電子書籍
ようやく入手
2020/03/08 12:15
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投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
SFなのに電子書籍で同時発売されないのは信じられません。でも、最初半年後といっていたのがかなり早まったのはうれしい。そして、いつもながらの専門知識と謎解きのリンク、スピード感がすばらしいです。
中国の新疆のウイグル族はそう簡単にパスポートとれないとか、CIAが日本の法律遵守したりしないとかいう部分だけ、ちょっとリアリティに欠けますが、それは些細な部分です。藤井さんの小説はいつも後味に希望を見せるのが、魯迅みたいで好きです。
紙の本
現在進行形のコロナウィルスの状況と重ねつつ
2020/02/15 16:45
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投稿者:amisha - この投稿者のレビュー一覧を見る
2020年東京オリンピックが開催される記念すべき年の春。今を舞台に描かれた作品。日本は世界にどう映っているのだろうか。原爆を落とされた国。そして原発事故のフクシマを抱える国。その国の首都に核爆弾を仕掛けるという企て。日本を舞台にしながら、戦争やISISに翻弄される中東圏、日本で働く外国人労働者、国際原子力機関、CIAなどの国際機関など、様々な背景を持つ人々が描かれている。
現在進行形のコロナウィルスの状況と重ねつつ読みました。
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2020年3月、東京オリンピックを目前とした日本に、核爆弾によるテロの予告動画が流れる。
複数のテロリストの、それぞれの目的。それを止めようとする、複数の組織の人々。
それぞれの思惑と行動が交差して、常に緊張感のある1冊だった。
作中の時間が過去になる前に、今読まれるべき作品です。
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オリンピックを控えた3月11日に東京で核テロをやろうというお話。物語は核物質が東京に持ちこまれてからの、5日間を描いています。いろいろな人物の思惑が交錯しますが、淡々と進んでいく時間が緊張感をあおります。
藤井さんの小説は技術者目線のお仕事小説の傾向が強いですが、本作はサスペンスに徹している感じ。テーマについては、なかなか考えさせられますね。
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2020年の3月11日に予告された新国立競技場での原爆テロを巡るリアリズム小説であり、目の前の、過ぎ去った絶望と共にあるが、希望のための物語でもあり、様々なテクノロジーや現実世界とのシンクロ、情報化社会、多層化して断絶する世界、移民と多民族化する日本を描いている。
『ワン・モア・ヌーク』は物語の主軸になる人物(グループ)が4系統に枝分かれしていく。それぞれの物語を読者として読んでいくと、各主要人物たちが知らない他の三つの事柄を読者は破片を集めるように知っていくことになる。
主観ではわからない破片たちは客観性による距離の置き方で物語の全体像が掴めてくる。そして、解説で仲俣さんが書かれているように非常に「フェア」に描かれていように思える。
メインの登場人物たちにしても男女率が同じぐらいであり、ベクデル・テストをしても問題がないはずだ。それらの感覚は藤井さんのツイートなどを見ても意識されていると思う。
前作になる『東京の子』とも地続きのように思えるのは今の東京を舞台にしているからだけではなく、『東京の子』ではパルクールが描かれていた(絶対に映像化したらいいのに、あれができる子がいるのかどうかわからないけども)、今作ではそれはバレエの動きがあって、進化していくテクノロジーを描きつつも、やはり身体性におけるものは対比ではなく、同じようなものとして物語に現出している。藤井さんはかつて舞台美術をしていたそうなので、それもあるのだろう。
最近、小説読んでないなって人には分厚いよって言われそうだが読んでみたらどうでしょう。
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ワン・モア・ニューク(藤井太陽/新潮文庫)読了。道端で泣いてる。仲俣さんの解説もよかった。作風は全然違うけど(媒体すら違う)、状況に寄らず常に希望を提示してきた藤井さんと内藤(泰弘)さんは似ているとか思いながら、涙をぬぐいぬぐい、帰社中。読んで。
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現代最高のエンタメ作家による、現代最高のエンタメ小説、とまでは言えないか、傑作なのは間違いないけど。
山周賞あるかな。
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「国民に気づきを与えるためのテロ」を軸とするアクションスリラーみたいな。
このカテゴリーは結構あるある。テロの動機として「荒療治で自国民の目を覚まさせてやりたい」っていうのは現代大型活劇作品ではかなりベタな設定だと思う。テロの目的はそもそもそういう「ショックを与えて人々の考えを変える」みたいなことだろうけども。
2020年3月が舞台なのでSF要素はほぼない現代劇。全登場人物の行動と思考を描写するのでミステリーもない。大どんでん返しとかはないが、どう収束させるのか?という点ではハラハラ感はあった。著者のウンチクパワーは放射能解説に費やされたのだが、それにより詩的で美しい放射線描写になった。画的に綺麗だろうなというよいシーンもあった。
前作よりはいい出来だが不満。著者への期待が高すぎるのかもしれないが。オウムの何やらとか設定勝負の短編の方が最近の著者には向いてるというか、長編に関しては才能が枯れたんじゃないかとちょっと心配。期待しすぎかもしれないが今後に期待。星4には何か足りない気がした。
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被爆者として、核の恐怖を世界に知らしめたいムフタール・シェレペット。
途上国の悲惨な現状を先進国に知らしめるため、使命に燃えるイブラヒム。
放射能のプロフェッショナルとして、事態の収束にあたる舘野とそのチーム。
日本国内でのテロ行為を未然に防ぐために奔走する、警視庁公安部。
そんな彼ら/彼女らを全て出し抜いて自らの想いを遂げようとする、最強最悪のテロリストにして美貌の革命家・但馬樹。
エモい。その一言に尽きます。
作中世界は、2020年3月6日から同10日のたった5日間を中心に、もの凄い密度で展開していきます。現実の東日本大震災の9年後、未だ生まれ故郷に帰還し得ていない人の想いをベースに、現実の2020年世界とそれほど齟齬のない、地続きの世界観の中で物語が進んでいきます。人に寄って様々な解釈が可能だと思いますが、鴨的にこの作品は「鎮魂」を目的としたものであり、第三者がとやかく言っても前に進まないものであると理解しました。
藤井作品の特徴である、「登場人物が全員優秀過ぎて鼻白む」側面は、この作品においても顕著です。誰もが自分の信念に基づいて善かれと思ったことをしているだけなのに、あらゆる物事が悪い方に向かってしまう、この悲劇。
特に、物語のドライバーである但馬樹の行動原理が、鴨にはどうしても理解できませんでした。私費を投げ打って地元・福島の除染を果たし、「戻っておいで」と呼びかけた友人がそれをプレッシャーに感じて自死を選択した、それを「自分の責任ではない」と納得するためだけに首都圏の臨界汚染を目論んだ・・・という展開が、ただの自己愛にしか感じられず、物語全体の説得力が一段下がった感じ。まぁでも、この辺は極めて主観的な受け止め方なので、それぞれの想いがあってしかるべきだと思いますし、それを否定できる人はいないと鴨は思います。
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なんて気高い…!
著者の誇り高い仕事ぶりに、ただ涙が流れます。
万人に受ける小説ではないかもしれないけど、できるだけ早く(できれば3月11日より前に…!)、多くの人に読んでほしいと思う秀作です。
2020年の東京、3月11日に原爆テロが予告された戒厳令下という、聞いただけでギョッとなる設定。刑事、科学者、テロリスト、それぞれの線が最初は群像劇的に動いていき、やがて絡み合って…というストーリーです。
※文庫の帯にも解説にも「爆心地」が書かれてしまっていたものの、そこまでネタバレ感はなく。
読み終わったばかりの今思うのは、著者から送られているエール。東京を守る人々に対して、核に傷つけられた人々に対して、そして福島の人々に対して。
あと1ヶ月でこの小説はひとつの区切り(悪く言えば、賞味期限)を迎えてしまう訳です。初出の雑誌連載は2015年から2017年だけど、この文庫は2020年1月29日に出版。どうしても2020年に出版したかった、ということなのでしょう。
現実の世の中はコロナウイルスのせいで別の不安に包まれてしまっていますが、本著が持つ希望の力は、全く色褪せないもの。3月11日が良い日で、2020年が良い1年になりますよう。
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2020年3月のオリンピックを控えた東京を舞台に、核テロリストと攻防を描いたサスペンス。
テロリストの三人は、それぞれの理由から、微妙に異なる状況を作り出そうとするが、それゆえ、思惑が絡み合い事態は二転三転する。一方で、それを追う、警察などの組織も、テロを防ぐという同じ目的を追いながら、それぞれの立場のしがらみや情報の欠落に翻弄される。
登場人物のバックグラウンドを通じて、読者は、過去と現在における核による被害の対比構造に気づかされる。
核保有国の初期のウラン採掘に関わった祖先や、核実験に影響を受けた自分自身や家族、それは過去の為政者の「知らせなかった」罪だ。また、一方で、また別の主人公の悩みや苦しみは、3.11のデマや風評被害といった、「正しく理解しようとはしなかった」罪を、現在の我々に突きつける。
動機の純粋さと、その実現方法の精密さと大胆さ、そして鮮やかさに、読者は目を奪われる。そしてやがて、それらを通じて、著者が訴えようとしているものをくっきりと浮かび上がらせる。これは、物語の中の犯罪者と著者の「共犯」関係だとも言える。
こういった重いテーマを扱いながら、一方で、登場人物の動作を生き生きと描く。そしてまた、彼らのテクノロジや人種に囲まれた生活を、正確に、そしてポジティブに描く。これらは、我々の時代も良いものにしていけるのだという希望を与えてくれる。
扱う題材に対して、なんとも言えない爽やかな読後感だった。2011年から9年。この期間の一つの区切りとして、この時代に生きたすべての人に読んでほしい本だと思った。
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これが、これこそが「本物の震災後文学」
そして、サイエンスフィクションどころか、リアルタイムフィクション。犯行日に間に合うタイミングで読めて良かった。
ただね、このあとの世界、核兵器禁止条約レベルの話じゃ済まなくて、原子力発電の続行が世界的に無理になるでしょ。但馬は間接的に世界中に多数の犠牲者を生むことになると思うよ。
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素晴らしい。
SFが大の苦手であるわたしが、全作品抵抗なく読め、一作毎にどんどん面白くなっていく大好きな作家さんなのですが、今回はSFではなく、警察小説、国際謀略小説というまさにどストライク。
近未来小説でありながら、東京オリンピック間近の今読むべき。
デマが人を殺すというのも、今グイグイきます。
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近未来とも言えない"今"を描いた本作はまさしくリアルタイム小説で、来週になってしまえばもう現実では過去の物語になってしまっている。2020年3月11日を迎える直前の今、この作品を読めてよかったと心から思う。
イスラム国の自爆テロに巻き込まれて一命を取り留めたIAEAの職員をはじめ、この物語で極めて読者に近い存在に感じられる刑事たち、東京を核の恐怖に陥れたいイスラム国の元幹部、核を廃すために核爆撃を企てる被爆者の女、フクシマのデマで死んでしまった友人のために核爆弾を作り上げた天才の美女。
複数の登場人物たちそれぞれの思惑と推理と賭けが重なったとき、すべては東京オリンピック開催直前の、新国立競技場に集結する。
厚めの作品かつ重めのテーマだが、決して飽きさせないテンポで進んでいく物語は非常に映画的で、個性的な登場人物たちの姿や、核の恐怖に晒された東京の様子、クライマックスで描かれる致死量の美しさが、映像となってありありと目に浮かぶようだった。むしろリアルすぎて3Dプリンターを駆使すれば20%濃度の核燃料でも核爆弾が作れるのではないかという気さえしてくる。但馬さえいれば。
その方面の専門家なのかと思うほどにイスラム国や核に対する作者の豊富な知識量には脱帽した。エンタメ小説としてかなり面白く、他の作品も読んでみたいと思うほど惹きこまれたのは久しぶりだ。
あまりにも陳腐な発想なので書くのを躊躇うが、東京、原爆というだけでなんとなくシンゴジラを想起してしまった。映画化したら面白いと思う。
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現代東京、しかも時は2020年3月。
東京オリンピックを目前に控えた国内の混乱を具体的に描写しており、舞台描写はこの上なくリアル。
対して、そこで展開されるイスラム圏やCIAを巻き込んだストーリーは壮大で。
このリアルさと壮大さのギャップにイメージを刺激される。
突っ込み処はいくつもある。
例えば女犯人、超人過ぎ問題。
この人が本気出したら大統領選に出馬しながら自前でロケットつくりそう。
また例えば警官・科学者ペアの、察し過ぎ問題。
あの情報範囲からテロ犯の動機と分裂を見抜くのは第六感に近い。
世界を混乱に陥れ、日本経済に壊滅的ダメージを与えた犯人に、この人たちは事件による死者の「数」を日常のそれと比較して慰めたりもしている。
余波を思うと絶対そんな場合ではない。
ただこうしたザラザラした違和感を呑み下して先へどんどん読み進めるほど、魅力的な物語ではあった。
その魅力の主軸になっているのがおそらく、先述のリアルさに込められたメッセージ性。
3.11以降の原発問題や9.11以降のイスラム圏テロリズム勃興、隣国での核実験と人権侵害など、現代日本が抱える社会問題が多く織り込まれている。
読み進む程に、「我々日本人」は、「日本人だからこそ」、核・原爆を遠い国や過去の問題とせず、原発問題を過ぎ去った出来事としないで、学び続けねばならないと思いを強くする。
読後に余韻を引く物語。