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紙の本
世のなかの移り変りは許せるが、このガタガタぶりを何としよう。なんという日本か!
2002/05/10 22:15
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投稿者:近藤富枝 - この投稿者のレビュー一覧を見る
二〇〇一年に「週刊文春」に連載された作者の身辺をめぐるエッセイ四十八篇をまとめたもの。ふり返ればその一年は物情騒然という形容がぴったりの月日だったと改めて肌が寒くなった。
「日本人は限りなく莫迦(ばか)になりつつあると思うが、指導者もさることながら、テレビがいけないのです」
と作者は3月22日号の「肉ジャガは、本当にお袋の味か?」でうめいている。さすが東京は下町育ち、万事歯切れがよく、好きなことと嫌いなこととがはっきりしていて、小泉首相をヤバイ、アメリカのテロをこわい、古今亭志ん朝の死を言葉の文化の終りと感じ、この作者は脱力感でベッドに横たわって茫然自失だった。そして志ん朝哀悼の文章が読者からの反響が一番大きかったと書いている。
落語やボードビリアンや映画にくわしく、この本のかなりの頁を占めている。どの項も楽しく、作者の知識の襞(ひだ)の深さに驚くだろう。例えばマリリン・モンローである。彼女が亡くなったとき<来日したこともある肉体女優ナンバーワンの急死>程度の小さい記事が日本の各新聞での扱いだった。そのごに「モンロー神話」が生れるのでそのプロセスは本書を読んでいただくとわかるが、彼女は死んで大女優に昇格したようである。
英会話をうまくなる方法について桐島洋子さんが、
「外国人と恋愛をすることです」
とこたえたのも面白い。かつて歌人の与謝野晶子が歌の巧くなる方法について
「恋をすることです」
と弟子に語ったことを思い出した。
狂牛病、失業、喫煙是非等、世情についても鋭い筆鋒で迫るが、何といっても魅力的なのは作者が抱く戦前の故郷への追懐である。むかしの東京の食生活を復活させる話や、空襲された体験や、「えんがちょ」など消えていく下町言葉への哀惜がキラリと光るのである。 (bk1ブックナビゲーター:近藤富枝/作家 2002.05.11)
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