紙の本
昭和史の隅々まで読みこんだ松本清張しか書きえない内容。
2009/01/02 12:58
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
そもそも、なぜ、本書を読みたいと思ったのか。
それは、『大本襲撃』(早瀬圭一 著)のなかに引用されていた松本清張の『粗い網板』の文章のあとに、なぜ、松本清張が第二次大本教弾圧を知っていたかという著者の言葉があったことだった。
そして、その大本教に政治結社の玄洋社や黒龍会が関係し、陸軍、海軍の将官クラスまでもが関心を寄せていたことだった。
その大本教をどのように小説に組み込んでいるのか、真実を知っていながらも生存している関係者に配慮してフィクションにしているのではと思い、ヒントがつかめればと思って本書を読み進んだ。
しかしながら、フィクションとノンフィクションとを織り交ぜたこの作品を読み進めているうちにストーリーのおもしろさに引き込まれて、たまたま、松本清張の『昭和史発掘』シリーズを読み始めたばかりだったので、その続きを読んでいるかのような錯覚に陥った。
この作品、昭和史における数々の事件を推理し、解説していった松本清張でしか書きえないものだと思った。
A級戦争犯罪人であった広田元総理大臣は共産党スパイといわれたGHQのハーバート・ノーマンの謀によって絞首刑になったと思っていたが、この作品を読み進むうちに日本の旧内務省の思惑もからんでいたのではと疑念がわいてきた。そんな別の角度から物事を見る発見をさせてくれる内容でした。
さらに、政治の陰には宗教団体の存在が見え隠れするものだが、意外にも、政党や政党関係者が政権安定のために宗教団体を興して政権運営に利用しているのかもしれない。
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大正末期から昭和初期にかけての時代背景に史実とフィクションの境目のない展開が圧巻
2020/08/18 16:13
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投稿者:多摩のおじさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
このコロナ禍でステイ・ホームで家で籠る日々が続く中、某テレビで原武史氏がゲストで
「100分de名著・松本清張スペシャル 昭和とは何だったか」の最終回で取り上げた遺作と
なった小説「神々の乱心」を偶然視聴し、その主題と構想の凄さにすっかり魅了され、
早速購入し、貪るように読み進みました。
大正末期から昭和初期にかけての満州を中心として揺れ動く政治や軍、そしてそれに呼応
する形で活発になる新興宗教と宮中の関わりをある面では、史実に基づき、また反面フィ
クションが境目なく展開され、読み手を一瞬たりとも飽きさせない著者の構想に圧倒され
っぱなしでした。
そういう意味では、大正末期から昭和初期にかけての満州を中心とした政治や軍、新興宗
教と不敬罪の動きが下地にないと面白みは半減してしまいそうで、本書を読む一方でこれ
らの動きを調べながら読み進めました。
特に、キーとなる人物~時代背景を表す特高警察課の吉屋係長を中心に、ある時は華族の
次男で深町掌侍の姉・彰子を持つ萩園泰之~で話が展開する中で、この二人が互いの身分
を隠しながら、本書の発端となった深町掌侍に付く女官・北村幸子の死を巡って幸子の故郷
である吉野や、元阿片特売人の連続遺体発見の渡良瀬遊水池での巡り会いと心の探り合い
の場面の息を呑む描写は圧巻です。
また、現在では使われないと思われる表現~例えば、伝手(p.34)、手すさび(p.57)、尺牘
(p.45)、柴折戸(p.221)、眦(p.225)、曾て(p.227)、素封家(p.228)、先考(p.248)は
少々戸惑いましたが戦前の昭和を偲ばせる著者の心遣いなのでしょうか。
本書は余りに登場人物が多く而も実在と架空が混在し、幾多の場面で頻出する人物もあり、
自分なりに人名索引を付けながらでないと読み進められない程に長大であり、著者の遺作
への意気込みにも圧倒された思いです。
上巻で浮かび挙がってきた謎多き月辰会研究所と宮中、満州阿片特売人との関係が、今後
どう展開されて行くのか下巻へ期待しつつ読破したことが思い返されます。
なお、本書の知る切っ掛けとなった原武史氏の「松本清張の「遺言」『昭和史発掘』『神々の
乱心』を読み解く」は、主な登場人物、言及される重要人物の一覧や舞台となる当時の宮城
周辺、秩父、足利、満州の地図や目次と舞台、年表も掲載され理解を深める上で助かりますが
本書及び下巻を読んでから読むことをお勧めします。
本書の持つ小説としての面白さが半減してしまわないように・・・
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松本清張最後の長編小説
2018/06/27 21:38
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張最後の長編小説で未完だが評価が高いので読んでみることにした。小説は昭和初期の宮中から満州などを舞台にしたとてもスケールの大きいものである。上巻ではまだ事件の全貌が見えてこず、しかし異様な状況を暗示するのみである。
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想像力が試されます
2023/02/01 23:22
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投稿者:凶暴なポメラニアン - この投稿者のレビュー一覧を見る
最後まで書き終えられていない小説を読むのは苦手だけどNHKの100分で名著の内容が面白過ぎて読んでみました。上巻は文句無しに面白い。下巻は途中から良く分からない展開になり、結末は読者に選ばせる形式で終わります。編集者の方の予想も記載されていますが、想像力が試されている。こんな本もいつもの読書と違ってたまには良かったです。
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舞台は昭和初期の日本。中国・満州のエピソードも出てきます。新興宗教、阿片関連の事件も関係してきて複雑な人間関係がしだいに明らかになっていきます。
でも私にとってはなじみのない漢字が多く、とっても読みにくく進まない!結構流し読みしてしまいました。
おもしろいところは、二人の人間が個別に捜査を進めていくところ。全く関係のなかった二人が、偶然出会って駆け引きをしたり、でも協力はしない、この二人から得られる情報を紡ぎ合わせて一本にしていくのがとても楽しい。
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松本清張の未完の大作。新興宗教団体と皇室がつながるなんていう要素におなかいっぱいになりそうです。紋様の意味や神道系新宗教のことなど、ちょっぴり京極夏彦な感じも覚えた。
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やや思いテーマだが、上手く小説の種としてまとまっていた。
時代背景が難しいのと、連載ものとが会いまって、説明調がややくどい。
絶筆になってしまったのが残念です。
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「100分de名著」を見て気になってたので読んでみました。皇室のタブーのようなことを小説の題材にするって、よく許されたなと思います。
話が月辰会と女官の自殺からかなり離れていっているようで、これがどう繋がっていくのか。
説明が長いような感じもあり、読み進めるのに多少飽きがくるところもありましたが、だからといって読みづらさはありません。推理小説というより、戦前の時代記を読んでる感じです。
下巻、これから一気に物語は進むのでしょうか。
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「神々の乱心(上)」松本清張著、文春文庫、2000.01.10
469p ¥620 C0193 (2018.06.19読了)(2018.06.07借入)
Eテレの「100分で名著」で「松本清張スペシャル」が放映されました。取り上げられた著書は、「点と線」「砂の器」「昭和史発掘」と『神々の乱心』でした。
「点と線」「砂の器」は、既読だったので、「昭和史発掘」の内、二・二六事件を扱った部分だけを読み、この本に取り掛かりました。
未完のまま遺作になったということなので、尻切れトンボになるだろうとは思うのですが、せっかく紹介されているので付き合ってみます。
物語のはじまりは、昭和八年十月十日です。場所は、埼玉県比企郡梅広町。まず、登場するのは、埼玉県特別高等警察課第一係長警部吉屋謙介。普段は、浦和町の県警察部にいる。
吉屋謙介が梅広署を訪れ梅広署の署長の案内で管内視察をしていて、月辰会研究所という立派な建物を目にした。署長によると「降霊術を研究する科学的団体」であり「宗教団体ではない」という。
月辰会研究所から出てきた女を梅広署に呼び入れて参考人として尋問した。無理にハンドバッグを調べ身分証明書なるものを見つけると「宮内省皇后宮職」職員「北村幸子」。風呂敷包みから出てきた筒形の厚紙には、「御霊示 月辰会」と印刷してありあて先は、「深町女官殿」と墨書してある。宮内省関係者であった。後日、宮内省から御叱りがあるかと待ったが、連絡はなかった。御霊示に印刷してあった紋章は、『月に破軍星』とか『剣先の星』、伊予の水軍では『菱剣星』と呼ばれている。
北村幸子は、宮内省を退職し、実家に帰り、自殺した。北村幸子の実家は、奈良県吉野郡吉野町字倉内の春日神社で、父は宮司(北村久亮)をしている。幸子の兄も神官(北村友一)をしている。奈良県特高から連絡を受けた吉屋警部は、葬儀に駆けつけ、地元のタクシー運転手に自殺現場に案内してもらう。同じ自殺現場を見に来た深町女官の弟・萩園泰之と言葉を交わす。深町女官の実名は、萩園彰子。深町は源氏名だった。
萩園家は、明治になって子爵を賜り、兄の泰光が嗣いでいる。泰光の下が彰子で、泰之がその下である。泰之は、華族の次男坊を会員とする華次倶楽部の幹事をしている。華族の家に伝わる宝物品の鑑定会などを開催している。
吉屋警部は、萩園泰之には、小学校の教頭をしている山本三郎と名乗った。特高とは名乗れない。姪が、幸子さんと親しくさせていただいていたので、出張のついでにと頼まれた。
北村久亮は、娘の自殺の原因を知りたいので、葬儀に弟さんが来てくれたお礼を直接会って述べたいと深町女官へ面会の手紙を出したが断られた。息子の友一に頼んで、萩園泰之に会いに行ってもらい、泰之を通じて深町女官に働きかけてもらったが、同じだった。
北村久亮は、娘が生前に話していた、「鏡の文様で、まん中が「く」の字形になっていて、そのまわりは櫛の歯でいっぱい埋まっていた」「その鏡は半月形になっていた」という鏡のことも知りたいと思った。
萩園泰之の知人によると、鏡は、多紐細文鏡ではないかという。朝鮮や満州当たりのもの。
萩園泰之は、山本三郎について調べてみたら、���在の人物ではなかった。
萩園泰之は、北村幸子の出入りしていた月辰会は宗教団体と見て、天皇家と宗教のかかわりを調べるために大正天皇の病気が悪化したころの新聞を図書館で閲覧して調べたなかに皇后さまが法華宗を信仰され女官たちも法華宗に改宗し熱心に拝んだ、という記事を見つけた。また、山本三郎を調査に行った際に、阿片事件のことを小耳にはさんだ。新聞調査のなかで阿片事件のことも目の片隅に入っていたので、調べてみた。
阿片事件と月辰会となんとなく関連がありそうと思った萩園泰之は、阿片事件の中心人物である川崎友次について調べ始める。川崎友次は、既に死亡しているので、その未亡人を広島県三次町三筋通り 月江山荘まで訪ねて行った。(広島県双三郡吉舎町字吉田)
(この辺のストーリー展開は、強引すぎるようです。)
萩園泰之は、川崎友次のところに多紐細文鏡の半分が所蔵されていそうな気がして訪ねてみたのだが、川崎の好みは、書であった。
昭和八年十二月二十三日、渡良瀬遊水地で男の死体が発見された。絞殺であった。死後二か月、胃の残留物に梅干しの核子(たね)のようなものがあった。五日後、近くからもう一人の男の死体が見つかった。こちらも絞殺。
十二月三十日、最初の渡良瀬川遊水地の他殺体の男の身元が和歌山在住の農園主・津島久吉と思われると報じられた。阿片事件の関係者であった。
萩園泰之は、もうひとりの他殺体も阿片事件関係者とみて、死体発見現場を見に出かけた。吉屋警部も、なんとなく気になって出かけたら、泰之と出くわしてしまう。吉屋は、俳句の吟行とごまかし、泰之は、遺跡を見に来たという。泰之は、吉屋に俳句を教えてもらうことにして、後日(一月十六日)、新宿で会うことにする。
(この辺も、かなり強引ですね。泰之は、それなりの理由があるけど、吉屋には理由は無いですよね。)
津島久吉の胃から発見された梅干しの核子のようなものは、練り香であることがわかった。「練り香」とは、「二種類以上の香料を粉末状に刻んで、それを蜂蜜、梅肉、炭の粉でもって練り合わせ、丸薬上にしたものです。」(323頁)「他殺体から出たのは沈香と竜涎香の練り香だった」「その練り香には香料のほかに何か別のものが混入してある」が「あんまり小さすぎて鑑定できない」
吉屋警部は、練り香のことが知りたくて、渋谷区宮益坂近くの「香貴堂」を訪ねた。香料のほかに混入していたものは、膠であろうという。
ひょんなことから吉屋警部の身元が、萩園泰之にばれてしまう。
身元のわれていない他殺体は、阿片事件の関係者と見た泰之は、吉屋警部宛に匿名で手紙を出した。内容は、「島田平造、加藤音松、梶原精一、堀越正雄は、津島久吉の友達です。」
他殺体は、島田平造と見られた。妻女が確認に来てみたが別人だった。島田平造も去年九月初めに商用に出たまま消息を絶っている。
二月になり、投書された五人の関係を探ることにした。津島久吉の妻と島田平造の妻を呼び出して、合わせて探ることにした。
三月十一日、鬼怒川温泉で吉屋警部が夕食時に津島久吉の妻と島田平造の妻から夫達が阿片事件の関係者であることを聞き出す。
当時の新聞にあたり、関係各所に阿片事件の関係者の現状を調査してもら���た。加藤音松、川崎友次は病死、堀越正雄は事故死(九十九里の片貝海岸で溺死)。木原茂三郎は、入院加療中。梶原精一は、行方不明。
吉屋警部は、広島・三次の川崎未亡人に会いに行く。川崎春子から津島さんと島田さんが月江山荘に尋ねてきて東京に向かったことを聞き出した。津島さんの三日あとぐらいに島田さんが来たという。昨年の九月二十日ごろとのこと。
世間話のついでに、萩園泰之夫妻が月江山荘を訪れたことも聞いた。
身元不明の他殺体は、骨董屋であることが判明。奈良県郡山町の古美術商『尚古堂』の主人・石岡卯之助、三十八歳。石岡卯之助は、ケイズ買いだった。
ケイズ買いは「故買者」と書く。持ちこまれた品物が盗品と知ったうえで、値を叩いて買う商売だ。(437頁)
石岡は、九月十五日に商用で仙台方面に出かけて行方不明になった。郡山署に盗品売買のタレこみがあり、それを調べているうちに、念のため、石岡の妻に身元不明の他殺体の情報を教えたところ、石岡と判明した。
上巻の最期は、東京憲兵隊赤坂分隊、憲兵曹長坂本啓助が埼玉県警本部にやってきて、赤坂管内で事件が起こっているが、埼玉県警はこの事件に手出ししないようにと言って帰った、ところで終わっています。「不敬事件ではないか?」(468頁)
謎がたくさん提示されています。下巻でどこまで解明できているのでしょうか?
・月辰会研究所はどういうところ?
・北村幸子は、なぜ自殺した?
・鏡はどこにある? どこ(出土・由来)のもの?
・阿片事件の人たちと月辰会の関連は?
・島田平造はどこに?
・津島と石岡の関係は?
・津島と石岡はだれに殺された? なぜ?
・堀越は、本当に溺死なのか?
【目次】
月と星の霊紋
華次倶楽部
二つの鏡
蒟蒻と阿片
大連阿片事件
裏の裏
第一の解決
遊水地の他殺体
黒い香珠
投書の分析
生死不明
散りぬるを
ケイズ買い
☆関連図書(既読)
「松本清張スペシャル」原武史著、NHK出版、2018.03.01
「昭和史発掘(7)」松本清張著、文芸春秋、1968.10.01
「昭和史発掘(8)」松本清張著、文芸春秋、1969.03.10
「昭和史発掘(9)」松本清張著、文芸春秋、1970.02.20
「昭和史発掘(10)」松本清張著、文芸春秋、1970.08.01
「昭和史発掘(11)」松本清張著、文芸春秋、1971.02.01
「昭和史発掘(12)」松本清張著、文芸春秋、1971.12.05
「昭和史発掘(13)」松本清張著、文芸春秋、1972.10.01
(2018年6月21日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
昭和8年。東京近郊の梅広町にある「月辰会研究所」から出てきたところを尋問された若い女官が自殺した。特高課第一係長・吉屋謙介は、自責の念と不審から調査を開始する。同じころ、華族の次男坊・萩園泰之は女官の兄から、遺品の通行証を見せられ、月に北斗七星の紋章の謎に挑む。―昭和初期を雄渾に描く巨匠最後の小説。
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埼玉県特高課係長の吉屋は、月辰会研究所に目を留めた。宗教団体だろうか?天理研究会事件を思い出したからだ。案内の警察署長は宗教団体ではなく、占いをしているようだという。東京方面から自動車で来る人もいるとか。しばらく様子を窺っていたら、その研究所に呼ばれたタクシーに女性が乗って出てきた。駅前でその女性に会のことを尋ねようとしたが、拒否され、仕方なく警察署まで同行してもらったが、名前は言うがどうしても身分を明かさない。無理を言うと包みを抱えて離さない。無理にその包みを取り、中を覗いて驚いた。「深町女官殿」と記された封書が出てきた。そして、バックからは「宮内省皇后宮職」職員「北村幸子」という名刺が出てきた。驚いた吉屋と署長は彼女に謝って引き取ってもらった。その後しばらくしてから、北村幸子が宮城を辞め、吉野の田舎に戻ってすぐに吉野川に入水自殺をしたと知った。なぜ彼女は自殺したのか、自分の強引な訊問が影響しているのか、それを突き止めたい気持ちにかられる吉屋であった。
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松本清張を代表する作品かつ未完の作品。評価は高いようだが、個人的には上巻を読み終わった段階では、今ひとつという感想。遅々としてストーリーは、展開しない。進んだかと思えば、再度の確認と懐古。古墳時代や青銅器、鏡、当時の特高の内部文書や満州国でのアヘン取引に関わる関東軍と政治資金に絡む当時の政権の裏事情等。
下巻で、どう事件の真相と結びついていくのか、あるいは結び付かずに未完なのか?
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「松本清張」の長篇歴史ミステリー作品で最後の小説となった『神々の乱心』を読みました。
『失踪 ―松本清張初文庫化作品集〈1〉』、『月光 ―松本清張初文庫化作品集〈4〉』、『十万分の一の偶然』に続き「松本清張」作品です。
-----story-------------
〈上〉
昭和8年。
東京近郊の梅広町にある「月辰会研究所」から出てきたところを尋問された若い女官が自殺した。
特高課第一係長「吉屋謙介」は、自責の念と不審から調査を開始する。
同じころ、華族の次男坊「萩園泰之」は女官の兄から、遺品の通行証を見せられ、月に北斗七星の紋章の謎に挑む。
―昭和初期を雄渾に描く巨匠最後の小説。
〈下〉
昭和8年の暮れ、渡良瀬遊水池から他殺体があがった。
そして、もう一体。
連続殺人事件と新興宗教「月辰会研究所」との関わりを追う特高係長「吉屋謙介」と、信徒の高級女官を姉に持つ「萩園泰之」。
「『く』の字文様の半月形の鏡」とは何か?
背後に蠢く「大連阿片事件」関係者たちの思惑は?
物語は大正時代の満洲へと遡る。
未完の大作。
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上下巻を合わせると900ページ余りで時間、空間、テーマともにスケールが大きな作品… 久しぶりの大作でしたね。
時代が大正末期から昭和初期で、当時の行政機構(特に警察や軍、宮中関係組織)がキチンと理解できていないことや、日常において興味の薄い新興宗教がテーマになっていること、知識がほとんどない神事や考古学に関する内容が次々に出てくることから、なかなか内容が理解できず読み進むのに時間がかかりましたねぇ。
大正末期の中国大陸での大連阿片事件や、謎の男「横倉健児」が新興宗教を興そうと企むエピソード、、、
時代は昭和初期に移り、新興宗教「月辰会研究所」と宮中の関係、女官「北村幸子」の自殺、大連阿片事件関係者の殺害事件、、、
それぞれ、別な立場や視点から真実に近づこうとして活動する特高警察警部「吉屋謙介」と公家の「萩園泰之」、、、
序盤~中盤で提示された数々のエピソード、事件や謎に関する絡み合った糸が少しずつ解けはじめたところで… 突然、物語は終わってしまいます。
う~ん、残念… 「松本清張」も書き切りたかったんでしょうが、残念ながら未完のまま召されてしまったそうです。
しかし、巻末に編集部が生前の著者から聞いていた内容から結末を想像する手掛かりが示されており、概ね、結末が想像できる内容になっていたので、モヤモヤは減少しましたけどね。
でも、できることから「松本清張」の手で描かれた結末を読みたかったですねぇ。
以下、主な登場人物です。
「吉屋謙介」
埼玉県特高警察の警部。
普段の拠点は浦和町の県警察部。
月辰会に関わる怪事件を捜査する。
「萩園泰之」
藤原不比等を祖とする子爵・萩園泰光の弟。
吉屋警部とともに本作の探偵役となる。
青山に住み、「華次倶楽部」という公家次男の親睦団体を結成している。
「萩園彰子(深町女官・深町掌侍)」
萩園泰之の姉。
皇宮御内儀に奉仕している。
「深町」は宮中での源氏名。
「伏小路為良」
華次倶楽部の会員で、萩園泰之と親しい。
華族内での情報通。
「北村幸子」
深町女官・萩園彰子の部屋子であり、使いとして月辰会に出入りしていたが、吉野川に謎の投身自殺を遂げる。
「北村久亮」
北村幸子の父。
吉野町の倉内坐春日神社の宮司。
「北村友一」
北村幸子の弟。
春日神社の禰宜。
「大島常一」
埼玉県特高警察課長。
吉屋警部の上司。
「足利千代子(喜連川典侍)」
室町幕府古河公方の末裔。
41年間宮中に出仕したのち、栃木県の佐野に隠棲している。
71歳。
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だいぶ長い間かかってしまったけれど、松本清張が皇室(の周辺)を扱った未完の大作。読み進めるにつれて未完ということが残念でならないけれど、致し方ない。
新興宗教に関わる皇室で働く女官の自死に始まり、その謎を華族に連なる萩園と、特高の吉屋が追う。双方がお互いを警戒しあっている関係性、皇室というタブーに関わること、その皇室と新興宗教の関係の怪しさ、満州における阿片の不正事件、天皇陵の盗掘、そして大戦を前にした昭和初期という緊張感がこの小説の雰囲気を盛り上げる。
小説ではあるけど、昭和初期は日本がアジアの盟主(批判はあるだろうけど)であったことも特に満州を巡る記述や人々の凛とした佇まいから感じられる。現代日本は過去を誇りに思いつつうちに閉じこもる国という感じだけど、この頃は視点が国際的だ。まあ、この小説を読んでこんなことを考える人は少ないと思うので、かなり個人的な感想ではある。
未完とはいえ、後半が楽しみだ。
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昭和8年、東京近郊・梅広町の「月辰会研究所」から出てきたところを尋問された若い女官が自殺した。月辰会研究会をマークする特高課第一係長・吉屋謙介が事件を追う。