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紙の本
小林信彦の「コラム」シリーズは重要文化財である
2003/03/29 18:13
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
中条省平さんが『波』(2003年1月号)に寄せた本書の書評「つまらない時代に対する貴重な特効薬」で、「さよならを言うのは、しばらくのあいだ死ぬことだ……。小林信彦のコラムには、そんな恐ろしいところがある。そこが軽々に読みすごせない「コラム」シリーズの凄みなのである」と書いている。また、「今のような時代に、新聞にエンタテインメントについての時評を連載する。考えるだに恐ろしい、命をけずるような感覚との戦いなのではないかと思う」とも。ここに二度も出てくる「恐ろしい」が、小林信彦さんのコラムの真実を衝いている。
シリーズはこれまで、絶版も含めて七冊でている。うち『コラムにご用心』『コラムの冒険』『コラムは誘う』と『逆襲』の四冊が中日新聞連載分で、この連載は今も続いているとのこと。嬉しい。ところが『ご用心』とそれより前に出た『コラムは笑う』『コラムは踊る』と『コラムは歌う』はいずれも品切れだという。残念。そんなことだと、大衆文化と同様「出版文化の八○パーセントはがらくた」(『逆襲』)なんて言われるぞ。
小林信彦さんの「コラム」シリーズはいずれもうっかり手にとったが最後、途中で止めることができなくなるという恐ろしい本だ。それこそ「コラムにご用心」。原稿用紙4枚という制約を逆手にとって、その形式がうちに秘めたる可能性を存分に引き出し、とても濃密な情報と蘊蓄と見識を、もはや名人芸ともいうべき軽妙な文章にほどよくブレンドして、サービス精神たっぷりに読者に提供する。「映画というのは、作られた時代のムードがわからないと、理解できない、とぼくは思う」(『逆襲』)などは、そのほんの一例。
読者はすっかり満足し、良質のエンタテインメントを堪能したときのあの充足感と余韻を覚えるのだが、そこにほんの少しの不満が残る。もうちょっと浸っていたいのである。でも心配ない、ちゃんと次の話題が用意されている。だって「コラムの至芸80連発」(『冒険』の場合)なんだから。こうして読者は、小林信彦の術中にはまっていく。最後の頁にたどりついてしまうのが恐ろしいのだ。
原稿用紙4枚云々は、中条さんも、「小林信彦の批評は氷山の一角である」に始まる『冒険』の新潮文庫版解説「凛然たる〈批評〉」でふれていた。──余計な説明をしていたらあっという間に枚数が尽きる。情報を詰めこみすぎると楽しい読み物ではなくなる。《この難しいバランスを曲芸のように巧みに取りながら、読者には難しさを毛ほども感じさせない。これぞ「説明しない〈批評〉」の醍醐味である。/この批評の根もとにはいうまでもなく、長い時間と大きな元手をかけて練りあげた凛然たる美学がある。だが、それより重要に思われるのは、小林氏の批評が、個人的な美学の表れである以上に、社会的な歴史意識の結実だという事実である。》
引用中「説明しない〈批評〉」とあるのは、自伝的長編エッセイ『和菓子屋の息子』で小林信彦さんが箇条書きにした「下町の人間の特徴」の一つだ。──なんだか他人の言葉を借りてばかりだけれど、小林信彦の仕事を評価するような立場にも、また力量もないのだから、それはまあ仕方がない。でも、小林信彦の「コラム」シリーズは重要文化財である。ちゃんと永久保存にしておかなくちゃだめ。これだけは言える。
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