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紙の本
21世紀の科学はどのような方向に向かっていくのか。そのために日本人は何を知らなければならないのか。
2000/08/23 21:15
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投稿者:挾本佳代 - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀から21世紀への世紀の転換点に私たちは生きている。この100年に一度しか訪れない貴重な時点で20世紀を振り返ると、それはどんな世紀になるのだろうか。
立花隆氏が考える20世紀を特徴づける最大のものは、コンピュータ・情報科学と分子生物学・バイオ技術である。この2つの科学が確実に来世紀を先導するものとなる。また現時点でこれらの科学の最先端をゆくのはアメリカである。つまり、21世紀に向けて、日本人がこれらの科学をしっかり理解し発展させていくには、コンピュータ、分子生物学、外国語の3つが不可欠である。そうでなければ日本は21世紀に世界から取り残されてしまう。立花氏が本書全体を通して主張する核心部分はここにある。
たとえば昨今ガン治療に応用されるようになった遺伝子治療もバイオ技術によって支えられている。当然、そのバイオ技術は20世紀後半に格段の進歩を遂げた分子生物学あってのものである。遺伝子レベルで生物を見るという観点は、20世紀全体に蔓延した自然観をうち砕くものであった。なぜなら、遺伝子レベルでの解析は、実は人間のみならず生物全体が立花氏のいう「巨大なスーパーファミリー」を形成しているという事実を示唆するからである。20世紀を特徴づける科学は、人間が全生物の頂点に立つと長らく誤って認識されてきた従来の自然観を新たな方向へと導いていくのだ。
本書の中で思わず苦笑してしまった部分がある。いや、苦笑というよりはむしろ、「よくぞ言ってくれた」という感嘆に近かったのかもしれない。それは、巻末に収録されている「21世紀 若者たちへのメッセージ」の中で、立花氏が将来のキャリア官僚の卵たちを前にした講演の一節に対してである。分子生物学全盛のこの現代において中学レベルの生物学しか知らないのに、キャリア官僚として「科学技術創造立国」などというとんでもない目標を立てることができるのか、と立花氏は一喝する。大学で生物学を必修科目として学んできたアメリカのエリートと、中学レベルの生物学の知識しかない日本のエリートとでは「知的レベルがあまりにもちがいすぎて、対等な交渉なんてできっこない」と。
もちろん、新人キャリア官僚に対する立花氏の苦言は、いまの日本人全員に向けられたものである。この苦言をどのように聞くべきか。真摯に受け止めるのか、あっさりと受け流してしまうのか。それはすべて各自の自覚に任されている。 (bk1ブックナビゲーター:挾本佳代/法政大学講師 2000.08.24)
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