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紙の本
おかしな男渥美清
2000/10/24 22:09
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投稿者:螺旋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
強烈な自我と上昇志向を持った渥美清というコメディアンが、やがて「寅さん」というあたり役を得て、国民的アイドルに変貌していく様子が、それをリアルタイムで見てきた筆者の、極めて私的な交友の記録を基に綴られる。
同様の視点と手法によるものとしては『天才伝説横山やすし』に次ぐ作品だが、作者の批評性が対象とうまくかみ合わず、その分、辛くも重くもなった『天才伝説横山やすし』に較べ、『おかしな男渥美清』は批評性と対象との相性や、バランスがはるかによく、スケールの大きい、より面白い作品に仕上がっている。
田所康男から寅さんへと至る道のりの背景には、戦後から東京オリンピックをへて平成不況へと、日本の風景が劇的に変貌を始めてから現在迄の、掛け値ねなしの現代史そのものがあり、同時に、この間の変化は、この作者が尤もこだわりをもって描き続けてきたテ−マでもあって、筆の運びもツボの押さえも申し分無い。
当初、困ったやくざ者として登場した寅だが、シリーズが続くにつれ、人々に愛される好人物の寅さんへと変化した。寅さんの27年間は、実質的に効率優先、開発優先の列島改造に日本国中が邁進した時間でもあり、言うなれば寅さんのような存在がますます生きにくい世の中へと日本は作り替えられていった。一方で寅がもたらす「癒し」を求め続けた。
シリ−ズ全48作!。言ってみれば、これは一人のやくざ者に慰めを求め続けた無邪気な日本人が、当のやくざ物から与えられた癒しの総量に他ならない。渥美と山田監督は寅の持つ癒しの能力を27年もの間に渡って増幅し続けたのだとも言える。しかし、寅さんに殉じたと言っても過言でない俳優の生き方から窺える価値観と、彼を愛した世間の価値観との何と隔たってもいたことだろう。
時に、作者が前面に出過ぎるきらいがあるが、この本の面白さが、渥美清の道程と、優れた喜劇論で注目を集めた気鋭の評論家中原弓彦が、作家小林信彦へと歩み続けた道のりとが、見事にシンクロしていることから生じているのを見れば納得できる。当然、濃厚に私小説的、というより見事に私小説だが、小林信彦の私小説作品群からは頭一つ抜き出た面白さがあり、代表作の一つに数えられるべき作品となっている。
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