紙の本
皆のあらばしり
2022/06/20 18:08
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
小津久足の発見されていない書籍を求めて、謎の関西弁の男と歴史研究部の男子高校生がタッグを組む物語。
書いたものを後世に残すとはどういうことか、残された物に後世の人はどう向き合うべきか、といった問題を取り扱っていて、とても面白かった。著者が何かのインタビューで、能力があってもそれを形にしないで亡くなる人の存在に触れていた気がするが(「阿佐美サーガ」の叔母さんなど)、そうした問題も絡んでいる気がする。
紙の本
不思議な小説
2024/03/17 10:28
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投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
虚々実々。
騙し騙され。
謎の関西弁の男性は、最後まで謎のまま。
もう一方の主人公である高校生の優秀なこと。
紙の本
騙すこと騙されること
2022/01/20 15:32
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第166回芥川賞候補作。
人はどうして本を読むのだろうか。
何事かを学ぶためであったり、自身の知らない世界を楽しむためであったりだろう。
あるいは、純粋に娯楽として読むこともあるだろう。
それらを大きくまとめるなら、知的好奇心を満足させるためといっていいかもしれない。(知的ではないこともあったとしても)
『旅する練習』で三島由紀夫賞を受賞した乗代雄介さんの受賞後第一作となった本作は、まさに知的好奇心をテーマとした作品といっていい。
舞台は栃木県にある皆川城。(ここは実際に存在する)
歴史研究部に所属する高校生の「ぼく」は、そこで見知らぬ男と出会う。
大阪弁を話すこの男は、妙に訳知りで、何故かこの土地の歴史にも詳しい。
毒気を抜かれた「ぼく」は、男の言われるままに、江戸時代後期の豪商小津久足(この人物も実際に存在する)が書いたとされる『皆のあらばしり』という本を探索することになる。
物語は、この謎の本の存在をめぐっての、「ぼく」と男との奇妙な駆け引きで進んでいく。
果たしてこの本は「幻の書」なのか、あるいは「偽書」なのか。
もっといえば、ここで語られることは作者である乗代さんの作為なのか。
どこまではが真実で、どこまでが虚構(創作)なのかわからないまま、物語は終焉に近づく。
結局、多くのことがわからない。
「騙すということは、騙されていることに気付いていない人間の相手をするということ」は、終わりにある男の独白だが、読者もまた騙されたのだろうか。
電子書籍
会話のノリ
2022/01/19 18:40
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
関西弁だからか、会話がすごくノリが良くテンポがいいというか……。だからか、読みやすく、後半まで一気読み!ところが、最後のこれ。コレは、ミステリーみたいな終わり方です。
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第166回芥川賞候補作。
残念ながら受賞には至りませんでしたが、私はとても好きでした。前作の『旅する練習』も良かったので、受賞すると確信していました。
“天高く馬肥ゆる秋。”
という一文から始まります。
歴史研究部に所属する“ぼく”こと浮田と、胡散臭い関西弁を使う中年男の、『皆のあらばしり』という幻の書を探し出そうとするお話。
出会い方はかなり急です。
(おー、おー、青年、熱心やなー、歴史研究が趣味なんかいなー)という感じで話しかけられ、(まあ、部活なんで)と一歩引いた感じでやりとりしますが、男の博識な返し、知識の量にぼくは徐々に興味を持ち始めます。
『皆のあらばしり』という幻の書を探し出すという男の目的に僕は協力し、たまに待ち合わせて仕入れた情報を男に教えるということを重ねていきます。
果たして『皆のあらばしり』は存在するのか…?
男とぼくの会話の掛け合いがテンポよく、そしてたまに出るセリフにグッとくるものがあって聞いているのが楽しかった。オチも好きでした。
胸に痛みが残ったセリフを引用しておきます。
(ゴミ拾いをしてるのを見て、地元の人が話しかけて来たというのを踏まえて)
「確かに、そんなことはみな打算的に始めるのかも知らんわ。でもな、今回はたまたま運が良かったけども、打算っちゅうのは十中八九、空振るもんや。大半の人間はそこでやめてまうから打算に留まるんやで。それを空振りしてなお続けてみんかい。打算でやっとったら割に合わんことばっかりなんやから、そんな考えはすぐに消え失せるわ。積み重なる行為の前には、思考や論理なんてやわなもんやで。損得勘定しかできん初手でやめてまうアホは、そんなことも理解できんと、死ぬまで打算の苦しみの中で生き続けるんやけどなー」
はぁ、痛い……
男とぼくのバディものがまたあったらいいな。
読みたいです。
装丁も好きです。
真っ青な空の下、結構大きなペンギンが眺めてる…?白い、なんだろう建物にしては窓がない。
壁?謎です。
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高校の「歴史研究部」に所属する青年は、その活動の途中で、怪しい30代の男に出会う。
男は博学で青年は怪しいと思いながらも、その博学さに魅力を感じ男と共に、とある謎の書物を探すことになる。歴史的なマニアックな話はよくわかりませんでしたが、2人の駆け引きとも思える会話や関係性を楽しめた。お互いの懐のうちを探りながら心理ゲームのように話が進み、ラストは思いがけない顛末に。
今回の芥川賞候補作。三度目の正直となるかな?(新潮2021.11で読了)
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今作は第166回芥川賞の候補作の一つで、一つの幻の蔵書「皆のあらばしり」をめぐる高校生と少し変わった関西弁の男性のお話です。最初私的には 関西弁がちょっと変だなと感じたのですが、読み進めていくうちに、リズムよく読めて気になる事もありませんでした。歴史の勉強にもなります。
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いやー、面白かった! 騙された! 泣いた! 笑った!
男の胡散臭さが最高で、でもそれに惹かれる高校生の気持ちもすごいよく分かる。中盤でそれまで五里霧中だった話に筋ができ、青年(高校生)も読者のわたしも道がくっきりと見えてくる。そこからのやり取りがまた面白くてスリリング。ハートウォーミングな展開も。男がスマホを持たず、最低限の情報(しかも本当か嘘か分からない)しか明かさないので、毎回同じ皆川城址に素数の日に待ち合わせてそれまでの収穫を話すというギミックがよーく効いている。
非常に企みのある作品で、読んでいてもドキワクが止まらない! 新年一発目の独読書でいきなり今年のナンバーワンに出会ってしまったような気持ちに。でも、そういう年ってそれを凌ぐ傑作がどんどん出てくるんだよなー。それもまた楽しみ。
これで芥川賞取れたら最高だけれど、駄目でも早晩受賞するでしょう。これからにも期待です。
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乗代祐介の作品は読みやすいとは言えない。回りくどく、衒学的である。
ただ、こんなにも読み進めるのが簡単でない作者の作品を私はスマホ片手にわからない言葉を調べながら読むという行為に及んでいる。会話のやり取りは相変わらずテンポ良く面白い。
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面白かった。
読者として読んでいる主観と、書かれている事実が少しずれている、そのずれと作為をこそ描く。
書かれている人と人との交流が明るく、希望に満ちているのも良い。
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地元の歴史を研究している高校生と関西弁を喋る中年男が皆川城址で出会う。幻の本「皆のあらばしり」を探すためだ。男の正体や目的は分からない。それでも高校生と男は協力して本を探す。そのために関係者をだましたり、いろいろミステリ要素が多い作品だ。結局、男の存在は何だったのだろうかと考えてします。「皆のあらばしり」が存在しない本だとしたら、男も存在しない存在なのだろうか。もしかすると高校生も存在しない? などと深読みしたくなってくる。深く考えなくても楽しめるので、純文学としては読みやすいのだと思う。
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乗代雄介さんの小説は、
誰かがいつか残した言葉・思いを受け取ることへのはち切れそうな気持ち、
読むことへの深い想いに溢れています。
そして乗代さんの小説を読むという行為は
そんな思いを抱えた人が「書く」ことを選んでいる、という事実に直面することで、
私はそれだけでもう胸がいっぱいになります。
この小説もP112とか、もう、ほんと胸がいっぱいです!!
というわけで、私は乗代雄介さんのファンです。以下、まとめと思ったことです。
「皆のあらばしり」という怪書を探して、高校生のぼくと、謎の関西弁博学おじさんとの知的冒険譚。
小説、フィクション、(に限らず文字に残されたものは)というのは作りものの域を越えることができず、いわば人を騙すことでもあって、それでいて、本当の思いを形にすることができる手段でもある。
『皆のあらばしり』は偽造書であると同時に、作り手の『芽はでんまでも乾かんかった思い』である。百年以上も経った今、それを読むことができるという、二人のえも言われぬ胸の高鳴りがこちらまで響いてくる。
・人を騙すことを教えた本人が、まんまと騙されていたこと
・作中に出てくる怪書のタイトルがそのまま、この小説のタイトルになっていること
・博学おじさんの語りで、本書が締められていること
これらの構成で、作品が複層的になっているとも言えるんだろうけども、分かりやすすぎてわざとらしい気もする。
「自分が知らんという理由だけで興味を持たれへん、それを開き直るような間抜けで埋め尽くされとんねん」
とか内容的にはめっちゃ共感できるけど、説教くさく聞こえてしまってちょっと・・・という部分がちょこちょこある。わざわざおっさんに言われなくても、あなたが愛しているものがその対極にあるものだから、分かりますよ!と思ってしまう。エセ関西弁と相まって、この人物に最後まで好感を持ち辛いというのはちょっとある。
でも全体を通じて、郷土歴史学?みたいな過去の小さな点に焦点を当てて調べていく面白さは、ミステリーともちょっと違って新鮮で、とても楽しく読めました。
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スィングする「会話」は、いつだって「未知との遭遇」であり「終わりのない振幅運動」であり、「自分自身ドライバー」である、と思いました。謎の饒舌な大阪弁中年男と地元史に興味のある高校生という不思議な組み合わせの二人の会話で、ほぼほぼ進行していく物語です。二人は、先生と生徒であり、師匠と弟子であり、ホームズとワトソンでもあり、猪木と藤波でもあり、松ちゃんと浜ちゃんでもあり、緊張関係と信頼関係が揺れながら「皆のあらばしり」という古文書を巡る謎解きが進んで行くのです。その「会話」は日付が素数である木曜日、午後4時、二人が出会った古い城址で、という限られた舞台で。こんな引き込まれるとは思ってもいませんでした。こんなにびっくりするとは思っていませんでした。こんなに清々しい気持ちになるとは思っていませんでした。乗代祐介、要チェックです。と、思ったら「ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ」途中まで読んで挫折していたことが判明。でもあの分厚い本の細かい短編の繰り返しにも会話とストーリーのスウィングが満載だったような記憶も蘇り…挫折した本へのリベンジの前に、この本の一冊手前の「旅する練習」トライしようかな…
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ワクワクした!どんどん面白さが加速して、ラストは本当に爽快だった!
栃木の話で、嬉しくなった。(地元県)
あらばしり→日本酒をしぼる時に1番最初に出てくる酒のこと。
高校2年生の青年とおじさんの話。
おじさんは、何でも知っていた。
それがとても魅力的。
怪しい人なのか?始めは警戒していたが、
一瞬で何でも見抜く観察力や知識量に驚くことばかり。
「僕が今まで出会った中で1番すごい人間。
誰も比べものにならないくらい断トツで。
知り合って半年、本当に楽しかった。
一緒にいない時でもそうだった。
他のこと全部がどうでもよくなるくらい、この世界が面白く見えてきた。
だからどうしても認められたいと思った。
僕はこれからもっと勉強する。
ありとあらゆることをやって、鍛え上げて面白がって、それをおいそれと他人に見せない、そういう人間になる。
何年後かわからないけど、見くびられないで一緒に仕事ができるくらいの人間になる。」
と青年が言った場面が、とても良かった。
ラストはエモい!楽しかった。
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歴史研究部に所属する少年と大阪弁を話す胡散臭い男が出会い、「皆のあらばしり」という存在するかも分からない未刊の本を探す物語。
この男は一体何者なのか?なぜそんなにもその本に執着するのか?細かい描写はなく、疑問点も残る。
でも、それはこの本の伝えたい本質がそこではないからなのだろう。
最初は胡散臭い男を怪しい目で見ていた少年。知らない人に付いていってはいけはいことは十分理解している。それでも、この男と行動を共にしたのは彼の知識力や佇まいに憧れと尊敬の念を抱いたからだろう。
「能ある鷹は爪を隠す」とはよく言うが、この男はまさにそれだ。知識を振りかざすわけでも偉ぶるわけでもない。ただ己の興味や欲望のためだけに静かにその知識を使う。
この男は面白い!知識があるって面白い!
少年がきっと感じたであろうその気持ちを私も一緒に感じ取ることができた。
自らの知識が乏しいと事象を推察することも、物事の真理に触れることも出来ない。知識が広がると世界が広がる。そんなことを感じた読書だった。
いつか少年が相棒として活躍できたら良いな。