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紙の本
インドにだって警察はある。でもインドに警察シリーズの映画があるなんて
2002/09/16 21:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
恥ずかしいけれど、アーヴィングの代表作『ホテル・ニューハンプシャー』も『ガープの世界』も未だ読んでいない。その反動か、それ以外なら片端から読んでやろう、そんな不思議な熱に浮かされている。彼の世界は、壮大さなどは薬にしたくても無いけれど、小さな謎に満ちていて、人間の奥の深さを感じさせてくれるところが好きだ。
ヨーロッパで教育を受け、オーストリア人の妻を持ち、トロントに棲むボンベイ生まれの整形外科医ファールーク・ダルワラ。彼はインドで映画のダー警部シリーズの脚本家でもある。シリーズの新作の封切り直前、彼の入っているゴルフ倶楽部のグリーンで、老人が撲殺された。口にダーを恨む言葉を連ねた2ルピー紙幣を咥えて。
映画でダー警部を演じるジョン・Dはダルワラの息子。彼も事件に巻き込まれるが、話はダルワラの妄想に巻き込まれてなかなか進まない。ジョン・Dの双子の弟で宣教師のマーティン、これがまた神への妄想に取り付かれた奇怪な人物。ただし、彼の活躍は下巻を待たなければならない。ダルワラは、小人に遺伝上の発見をしようと血液採集を続ける内に、サーカスに惹かれ、遂には、そこに二人の子供を送り込みまでする。しかし、タイトルにもかかわらずサーカスは話の背景に過ぎない。
話は重層的だけれど、決して複雑ではない。会話の殆どが一方通行なのは現代そのもの。リズミカルで小気味いいダンスシーン。殺人も宗教も人種差別をも巻き込んでの抱腹絶倒な展開。ラスト、雪のトロントの映像的な描写と、その全てが凍り付く世界に仄見える明るさがいい。エンタテイメントとは明らかに一線を画した作品だけれど、だからといって前衛でもない。その読み易さが私には有り難い。
原作の出版は1994年。あとがきに、映画の脚本のためのインド取材と、カナダで出会った雪のトロントの風景との出遭いがあってこの作品生まれたとある。創作の秘密を見るようで面白い。『オウエンのために祈りを 上下』(新潮社)には、気高さという点で一歩譲るけれど、設定の雄大さ、事件が見せる複雑な様相とその収束、そして哄笑は、まさにアーヴィング。ともかく楽しい文学。
紙の本
物語の息子
2002/06/24 00:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すまいる - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ホテル・ニューハンプシャー』や『ガープの世界』等の作品で、彼独特の共同体的(あるいはホーム的)家族観を読者に示したJ・アーヴィング。本作『サーカスの息子』では「故郷(ホーム)」についての問題を読者につきつける。主人公の老整形外科医にして映画脚本家ファルーク・ダルワラ医師は、生まれ故郷のインドにも、長年生活の基盤をおいてきたカナダにも、自分の故郷を感じることが出来ないでいる。——不安定感。
現実社会と同じく、ダルワラ医師の周りの人々も(一見すると、そうは見えなかったとしても)皆それぞれの不安定要素を抱えて生きている。そして、それらの解決方法(というものがあるとしたらの話だけれど)もまた、人それぞれなのだろう。——僕やあなたと同じように。
——そして本書を読んで強く感じたこと。それは短篇作品「ピギー・スニードを救う話」で表明されたアーヴィングの作家としての基本指針が、この作品においてもきっちりと貫かれているということ。
ピギー・スニードの死後に彼の名誉をみごとに救出した「作家」J・アーヴィングは、今もなお、彼の物語の登場人物たち・そして我々読者を救い続けている。
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