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タタール人の砂漠 みんなのレビュー

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みんなのレビュー13件

みんなの評価4.8

評価内訳

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紙の本

北の砂漠から襲ってくるはずのタタール人に備え、警備をつづける砦の兵士たちを描いた寓話。主人公ドローゴの小説的現実と私たちの社会的現実は、どちらがより現実的で、どちらがファンタジックなものなのだろうか。

2009/11/18 22:46

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

2007年に光文社古典新訳文庫で短篇集『神を見た犬』、2008年に福音館文庫で作家自身による挿絵入り童話『シチリアを征服したクマ王国の物語』が出て、新しい世代や私のように遅れてきた読者にとっての「発見」となった幻想文学作家ディーノ・ブッツァーティ。その長篇で、今、唯一流通している1冊である。
 初版が1992年だが、私が手に入れたのは2008年の第3刷。大切に本を売り続けていることと、単行本なのに今どき定価が1600円。松籟社は偉い出版社だと思った。後付には、最近刊行された同社の「東欧の想像力」シリーズやディートリヒ映画「嘆きの天使」の原作であるハインリヒ・マン『ウンラート教授』、「シュティフター・コレクション」などの案内も刷られている。装丁が地味で、「編集担当者が自分でやっているんですかー」と突っ込みたくなるが、京都にあって、渋めの海外文学を地道に出してくれている有難い出版社である。

 ブッツァーティという作家には、小説好きをきちんと楽しませる力がある。余談つづきになるが、最近買った『グランド・ブルテーシュ奇譚』の訳者である仏文学者の宮下志朗氏が『神を見た犬』が出たから古典新訳文庫への愛着が増して、バルザックの訳が進んだのだと書いていた。

 さて、ようやっと『タタール人の砂漠』の話である。どうにか一言でまとめてしまえば、これは「待つ」という、誰の人生を通しても大きな部分を占める行為への「いとおしさ」と「当てこすり」を書いた小説だということになろうか。たった今、行為と書いてはみたが、「待つ」というのは必ずしも積極的な取り組みや働きかけではなく、ただ漫然として時をやり過ごしているうちに結果として「そうしていた」ことになる意味も含まれる。
 改めて考えてみれば、人間行為の上では非常に不思議なものであり、ベケット『ゴドーを待ちながら』、グラック『シルトの岸辺』、クッツェー『夷狄を待ちながら』など、来るか来ないのかが判然としないものを待つことの不思議を書いた文学作品を集めれば、「『待つ』文学の系譜」として小論でも書けそうなものである。そもそも文学作品のほとんどが「死を待つまでの間を、どう生きてやり過ごすのか」を書くためのものなのだと言えなくもない。

『タタール人の砂漠』は、北の砂漠から襲ってくるはずのタタール人を、辺境のバスティアーニ砦で撃退するべく警備を固めて待つ兵士たちの物語である。
 主人公は、この砦が最初の任地となったドローゴ中尉で、士官学校を出たての彼は将校の軍服を身につけ、軍人としてのキャリアのスタートに晴れがましく心弾ませながら、配属先へ向かう。ところが、目指す砦はなかなか目の前に姿を現さず、ようやく出会った大尉に聞けば、彼もそこに勤務しているが、砦は無用の国境線上にあり、過去に一度もその用を成したことがないというのである。
 タタール人の襲来は伝説上の話であるらしいので、戦時としての緊張感を欠きつつも、軍人としての訓練を受けた兵士たちは、定められた規則にのっとって勤務をつづけ、非番には少しばかりの楽しみを持ち、日々を送って行く。数ヶ月の後には転属を望んでいたドローゴも、いつしかその生活に慣れ、うっかりとその場所で年を重ねて行くことになる。
 そのようにしてドローゴの半生を描いて行くことになる小説には、いくつかの緊張を伴う場面が用意される。迷い込んできた動物をめぐって生じた事件、地平線に見え始めた武装した一団と思しき列が発端となった事件、そして、どうやら工事をしているらしい北の果てに見え始めた明かりをめぐる事件。それぞれが思いがけない方向へと発展して行くのである。
 砦に起こるそういった事件の合い間にも、ドローゴが帰省したり、砦に来る者・去る者の出入りがあったりで、「待つ」日々にはいくつもの変化が訪れる。

「兵士としての務め」「辺境の砦という場所」は一般人の生活とは異なり、特殊状況を描いた寓話ではあるのだが、1つのシステムを内在させる砦というのは、現代の企業を始めとする様々な組織や、輪郭が漠とした社会というものに自然に置き換えて読める。そのようにして、砦と自分の生活空間を重ね合わせた時、読者は、「では、自分が待っているものは何なのか。自分にとってのタタール人は何か」と問いかけたくなる。万人にとっての普遍性が感じられるからこそ、寓話性が特徴として挙げられるのである。
 現実社会にリンクさせすぎてしまえば、物語を読む楽しさは少し減ってしまうのかもしれないが、タタール人の襲来という仮想は、伝説でありながら全くゼロの可能性というわけでもない。そう考えて例えば、それが環境破壊のもたらす終焉であったり、医療体制や年金制度の破綻であったり、自由主義経済の崩壊であったりするなら、私たちはそうした危機にうっすらとした怖れを抱きつつも、「まだ大丈夫だろう。少なくとも自分の目が黒いうちぐらいはもつんじゃないか」というように、何となくの安心感の下に、決定的な局面は、遠い世のファンタジーとして捉えているのである。
 ドローゴの小説的現実と私たちの社会的現実は、果たしてどちらがより現実的で、どちらがファンタジックなものなのであろうか。

――だが、そのうちにこんな思いが浮かんできた、もしすべてが錯誤だとしたら? この勇気も一時の陶酔だとしたら? 単にすばらしい夕暮れや、かぐわしい大気のせいや、肉体的な苦痛が途絶えたせいや、階下から聞こえる歌のせいに過ぎないとしたら? そして、数分後、あるいは一時間後には、またもとの打ちのめされた、弱いドローゴにもどらねばならないとしたら?(P252)

 このような記述を読みながら、本を読み終わる数分後、ファンタジーを離れ、自分もまたもとの自分に戻ることに気づかされる。
 結末は決して暗いものではない。もとの自分を否定するものではないことに、ブッツァーティなりの愛もあるのだ。「いとおしさ」と「当てこすり」の両極を見せながら、わずかに「いとおしさ」で終わらせる作家の姿勢に好感が抱ける。

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紙の本

待つこと

2019/03/07 01:25

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る

辺境のバスティアーニ砦に赴任した若き士官ドローゴ。短期間の滞在と思っていたのが、いつのまにか月日が経ち人生の大半をこの砦で費やすことになる。いつか来るタタール人の襲来を夢に見るうちにドローゴは年老い、襲来が現実になる時に物語の幕が引かれる。思わせぶりな寓意のように教訓を強要されるまでもないが、幻想的なこの作品世界を経験すると、虚しさにそのまま切実に身をつまされる思いがした。久々に感動させられた文句なく良い小説。カフカの「城」も「待つ」小説だが、自分はこちらの方が断然良いと思う。

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紙の本

不条理な砦

2018/05/29 05:27

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る

いつまでたっても攻めてくることのない、得体の知れない外敵の不気味さが心に残りました。妄想の世界に落ちていく中尉には胸が痛みました。

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2008/11/03 23:18

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2010/02/27 16:19

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2010/06/21 07:38

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2012/08/25 15:04

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2013/01/24 18:09

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2013/04/01 19:32

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2014/01/24 23:39

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2016/06/07 16:44

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2019/11/01 21:58

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2022/10/01 20:59

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