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紙の本
答のない、家族という問題集
2004/11/27 11:14
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投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
「ふぞろいの林檎たち」「想い出づくり」「岸辺のアルバム」「日本の面影」といった優れたテレビドラマを作ってきたシナリオ作家・山田太一のエッセイ集です。様々なテーマについて綴られていますが、基本的には家族のありかたについて筆を進めたものが中心となっています。
読み終えて、家族はこうあるべきだという「型」にはまることを目指すがあまり随分と窮屈な思いを抱えながら生きている家族が実は多いことを著者は鋭く指摘しているという思いを強くしました。それは著者がこれまで何十年にもわたってブラウン管の中で描いてきたことと通底します。一見幸せそうな家族が、「幸せそうな家族を演じている」だけであることの哀しみには、胸を衝かれる思いをしました。
しかしだからといってどうすれば真に幸せな家族になれるのか、そのための処方箋はここにはありません。人は誰しもそれに悩みながら日々を暮らしているのだということを、直視することを改めて伝えるにとどめています。
しかし、一つの家族の寿命は実はあまり長くないのではないでしょうか。子供が生まれて家族を巣立つまで、平均してたかだか18年程度しかありません。もちろん巣立ったとはいえ、家族でなくなるわけではありませんが、日々顔を突き合わせながら暮らす家族とはやはり形態がかわり、心理状況も変わるでしょう。それまでの約18年の間に生まれてしまったわだかまりや溝を「巣立ち」と「離別」でしか解決できないのであれば、それは家族として解決したことにはならないのではないでしょうか。
家族はいいぞと無邪気に訴え続けるのではなく、家族は結構厳しいぞ、だからこそ味があるんだぞ、と訴え続けてきた著者ならではの、厳しい愛情の眼差しが感じられるエッセイ集だといえます。
紙の本
断定することの危険性
2004/04/21 11:48
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投稿者:愚夫 - この投稿者のレビュー一覧を見る
半年から1年位前平日ではない昼頃の時間帯でこの著者の描いた(こっちの表記の「カク」のほうがふさわしい気がする)作品(ドラマ)を見た。1度離れ離れになった夫婦(長塚京三&倍賞美津子)がまたヨリを戻していくという話である。面白かった。最初に見はぐってしまった部分をもう1度何とか見たくなる位だった。自分の年代(30代前半)からすれば、著者の作品は再放送を含めて結構見ている世代のはずで、ご多分に漏れず当方も見ていたが、あまり印象は残らなかった。しかし最近見たドラマの印象かつ、タイトルに対しても興味があったので手にとってレジに向かった。後半のアンソロジーの部分は所々飛ばして読んだが、最初は星2.5位だったのが、読み直すにつれて自分の中で評価が上がってきた。しかもTVに携わり生活の糧を得ていただけあり、その洞察力はとても的を射ている気がする。以前に何冊か倉本聡の著作も買っていので、甲乙をつけるわけではないが(というよりそんなものつけられるわけがないが)前後して読んでみると、彼らが量産していたころのTV界はいろいろな意味で「豊か」だったと思う。彼らは今のTV界にあまり期待してはいないのではないだろうか。高度なCGなどを使いこなすことにより小手先の器用さを競い、挙句の果てに「視聴率」というサンプリングのとても少ない指標で評価される。しかもそこで「優劣」さえ決められてしまう。前述の技術を使えば、下手をすれば、将来役者さえも不要のものになってしまうのではないだろうか。この作品でいえば、昨年に露出した視聴率操作疑惑の発生を予感させるような記述がみえる。さらにいえば、最近起こったイラク人質事件のマスコミ数社の非一貫性まで予見しているようでもある。何だかTVはここ数年物事を何でも歯切れよく(その方が視聴者に簡単に伝わると考えていて)、その一方で事態が一変したら個人的な見解にして逃げる、という風潮があるような気がする。この著書は、断定することの潔さを認めつつも、そのことが孕む危険性に対しても警鐘を鳴らすという一見矛盾した内容をまとめ上げた好著である。
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