意ではない。芥川賞受賞者だと知ったのも最近だし、平林たい子、紫式部は読んだことないし、川端康成も関心ない。
だから受賞作は全て未読。読んだのは『人が見たら蛙に化れ』『鯉浄土』の2冊だけ。でも、気にはなるんです。書店で見ることは殆どありませんが、図書館の書架では村田の名前が飛び込んでくる。ま、村田って言う苗字の作家に目ぼしい人材がいないっていうのもありますし、二人の村上を見ればその近くにいる、っていうのもあるんでしょうが気になる。
で、ドーンと飛び込んできたのがこの文庫。最近の純文学系短編集としてはかなり分厚い。でも、なんといってもいいのがタイトル。『八つの小鍋』でしょ、なんだか絲山秋子が自分の作品につけそうな題でしょ、カバー画も純文学風ではないし、カバー後の案内を見ると
土地からたちのぼる綺想、生きる
ことのたくましさとおおらかさ。
大人のユーモア漂う短篇の名手の
代表作をデビュー30年を機に精選。
「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」
「白い山」(女流文学賞)、「真夜中の
自転車」(平林たい子賞)、「蟹女」
(紫式部文学賞)、「望潮」(川端康成
文学賞)など、さまざまな味わいを
お楽しみ下さい。 解説・池内紀
と書いてあって、読まずにきた受賞作をはじめ重要作品の名前がたくさん入っています。自選他選はともかく、こういう機会を逃せば一生読まないというのが、私の予想するコース。ま、年齢もあるんでしょうが今しかない、とばかり飛びつきました。ちなみに、タイトルは、そういう題の作品があるわけではなくて、八つの作品が収まっていることを表わしただけのものですが、センスを感じます。
各話を収めた単行本と簡単な内容紹介を目次にしたがってしましょう。
◆熱愛(1987/昭和62年文藝春秋社刊『鍋の中』所収):ぼくと新田は高校のツーリング仲間。身長、体重、学校の成績、オートバイの腕、どれも新田のほうが上田が、引っ張るのはぼく、引っ張られるのは新田。今日は珍しく新田が先行して、カーブの多い海岸沿いの道を走ったが・・・
◆鍋の中(1987/昭和62年文藝春秋社刊『鍋の中』所収、芥川賞):夏休みに田舎の80歳になるおばあさん・花山苗の家にやってきた孫四人、わたしと弟の信次郎、いとこのみな子と縦男。苗のところに、彼女の弟・春野錫二郎の息子でハワイに住むクラークから手紙が・・・
◆「百のトイレ」(1990/平成2年文藝春秋社刊『白い山』所収):二つ年上の従姉の悩みは、二歳になる娘の排尿の悪癖だった。光る水の雫をのぞきこむ幼児・・・
◆白い山(1990年/平成2年文藝春秋社刊『白い山』所収、女流文学賞):山にまつわる数多くの老女の物語、空き地に種をまく老婆、谷のばあさんと呼ばれる年寄り、老いた行商人・・・
◆真夜中の自転車(1991年/平成3年文藝春秋社刊『真夜中の自転車』所収、平林たい子賞):自転車に乗りたいという小学四年生になるミチル、思いを遂げさせてあげたいと思う私、自転車に乗れるようになったら自転車に見向きもしなくなった姉のカオル、いつも後始末を押し付けられる夫の賢一・・・
◆蟹女(1996年/平成8年6月文藝春秋社刊『蟹女』所収、紫式部文学賞):院内食をすませると毎日のように安西先生のところを訪れるわたし。昼食中の年下の先生に色々なことをしゃべることで気分が良くなっていくわたし・・・
◆望潮(1998/平成10年『望潮』所収、川端康成文学賞):喜寿を迎えた古海先生が語るのは、十年位前出かけたことがある玄海灘の、人口五百人余りの小島・蓑島の老婆たちのこと・・・
◆茸類(2000/平成12年新潮社刊『夜のヴィーナス』所収):足を怪我した従妹の康江に頼まれて、椎茸採りを10日ばかり手伝いにいった私は、椎茸を栽培している山もろくにみたことがない。そんなわたしの山中の暮らし・・・
解説・池内紀
予想通り、どの話も面白いです。私にとっては上質のエンタメ。まことに失礼な発言ですが、どの作品も暗さと遣る瀬無さ、そしてちょっと日常からずれた感じがあって、私であれば川上弘美か小川洋子が書いたといっても信じてしまうようなものです。勿論、いい意味で言っているので、このダークファンタジー風の、それでいていかにも日本的な味わいは他にないといってもいいでしょう。
ちなみに、私が最も楽しんでしまったのは、ちょっと危ない内容の「百のトイレ」。娘二人の幼かった頃を思い浮かべてしまいました。勿論、そんなことしてませんでしたけどね、彼女たちは。でも、どこで何していたか全部見ていたわけじゃあないし。それにしても、こんな話になるなんて、村田は確かに面白い。ま、川上、小川両氏に比べると、名前が野暮ったいというか・・・
紙の本
おばあさん奇譚集
2008/01/21 15:22
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
今までの私の「村田喜代子体験」は、朝日新聞の連載で読んだ『人が見たら蛙に化れ』しかない。古物に魅せられた3組の男女が幻のお宝を追って、九州の山里から萩、ロンドン、フィレンツェへとさすらいの旅に出る話なのだが、これが滅法面白かった。いつか別の作品も読んでみたいと思いつつ今日に至り、新聞広告で目にしたのがこの『八つの小鍋』だ。
「村田喜代子傑作短篇集」と銘打たれているとおり、様々な賞を受賞した短編がズラリと並んでいる。村田喜代子初心者にとっては、これ以上の本はないだろう。
内容は「奇譚」といった感じの話が多い。それと、やたらに「おばあさん」が出てくる。それも体が海老みたいに「つ」の字に曲がったお婆さんが沢山出てくるのだ。「東京奇譚集」ではなくて「おばあさん奇譚集」とでも言うべきか。
不思議な味わいの話の中に人間の優しさや怖さがそれとなくまぶされている。いかにもリアルな小説というのもそれはそれで面白いが、日常に潜む非日常を感じさせてくれるこうした話を読むにつけ、「物語の持つ力」みたいなものを感じずにはいられない。
k@tu hatena blog
紙の本
映画より断然、原作がいい
2019/01/27 21:52
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
短篇集に収録されている「鍋の中」は芥川賞受賞作であり、黒澤明監督の映画「八月の狂騒曲」の原作であることで有名だ。晩期の黒澤作品は私には全く興味がなく(椿三十郎は大好きだが)、最後にリチャード・ギアを登場させて「日本に原爆落としてごめんなさい」と謝らせる場面があると聞いて、ますます見る気がなくってしまった。改めてこの作品を読んでみると、どうして黒澤明はこの作品に惚れこんで映画化したのであれば、どうしてあんな「ごめんなさい」のシーンを入れて反戦映画にしてしまったのであろうか。おばあちゃんと孫たちの柔らかい夏休みを瑞々しい映像で描くだけでも十分にいい映画になったと思うのに。やっぱり、晩年の監督はいただけない