明治の矛盾と美とがここにある
2014/06/01 14:57
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
泉鏡花の代表作なんだそうだが、おかげさまで1960〜70年代の幻想ものブームで「高野聖」などの評価が高まり、「婦系図」はもう誰も覚えてない気もする。いや舞台化されて「別れろ切れろは芸者の時に」という台詞でも有名らしいが、それと「高野聖」を結びつけるのはむつかしい。
しかしその美しきものの描写、艶やかさには通じるものがありそう。まず生地や柄の説明から入る。帯やら足袋やら髪型やら、振る舞い、仕草に続いてようやく口をきき、伝法な口調で可愛らしげなことを言うのだ。
男は身請けした女と暮らしながら師匠の娘にも未練の残るだめ男で、そんな男の強さも弱さも知り抜いて、心底尽くしてしまう女心が感情移入して泣けるポイント、それが舞台で凝縮されて生まれたのが有名な台詞なのだろう。ここまでが前篇。
後篇は一転、東京を離れた男は、だめ男ならぬ色男の実力を果敢に発揮して、女性の人格を軽視する既成の価値観を指弾するという挙に出る。
なんだって急にそんなことを思いついたのかよくわからない。ただ彼は色男なりに、女性達の怨念を背負っている。その女性達を巻き込むドラマがまた、はらはらどきどきで目が釘付けなのだ。
家のために女性を犠牲にするという江戸時代のような価値観が、この明治にどのくらい残っていたかよく分からないが、メロドラマの結末には説得力ありありなのには違いない。尽くしきった女性を振り切った男、その後も煮え切らない態度でいらつかせることおびただしいが、実は積もりに積もっていた悲しみを振り切って大逆転する姿にほろりとするものもあるのかもしれないが、よく分からない。
どろどろの恋愛ドラマに、社会ドラマ要素を盛り込んで、とにかく大ヒットしたのだから、構想は大成功。だけど読後感としては、登場する女性達の、華麗でもあり、時に泥にまみれても執念深く、生き抜こうとする清々しい姿に、時代の過渡期の捻れた世間に負けない、しなやかさを感じる。それが時代の生んだ強さなのかもしれず、作品も主テーマであったと言われれば、その方が強く納得できる。
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助走がほんとに長くて最初疲れたけど、後半の「えええええーーー!」っていう真相の展開が面白かった。最後まで読んで初めて、あの人物の発言はそういう意味?とわかる。悔しいので全部把握した上でもっかい読み直したい。終わりは気に食わんけど100年前の小説侮りがたし。
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泉鏡花の中でも演劇としての要素が強い、この本。主人公視点で進むにも関わらず、最後の暗転は、素晴らしいです。泉鏡花の多才さが読めば解ります。
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「ふけいず」ならぬ「おんなけいず」です。「切れるの別れるのって、そんなことは芸者の時に云うものよ」でおなじみ。今までにない悲劇、少し狂言じみてる感じ。
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ドイツ文学研究者の早瀬は、内縁の妻として芸者のお蔦と一緒につつましく暮らしている。
恩師の酒井にそのことがバレてしまい、恩師への義理とお蔦への愛情の狭間で悩むが、結局は恩師を取る。
二人が別れる原因となった旧友・河野の実家近くに隠遁した早瀬は、河野家の女性たちに近づき親交を深めていく。
早瀬の真意は最後の一ページまでわからない。
私があらすじを書くとつまんなさそうですがほんとに面白いんです・・・
大好きなんです。
読むたびに、文章の美しさと人物の不器用な生き方と、混合物のないすきとおった魂のきらめきが新鮮に感じられます。
大好きなんです(二回目だ)
誰かが読んでくださったら語り合いたい・・・
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泉鏡花の文体は非常に特徴的であって、読むに当たっては相当の体力を要する。
特に婦系図のような長編を読むことはマラソンに挑むが如き所業である。
私も随分と苦労したけれど、それでも投げ出さなかったのは鏡花の描く華美な世界から離れたくない一心からであろう。
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俺をとるか女をとるかで有名な鏡花の代表作のひとつですね。
しかし、そのメロドラマ部分はすごく有名なのに、この婦系図のメインストーリーっていうものはあんまり知られてない気がする。かく言う私も、鏡花館の展示を見て、そのストーリーのぶっとびさwを初めて知って思わずフイタくらいですw
どれだけぶっとんでいるかは、是非読んで知ってください。
結婚したい女性の素性やらなんやらをいちいち調べ上げてから結婚するだと? ふざけんな! と友人河野英吉(河野家)にかみつく早瀬の姿からは、「愛と婚姻」という檄文を発表した鏡花そのものが感じられました。特に最後のシーンの口上はめっちゃ胸が打たれて、目頭も熱くなりました。
目頭が…といえば、私はこの作品を読むまでずっと、紅葉にあたる酒井先生はお蔦を許してくれないのかなと思っていたら、最後の、お蔦臨終のシーンで許してくれるんですよね。「俺が悪かった」って。……紅葉は最後の最後までお鈴さんと鏡花の仲を許してくれなかったけれど、この作品の酒井先生は許している。作品の最後は阿鼻叫喚だけど、私はこの点に惹かれたなあ。
鏡花は創作を、小説を書くことで何をやりたかったのだろう? 幻想小説を書く一方で激しいものも書いて、現実とは反対のことを描き、奇跡を描いたりする。
この作品を読んだおかげで大体卒論の方向性が定まった気がするのでした。作品論じゃなくて作家論になっちゃいますねホント…
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最初の数項で、あまりの違和感にやめようかと思った。
しかしそのうち、鏡花の世界にどっぷりはまっていった。
旅行にでも行って、宿で一気に読んでしまったら最高だろうなあ。
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現代人には読みづらい文体だが、美しい。
引き裂かれる夫婦、令嬢の不幸、お蔦の涙ながらの最期の言葉、は泣かせるし、早瀬によるどんでん返しには瞠目した。
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これは面白い!
明治の風習を知らないと理解できない場面もあるが…「ほおずきを噛むような女」ってどういう評判だ?とまずしょっぱなで躓く。が、ぐいぐい読ませる筋はなるほど人気作品。
驚いたのは、有名な湯島の白梅の場面が小説には無いこと!
こんな文体に慣れたら、楽しく読めます。
「お妙はそのさまを見定めると、何を穿いたか自分も知らずに、スッと格子を開けるが疾いか、身動ぎに端が解けた、しどけない扱帯(しごき)の紅。」
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かなりの長編で、読み応えのある小説。
泉鏡花の織りなす美しい文章は、読んでいて優雅な気分になる。
内容も、方言を多用する会話文の活発な印象が包んでいる悲哀が見え隠れするものであり、そういった点も魅力の一つだと感じた。
一方、本格的に話の内容が盛り上がるまでの導入部分が長すぎるようにも感じ、序盤はあまり面白いとは思えないかもしれない。後半部分まで我慢すれば楽しめる小説だと感じた。
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20120320いま読んでる(※青空文庫)
20120322読み終わった
初・鏡花で「婦(おんな)系図」。独特な文章に慣れるまでを乗り越えると、その美しさの虜になる。こういうシャキシャキしたテンポは私好み。登場人物が多くて関係性も複雑なのに、すっきり読まされてしまうのが不思議。「そうだったのか!」的な瞬間が数回訪れるから、一種のミステリーのようでもあった。ほかの作品も読みたくなった。
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鏡花作品の中ではわりと読みやすくて、どんどん読める。早瀬とお蔦の悲恋というよりは、もっと大きく、女性の結婚に関する物語だった。でも、お蔦の亡くなる前の酒井の言葉にはジンときた。あくまでも義理を通そうとする二人には涙を誘われる。全体としては、二人の話はそんなに大きな比重を占めていないとは思うのだけれど。そして、最後の最後で明かされる秘密。最後の最後過ぎて、少しあっけない感じはした。
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泉鏡花が明治40年に発表した長編小説です。舞台や映画の題材として何度も取り上げられており、鏡花の作品中でもっとも愛されている物の一つだと思います。古い話なので浄瑠璃や歌舞伎の世界を連想させますが、鏡花の他の作品に比べて読みやすいと思います。幻想小説ではなく色恋沙汰が話の中心になっていることや、明治期の結婚観からいくとかなり先進的な現代に通じるような考えを主人公が持っているからかもしれません。ラストは衝撃的すぎて呆気にとられましたが、作中ではそれぞれの登場人物がとても生き生きと書かれていて面白かったです。
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泉鏡花の名作。
新派の舞台の原作として有名だが、読むのは初めて。
なるほどな~、音読の時代ならではの流麗な文章。
人と人との結びつきに、涙が出るのは、今も生きる鏡花の筆力。